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第15回国際エイズ会議参加報告書

国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センター(ACC) 
看護支援調整官 島田 恵(旧姓 渡辺)

   
 今回、私は2つの目的1)「3by5」による開発途上国でのアドヒアランス支援の状況を知り、我々が貢献できる内容を検討する、2)7th ICAAPにおけるSkills Building Workshop企画を検討するための情報収集をする、をもってTrack B(Clinical Research, Treatment and Care)、Track D(Social and Economic Issues)およびSkills Building Workshopを中心に、この会議に参加した。

 

I.会議全体の印象
 2000年Durban、2002年Barcelonaと続いて参加したが、最も強い印象を受けたのは、多くの開発途上国で抗HIV療法が開始され、アドヒアランス支援が共通の課題としてディスカッションされていた点である。これは明らかに「3by5」の影響によるものであり、これまでの会議とは明確に異なっていた。

 

II.抗HIV療法のアドヒアランス支援について

1.アドヒアランスに影響する要因について

  1. アドヒアランスの関連要因については、各種依存症、若年齢、少数派、治療薬の複雑さがアドヒアランス不良と関連していた(WePeB5763)、また年齢、抑鬱はアドヒアランスの良否いずれにも関連しており、良には自覚症状、不良にはアルコール依存、母親という因子が関連していた(WePeB5782)などの報告がみられ、これまで言われてきたアドヒアランス要因と同様であった。

  2. 抗HIV療法と自殺企図との関係についての報告(MoOrD1030)では、HIV陽性MSMでは自殺企図があり、感染していないMSMよりも高くみられたものの、抗HIV療法の直接的な関係性については不明とし、むしろ無職という状況との関係が示唆されていた(無職率:陽性MSM33% vs 非陽性MSM15%、p<0.001)。仕事の有無について比較した報告(MoPeD3672)では、有職者の方が心身ともに状態は良好で、抗HIV療法についてもケア提供者がアドバイスした方法をやめたり、変えたりする頻度が少なく、治療に関連する身体変化についての訴えも少なかった。我々が2002年に実施した8ブロック拠点病院とACCの患者を対象とするQoL調査では、高QoL群の方が仕事をしている患者の割合が高かった(有職率:高QoL群81.0% vs 低QoL群68.0%、p<0.00286)ことから、社会生活の継続は、治療の成功、ひいてはQoL向上に重要な要因の1つと再確認した。

  3. 抗HIV療法中に抑鬱が与える影響についての報告(MoOrD1087)では、抑鬱が予後の短さを予測する因子となりうるとし、治療可能な抑鬱にきちんと対処することの重要性を指摘している。抗HIV療法を実施しているIDUにとって抑鬱は、病状の進行を予測する因子であるとし、精神科へのコンサルテーションや適切な治療がシステマティックに実施されるべきとしていた(WePeB5770)。日本人の自殺者数や鬱傾向者数が増加しているという背景をもとに、我々も年間数例の自殺企図例や精神科との兼診を要する抑鬱例を経験している。2000年には、EFV(ストックリン)と抑鬱傾向や自殺企図との関連を示唆する報告がみられたが、今年はむしろ抗HIV療法との関係は不明とし、HIV/AIDS患者の中にそれらをベースにもつ者がいると捉えている。これは、我々の経験に基づく考え方と一致しており興味深い。

 

2.患者-医療者関係への対応について

 抗HIV療法開始後の健康関連QoL(HRQL)とhealth Locus of Controlとの関連についての報告(MoOrD1028)では、HRQLには自覚症状、患者―医療者関係、社会的背景が関係しており、HRQLを高めるため長期的には、自覚症状と社会的状況とを考慮し、症状のコントロール感と患者―医療者関係を改善する必要があるとしている。また、医療者―患者間コミュニケーションについての報告(MoOrD1086)では、患者が抗HIV療法やケアに不慣れで、治療を正確に実施できないことに関連する要因として、医療者間のトレーニング不足、差別の実例、良好な患者-医療者関係構築の難しさ、患者が自分の行動についてオープンに話せるような信頼がないこと、患者が病気や健康に関する経験なしにアドヒアランスについての意思決定をすることをあげている。 

 患者―医療者(特に医師)関係がアドヒアランスやQoLに影響することは、すでに良く知られており、患者の要望によって誕生したコーディネーターナース(CN)の主たる役割は、患者や医師など協働する医療者に直接働きかけたり、患者と医療者との関係に働きかけたりして、患者を中心とする良好な関係を構築することにある。それが、治療の成果や患者QoLに関連していることから、このような役割を担う人材が必要と考えられる。

 

3.アドヒアランス支援に対する人的資源の不足について

 しかし、多くの開発途上国では、医療者が基本的に不足しており前述のような役割を期待するのは難しい。ボランティア(HIV陽性者含む)による抗HIV療法のアドヒアランス支援とDOT(Directly Observed Treatment)プログラムに関する報告(MoOrD1063)では、医療者ではないボランティアによって、治療が支援されるだけでなく、ケアや情報へのアクセスなど様々な患者ニーズを理解することができ、陽性ボランティアにとっても、自身がケア提供者になることが良い影響となっていた。WHOは「3by5」を実施するにあたり、専門家不足を課題と認識しており、専門家から一般医療者へ、医師から看護師へ、医療者から一般人(ボランティア)へと、これまでのケア提供者の枠を拡大する方針である。このことからも、当事者を含むこのような取り組みは有効と考えられた。

  ここで、アドヒアランスの把握方法として最も信頼性の高かったのは、患者の受診時に看護師が指導や励ましを加えながらピルカウントする方法であったという報告から(WePeB5784)、抗HIV療法とケアに関する実践的なトレーニングによる人材育成が必要であろう。我々が貢献できる領域としては、このようなトレーニング機会の提供であろうと思われる。抗HIV療法を開始するそれぞれの国状に合ったアドヒアランス支援方法を検討するにあたり、各国関係者に対してCNによるわが国でのアドヒアランス支援とその成果、課題について提示することができるのではないだろうか。

 

III.Skills Building Workshopについて
 我々は7th ICAAPでSkills Building Workshop(SBW)「Strategies to Promote Adherence to Anti-Retroviral Therapy (ART) in Japan: The role of patient assessment, education and support」を企画していた。目的は前述のように、「3by5」によって抗HIV療法を始める各国関係者と、CNによるアドヒアランス支援の経験を共有することであった。今国際会議には「Adherence strategies for HAART」という同様にSBW企画があったので参加した。アドヒアランス支援に対する関心の高さを示すとおり、会場は座席や資料が足りなくなるくらい盛況であった。抗HIV療法開始や効果の判断基準などが段階的に示されており、カウンセリングやピア育成プログラムが紹介され興味深かったが、講義形式が主であったためか、後半から退席する参加者が続出した。この経験をもとに、参加型プログラムの構成や資料準備など、入念な計画が必要と感じた。

 

IV.最後に
 CNによる外来中心の療養継続支援システムは、これから、抗HIV療法を開始する開発途上国にとって、一つの方法論を提供するものであり、各国の医療環境に合わせた応用可能性を検討することによって国際貢献すべく、7th ICAAPでは是非ともCN活動の成果発表、およびSBWの実施を実現したい。