HOME >> 資料室 _ 関連学会情報 >> 第16回国際エイズ会議(トロント)/2006年 >> 参加報告書

第16回国際エイズ会議参加報告書

国立病院機構名古屋医療センター薬剤科 
高橋 昌明 

○ 専門分野でのセッションの概要
Track B(Clinical research, Treatment and Care) の中のPharmacology, pharmacokinetics, therapeutic drug monitoring, drug interactions 分野については今後、期待される新薬の臨床試験結果の発表が非常に多くみられたのが特徴的でした。HIV-1感染症治療法の将来における方向性を考える上でとても参考になりました。具体的な内容をいくつか述べます。

○ その他参考となった研究発表の内容と理由
「HIV Drug Development」のセッションにおいて、今後、新たな治療薬の候補となる薬剤がいくつか報告されました。次世代の融合阻害薬(TRI-1144, TRI-999)、新しいPI(PL-100)などですが、それぞれ既存の薬剤とは異なる特徴を持っているため、現在、増加しつつある多剤耐性ウィルスにも効果が期待されるものでした。服薬指導を行っていく上でも新しい薬剤の知識は不可欠であると感じました。

「Optimizing HAART for Children」のセッションにおいては、子供に対するTPV/rの効果と安全性、3TC+ABCのVL減少に対する優位性、HAARTの長期試験の結果などが報告されました。当センターでも数例のHIV感染妊婦の分娩を経験しておりますが、小児への感染例はありません。しかし、今後HIV感染患者が増えるに従い、小児への感染も増加する可能性は捨て切れません。現在の小児への治療は米国のガイドラインに従うことになると思いますが、小児の場合、大人以上に服薬指導(保護者も含めて)が重要になってくると感じました。

○ 選考基準となった会議における公的役割の成果
「Development and application of a simple HPLC method to therapeutic drug monitoring」というタイトルでweb site 並びに CD-R にて発表を行いました。
抗HIV薬に関しては、その承認の経緯から日本人に対する薬物動態などの臨床試験がほとんどなされていないのが実状です。今回、日本で使用認可されている全てのプロテアーゼ阻害剤とEFVのHPLCによる簡便な同時血中濃度測定法を開発しました。

本測定法は、各薬剤とも0.1~12.0μg/mlの濃度範囲において97%以上の正確性、日内及び日間変動係数8.5%以下と高い再現性を示しました。本法を利用して、EFVとLPVに関して日本人HIV-1感染患者における採決ポイントに基づいた有効血中濃度域(EFV:>1.0μg/ml、LPV:>5.0μg/ml at peak level)を明らかにしました。

また広島大学との共同研究で、「The drug interaction between bosentan and atazanavir with ritonavir for the treatment of HIV-associated pulmonary artery hypertension」というタイトルで共同演者として同様に発表を行いました。肺高血圧症の治療薬bosentan とATV/rとの相互作用についてATVの血中濃度測定を分担研究しました。
以上、今回の会議で報告させていただきました。

○ 会議の成果を国内で還元する具体的計画
今回の会議では、新しいPI(TMC-114)やNNRTI(TMC-125)の臨床試験データ、融合阻害薬、CCR-5阻害薬、インテグラーゼ阻害薬などの新薬の開発状況などが多く報告されていました。これらの薬剤、特にPIやNNRTIは、近日中にも日本で承認されるものと考えます。その場合、日本人の薬物動態を解明する上でも血中濃度測定が重要となってきます。現在、当センターは抗HIV薬の血中濃度測定の研修を進めていますが、今後、エイズ治療ブロック拠点病院として血中濃度測定とその臨床応用研究の全国的中核研究施設として機能させていく予定です。

○ 会議の感想
今回、初めて国際エイズ会議に参加しました。日本エイズ学会をイメージしていましたが、その規模の大きさ、参加国の数、職種の多さ、などに圧倒されました。HIV-1感染に対する予防やエイズ治療に世界各国のあらゆる職種の人々が真剣に取り組んでいる姿をみて、研究にばかり目を向けていた自分が恥ずかしく思えます。研究だけでなくもっと広い視野をもってエイズ治療に関わっていかなければならないことを痛感しました。

○ テーマ『アドヒアランスについての情報収集』
アドヒアランスについては、Track B(Clinical research, Treatment and Care)のadherence/compliance 及び Poster Discussionsで数多く発表されておりました。
概要を自分なりにまとめてみますが、アドヒアランスの鍵となる因子としては、社会的要因、性格、副作用等の薬剤情報、年齢、教育レベル、薬物の乱用、治療コスト、社会的差別などがあげられます。これらの因子をよく理解した上で、治療をサポートするパートナーがアドヒアランスの向上に重要な役割を果たすと考えます。具体的には、臨床薬剤師、看護師、NGO、NPO、ヘルスケアワーカーなどの職種がパートナーとしてあげられます。訪問カウンセリング等を含めた患者へのサポートや努力が重要であり、サポートがきちんとなされれば、発展途上国においても高いレベルのアドヒアランスが期待できると考えます。また、興味ある発表としては、うつ病がアドヒアランスの低下と関連がありSSRIが効果的であったといったものや80-90%の中途半端なアドヒアランスはそれ以下やそれ以上と比べてウィルスが変異しやすく治療が失敗しやすいなどといったものがありました。