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第15回国際エイズ会議参加報告書

日本福祉大学社会福祉学部保健福祉学科助教授  林 素子

 

 7月11日から16日にかけてタイのバンコクで第15回国際エイズ会議が開催された。今会議の出席者は2万人弱と言われている。バンコクの交通渋滞は言うまでもなく酷いものであり、今会議に対しタイ政府が国を挙げての力の入れようのため、会議中バンコク市内の学校は休校となった。学校は休校ではあるが、大勢の大学生がボランティアとして会議に導入され、会場内や会場とホテル間のシャトル・バスの案内などに日夜従事していた。これまでの会議でも多くにボランティアがかかわっていたがここまで大勢のボランティアが関わっていたのははじめてである。また、テロへの警戒かVIPの参加のためかこれまでにないほどの厳重なセキュリティー体勢のもと会議は開催された。

 本会議のメイン・テーマは「Access for All(すべての人に予防と治療のアクセスを)」というものであった。それを可能とするためのキーはDr. Peter Piot(第15回国際エイズ会議実行委員長およびUNAIDS代表)が指摘するように「リーダー・シップ」「強いローカル・オーナーシップ」「コミットメント」「資金(グローバル・ファンド等)」である。ここでふれておかなければならないのが、Access for Allの一段階として「Three by Five」というキャッチ・フレーズをもって掲げられている「2005年までに300万人の治療を目指す」と言うものである。しかしながら、これらを実現するための資金、グローバル・ファンド(Global Fund)が思うように集まっていないという現状がある。グローバル・ファンドとは2002年1月に国連安保理に基づきAIDS・結核、・マラリア撲滅のために打建てられG7国を中心としたた基金である。現在は129カ国296のプロジェクトに対し3.1兆USドルのグローバル・ファンドが運用されている。

  前回のバルセロナでの第14回国際エイズ会議ではDr. Piotは政府のコミットメントということを強調していたが、今回はそれをされにブレイク・ダウンしたまずは強いリーダー・シップの重要性をあげていた。そのためか今回の会議には世界中から国連のアナン総長を初め、南アフリカ共和国前大統領のマンデラ氏、ソニア・ガンディ氏、ウガンダ大統領、世界銀行副総裁、オレンジ共和国皇女などなどのVIPが参加していた。今回は俳優のリチャード・ギア、ミス・ユニバースなども参加し、マスメディアの与える影響を印象づけた。この会議は正直なところ社会科学の分野においては新しいトピックスにはかけていた。わたしの個人的意見としてはHIV/AIDSの社会科学・教育手法において頭打ちになっており、先にあげたような強いリーダー・シップ、社会に影響を与える人たちを前面に出していたように感じられた。リーダー・シップという点で大きな影響を与えるのは政治家だけでなく宗教家もそうである。今回はキリスト教が大きなブースを構えていたのが目についた。また、会場には多くのタイの僧も参加していた。

  強いリーダー・シップと政府のコミットメントということでタイでは1992年に導入されたSW(Sex Worker)の「100%コンドーム・プログラム」により劇的にHIV/AIDS対策に大きな成果を挙げた。しかしながらその一方では、麻薬の静脈注射使用による感染が増大しており、彼らに対する支援がなされていないことが大きくクローズ・アップされた。現タイ内閣総理大臣であるタクシン(Thakshin)がどれだけタイ政府がHIV/AIDSの問題にコミットし、成果をあげているかを開会式で演説を行った際にドラッグ・ユーザーたちから大きな反感が起こった。演説と現実との違いは現地でないと理解することはできないものである。冒頭でも述べたように会議開催中学校が休みということもあり、学校などから社会見学のように会場に高校生や中学生が見学にやってきていた。今回はYouth Forumなどもあり、青少年への予防啓発に力がいれられていた。これまでにも国際協力機構(JICA)のプロジェクトなどで村でのYouth Clubの活動なども見てき、タイではかなりAIDS教育が行き届いているように思っていたが、今回現地の人(タクシー運転手やツアー・ガイド、マッサージ嬢など)と話す機会があり、一般の住民はHIV/AIDSについてほとんど知らないということがわかった。もう一つ面白いのは、一般の人の間ではAIDSというよりもHIVと言った方が通じることがわかった。表面にでてくるものと現状とのギャップは大きく、まだまだHIVの感染を縮小させることは困難なことであると実感させられた。

 感染者の早期治療・効果的治療、母子感染防止、感染拡大予防のためには感染の早期発見が重要となってくる。しかしながら検査施設が十分とは言えない国が大多数である。途上国だけではなく、日本でも検査結果がでるのに時間がかかるため検査を受けるのを敬遠しているという現状がある。そのような中で注目されているのが簡易検査法(ラピッド・テスト)である。これまでも言われてきた血液以外の尿や唾液による検査方法である。今回数社がこれらの簡易検査法においてラボで行う検査とほぼ同じぐらいの成績を出せる製品を開発しているという発表があった。たまたま先日東京で”The Big Issue”(ホームレスの仕事をつくり自立を応援するための雑誌)を購入したら、裏表紙に「HIV抗体チェックキット(4935円)」の宣伝が載っていた。自宅で検査を行うというもので、これもこれまでの国際エイズ会議でも話題に上がったものである。簡易検査キットで一人でも多くの人が自分の感染の有無を知ることは有益なことであるが、一歩使用方法を間違えれば大変な社会問題へともつながるものである。正しく検査を行えているのか、検査結果を踏まえて医療機関へ結びつけばよいが、そうでなく一人で悩んでしまうなど自宅検査の導入はこれまでもさまざまなディベートがなされてきた。日本ではどうなっているのかもう一度調べてなければと再認識させられた。

  あと、VCT(Voluntary Testing and Counseling)では、ケニアにおいて聴覚障害者に対し手話を使ってカウンセリングを始めたところ多数の人がやってきて、聴覚障害者への情報提供と機会の提供の必要性を浮き彫りにしていた。日本でも聴覚障害者や知的障害者への予防情報がほとんどない状況である。今後、わが国でもこれからの課題ではないだろうか。現在わたしの大学のゼミ(専門演習)で一人の学生が聴覚障害者への情報提供法(手話)について研究中である。

 最後になりましたが、タイでの国際会議に参加する機会を与えてくださいました(財)エイズ予防財団にお礼申し上げます。微力ながら今後ともわたしなりにHIV/AIDSの問題に取り組んでいきたいと思います。来年は神戸でアジア・太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP)が開催されます、1994年の横浜での国際エイズ会議のようにもう一度日本でもAIDSに対する認識を高め、知識を深めてもらいたいと思います。