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第15回国際エイズ会議参加報告書

岩手医科大学医学部細菌学講座講師 吉野直人

 

(財)エイズ予防財団の国際会議派遣プログラムにて、第15回国際エイズ会議(2004年7月、バンコク・タイ)に参加する機会を頂いた。本会議の内容は、「A.basic science、B.clinical research, treatment、C.epidemiology and prevention、D.social and economic issue、E. policy and program implementation」に分類されるが、このうち、「A.basic science」を中心に発表を聞いた。

まず、会議の全体的傾向であるが、会議の回を重ねる度にNGOや社会、経済、人権などの研究を行っている人々や団体が活発に活動を行っている反面、基礎研究の分野は反比例的にそのactivityが下がってきているように感じられた。特に、会議の全日程を通して基礎研究のセッション(特にポスター発表)は閑散としていた。基礎研究の分野では、国際エイズ会議以外にもエイズに関わる会議が多くあるせいかもしれないが、エイズ研究の総本山的位置にある国際エイズ会議での基礎研究のactivityの低さは今後の問題になるのではないだろうか。

基礎研究の中の特にHIV/AIDSワクチン開発を中心とした内容について以下に報告する。HIV/AIDSワクチン開発でのHIVの感染抑制に関しては、「HIV特異的細胞性免疫が重要である」との認識はこれまで通りであった。さらに、口頭発表で細胞性免疫に焦点を当てた口頭発表がプログラムに組まれていた(ThOrA1391?ThOrA1396)。これらの発表は、全体的にHLAのタイプとHIVのエピトープに関わる話であった。HLAのタイピングとエピトープに関して詳細に調べ上げられており、さらに、HLA間でのHIVのエピトープに対する近似性等の発表が行われた。いずれの発表も各専門分野における高度な研究が行われており、ワクチン開発における細胞性免疫研究が大きく発展してきていることを感じた。しかし、専門的になればなるほど重箱の隅をつつくというか、独り善がりの自慰的研究に感じられ、発表内容からHIV感染者やその周囲の人々、さらにワクチンを求める世界中の人々の顔が見えてこなかった。

ワクチンデザインと前臨床開発のシンポジウム(ThSy274?ThSy277)では、現在最も可能性のあるものとしての各種DNAワクチン、各種組換えウイルスベクターワクチン、および、DNAワクチンと組換えウイルスベクターワクチン併用によるプライムブースト法の講演があった。いずれも、可能性がありだいぶ研究が進んでいるが、現時点で大きなbreakthroughとなるようには感じられなかった。また、ワクチン開発においてepoch making的な話題はなかった。いくつか発表されている臨床試験報告からも完全な防御は期待できなかった。シンポジウムではワクチン評価のために、ワクチン開発研究者が同一の標的で、同一の免疫能の評価で、同一の動物モデルで、同一のchallengeウイルスで、同一の感染防御効果の評価を行うべきだと主張する研究者がいた。確かに、これはワクチン評価では複数のワクチンの優劣を見るのに適しているが、あくまでも理想論であり現実性は無いに等しいであろう。

HIV感染の多くは性感染であり、HIVは最初に生殖器や直腸の粘膜面を通過し感染していく。即ち、これらの粘膜部位での防御能を高めることがHIV感染防御において非常に効果があるものと考えられるのだが、全演題中Abstract CD版で”mucosal”もしくは”mucosa”の検索で該当する演題はわずかに22演題しかなく、そのうち基礎研究の発表は11演題であった。さらに、ワクチン開発に限定すれば、僅かに5演題しかなかった。実際に感染が成立し、そこで何が起こっているのか、そこで何をすれば感染を防げるのか、粘膜組織でのさらなる研究が非常に重要であると感じた。

本学会での私の発表は、” Evaluation of mucosal HIV/AIDS vaccine based on recombinant vaccinia virus”(ThPeA6987)と言うタイトルで、内容は、以下の通りである。「ワクシニアウイルスDIs株は、哺乳類細胞では増殖性がないため安全性が高く、そのリコンビナントDIs (rDIs)ワクチンは、既に皮内接種によりマウス及びカニクイザルに対して組み込んだ抗原に対する全身免疫を誘導することが明らかになっている。本研究ではSIVgag-polを組み込んだrDIsを経鼻または経口免疫し抗原特異的免疫応答を誘導できるか検討した。経鼻・経口免疫を行なったマウスではSIVp27特異抗体が血清中で検出され、経鼻・経口免疫したマウスの糞抽出液、膣洗浄液中でも特異抗体が誘導された。SIVp27特異抗体産生細胞は、脾臓、パイエル板、小腸の粘膜固有層リンパ球でもELISPOTで検出された。細胞性免疫応答は、経鼻・経口免疫マウスの脾臓から分離したCD4陽性T細胞にSIVgagで特異的な刺激を加えることによりTh1 (IFN-g) / Th2 (IL-4, IL-10)サイトカインが産生され、脾臓、小腸上皮間リンパ球でSIVgag刺激によるIFN-g産生CD8細胞も誘導されていた。免疫応答の指標の1つであるCD223の発現も経鼻免疫を行なったマウスのパイエル板のT細胞でnaiveマウスよりも有意に上昇していた。以上より、rDIsワクチンは経粘膜接種により膣や腸管といったHIV感染の標的となる粘膜部位に免疫を誘導することが出来ることが明らかになった。しかも、この免疫方法によりrDIsは、全身免疫・粘膜免疫ともに抗原特異的抗体産生及び抗原特異的Th1/Th2ヘルパー機能を誘導することが確認され、これらの知見は粘膜型HIV/AIDSワクチンの開発に大きく寄与するものと考えられる。」ポスターセッションでは何人かのワクチン研究者と議論することが出来た。議論の詳細に関してはここでは省略するが、今後の研究において彼らの助言や指摘された点などを考慮しながらワクチン開発を進め、「会議の成果を国内で還元」として、国産HIV/AIDSワクチンの開発に力を注いでいきたい。

外気の暑さに比べ驚くほどの会議場の冷房の寒さに無理矢理体を適応させた会議でした。(財)エイズ予防財団の国際会議派遣プログラムでは、全領域をあわせて約40名の参加者がいて、朝食時あるいは学会場で、参加者の方々と顔を会わせる機会がありましたが、なかなかゆっくりと話をする時間が取れませんでした。各領域間の交流の重要性は常々認識しているものの、私の研究内容は基礎系に属し、実際には他の領域、特にNGOや疫学、社会の領域の方々と接する機会は多くはなく今回は絶好の機会でしたが、その機会を逃してしまったことが残念でした。最後になりましたが、第15回国際エイズ会議への参加という貴重な機会を与えて下さいました(財)エイズ予防財団に心より感謝申し上げます。