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第15回国際エイズ会議参加報告書

岡山大学医学部保健学科助手  金子 典代

 

1.はじめに

 私の本学会の参加目的は,1.若年女性における性感染症を疑った際の受診行動とその関連因子,2.インターネットを使用する10代女性のコンドーム使用準備性とその関連因子に関する2演題の示説発表を行うこと,世界各地でのエイズ疫学・予防分野の研究動向に関する情報収集を行うことであった。特に,私の研究テーマである若者層へのエイズや性感染症予防介入に関連したポスターセッションやシンポジウムに重点を置いて参加した。効率よく情報収集ができた自信はないが,以下に参加したプログラムで得た知見と感想を述べる。

 

2.疫学・予防分野(TrackC)でのセッションの概要

 エイズ予防行動・予防教育領域での学術誌には欧米諸国で行われた研究成果が比較的多く発表されているが,本学会では,アフリカ地方やアジア諸国で行われている研究や活動報告も数多く発表されており,感染拡大の深刻な国々の実態がよく把握できるように工夫されていたと思う。

  エイズ予防学分野では,様々な予防介入方法を用いた研究が次々と行われており,各手法をできるだけ実験的デザインに基づいて行い,その研究成果をレビューし有効性に対するエビデンスを蓄積していく研究活動のニーズも高いことを感じた。例えば,発展途上国で行われているピアエデュケーションの有効性検証のためのシステマティックレビュー(ThPeD7661)は,多くの参加者の関心を集めていた。この研究では,17件のピアエデュケーションを用いた介入研究をレビューしており,そのうち11研究において予防知識向上が見られ,8研究においてコンドーム使用率の向上が見られたことなどが示されていた。また,母親から娘へ家庭内でエイズ予防教育を行うことが,コンドーム使用率の向上に有効であるとの米国からの研究報告が注目されたことがあったが,本学会では,母親から子供へのエイズ予防教育を受けるグループ,専門家からの予防教育を受けるグループに分け,それぞれの教育を受ける前後でコンドーム使用率の向上が見られるかを比較検証した研究の成果発表(MoPpD2019)も関心を集めていた。この研究での対象者数が少ないが,母からの予防教育の有効性を示唆する結果であり,今後さらに大規模な研究を進める予定とのことであった。

 性行動調査の手法に関しては,特にハイリスクな性行動や薬物使用行動などのセンシティブな内容のインタビューを行う際に,質問紙や対面式のインタビューより正確な解答を得られることで注目されているコンピューターを利用したインタビュー法(CASI:Computer Assisted Self Interview)を用いた大規模な研究発表も見られた。設備を整える上でのコストが高いのが問題ではあるが,対象者が少ない研究課題での性行動調査を行う際には使用してみる価値があるだろう。

  口頭発表では,中国で進行中であるコンドーム普及のためのソーシャルマーケティングプログラムの紹介(ThOrE1446)が印象に残った。セックスワーク関係者,薬物使用者などのグループに徹底的な調査を行い,その結果をもとに彼らのニードに沿った質の高いコンドームを開発し,地域で感染の可能性が高いと思われるグループや住民に普及させていったプロセスについての発表であった。開発したコンドームを地域で普及させる際のアプローチとして,マス・メディアの協力を得ることを最も重要な手法と考えていたが,マス・メディアからの反対を受けたため,急遽方針を変えて,Face to faceアプローチに切り替え,ハイリスクグループの代表者に直接交渉してそれぞれのグループに自ら出向いてその開発したコンドームを宣伝し,普及に成功したことが紹介された。コンドームのソーシャルマーケティングアプローチを大々的に繰り広げるに当たっては,特に性に関して保守的な文化背景を持つアジアの国では,行政,地域などからの反対を受け,挫折してしまうプログラムも数多くある状況の中で,プログラムの実施段階で遭遇した障害を乗り越えたプロセスは非常に参考になった。中国では,各省によってエイズ問題への対応も異なり,予防対策を国家レベルで行っていくのは大変な困難を伴うとは思うが,このようなソーシャルマーケティングプログラムが実行可能であったことが示されたことは意味があると感じた。

 

3.シンポジウム「HIV/AIDS In Asia: Why Worry? 」に参加して

 HIV感染がアジアで急速に拡大している事情もあり,参加者も多いシンポジウムであった。まずは,タイでの予防対策についての紹介があったが,タイでは100%コンドーム作戦の効果もあり,セックスワーカー間での感染拡大が食い止められたが,薬物使用者やMSM(男性とセックスする男性)への予防対策は進んでおらず依然増えているとのことであった。特にアジアでは,セックス産業を利用する男性が非常に多く,セックスワーカーから,サービス利用者,利用者の妻,妻から子へとHIV感染拡大が起きる危険性があることが示された。また,セックス産業を利用するものは,薬物を使用している割合も高いなど,複数のHIV感染リスク行動に従事しているものが多いことが示された。したがって,もし薬物使用者に感染が広がると次には,セックスワーカーにも感染が広がり,またその利用者へと次々に感染が拡大していくことが十分に考えられ,1つのHIV感染リスク行動のみに焦点を当てるのではなく,それぞれのHIV感染リスク行動は密接に関連していることを考慮し,包括的な予防対策を行っていく必要性が強調された。

  感染拡大をくいとめることが出来た国での対策における共通点は,感染率上昇が見られた早期に,国家的なプロジェクトを立ち上げ,強力なリーダーシップのもと関係者間で目標を共有し,徹底的にプログラムを実行したことである。もちろん文化・社会的背景が異なることは念頭に置く必要はあるが,感染拡大を経験した各国での成功事例,不成功事例が既に示されているのであるから,日本もこれらの海外の事例を参考にしながら,HIV/AIDS予防対策を1つの国家プロジェクトとして掲げて推し進めていかなければなかなか目に見える効果は上がらないのではないかと感じた。

 

4.会議の成果を国内で還元する具体的計画

  現在,将来看護師や保健師などの医療専門職となる学生教育に従事しているが,学生と日頃接する中で,日本でHIV/AIDSが着実に拡大していること,世界各国で国の存亡にも関わりかねないスピードで感染が拡大していることへの危機意識が低いことを感じている。しかし,最新のデータを示して世界の現状を説明すると関心を示すようになる学生も多くいることから,時間のかかるプロセスではあるが,本学会で得た最新の知見をHIV/AIDS/性感染症予防に関する講義内容や指導に反映させて,将来国際的視座を持って活躍できる医療専門職の人材育成に微力ながら貢献したいと思う。現在取り組んでいる若年層を対象者とした性感染症予防のためのIT(情報技術)を用いた個別対応型教育プログラムの開発のプロジェクトにおいても,エイズ予防学分野でのエビデンス蓄積に少しでも貢献できるよう,本学会で学んだ調査手法を取り入れて研究を進めていきたい。

  また岡山市内で,ピアエデュケーションを行う若者グループ,行政,大学,医療機関が協働してエイズ・性感染症予防のためのヘルスプロモーション活動に取り組んでいるが,この活動を継続・発展させるに当たっては,常に関係者間での対話を行い,目標を共有すること,また定期的に活動の有効性を評価していくことが重要であることを世界各国での予防プログラムの報告を聞いて改めて感じた。

 

5.最後に

  最後になりましたが,今回のエイズ国際学会への参加にあたり,多大なサポートを下さった(財)エイズ予防財団に心より感謝申し上げます。