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第15回国際エイズ会議参加報告書

JaNP+事務局長 尾崎 友

 

魅力的な「PLWHAラウンジ」と運営上の宿題

はじめに

 私はJaNP+事務局長として来年のICAAP神戸のPLWHAラウンジの運営に携わることを要請されている。本会議における私の参加主目的は、国際会議における陽性者の立場、およびホスト側の視点を学ぶことである。私は国際会議に参加するのは、今回が初めてである。右も左もわからない中での参加になったが、気さくに各国のPLWHAからお声かけもいただき何度となくPLWHAラウンジで親睦を深めた。本稿ではPLWHAラウンジの報告を中心にしながら、私自身が参加し対話をした一部分を紹介しながら国際会議参加報告と代えさせていただきたい。

 

1. 生(ナマ)コフィ

 初日の開会式はタクシン首相自らが「タイでは差別は存在しない」式の発言をして、会場の一部から「ウソをつくな」とプラカードを示す抗議もあったが、会場全体を混乱させるような動きはなかった。顔を引きつらせながら言葉を尽くして最後まで演説を引っ張っていった。

 コフィアナンが会場に到着すると流石に著名人だけに会場全体が沸いた。格調高いアナン氏のスピーチ。翌日グローバルビレッジを中心に精力的に歩き話しかけ、そして分刻みのスケジュールにも関わらず会場の参加者やブースの人達へ声をかけていた。彼が活動家であり、並外れた政治家であることもうかがわせるものだった。

 しかし、ここまで世界の会議であるのにHIV陽性者の顔がでてこない。タイ政府の成果発表会のような様相も無きにしもあらずで、豪華な反面よそよそしい社交行事のようなイメージもついて回った。私が開会式典の会場を後にした頃に、ようやくほとんどの参加者が帰った後でPLWHA代表としてTNP+のパイザンさんがスピーチをしたという事が後から伝わった。コフィアナンに彼の声が届けられることは無かった。

 

2. 会場マップにない「大事な場所」=PLWHAラウンジ

 NGOブースがあるホール1から縦並びにホールが続く。ポスター発表、プレス記者会見場、セッション会場群・・これらが巨大な8つのホールが続く。ここまでが地続きなのだが、スタスタ歩いても5分ぐらいかかる。PLWHAラウンジはこのホール8の中に静かにたたずんでいるのだが、会場マップにも見当たらない。ところでこのホール群の半ばあたりにエスカレーターがあり、渡り廊下で隣の棟へ渡ると、国連やWHO関連の大きな詰め所があって、さらにセッション会場群や受付、郵便局や案内所、さらに、世界ネットワーククラスのNGOやタイの観光見本市、セレモニーやイベント、トークショーなどが目白押しのグローバルビレッジという大きな会場が続く。開催国側のタイ陽性者ネットワークTNP+やここが所属するAPN+(アジア太平洋地域陽性者ネットワーク)、ゲイ・レズビアン・トランスジェンダーの世界組織GLBT、IDU感染のネットワーク体、などはみなグローバルビレッジの方に綺麗で立派なブースを構えていた。

 さて、PLWHAラウンジはホール8にあった。ここは何があるのか一般参加者にはわからないようにホール区画の外壁や入口にもあまり仰々しい装飾をせず、PLWHAラウンジだとわかるのは入口に掛けられた看板が控えめに営業時間の案内を示していた。現地ボランティアの暖かい微笑みと挨拶で迎えられる。一歩中に入ると、観葉植物や調度品、内部施設など決めこまやかな配慮の行き届いた、豪華で落ち着きのある空間が広がっていた。

  PLWHAラウンジはPLWHAのための施設で、エイズ会議の定番でもある。HIV/AIDSの課題は、日本では余り実感されていないがスティグマ、差別・偏見、治療アクセス、ケア、などを含めて山積みである。しかも全世界の26分の1しか治療薬のアクセスもできていない。圧倒的多数はまだ死に至る病であるし、治療薬にアクセスできている私たちに課題が無いわけではない。今回の世界会議のスローガンは「Access for ALL」である。全世界、その出方は違っても、性への忌避感や差別感覚、女性蔑視、HIV/AIDSへの感染経路に基づく偏見、治療そのものの難しさをはじめ、課題となるキーワードは共通している。だからこそ山積みされる問題に関して、当事者の声を聞くことから解決の糸口も見出されてくるし、どういう支援・サービスが求められているのかも見えてくる。

