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第15回国際エイズ会議参加報告書

特定非営利活動法人ぷれいす東京研究事業事務局長   吉田成美

 

 今回の国際会議においては、基礎医学、臨床関連の他、NGO・社会関連の報告に出席した。 開会式・会議サマリー・閉会式についての記述は字数都合上割愛する。

A. 基礎医学関連

  CD4数維持がHIV specific なCD8の増加に役立つことが紹介された他、「ロシア・東欧・アフリカ・中南米諸国では、サブタイプAやD、G(及びそのrecombinant)が多く観察されるが、現状の医学的知見はサブタイプBを対象にしたものが多く、その結果が他のサブタイプに適用できるのか、早急な検証が必要。」との提言がなされた。 基礎医学と臨床に跨る研究として、サブタイプによる薬剤耐性関連変異の違い についての発表もあった。

 

B. 臨床関連

  抗ウィルス薬関連では、908/r+NRTI2剤の効果や、Reverset (cytidine analogue in- hibitor)の有効性が紹介された。副作用に関するものとしては、リポジストロフィー等への対策として、Anabolic Steroid+負荷運動の実施が有効であるとの知見が示された。また、顔面のリポジストロフィー対策として、PMMAの定期的皮下注射の効果が示された。 特に顔面リポジストロフィーは心理的負担の大きい副作用であるので、更なる研究が期待される。

  Bristol-Meyers Squibb 社のシンポジウムにて、1日1回服用療法、RTVのboost効果利用の他、Enfuvirtide(HIV entry Inhibitor)の報告がなされた。Roche 社のシンポジウムでは、1日4錠/bidのNFV新剤形、LPV/SQV/rの処方によるDouble boost効果の他、フュージョン・インヒビターの紹介がなされた。 後者は1日2回の自己注射が必要だが、Roche社のブースにて確認した限りでは、成分分子が大きいので経口薬への移行は(少なくともRoche社においては)不可能、との返答が得られた。

 

C. NGO関連

(1)参加状況
 開会式前に既に100以上のNGOの発表申込みがあり、史上最大規模のコミュニティ・プログラムの開催が報告された。一般市民が参加可能な「グローバル・ビレッジ」の存在は、HIV/AIDSの問題を多様な方法でより身近に紹介する場、としての効能も大きいと感じた。

(2)今後の課題
 NGO活動におけるファンディングの問題につき、「持続可能性?資金調達の多様化?」と題して行われたワークショップは示唆に富むものだった。 寄付以外の、商業活動を通じた収益確保による収入源多様化の紹介後、タイの「人口とコミュニティ開発協会(PDA)」の実践例として、ヘルスケア、食品と農産物、研修、研究と相談等の各分野が示された。また、PDAの新事業として、HIV infected and affected people に対するMicro Credit 事業が紹介された。

 現状、事業活動の展開は今後多くのNGOにとって研究すべき課題であろう。 但し、今回のプログラムは、発表者/実践者が既にタイにて著名な人物であること、法人設立や法人税等の法制が国により異なることから、即座に我が国にて応用可能なものと断言できない側面にも留意したい。

(3)活動のレベルアップ
 我が国においては多くの団体がMSM向けプログラムを展開しているが、「Safer Sex…男性と性行為を持つ男性(MSM)向けの教育プログラム」と題し、香港 AIDS Foundaion の主催にて行われたワークショップは問題整理に役立った。 「エイズ予防活動に飽きた理由を述べる」「MSMがsafer sexをし難い要因を述べる」「MSM向けプログラムのタイトルとテーマを結びつける」ゲーム式ワークを行った後、「エイズ対策に留まらない『性の健康』という広い枠組み」「専門家以外のPeerの活用」「阻害要因を『性の健康』3分類(Physical, Psychological, Interpersonal)に適用」などの知見が得られた。

 自分の所属団体関係者も厚生労働科学研究において「ゲーム形式による性教育の例示」「『性の健康』概念の紹介」「Peerの効果」などの研究事業を行ってきており、違う土地で似た取組が行われていることに、自分達の取組の普遍性につき意を強くした。

 

D. 社会(政治・経済等)関連

(1)日本政府主催シンポジウム
 "Human Security and HIV/AIDS"をテーマに、各界識者6名が講演した。

 "knowledge based action"と"socially driven action"とに分けて予防と力づけにつき語ったL.C. Chen氏、タイでの若者トレーニングの実践を紹介したP. Intamoon氏、女性の1%・男性の2%がHIV/AIDSと共に生きるタイ国で全国民を"affected & infected people"と位置づけたK. Chanawongse氏、特にサハラ南部アフリカ地域にての「子供への脅威」を警告したP.McDermot氏、ファンド面での東南アジアでの取組について語ったE.Seki氏、ユースへの最善の道を予防と定義したK. Ishikawa氏、各界それぞれの立場からの"Human Security"が語られた。

  日本の関係省庁が一丸となってHIV/AIDSを"Human Security"の観点から捉えたことは、極めて今日的なアプローチ方法である。

 また、対象範囲として「HIV/AIDSの脅威に晒されやすい」に加え「HIV/AIDSにより影響を受ける」場合も含み、「人々」のみに留まらず「コミュニティ」迄拡げたことについても、複眼的な視点が反映されていると感じた。

(2)HIVと就労場所
 アフリカ数カ国での研究として、CD4値の上昇・VLの低下それ自体が、本人の就労意欲の向上に影響するとの調査結果が出された。
→この結果は、「病状を早期に把握、適切な治療を受けることにより、勤労のための体力のみならず意欲も維持できる」証左として、予防・検査・ケア間のバランスのとれた連携を推進する動機付けとなろう。

(3)AIDSに対するビジネスの役割
 コカ・コーラ、ハイネケン、エスコム、タタ、アボットなどの世界的大企業が、各々のHIV/AIDSへの取組について語った。今回の会議はアジアで開催されたにも拘わらず、アジア第一の経済力を有する日本企業からの参加が皆無だったことは遺憾に感じた。 特に多国籍企業においては、世界各国におけるHIV/AIDS問題の持つ拡がりをもっと意識して活動することが求められていると痛感した。

 

E. 結び

 今回の会議においては、基礎医学、臨床、社会問題の分野を中心に幅広い知見が得られたが、一番の収穫は、HIV/AIDSの問題が、こうした諸テーマ(上述に加え、疫学・予防、政策・プログラム実行も含む)それぞれにおいて独立の問題であるのではなく、社会における人間の幸福のための基本条件(性の健康、身体的健康、精神的健康、経済的・政治的・社会的安定の確保と差別されないこと 等)に全て影響を与え、人間が人間らしくあるための根源を問いつめる問題だと実感したことである。 憎き敵ではあるが、この問題から私たちが気付かされた問題の解決によって、人類の叡智が蓄積されていくことを願う。 この貴重な経験につき、所属団体を通じ、書面の他口頭の機会を通じ発表・還元を行っていく所存である。最後に末筆ではありますが、今回の参加の機会を与えてくださいました(財)エイズ予防財団に心より御礼申し上げます。