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第16回国際エイズ会議参加報告書

国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センター 
本田 美和子

第16回国際エイズ会議は2006年8月13日から19日までカナダ・トロントにて24,000人の参加者を集めて開催され、参加する機会を得たので、この会議で学んだことを報告いたします。

今回の国際エイズ会議のテーマはTime to Deliverと掲げられました。HIV/AIDSに対する治療を、これを必要とするすべての人々に届けるためには今どうすればよいかということについて、さまざまな立場の人々が一堂に集い、自らの主張を述べ、耳を傾け、解決策を模索する1週間となりました。特に、『3 by 5』の成果とこれがもたらした新たな問題についてのアフリカ・アジア諸国の発表の量は群を抜いており、”HIV/AIDS care in resource limited settings” (医療資源の限られる地域でのHIV/AIDS)は、今回の会議のもうひとつのテーマとなっていることを実感しました。

1週間の会議期間中、6000人を収容できる会議場に入場制限が敷かれるほどに人々の注目を集めた発表は、クリントン財団の代表ビル・クリントン元大統領と、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のビル・ゲイツ氏によるセッションでした。(Priorities in ending the epidemic; 発表コードMOSY01)いずれも世界のHIV/AIDS研究・治療・疫学分野に多大な資金と影響を与えている財団の代表であり、このセッションはトロントの2つのテレビ局によって生中継されました。

「感染する必要のなかった人が、この病気に感染して死んでいくのが嫌だからです」。これは「なぜ、HIV/AIDSに対してこのように援助をするのですか?」という司会者の質問に対して答えたクリントン元大統領の言葉です。「世界の感染者の9割は自分が感染していることを知りません」という元大統領の言葉に続き、「私たちの住む世界をより良いものにするために、健康は不可欠のものであり、HIV/AIDSに関する誤った先入観を無くして、確実な予防や治療が行えるようにすることがとても大切だと思うからです」とゲイツ氏は語りました。国や国際機関の代表ではなく、個人財団の代表が語るセッションが最も多くの人々を集め、その言葉が広く伝えられたことはとても興味深い事象でした。

この二人の言葉を待つまでもなく、会議中に共通して語られていたことは、HIVと共に暮らす人々(people living with HIV;PLWH)にとって何が必要で、何ができるか、ということでした。とりわけPLWHの権利については多くのアプローチがなされていました。「Sexual and reproductive health and rights of people living with HIV」というタイトルの下に開かれたセッション(発表コードTUAD01)はPLWHの妊娠・出産、性的行動、自分がHIVに感染していることのパートナーへの告知など、実生活においてPLWHが直面する問題についてアフリカ、ブラジル、フランス、米国など経済状態の異なる国々がそれぞれ自国での調査結果を発表し、その経済状態によらず、共通の課題を抱えていることが明らかになりました。とくに自分がPLWHであることを告げることができないまま性的な接触を行ってしまうことについてのケニアの報告(発表コードTUAD0102)は予防の難しさを改めて訴える内容でした。

また、特定のリスクグループへのアプローチもさまざまな報告がありました。インターネットを用いたMSM(men who have sex with men)へのHIV予防プロジェクトは北米でいくつも試みられており、地域の医療機関との連携が効果を挙げている、等の報告がありました(HIV prevention in cyberspace; 発表コードTHPDC)。これらの試みは、健康に関する情報が届きやすいとはいえないグループへの対応として、今後わが国でも有用な方策になるのではないかと思われました。また、女性が自身の選択として行え、安価で簡便であるmicrobicideについては数々のシンポジウムや発表で言及され、注目を集めていました。(発表コード WEAA05, THAD02など)

この会議は各国のHIV臨床を行う者が集う貴重な機会でもあり、会議と並行して様々な臨床試験についての研究会議も開かれました。筆者もいくつかの研究討議に参加いたしました。今回の国際エイズ会議でもいくつかの成果が発表された(WEAB0203, WEAB0204, THPE0047, THPE0144, THPE0145)SMART Study (Strategies for Management of Anti-Retroviral Therapy)については、新規参加者の組み入れが停止されている現状と現時点での結果の分析や、長期治療に伴う患者さんの負担をできるだけ軽減する安全な治療方法を明らかにするため、今後の臨床試験実施計画についての討議が行われましたし、またオーストラリアを本部として新たに計画されている臨床試験NCHECR ARV naive protocolについても、プロトコールデザインに関する会議が開かれました。理想的なHIV治療法が未だ確立していない現在、様々な角度から行われる臨床試験はHIVと共に暮らす人々にとって、かけがえのない重要性をもつものであることを実感するとともに、そのようなプロジェクトに参加する機会を得ていることに感謝の意を新たにしました。

今回の会議は、臨床的・基礎的な知見を深めると同時に、多くのPLWHとactivistが集い、自らを語る言葉を数日間に渡って傾聴する貴重な機会となりました。臨床医として日頃接している方々のPLWHとしての側面を改めて知る機会を得、この経験を今後の診療に役立てて行きたいと深く感じ入る1週間となりました。