  世界会議ではこうした世界のHIV陽性者達が自助活動としてどう展開してきたか、治療環境の整備にどう政府や行政と連携し時には対立しながら一歩一歩実現してきたかなど、各種のコミュニティベースのセッションもこの会議では催されている。しかも医療従事者を前に堂々と患者が副作用やケアの課題について発表をするという場面も存在するため、UNDPやWHO、赤十字・赤新月社など世界各国からHIV陽性者のスカラシップが設置されて派遣されてきている。彼らはそうはいっても食事一つ現地で購入する資力も持たない人たちが圧倒的であり、すでに日和見感染症のいくつかを発症させながら健康を押して参加してきている活動家もいる。PLWHAのケアをできる施設は不可欠である。

 

3. 静かに時が流れる

 PLWHAラウンジはブースやセッション会場や廊下の喧騒が嘘のように静かである。しかも、時間の流れもゆったりと流れていく。ラウンジはクリニックを兼ねたスリーピングエリア、体の疲れを癒すレストエリア、談話やくつろぎを与えてくれるラウンジコーナー、そして食堂のエリアに分かれている。スリーピングエリアは医療用ベッドが設置されており、医師が待機している。具合の悪くなった人達が診察や発熱などの際に簡単な投薬などを受けられるような場でもある。レストエリアはタイの土産物屋でも人気だった三角に折りたたんでいけるマットレスが一段高くなった畳の間のような御座式の床に敷かれていて、間接照明や調度品と一緒に静かでリラックスできる空間を演出している。このマットレスは枕部分も三角になっていて統一感のある美しいデザインをしている。薄手の毛布をかけて気持ちよさそうに体を休めている人達が大勢いた。マットレスは20床ぐらいあったろうか。

 ラウンジはゆったりしたソファや木彫りの腰掛けで構成されていて、配置よく木彫りの置物や観葉植物、しし威しのような水の演出もあり、くつろぎと談話を楽しむ人達が集まっていた。

 2日目以後になるとブースや食堂で知り合ったPLWHA仲間がお互いに顔を覚えていて挨拶したり手を振ったり、食事に誘い合ったりとのびのびとしていた。食堂では、パン・ディニッシュ・シフォンケーキ、サンドイッチなどと、パスタ・タイ式焼きそばなどのヌードル、ライス、肉or魚料理、野菜料理、サラダ、果物、飲み物、水、コーヒーなど、大方のものは何でも揃っているという感じだった。200人ぐらいが一同に食事をしても耐えうるぐらいの席数があり、セルフサービス。飲み物などはペプシやネッスルが提供したものだろう。炭酸飲料からスポーツ飲料、ミネラルウォータ、インスタントコーヒーまで揃っていた。食事は日替わりでディニッシュや果物以外のメニューは全て入れ替わっていた。

 

4. それでもバンコクのラウンジは課題が山ほどある

 ここまで考え尽くされているかに見えるラウンジで、素晴らしい出来栄えであったのだが、それでも課題は無いわけではなかった。例えば、それは食堂部門に顕著にあらわれた。バラエティ豊かにそろえた料理についても、メインはタイの美味しい料理が並び、それはどこのレストランにも負けない美味しいもので、精一杯サービスを尽くしてくれたつもりだったろう。私のような雑食系の日本人にとっては何を食べても美味しく食べていたわけだが、例えば、野菜の炒め物だと説明されても野菜料理にもひき肉が混ざっていたり、何の肉かわからなかったり、ライフスタイルや宗教の違いにまで対応できたかというとそうではなかった。結局ベジタリアンはサラダと果物しか安心して食べられる状況にしかなく、牛肉がダメな宗教や国民はタイの料理に手をつけられず、パウンドケーキやディニッシュとサラダにコーラと、まるでジャンクフード漬けの食事を強いられた格好であった。

 

