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第15回国際エイズ会議参加報告書

北海道大学第三内科輸血部助手 小林 寿美子

 
・ 専門分野でのセッションの概要
HAARTからARTへ、そしてmonotherapyへの新たな治療の試み

  臨床研究の結果を中心に拝聴したが、まず治療全体の印象として【HAART】という言葉が激減し、代わって【ART】というタイトルあるいは表現が85%以上を占め変化していたことが驚きであった。今後はpost HAARTの時代ということの意味と、後述する【単剤療法;monotherapy】という新たな概念さらに、アジアアフリカ諸国が体験している治療薬不足からの先進国とのさらなるギャップからあえてHAARTという先進国らしい言葉が消え、ARTなる表現が出てきたと感じた。そして多剤併用の一大世代は着実に変化していることであると認識した。それでは、実際であるがIMANI-1 TC3WPと呼ばれるカレトラ(LPV/r)を単剤で治療した際の安全性と有効性を報告したものが挙げられる(演題番号MoOrB1057)。これは多剤によるtoxicityとcostの両面から行われたTrialであり、体重<70kgには400/100mg BIDを、それ以上には533/133mg BIDを48週間までのフォローし、その時点ではVLは平均3.71logの減少を認め、30例全例が400コピー以下に減少。さらにこのうち50コピー以下に到達したものが90%を占める結果であった。CD4の増加度は平均で317/μl上昇し、また単剤療法におけるgeno /pheno mutationには影響を与えず、安全に施行されたという内容であった。カレトラ(LPV/r)という素晴らしい薬剤が単剤でも十分な抗ウイルス効果をもたらすもので、かつ安全に使用可能であるという有用性を示すデータであった。現在第一選択薬剤として不同の地位を築いたと言っても過言ではない同薬剤の使用方法は、今後も注目すべきと思われた。同様な単剤による報告では、Reverset (cytidine analog inhibitor)を単剤で10日間のみの短期間投与し抗HIV効果をみたという報告もあった。30例に実施し平均で1.77logのウイルス量の減少を認めgeno typeには影響を与えなかったというmonotherapy報告であった(演題番号MoOr1056)。この他同様の報告としてはsatellite symposiumで南アフリカよりNVPのsolo therapyや3TCの単剤の報告などがあり、感染多発地域のおけるコストの問題と多剤併用による副作用を考慮したmonotherapy (solo therapy)としての位置づけが強いものの、本邦の新規治療の選択肢の一つにもなりうると思われ、今後も注目する必要があると思われた。

・ その他参考となった研究発表の内容とその理由
肝炎合併例における薬剤の選択について

臨床面で注目した報告の一つとして、HBVまたはHCVウイルスの複数感染症例における薬剤の選択とその効果について拝聴した。HBV感染合併例で3TCに対して薬剤耐性を獲得したケース35例に、nucleotide analogueであるADV(adefovir; dipivoxil) 10mgを一日一回内服させ4年間の長期フォローを行い、その効果が報告されていた(演題番号 WeOr1329)。3TCを平均で42.3ヶ月投与し、その結果YMDDのmutationを獲得した例に対してもHIV VLとして平均で2.88log減少させ、かつCD4数も平均422/μlと維持され、尚かつ投与開始後30週目でHBV DNAも正常化し最終観察期間4年目で-6.2logの減少を得たというりっぱな報告であった。3TCを投与されている症例の中には同様の薬剤耐性で次の選択肢を考慮すべき症例には参考になる結果と言える。

・ 選考基準となった会議における公的役割の成果など
北海道地域における外国人患者に対する情報の共有について

北海道も少ないながら、徐々に外国人患者数が増加している。特にアジア・アフリカ諸国からの在留外国人は病気の認識、検査の説明、検査後の対応、AIDSを発症してきた症例に対する受け入れは大都会ほどスムーズではない。初回の症例を経験した際に、JICA等への問い合わせを行っても欲しい情報を得ることは困難であった。このため、今回私は、実際にアフリカ諸国等では個別にどの程度までのことが可能であるかを、主にポスター(ポスターは極めて実際的な内容であったのでゆっくりみていると時間が足りない程であった)を中心に討論に参加した。その結果、日本から得ようと試みた100倍近い情報が一度に得られた。このことは直接現地で活躍、苦労されている医療従事者の熱意はもちろんのこと、日本の果たすべき役割のようなものが感じられ、必要としていた情報以上の価値があった。ワクチンが不要で、十分なARTが終生受けられる我が国にいると、見失われがちなglobalな問題に直面した。

・ 会議の成果を国内で還元する具体的計画について
年に2回開催される北海道HIV臨床カンファレンス、北大内における院内HIVカンファレンスへの報告、所属医局内の報告会、および各種講演会への招請があるため、目標はこれら全てに報告するチャンスを計画中。最も重要な外国人患者に対しては既に個別に診療内容に最新情報を盛り込んだ内容を手渡ししたことで喜ばれた感触を持っている。

・ 会議の感想
全体を通して今回の参加は私が以前参加した1999年に各国が出されていた警告が、そのまま数値になって表れていたかのような印象であり、HIVが持つ社会医学的側面がより打ち出されていたと感じた。会議中、G8 must pay!というプラカードを持った人々を見かけたが、残念と思ったのは、日本を代表する施設からはほとんど演題が出されておらず、発表があった本邦の施設は先進国ならではと思われるワクチン開発が中心であった。このことは来年日本が主催国となるアジア太平洋HIV会議のみならず、HIVを専門とする医療施設における義務を怠っているともとれかねない、と感じた次第である。厳しい表現になるが、理由はどうあれ、HIV責務のある施設には世界会議における日本の特にアジア感染地域への責任を果たす義務があるという前提でも是非演題を出して欲しかったと思うし、国際政治、国際関係と同様にただお金を出すだけの状態にはなってほしくないと心から願っている。最後に今回貴重な会議に参加させて頂き、諸先生、サポートして下さった事務の方、本当に有り難うございました。今回の経験は、最新情報を待ち望んでいた日本在住でアフリカからの複数の感染者に対して、帰国後真っ先に提供できたことが何よりの収穫であった。