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第15回国際エイズ会議参加報告書

東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野大学院生 古賀一郎

 
 (財)エイズ予防財団の派遣プログラムにてタイ・バンコクでの第15回国際エイズ会議に出席する機会を得た。本会議は「基礎」「臨床」「疫学・予防」「社会・NGO」と大きく分類されている。ここでは私の専門分野である臨床の分野について報告する。

 会議全体の印象として特筆すべきは、主催のタイが国を挙げてこの会議の準備を進め、単なる国際学会という存在に留まらず、可能な限りの手を尽くし各国のメディアの注目を集め世界に向けてメッセージを発信し、この会議を成功させようという強い意気込みである。オープニングセレモニーでのホスト国タイのタクシン首相のメッセージに込められたAccess for allの思い、世界に向けて担うべきAccountability 、将来へ向けてのCommitment、そしてこの国を代表してHIV/AIDSに取り組んできた彼のLeadershipの役割の大きさを実感した。
国内外へ向けてのメディア対策も充実していた。飛行機でバンコクに到着するや、空港内での参加者用の特設入国手続きブースに誘われ、空港内の垂れ幕、高速道路から見える広告、路上の看板、テレビコマーシャル、新聞、会議やオープニングセレモニーのテレビ中継に至るまで、どこに目を向けても会議のシンボルである3頭の赤い像が視野に入り、夢にまで出てきそうであった。バンコクに居る人なら誰もが会議の存在を認識させられるほどのメディアへの露出であった。

さて、月曜日から木曜日までに行われた臨床のSessionは以下の通りである。Tuberculosis and other opportunistic infections、Clinical trials of new drugs、ART:When and what to start or change、Superinfection and HIV-1 diversity、Pediatric HIV and treatment、Pharmacology、Drug resistance、Hepatitis and other co-infections、Complications of ARV therapy、Non-OI: A post HAART era。全体として日頃から関心を抱いている内容が多く、いずれも興味深く視聴することが出来た。以下、印象に残っているセッションについて具体的に考察する。

Superinfectionは私が現在研究室で取り組んでいるテーマにも関係がある。印象としては、あるウイルス株がすでに感染しているウイルス株に取って代わるSuperinfectionはそれほど珍しい事象ではないが、実際にSuperinfectionを証明するのは一定の困難を伴うようである。今回のSessionでは同一サブタイプ同士のSuperinfectionの報告はなかった。

Drug resistanceもHAARTを施行していく上で避けて通ることの出来ない事象である。同じ日に同じ時間帯で基礎医学、臨床の二つの分野でこのテーマが採用されていることからもその重要性が窺える。本邦ではおそらくほとんど実施されていない母子感染予防でのnevirapineの使用と耐性変異の獲得の問題、d4T/3TC/lopinavir/rによる長期間の治療での耐性獲得のリスクが低いとの報告、国内未承認のenfuvirtideの耐性関連アミノ酸の同定(推定)はいずれも明解な報告であった。低ウイルス量が少なくとも耐性を獲得しうるとのLafeuilladeの報告は今後のGenotypingの位置づけを再考させられるものであった。

Hepatitis and other co-infectionsもHIV/AIDSの臨床において多く遭遇する。Benhamouの報告はHBVとHIVの合併例においていかにadefovirが優れた治療効果を発揮するかというもので、これまで合併例に用いられることのあったlamivudineが容易にHBVに耐性変異を生じさせる一方でadefovirに耐性を示す変異は殆ど生じることはなく、またlamivudine耐性のHBVにも治療効果を示すという報告であり、国内での承認後の合併症例の治療に期待がふくらんだ。d’Arminio-Monforteはイタリア国内でのSTDのCohort studyを報告しており、梅毒、急性B型肝炎が多く、特に梅毒は近年急増しているとの報告であり、以前読んだ米国内のMSMの間で梅毒が増加傾向にあるとの報告を想起させた。恐らくは日本国内に於いてもHIV/AIDSの新規感染者の増加に歩調を合わせる形でSTD(STI)の感染者も増加することが予想され、HIVとの合併罹患は引き続き懸念すべき問題であろう。

(財)エイズ予防財団の皆様の御厚意により今回初めて国際エイズ会議に出席したが、日頃ともに活動をしている、基礎、臨床分野のみならず疫学、社会科学など幅広い分野の専門家が集結し、ひとつの学会をなすその規模の大きさに当初は大いに戸惑った。あまりにも大きすぎて全体が把握できず、会場内の移動にも手間取った。
しかしながら、一週間この大きな会場に集ううちに、様々な肌の色の人達、様々な衣装、様々な言語に触れているうちに、多分野の人間が一堂に会し、協調し、同じテーマを各々の立場から考えそして発展していかんとするコンセプトに共鳴する心が育まれたのも事実である。
今回の学会への参加は、今後HIV研究を行い、HIVとともに歩む上で大いに実りのある一週間であった。この機会を下さった皆様に心より感謝申し上げ、筆を置く次第である。