5. 「グローバルファンド提唱国」がホストする「3by5完成年」のPLWHAラウンジ

 神戸会議のラウンジがどの位の規模でやれるのかはわからないが、重要な側面がある。それは、「グローバルファンドを提唱した国」がホストするラウンジだということ。しかも、「3by5政策完成年」の会議におけるPLWHAラウンジなのだということ。沖縄サミットにおける森首相の提唱は、世界の注目を浴びた。しかも外交政策としても重要かつ有効な提唱であった。また「3by5政策」の完成年である以上、これらの総括がされてこなければならない。これらにアクセスできずに死んだ大勢のPLWHAに報いるためにも、である。

  同調した先進諸国の一員として政治責任を分担しなければならない。神戸という世界有数の近代的国際都市の一つで開催するのだから、グローバルな視点にキチンと配慮できないと及第点はもらえない。ましてやグローバルファンド提唱国、日本が会場である。

 ベジタリアンに向かって肉をよければすむという暴言を押し付けるわけにはいかない。また、宗教などの理由で高貴なものにされている動物を使用していて黙っておくわけにはいかない。民族や国・宗教の尊厳を尊重できなくて国際社会の一員とはいえないからだ。さらに、アレルギーを起こす材料へも配慮しなければならない。これらを配慮し、使用する場合は表示し、極力大勢の人達をカバーできる料理が豊かに並ぶ必要がある。少なくとも食堂部門は、材料に何がつかわれているのか、カロリーは幾らか、こういう配慮は必要だし、料理もベジタリアンや宗教配慮のメニューとして、動物素材を一切使わない「料理」を1品以上必ず提供する必要があるし、アレルギー配慮も含めて何が入っているかも表示する必要があるだろう。


 
6. 日本では報じられることはなかった。

 帰国して驚いたのは、日本ではメガバンク合併のニュースでほとんどこの会議のナカミが消し飛んでしまっていて、ともかくシビアな部分は割愛されていた。

 二日目に、治療アクセスと3by5の完全実施を訴えてのHIV陽性者によるパレードとアピールに対して会場玄関でUNAIDS代表らによって「3by5政策を実現させてみせる」と明言したり、「ハームリダクションこそが国連がIDU感染を予防し、彼らをケアしする面で最も有効で推奨する政策である」と明言したりと、日本では絶対に見られないデモ行進と対話の姿が整然と見られたりと、抗議すべき所はきちんと声をあげ、それに正面から応答している姿に、自信を持って活動しているもの同士の論理での整然とした対話を垣間見た。素晴らしい経験だと思った。それらが日本で報じられることは一切なかった。

 また、4日目にはバンコックダウンタウン、シーロム地区ではGLBTによる世界パレードがあり大いに盛り上がったし、バンコックのテレビ局ではUNや赤十字・赤新月社だけでなく、GLBTの活動やブースの様子、アクトアップによる抗議デモ、毎日世界エイズ会議の色々な側面を取り上げていた。

 ところが、東京のある新聞では「誰の為の会議か」という見出しで、エイズ会議に出されているフードショップの値段が先進国の物価と変わらず、現地の報道陣でさえ口にできない、という書き方で「国民の締め出し」式にうがった情報を記事として流していた。しかしながら、これは会場の外に面した外資系ファーストフードショップで(マクドナルドなど世界フランチャイズの出店である。この価格はどの国に行っても日本と同水準の値段を要求されている。)、会場内に一端入るとフードコートでは全ての食事は35バーツ(100円程度で標準的な値段。)である。この記者は会場内に一歩も入らずに書いていたことが見え見えなのだが、これを読まされている国民は国際エイズ会議があたかも欺瞞に満ちていると誤解もするだろう。最も欺瞞に満ちているのは、この記者の偏見でバイアスのかけられた記事にこそあるのだが、その実際を把握できない日本の読者は不幸であろう。

 

8 おわりに

 今回の参加を通して他にも様々な交流を体験したが、ICAAP神戸会議に向けては、精一杯のホスピタリティを発揮させたいと思っている。最低限「食べ物の恨みを買わない」食事内容、「寒くない、しかし暑くない」環境の整備、プライバシー保護、迅速かつ便利な臨時診療環境を整えることが課題にある。「くつろぎ」をキーワードに、安心して食べられ、安心して休める空間を提供できる場所を運営できるようにしていきたいと思う。