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第15回国際エイズ会議参加報告書

ロンドン大学熱帯医学公衆衛生院/(財)結核予防会結核研究所
リサーチフェロー  今津里沙

 

 現在私は財団法人エイズ予防財団による委託研究の、「西欧および東南アジアにおける移民のHIV感染症対策」に関する調査・分析に従事している。そこで今回の会議でもHIV感染症と人口移動をテーマにしたセッションに重点をおいて参加した。しかし実際にはHIV感染症と人口移動をテーマにしたサテライトや口演は次のように非常に限られていた。

月曜日(12日)
サテライト “AIDS and Mobility”

木曜日(15日)
シンポジウム “Challenging exclusion and stigmatisation: access for mobile and displaced persons”
ワークショップ “Beyond migration: empowering migrants against HIV/AIDS”

 移民とHIV感染症を課題にしたポスターは特にトラックDやEにて幾つか見られた。しかしサテライトやシンポジウムも含めたこれらは移民や難民、避難民へいかにして情報やケアなどのサービスを普及するかといった具体的な課題に対する、現場での取り組みの成果発表がほとんどであった。セッション内で浮き彫りにされたのも、スティグマや差別、言語や文化の違いから成り立つ壁、再定住、国際基金からの援助が少ないこと、などミクロな問題が目立った。このように移民におけるHIV感染症を政治経済的な問題とし、マクロ政策の観点から包括的に分析していた研究発表は見られなかった。木曜日のシンポジウムでは数人のスピーカーが移民におけるHIV感染症は国だけではなく、地域(region)としての問題でもあると認識するべきだと述べ、地域政策(regional policy)の必要性を呼びかけていたが、いずれも分析に基づいた結論ではなかった。この状況そのような主張を支持する学術的研究あるいは調査が未だ数少ないことを意味していると考えられるのではないだろうか。

 また、人口移動とHIV感染症の他、予防教育・啓発に関するセッションにも参加した。これらの多くも現場の取り組みの成果発表であり、新しい知見といえるものは発表されていなかったように思われる。しかし水曜日(14日)に開かれた “Education for HIV/AIDS Prevention-what works”というシンポジウムでの、セントクリストファー・ネービス国の首相であるダグラス氏による口演は非常に興味深いものであった。セントクリストファー・ネービスは西インド諸島の小アンティル諸島にあるセントクリストファー島(セントキッツ島)とネイビス島の2つの島からなる小さな独立国である。ダグラス氏はカリブ地域における経済の地域ブロック化が進むにつれて、人口移動も活発になるが、それは地域の活性化には必要なことであると述べていた。ダグラス氏は従って重要なのは人口移動を制限することではなく、教育に焦点をあてて移動する人々に知識と情報を備えることであると主張し、カリブ海地域における教育への地域的な取り組みに関して発表していた。人口移動とHIV感染症というテーマになると、どうしても焦点がミクロになりやすいなかで、首相という最も高いレベルで政策に関わる立場にいる人間が包括的かつ長期的な政策視野をもち、問題に取り組んでいたことに感銘した。また、アジア地域における人口移動とHIV感染症の問題へ取り組み方に関し、日本が学べる部分も大きいのではないかと感じた。

 ここまで述べたように、今回のエイズ会議にて人口移動とHIV感染症を地域政治問題として捉え調査している研究活動は少ないと感じた。私が現在取り組んでいる研究の目的はまさにそれである。本会議で浮き彫りにされた課題、されなかった課題を考慮にいれ、分析を進めたい。結果として、東南アジアにおける政策の分析発表を10月の国際医療保健学会にて、西欧におけるそれを12月の日本エイズ学会にて発表する予定である。(演題申込済)

 私にとって国際会議は今回が始めてであった。私自身がどちらかといえば現場よりは学究的な環境で研究を行っているため、どうしても学術的な体験を期待して参加してしまい、その面に関して多少落胆したことは否めない。もちろんエイズは学術的な問題では決してない。しかし、社会学や政治学などの学問がエイズ問題に果たせる貢献は大きいはずである。質の高い、そして応用性のある学術研究が少なかったことに対しては非常に残念に思い、また今後の自分への課題にもなったと考える。

 最後に国際エイズ会議はエイズ問題に取り組む様々なプレーヤーと、彼らの活動の全貌をつかむ良い機会であるという意義はあると思う。会議で見たこと、見られなかったことが全て勉強になり、参加させて頂いた(財)エイズ予防財団には大変感謝している。