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第14回国際エイズ会議参加報告書

慶應義塾大学文学部教授
AIDS & Society研究会議副代表 樽井 正義

バルセロナ会議における人権の課題 - 「治療へのアクセス」と「ワクチン開発」


2年前に途上国で初めて開催された第13回国際エイズ会議での最大のテーマは、「治療へのアクセス」と「ワクチン開発」だった。今回のバルセロナ会議の成果の一つは、南北の溝を埋めるというこの大きな課題を一歩進めて、その実現可能性と具体策が示されたことと言うことができるだろう。これを促した背景には、昨年6月の国連エイズ特別総会の開催とコミットメント宣言の採択、そして今年1月の世界エイズ結核マラリア対策基金の発足を挙げることができる。

「治療へのアクセス」と「ワクチン開発」は、人権と倫理の観点からは、とくに途上国における健康権(right to health)の国際社会による保障の要求と表現できるが、これについてバルセロナ会議の報告を行う。

治療へのアクセス トラックG「アドボカシーと政策」での3つのセッション、つまり全体の4分の1がこのテーマに宛てられた。そこでの議論を中心に報告する。

1.途上国における薬の入手可能性については、口頭発表セッションG01「治療-薬価を下げる戦略」において次のような報告があった。


2.ARV治療の具体策については、G2「治療へのアクセス-事例研究」、G6「能力と政策-ARVへのアクセスの前提」の二つのセッションで検討された。


3.ARV療法の普及には、薬が安くなり、医学的モニタリングの体制が整うだけでは不十分で、感染者の治療へのインセンティヴを高める必要も強調された。


4.HIV/AIDSに関わるNGOの国際ネットワークであるICASOは、ダーバンでは薬の供給を強調したが、今回は「インフラストラクチャーの整備をアドボカシーの課題に加えよう」というパンフレットを作成し、これに関するサテライトを開催した。これは、11カ国の感染者へのインタヴュー調査により、必要とされる基盤整備を具体的に示したものである。

この研究は、同時に刊行された「HIV/AIDSと人権」にまとめられた研究を下敷きにしている。21カ国における治療へのアクセスの現状と、その改善における同名の「国際ガイドライン」(UNAIDS、国連人権高等弁務官事務所)の活用とに関する調査報告書である。この研究は、厚生科研費によるエイズと人権研究班の委託研究として、エイズ予防財団の援助で行われたもので(3年計画だったが、3年目は凍結され、他国からの研究費で充当された)、日本での調査はぷれいす東京が担当した。

ワクチン開発 トラックA「基礎科学」での3つのセッションのほかに、トラックD「予防科学」でのシンポジウムとブリッジングセッションが行われた。後者の議論を中心に報告する。

1.第Ⅲ相試験に入っている候補薬は依然としてrgp120/HIV-1(AIDSVAX)だけだが、そのの実施状況(プラセボを用いた二重盲検)について、これまでよりは多少詳しい報告があった。二つの報告から、先進国と途上国における被験者の相違が伺える。

2.トライアルにおける倫理的課題については、他のセッションにおいて報告があった。

3.ワクチンの需要については、接種対象グループの意識調査と、全世界での需要規模と供給体制に関する報告があった。


4.ワクチンに関しては、重要なサテライトがいくつか開催された。

日本は、昨年の国連エイズ特別総会での森主席代表演説にも示されているように、「保険システムの整備・強化」と「ワクチン開発等の研究開発支援」を、途上国エイズ対策支援の重点に挙げている。治療へのアクセスについて言えば、薬の供給だけでなく、医療基盤の整備やアドヒアランスを含む感染者のサポートが不可欠である。その意味で基盤整備を重視する政府の方針は支持されるが、HIV/AIDS治療へのアクセスに資する具体策として提示することが、またNGOには医療者やNGOを支援する具体的な計画を策定することが求められる。またワクチン開発については、全世界的に、基礎研究から動物実験を経て臨床試験に移行しつつあり、試験を国内でどう実施し、また途上国での試験をどう支援するかが問われている。こうした要請に応えることが、わが国の緊急の課題とされるべきだろう。

人権に関して最後に言及しておきたいのは、トラックGで紹介された「英国、HIVと人権」という提言書についてである。これは、英国の国会議員20名からなる超党派グループが2001年に作成したもので、前述の「国際ガイドライン」に基づいて英国の政策を分析し、人権に配慮して行うべき施策として46項目を挙げている(www.appg-aids.org.uk参照)。HIVと人権を検討する場は研究班しかなく、それもすでに終了している国との違いを痛感させられた。