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第16回国際エイズ会議参加報告書

熊本大学エイズ学研究センター予防開発分野 
岡田誠治

 エイズ予防財団の国際会議派遣プログラムにより、第16回国際エイズ会議(2006年8月13日~18日、トロント)に参加する機会を得た。今年はエイズの発見後4半世紀(25年)にあたり、Time to Deliver (実現の時)というテーマの下にエイズに関係するあらゆる分野から2万人以上が参加した大規模な会議となった。プログラムは、A.HIVの生物学・病因、B.臨床研究・治療・ケア、C.疫学・予防と予防研究、D.社会科学・行動科学・経済科学、E.政策、の5つのカテゴリーに分かれていたが、特にD、Eは他の医学系の学会ではあまり見られないユニークなセッションであり、また、いかにエイズが世界的に大きな社会問題となっているかを示すものであった。

 学会のオープニングでは、前米国大統領ビル・クリントンとマイクロソフト社長ビル・ゲイツの基調講演、俳優のリチャード・ギア等がエイズ撲滅を訴えるという派手な演出で始まり、非常に大きなメディアセンターが設置されるなど、かなりマスメディアを意識した学会であった。朝のPlenary session以外は5つのカテゴリーのセッションが同時進行したため、他の分野の発表を聴く機会は少なかったが、重要な発表とそのコメントはその日のうちに学会のホームページ(http://www.aids2006.org/)に掲載され、一部は動画やポッドキャストで視聴が可能になるというハイテクを駆使した会議であった。

 本会議における主な話題としては、HIV-1感染に伴う免疫賦括にTLR(Toll-like receptor)7/8が関与すること、アデノウィルス(5/35)がワクチン開発に有効である可能性、HIV-1新たな定量法などがあった。学会前日にはCCR5阻害剤のシンポジウムが行われたが、これらの薬剤は既にPhase II-IIIに進んでおり、新たな作用機序を持つ抗HIV-1薬として大きな期待が持たれている。また、抗HIV-1薬合剤であるKaletraによる単独療法の有効性や新しいインテグラーゼ阻害薬(MK0518)の効果に対する発表が大きな注目を浴びていた。また、結核やC型肝炎との重複感染の治療の困難さも話題となっていた。夜は臨床医向けの新たなエイズ治療法に関するサテライトシンポジウムが開かれ、多くの参加者を集めた。予防では、コンドーム以外のエイズ予防法としてMale circumcision(男性の包皮切除)とMicrobicides(膣内或いは直腸内に投与する殺 HIV-1剤)が大きな話題となっていた。Male circumcisionによりエイズ感染の確率が60%減少するのでエイズ予防に有効であるとの報告があり、現在ケニアやウガンダで大規模な臨床疫学研究が行われている。また、Microbicidesは女性主体で可能なエイズ予防法であり、主にアフリカで数種類の第一世代薬の臨床治験が行われ、第二世代薬も開発されている。これらの新たな予防法はD. 社会科学の分野でも大きく取り上げられていたが、その有効性・長期的な副作用等の評価にはまだ時間がかかり、現時点で過度の期待を持つことは慎むべきであり、また、これらの予防法はエイズ撲滅への根本的な解決策にはなりえない事も認識しておくべきであろう。現在、最も期待されている予防法はワクチンであり、世界中で30を越える様々なエイズワクチンの臨床治験が行われている。しかし、現時点で明らかに有効なワクチンはなく、有効なワクチン開発には少なくとも後10年はかかると専門家は見ている。

 学会に伴い、Global Villageという一般開放の展示企画が催された。ここでは、各国のNGO等による展示や公開討論会などの様々な催しが行われたが、日本からもエイズ予防財団がブースを出し、盛況を博していた。また、8月17日には、市内の広場でエイズの犠牲者に対するセレモニーが多くの参加者のもとに厳かに行われた。一方で、会場付近でデモが行われたり、最終日には警察が入ってセキュリティー・チェックが厳しくなったため、会場入口に参加者の長蛇の列ができるなどのトラブルもあったが、本会議はエイズ研究の先進国であるカナダで行われただけあって、全体的には非常に良くオーガナイズされていた。

 国際エイズ学会における基礎研究のactivityが年々低下していることが指摘されている。しかし、今回はホスト国カナダの努力もあり、他のセッションよりも小規模ながらも活発な討論が行われた。私は学会のポスターセッションで”Selective inhibition of receptor pathways for macrophage-specific cytokines by HIV-1 Nef proteins”というタイトルで発表した。内容は、「HIV-1のアクセサリー蛋白NefがHIV-1の主な標的細胞の一つであり潜伏感染に重要な働きをするマクロファージの機能を攪乱し、結果としてヒトの免疫系全般を乱す」と言うものである。(私達は現在、このNef蛋白を標的とした新たな薬剤の開発を目指して研究を進めている。)セッションでは思ったより多くの特に若い研究者から質問され、意見交換をすることができた事は収穫であった。今回はポスターセッション全般にかなり多くの参加者があり、活発な討議が行われていた。今後、国際エイズ学会においていかに基礎研究が高いactivityを保ち、他の分野との関連を構築していくかは、国際エイズ学会のレベルを保つ意味でも重要な課題となろう。

 私は基礎研究者であり、普段は臨床医・臨床研究者と接する機会はあるものの、今まで他の分野でエイズに係わっている方々と顔を会わせる事はほとんどなかった。今回の派遣でボランティア・教育関係・患者団体など様々な形でエイズに関わりを持つ方々と話をする機会に恵まれ、日本のエイズの現実に触れることができたことは私にとって大きな収穫であった。この交流で得られたものを、今後どのような形で発展させ、社会に還元していけるのかは私にとってのこれからの課題であるが、研究室に籠もることなく、積極的にエイズ撲滅のために貢献していきたいと考えている。