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第15回国際エイズ会議参加報告書

石川県立中央病院血液免疫内科部長 上田幹夫 

 

専門分野でのセッションの概要
臨床分野(ウイルス検査、治療・副作用、服薬支援、ケアー、薬剤耐性、母子感染、日和見感染・腫瘍、C型肝炎合併など)を中心に参加した。口演発表は103題あり、ポスター発表は1135題であった。米国、欧州からの発表が大半で、アフリカや中南米からの報告も見られた。複数かそれ以上の国にまたがる共同研究も多く見られた。開催国であるタイからの報告はやや目立ったが、アジア全体からの報告は少なかった。先進諸国からの報告は、治療の改良(新しいより有効な治療薬、副作用を減らす工夫、長期服薬の有効性・安全性など)に関心が集まり、一方開発途上国からは、その地域における感染症の疫学調査や限られた経済的・人的資源の有効な活用法などについて報告されていた。国連などの国際機関、各国の機関や公的財団、製薬メーカーなどが主催するサテライトミーティングも多数あり、そこでも世界的疫学や、エイズに対する政策・支援、HIV治療薬の標準化や未来像などの情報提供が成されていた。

 

参考となった研究発表の内容と理由
【#1082】初期治療としてどのHIV治療薬の組み合わせが最も良いか?サンフランシスコの経験
2002年に治療を受けた人を対象として、年齢やエイズ病期(CD4細胞数も含め)、生活状況(薬物静注,ホームレスなど)も考慮して統計的に解析した。最低10人以上に治療開始された薬剤の組み合わせは39組に及び、3TC+d4T+NFV (151人) AZT+3TC+NFV (148人)、 AZT+3TC+IDV (142人)、 AZT+3TC+EFV (122人) の組み合わせがベスト4であった。1年間に310人がエイズで死亡し、1161人が生存していた。生存に最も寄与した薬剤の組み合わせは、d4T+3TC+EFVと AZT+3TC+EFVの組み合わせであった。この組み合わせは、「2005年までに治療を必要としている世界の300万人に治療を施す」というWHO/UNAIDSから推奨されている組み合わせと同一であった、という内容で、誰にでも分かりやすい報告で、ガイドラインの有用性を検証した報告でもあった。治療ガイドラインに準じて治療法を選択している私に「確信」を与えてくれた報告である。治療薬やその組み合わせは年代とともに変わるので、このような研究は継続する必要がある。

【#1058,#4483,#4940】TORO (T20 versus Optimized Regimen Only)トライアル1と2のその後の成績(フュージョンという作用機序がまったく異なる新薬の有用性)
治療歴が長く逆転写酵素阻害剤にもプロテアーゼ阻害剤にも耐性になってしまったウイルスを持つ患者が対象で、耐性検査でもっとも望ましいと思われる薬剤を組み合わせて投与した場合(OB群)と、それにフュージョンを加えて治療した場合(OB+F群)の有用性について検討した。1年後にはOB群のほとんどの患者が治療失敗となったが、OB+F群の治療を継続して続けられた人では2年後であっても47%の人がウイルス量は検出感度以下であった。フュージョンの副作用は注射部位の反応などが中心で、2年目にはそれも軽減する。フュージョンが加わることで、今後のエイズ治療戦略は変わるかもしれない。新しいカテゴリーの薬剤の有用性が確認されたことは、意義深いと思われる。

 

会議における公的役割の成果
臨床分野だけではなく、その他の様々なセッションやセレモニーにも参加した。そのなかでいくつかのメッセージは重要と思われたのでメモを取ってきた。ピオット氏 (UNAIDS)「アフリカにおけるエイズの悲劇はリーダーシップの欠如が原因である。アジアはそれを繰り返してはならない」「メディアはエイズを闇から社会に出さなければならない」タクシン首相(タイ)「5年間で500万ドルを国連エイズ予算に拠出する。自国で生産したHIV薬をミャンマー、カンボジアなど隣国へ供給する」アナン事務総長(国連)「世界はHIV/AIDSに苦しむ女性と子供にもっと手を差し伸べねばならない」などなど。今回、自分は研究成果を発表したわけではなく、公的成果は無い。世界の多くの医療者、活動家、政治的リーダーに接したことにより、HIV/AIDSに関する視野が広まり、認識を新たにし、活動の方向性をより明確にできたことが、自分にとっての成果であった。

 

会議の成果を国内で還元する具体的計画
平成16年7月 石川県立中央病院エイズ対策委員会において報告
平成16年7月より毎月 金沢大学医学部学生への学外研修で教育
平成16年7月より適宜 北陸ブロック医療保健施設への出前研修で報告
平成16年7月 石川県エイズ対策研究会で報告
平成16年8月 北陸HIV通信で報告
平成16年9月 北陸HIV臨床談話会で報告
平成16年9月 石川県医師会エイズ研修会で講演

 

会議の感想
「必要とするすべての人にエイズ診療と治療薬の供給を」「エイズに対する偏見や差別を取り除く運動を」「そのためには強いリーダーシップが必要」というメッセージを強く感じた会議だった。全くその通り正しいのだが、政治・経済や教育などにもかかわる幅広い問題であり、長い地道な活動や運動が求められる。会議に参加したわれわれ個人には、それぞれの立場で活動の展開が求められている。タイのエイズ制圧に対するエネルギーと決意を感じた。新規HIV感染者数の大幅な削減に成功した自信の表れかもしれない。会議で発表や発言をしたタイ人の英語力の高さも感じた。われわれ日本人もいろいろ学ぶことが多かったように思う。