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第15回国際エイズ会議参加報告書

三重県立総合医療センター産婦人科医長兼診療部長 谷口晴記

 

(財)エイズ予防財団の国際会議派遣事業に選考され、第15回国際エイズ会議に参加する機会を得た。主に自分の専門の母子感染予防に関する発表・討議に主に参加した。

 

専門分野でのセッションの概要

 妊娠とHIV Testing (VCT)について:HIV母子感染予防のためにまず必要なことは、その感染状況を知ることである。妊婦に対するVCTの実施率の報告は、カナダ・オンタリオ地方の88%(ThPeB7302)、アメリカではサーベイランスシステムの調査による2002年の推計では79.2%(ThPeC7316)と高くなってきていた。ブラジルの2002年の推計では平均52%であるが教育水準の差(低:19%に対し高:64%)、地域差(小都市の36%に対し大都市の66%)などが問題である(ThPeC7289)。さらにタイでは政府の政策で全妊婦を目標に(ThPeC7308)していて、感染率の劇的な低下が報告された。

 母子感染予防に関する各国からの報告:ウクライナからZDV(600mg/d)を妊娠34週から投与し陣痛開始時にNVP(200mg)を1回投与し、生後72時間以内にZDVシロップを2回(4mg/kg)、NVPシロップを1回(2mg/kg)はMTCT率を6.7%にした、この方法はショートコースZDV投与が9.2%、陣痛開始後のNVP1回投与の12%および無治療の28.2%に比べ予防効果があった。また無治療例では、母子感染率が経膣分娩31.6%に対し帝王切開7.6%であった(ThPeB7022)。タイではARV投与例の母子感染率は3.9%で不完全投与例の11.9%をしのぎ、さらに帝王切開例のほうが母子感染率が低かった(ThPeC7308)。また注目されることは、NVPの分娩時の1回投与は耐性をきたす可能性があるが、分娩後もZDVを投与する組み合わせ群では耐性獲得が少ないことが示唆され、今後に期待がもたれる(ThOrB1352)発表であった。スペインからHIV陽性妊婦の71%がHAARTを受けHIV母子感染率は0.8%であった。分娩様式は帝王切開が79%、経膣分娩が21%であった(ThPeB7113)。2003年のイギリスではZDVの単独投与は8%に低下し待機帝切は55%にやや低下したが、産科理由による緊急帝切は20%あり経膣分娩は25%になった(ThPeB7102)。ニューヨークではVCTと3-arm ARVsと分娩時および新生児へのZDV投与で感染率2%になり分娩比率は1999年が経膣分娩77%、帝王切開20%、2001年が51%、47%と帝王切開率の上昇がみられたという(ThPeC7308)。現在進行中のヨーロッパコホートスタディでは、帝王切開が母子感染予防に有効で、帝王切開率が1990年代に比べ30%増加してきた。最近のHAARTを使った症例での母子感染率は経膣分娩1.9%、緊急帝王切開2.4%および待機帝王切開1.1%であった。VLが検出限界以下の場合待機帝王切開での母子感染率は非常に低く、HAART使用に加え待機帝王切開を行うことはさらに母子感染率を下げる可能性がある(ThOrC1419)であった。また、HCV感染合併HIV妊婦のHCV母子感染率はHIV感染の無いものに比べ高いという背景をもとにスペインからの報告では、ARVの有無に関係なく待機帝王切開のHCV感染率は4%、緊急帝王切開および経膣分娩は14.1%であった。妊娠中にHAARTを受けたもののHCV母子感染率は6.7%、ARV単独あるいは2剤投与では9.4%および無投与では13.7%であった。さらにHIV母子感染成立例のHCV母子感染は36%、HIV非感染例のHCV感染は8.9%と有意に共通感染を起こしていた。共通感染の予防には待機帝王切開が重要であると(ThPeB7055)示唆された。
 
 母乳感染について:ARVが妊婦に行える国においては、妊娠中のHAARTおよび新生児へのARVシロップの投与さらに断乳しミルクに替えるという方法が推奨されている(タイ、TuPeE5439)。しかし、地域によっては母乳中心育児しかできない場合、ジンバブエで新生児の未感染例2055例(未感染率:74.6%)調査をしたところ、母子感染率は3ヶ月まったく母乳のみ育児群で6.9%、母乳有意で少しだけミルク以外の水分摂取群で8.5%および固形物摂取を含む混合栄養群で14.1%で、早期に人以外のミルクや食事を与えることは感染率を上昇させる事実(MoPpB2008)につき報告あり、以前ダーバンの国際エイズ会議で生後0~3ヶ月の混合栄養は高い母乳感染率を示すという報告のさらに詳しい検討であった。同セッションではさらに母乳単独期間が1ヶ月でも効果があった(MoPpB2007)、さらに母乳以外のものを摂取しない患者教育が必要(MoPpB2011)など興味深かった。また今後の母乳栄養の可能性として、ベルギーのグループは妊娠中に引き続き分娩後5日間HAARTを続行したところ分娩後血中VLが感度以下および母乳中も同様のVLであることがわかり、新生児の栄養摂取に問題のある地域での授乳に示唆を与えた(ThPeB7047)。

 

その他参考となった研究発表の内容と理由
今回,エイズ会議の強調ポイントの一つにリーダーシッププログラムがあった。その中のLM-20(7/13)で行われた「HIV・AIDSとともに生きる母と子供たち:PMCTPLUS scale-up」に参加した。タイ全体の感染率が減少し妊婦感染もピークの2.5%が1.2%に減少してきた。以前の母子感染率30%が現在8%以下となり、これらは強力な政府のリーダーシップで成し遂げられてきたこと。インドでもモデル県でタイと同様妊婦のVCTを協力に進め成果がみられることなどが報告され、政治主導の成功例が報告された。基本的な予防手段がわかり完治しないまでも、薬が得られればともに生きることが可能なのに予算、財政、貧困などの問題が山積みのため、もっと国際的な援助が必要ということであった。

 

選考基準となった会議における公的役割の成果:
ポスターセッションや口演を通じ母子感染について最新情報を得られたこと、さらに演者との意見交換が行えたこと。

 

会議の成果を国内で還元する具体的計画:
すでに第10回東海HIV研究会(7/24 名古屋)にて概要について報告した。HIV母子感染予防の臨床的研究班が主催する成果発表会(大分、山形)にて報告し、さらにエイズ学会でも日本独自の「第3版母子感染予防マニュアル」の紹介の中で成果を生かしたい。

 

会議の感想:
いわゆる学術会議ではなく、すべてのかかわりを持つ人が一同に参集し議論をする様子に驚きをおぼえるとともに、HIV/AIDS問題は医療を変えて行くんだなと自覚した。