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第15回国際エイズ会議参加報告書

国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センター(ACC)
患者支援調整官 池田和子

 

 これまで、HIV/AIDS問題は、主に成人男性や開発途上国に関するものとの印象が強かったが、今では女性や小児が話題の中心となり、先進国を含むすべての国が社会的にも経済的にも大打撃を受ける緊急事態になっている。

Ⅰ.会議全体の印象
 バンコク市内の至る所に国際エイズ会議を知らせる看板が立ち並び、連日テレビ・ラジオで会議の模様が報道されていた。開催国タイでも最近の感染者増加が懸念されているが、現地タイ人の医療関係者や研究者等との交流では、一度はHIV予防活動が成功した国の誇りが感じられた。会議で特に印象深かったことは、抗HIV療法の各国の捉え方で、先進国はその副作用・毒性の報告を、開発途上国はその効果を述べていた。小児感染者の抗HIV療法には、服薬アドヒアランスは勿論、長期服用の身体的負担や告知の問題など成人とは異なる課題がある。やはり何よりも優先されることは、「予防啓発」であることを再認識した。
 
Ⅱ.抗HIV療法の服薬条件による効果
 抗HIV療法の成功には、服薬アドヒアランス維持が不可欠であるが、その負担は計り知れない。数年前から、組み合わせによる1日の服薬回数や錠数に着目した治療効果が報告されているが、EFVやTDF、ATVをはじめ、SQVやRTVなどの組み合わせによる1日1回処方の報告もあった。結核は治療期間が決められており、かつ1日1回でも完遂が困難で、DOT(Directly Observed Therapy)による成功が知られており、HIV感染症に関してもModified DOT(WePeB5804)やナースによるピルカウントなどのケアが服薬アドヒアランス維持に有用(WePeB5784)と報告されていた。しかし、1日1回といってもこれまでの服薬支援と同様、手を抜かず、必要であれば第三者支援の活用するよう念を押す。

Ⅲ.小児HIV感染者の告知問題
 現在、著者は小児感染者への告知問題を抱えており、特に積極的に情報収集を行った。感染児を養育する親を含む介護者を対象とした病名告白に関する調査が複数報告されていた(TupeB4408、TupeB4417)。介護者の多くは小児への告白を服薬アドヒアランスに有効と捉えていた。告白の条件として「児の精神状態」、「成熟度」、「健康状態」や「秘密を守れるか」などが課題となっていた。告白時期については平均12~14歳で、告白に際し、介護者自身が知識・情報不足を感じていたため、感染児は勿論、親を含む介護者への積極的なケアが不可欠である。さらに告知問題に関してタイの小児科医に聞いたところ、「とにかく家族が段階を踏み、繰り返し説明できることが大事でそれを医療者が支援することが重要」、さらに米国人スタッフからは「日本は薬害エイズ問題の時に一部の親が告白をためらい、こどもへの告白が遅れた。児は児なりに理解していくので、現実を見据えて親を積極的の支援していくことが大事」とアドバイス頂いた。病名告知の有無が治療参加行動にも予後にも影響するため、小児例は少ない我が国では経験を共有できるようネットワークを使用し、慎重に対応していきたい。感染児は、病気そのものの問題以上に児の生活、人生への大きな影響が予測される。治療による心身の負担はもちろん、学業や仕事・恋愛の選択などあらゆる場面で、楽観視できない。確実な感染予防対策の一つとして母子感染予防に関する情報開示と抗体検査の徹底が世界中の義務である。

Ⅳ.診断の遅れ
 1996年以降、多剤併用療法の登場により、確かに患者の生活時間が量的に改善した。しかし診断の遅れにより、治療を受けるタイミングを逸して手遅れになるケースも後を絶たない。抗体検査の遅れが訴訟問題に発展することも時間の問題であろう。自覚症状とCD4陽性リンパ数が必ずしも一致しないため、抗体検査を受けるきっかけが難しい。著者を含むグループが日本における異性間性交渉での感染者の診断の遅れをポスター発表した(ThPeB7272)。対象145名中、診断時のCD4数200以下が56.6%、診断前、過去5年間に4.9%が結核、23.2%が帯状疱疹などHIV関連疾患に罹患していた。我が国では検査体制の充実が急務であることと平行して、診療にあたる医療者が正しい知識を持ち、患者に抗体検査を勧め、より適切な医療に迅速につなげる努力が求められている。

Ⅴ.最後に
 諸外国のエイズ問題の深刻さとその対策に比べ、感染者増加が著しい我が国のそれは、明らかに遅れていた。もはや世界の未来は危機状態で、生活する人々が生き延びる魅力を失い、悪循環に陥っている。我が国は経済的にも医療システムも恵まれている方である。国際貢献よりもまず我が国の対策、経済問題に真剣に取り組むべきである。結核に類似しているエイズケアは、科学的根拠に基づくケアと共に人海戦術が求められていることから、ひとりでも多くの人々が何らかの形で、感染者支援と予防啓発活動に参加出来るよう企画を練り、今後もエイズケアに関与したい。