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第15回国際エイズ会議参加報告書

国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部・情報調査分析部室長  小松隆一

 

 「アクセス・フォー・オール」をテーマとした今回の会議では、首相自ら開会式で演説をするなど、エイズに対するタイ政府のコミットメントを強く印象付けられた。また、国連事務総長も開会式でスピーチをし、公的な場からの引退を先日表明したネルソン・マンデラが急遽会議に参加しエイズ対策の重要性を閉会式で訴えるなど、エイズ問題の深刻さは多くの人を駆り立て、会議参加者は約2万人であった。リチャード・ギアやミス・ユニバースが開会式に参加するなど、華やかな側面もある会議となった。また、会議登録料が高騰しているが、登録料を払わなくても会議に参加できるような工夫がされていた。毎日テレビで放映される一方、参加無料の「グローバル・ビレッジ」が設置され、多くのNGOのブースやタイの一村一品運動の出展と一般の参加により、祭のような盛り上がりであった。そこでは、滑り台などの児童用施設が設けられて子供たちが遊び、僧侶や尼僧が歩き回る中、セックスワーカーのブースの向かいに、高齢者団体のブースがあるなど、混沌としつつも多様な世界を反映し、大変に興味深い試みであった。

 内容に関して大きな点としては、より良いデータが得られるようになり、また、推計方法が改善されたために、HIV感染の推計数は下方修正されたが、トレンドとしては依然として増加が続いていることがある。昨年途上国政府や専門家を招いて実施した推計ワークショップには報告者もファシリテーターとして関わっており、いずれ機会があれば具体的な推計プロセスについてより詳細に報告したい。今後、様々なところで新しい推計値を目にすることになるだろうし、事情を知らない人から疑問が出されることも多いだろうから、注意する必要があるだろう。

 今回の会議での学術セッションでも、行動サーベイランスに関する報告が目立った。途上国のみならず、先進国でも、すでに多くの国で行動サーベイランスが実施され、政策立案のためのリスク行動の評定や、対策評価に利用されている。また、リスク行動を行う人口規模の推計に関するシンポジウムも開かれた。リスク行動人口の規模は、対策プログラムを実施する上できわめて重要であるが、推計するための困難も大きく、今後の研究の展開が期待されている分野である。リスク行動人口の規模の推計がまだまだ未熟であることが、昨年からのUNAIDSの世界推計で表示されるようになった不確実度(レンジ)が大きい理由のひとつでもある。また、紹介によるサンプリング(スノーボーリング、雪だるま式サンプリング)では、発端のサンプル(シード)が多いほうが良いことが示されるなど、技術的に興味深い発表もあった。

 モニタリング・評価の面では、従来は各機関、組織などがそれぞれに指標を設定していたが、様々な指標を統一して扱うようになってきている。これは、「スリー・ワン」の原則の一つでもあり、世界基金が中心になってまとめたツールキットもできた。こうした動きは、主に途上国支援を念頭に置いたものと言えるが、先進国で利用していけないわけではないし、むしろ利用は望ましいことである。今後、早急にこのようなツールキットを日本に紹介していく必要があるだろう。

 報告者は、南部ベトナムの女性セックスワーカーのリスク行動とHIVリスク因子について発表した。ポスターセッションであったが、今回のポスターの配置はトピック、地域などが上手く組織されていると感じた。報告テーマにきわめて近い、カンボジアで働くベトナム人セックスワーカーについての研究や、カンボジアのポスターがすぐそばにあり、意見交換が比較的容易にできた。しかし、発表されなかったポスターも多くあり、残念であった。

 国の指導者が率先して対策に取り組むことの重要性は、今回の会議からでてきたメッセージのなかで一番大切な点ではないだろうか。これほど大きな会議を成功させたのはそのようなリーダーシップによるものだろうし、ここに至るまでには10年以上にわたる真摯な取組みがあったことを忘れることはできない。もちろん、政府の取組みを民間活動が補完し、そして、問題点も指摘してきた。この会議をきっかけとして、予防と治療、ケアといった包括的な対策をさらに改善していこうというコミットメントが表明された。民間もその実現をパートナーとして支援するだろうし、また、進展度合いをチェックしていくだろう。来年は、延期されたアジア・太平洋地域エイズ国際会議が神戸で開催されるが、それをきっかけとして日本国内でのリーダーシップが発揮され日本の取組みがより一層強化されることを望みたい。今回の会議参加による成果の一部は、8月初旬のエイズ&ソサイエティの会合で発表する予定である。また、厚生労働科学研究費研究班での研究にも、会議で得た知見を反映させていくことを検討している。