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第16回国際エイズ会議参加報告書

国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター
山中 ひかる

今回の国際エイズ学会ではHIV感染予防と女性の権利が大きなテーマとなっていた。感染する前に予防する、そのための啓蒙活動や女性のための感染予防法などに重点がおかれていた。

母子感染予防の分野ではアフリカを中心とするいくつかの地域の臨床試験の報告がされた。HIVを母子感染させるハイリスクな母親は、母親自身のHIV感染が進行した状態(低いCD4数、高いHIV-RNA量、AIDS発症)に多く、具体的には1999年のタイの報告ではnon-brestfeedingの母親で出産時の母子感染率は母親のHIV RNA量に比例して上昇し、HIV-RNA量> 93,126 copy/mlの母親では40%以上の母子感染率であった。またケニアの臨床試験では初乳のHIV-RNA量 > 10,000 copy/mlの母親で70%以上の母子感染率を認め、更にザンビアの臨床試験ではCD4数< 200/ul の母親群でその他のCD4数の母親群よりも有意に母子感染率が高かった。Cote d’Ivoireのコホート試験ではハイリスク妊婦(WHO stage4, stage 3でCD4数< 350/mm3、CD4< 200/mm3)に対してHAART治療(ZDV+3TC+NVP)を施行、HAARTの適応がない妊婦には妊娠32週からZDV+3TCと分娩時のNVP1回投与、または分娩中に母親の感染が判明した場合にはNVPの単回投与を施行し、児は全例ネビラピンの単回投与と生後7日間ZDV投与を受けた。結果はHAART治療群での児への感染率は2.1%、2剤とNVP単回投与の群では4.7%の母子感染率であった。全体で児への母子感染率は194人中6名の3.5%の母子感染率であった。その他の母子感染予防に関する臨床試験においても、HAART治療群の母親が最も低い母子感染率であり、母親に対する使用薬剤数が多いほど母子感染率は低下した。以上の結果からも母子感染率の低下には母親のHIV感染への積極的な治療が重要である。また、途上国においては自宅出産が多く、母子感染予防が行えないなどの問題も提示されていた。

小児HIV感染の分野ではHAART治療によりHIV感染による死亡率の低下の報告がされていた。更に治療により発育の改善、体格の問題や発達遅延の改善まで広い治療効果が証明されていた。

新薬ではintegrase inhibitorのMK-0518のPhaseIII臨床試験の結果が報告され注目されていた。このMK-0158は食事に関係なく内服することが可能であり、CYP3A4の誘導や阻害もなく、目立った副作用もない。今回はTFV+3TC+EFVのonce dailyのHAARTとTFV+3TC+MK-0518(600mg, 400mg, 200mg, 100mg)のtwice dailyを未治療患者に施行し比較した。結果、治療開始後24週ですべてのグループの85-100%がHIV-RNA量が検出感度前後( 50-400 copy/ml)まで低下し、MK-0518群でEFVよりも早いウイルス量の減少が認められ、治療後2週と4週で有意差が認められた。更に治療後2週までに2log10のHIV-RNA量の低下も認め非常に高い抗ウイルス効果を認めたが、副作用は吐き気・下痢などの胃腸症状と頭痛・不眠などで、EFVよりもその出現頻度は低い傾向にあった。従ってMK-0518は非常に抗ウイルス効果の高い新薬として認可が期待される。

CD4のdomain 2のエピトープに結合し、CD4 conformation changeを阻害することによってHIVがcoreceptorに結合することを阻害するentry阻害薬であるTNX-355も、抗ウイルス効果はintegrase inhibitor程ではないが、Salvage療法には一定の割合で効果を示していた。CCR5阻害薬としてMaravirocやVicrivirocの臨床試験が報告されていた。いずれも一定の効果を示しており、新しいメカニズムの薬剤として非常に重要である。

 microbicideに関しては、抗HIV薬のentry inhibitorを組み合わせたmicrobicideをサルに使用した報告では、HMCゲルと比較して有意にHIV感染率を減少させた。更にentry inhibitorのmicrobicideは薬剤投与後2時間で67%の感染予防率、6時間後に50%、12時間後に33%と長時間にわたる効果も示唆されていた。この報告はHIVワクチンが完成するまでのHIV感染拡大の阻止に非常に有効になると考えられた。

 小児HIVの領域で、国内では児への告知の方法が大きな問題となっている。それに関して年齢にあわせてコミュニケーションをとり続ける必要性、13~16才には正確なHIV感染症に関する知識と性行動に関する注意点を指導する必要性が記されたガイドブックが非常に参考になると考えられた。今後このハンドブックを参考に小児HIV患者に年齢相当の必要な情報を提供したい。また、母子感染予防法については国内ではほぼ確立されているが、やはり母親に対する積極的な治療が重要であると考えられた。

 次々と発表される新薬のなかで、integrase inhibitorは非常に抗ウイルス効果が高く、今後に認可された際に治療薬として使用を考慮したいと考える。
この学会では幅広い分野のHIV/AIDSの関係者が一同に集結するため、参加者も様々な立場からHIV治療に関わっていた。これまでは医師として治療に関する分野に携わり、またその方面の研究に興味をいだいていたが、今回の大きなテーマの一つであった感染予防、特に女性に指導権のある感染予防法は非常に興味深く、今後も重要な課題になると思われた。

この学会参加を機に、日本国内で様々な立場でHIV感染症に携わっている方々にお会いできたことも非常に有意義な体験であった。