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第16回国際エイズ会議参加報告書

サンスター株式会社広報室 
吉田 智子

夏の盛りに開催された国際エイズ会議。私は、若者当事者の関わるHIV/AIDS対策について研究・活動する一方で、1人の企業人として、「企業とHIV/AIDS」という視点での活動を継続してきた。今回の国際会議では、こうした活動を背景に、企業による/企業内におけるHIV/AIDS対策の事例について情報収集をおこなった。

はじめに

HIV/AIDS流行25年目、様々な試行錯誤の結果として対策が深化する中で、まだまだ未開拓の領域であるプライベート・セクターによる、HIV/AIDS対策への参画が求められるようになってきた。企業はその代表として、これまで以上に積極的な貢献のあり方を模索している。

私は現在サンスターが取り組んでいる、(1)企業の社会的責任としての社会貢献活動のあり方について、(2)社内でのHIV/AIDS対策「職場とHIV/AIDS」という二つのテーマに注目して情報収集をおこなった。

1.企業の社会貢献活動
企業による社会貢献活動の事例紹介がシンポジウムや各社ブース内で盛んに行われていた。会議の初日に行われたブリストル・マイヤーズ・スクイブ社(以下、BMS社)主催のシンポジウム『Secure the Future』(www.securethefuture.com)では、同社が1999年以来150億円を投資してアフリカ11カ国において実施している、大掛かりな支援プロジェクトの成果が発表された。HIV/AIDSに関して女性と子どもへのケアと支援を提供することを目的にした、革新的で包括的な200以上のプロジェクトに対し資金を投入している。具体的には、検査や治療のサポートから大学教育機関の支援、エイズ遺児や脆弱な状況に置かれた子どもの支援、伝統的な医療者・助産婦・地域リーダーへのトレーニングまで、極めて幅広く展開され、効果をあげている。

ブース会場も重要な情報発信基地となっていた。企業ブースは国際機関・政府機関のブースと同じエリアに設置され、そのほとんどが製薬企業および医療機器・資材、医療関連専門誌のグローバル企業が占めた。ブース内では、製薬企業が抗HIV薬などに関する情報発信(CD-ROM、論文の抜き刷り等)をおこない医療関係者の人気を得る一方、途上国を対象に実施するHIV/AIDS対策支援活動の紹介冊子の配布や現場スタッフによるプレゼンテーション報告など、積極的なPR活動を実施していた。

主要な製薬企業は、ソファやコーヒーサーバーを設置して、会議参加者の休憩所の役割も果たしていたのが興味深かった。会場内の飲食は高額な上、休憩場所がそれほど多くなかったためもあってか盛況となっており、世界中から人が集まる国際会議ならではの工夫を感じた。

また、会議本体への支援も重要な社会貢献活動である。登録者全員に配布されるコングレス・バッグへの協賛はギリアド社、一般の人も出入りができる「Global Village」内で開催された写真・絵画展協賛にPfizer社などの名前があった。また、若者(15~24歳)の会議参加者向けには、若者用会議ガイドブックの制作協賛にMAC Cosmetics社、無料配布される布製バッグにLevi Strauss社の名前があった。

2.職場とHIV/AIDS(Workplace and HIV/AIDS)
『職場とHIV/AIDS』は、今回注目を集めたテーマのひとつで、ワークショップ会場では満員になるケースも見られた。その背景には、HIV/AIDS流行の一般化にともない、HIV陽性者が健康に仕事を続け、経済・社会的に安定して、治療やケアを受けることのできる環境の整備が重要視されていること、また、包括的なエイズ対策の実現のために、各国のエイズ対策における企業の重要な役割として、社内・地域での啓発教育やケア・支援が期待されるようになってきていることが挙げられる。もちろん企業側にとっても、健康な職場を維持し、労働力を確保することが重要である。

(1) 経営陣に働きかける
HIV/AIDSにおける経営者のコミットメントの重要性は日々感じているところであるが、なかなかボトムアップには限界がある。そんな中、効果を測定するためのモニタリングと評価(Monitoring & Evaluation)の重要性や、社内のリーダーに社内外で発言の機会を与えることでHIV/AIDS活動への動機付けをするという事例紹介があった。タンザニアの労働組合連合の担当者は、職場での活動のヒントとして「タイム・マネジメント」を挙げた。職場では、企業活動に直接関係のないことに使える時間は限られている以上、HIV/AIDSのために時間を割くためには、十分な“活動のタイム・マネジメント”をすることが重要だという指摘である。

(2) 社員、労働組合を動かすために
社内のHIV/AIDS対策における社員の役割についての指摘も興味深かった。職場におけるHIV/AIDS対策においては、1)社員のニーズに合わせたプログラムを開発するために、内容、手法、頻度などについて社員の声を反映させる工夫が必要であるということ、2)このために労働組合との連携をうまくとること、が挙げられた。2)については、具体的に、HIV/AIDSに関する活動を社員の健康と安全の問題の一つに位置づけることで、組合のニーズを汲んだ活動として取り組みやすく、利点のあるテーマにすることができる。したがって、「社員の参画意識を高め、権利意識を高めるツールとしてHIV/AIDSを使う」手法が提案された。

(3) ピア育成の重要性
職場は、経済社会的に似た環境の人が多く、ピア・エデュケーション(同僚による教育啓発活動)による予防啓発教育がしやすい条件が揃っている。この際に、忘れてはならない点として指摘されていたのが人材育成である。多くの場合、社員教育には熱心になるが、社員教育をできる人材の育成がなければ、一過性の活動に終わってしまう、という指摘は耳の痛いものだった。また、世界的に新規HIV感染の半数が24歳以下の若者であることを反映して、若い労働者への教育の必要性を社内に理解してもらうことの重要性を指摘しているのも興味深かった。

ポスター発表では、数少ない先進国の事例として、米国・西海岸の企業でコンドームの無料配布設置の可否について検討した研究があったが、経営者の心的抵抗が障害となっており、具体的な推進の方法については今後の研究に残されていた。

(4) 企業同士の協力体制~企業連合の役割~
アフリカでは多くのエイズ対策のための企業連合が作られており、一つのセッションを費やして、その役割と現在抱えている課題が共有化された。具体的には、中小企業と大企業の格差をどう埋めていくのか、中小企業がHIV/AIDS対策をどこまで自社で負担できるのか/すべきか、またはどのように活動を動機付けていくのか、実施したプログラムをいかに評価して継続的な活動につなげていくのか、といった課題が挙げられた。

流行が深刻な国では、政府やNGOによるエイズ対策と並んで、職場におけるHIV/AIDS対策も重視されている。これは、企業による各国のエイズ対策への貢献になるだけでなく、企業が効率的なエイズ対策を実践する上でも重要だということだろう。

また、Informal Sectorでの対策については、社員・労働者の保健医療へのアクセスにつながるなどの利点を強調して、同業者組合など何らかのFormal Structureに働きかけることで、継続的な活動をするための枠組みを作る、という提案がなされていた。

まとめ

本会議における現場からの報告は、流行拡大が進み、企業の対策が避けて通れない状況が多く出現しているアフリカからのものが圧倒的に多く、期待していたような中国やアジアの事例、先進国での事例はほとんど見られなかった。社会貢献活動については、大規模な活動紹介や、HIV/AIDSと事業活動が直結している企業による事例が多く、すぐに自社で応用できるものは少なかった。しかし、職場におけるHIV/AIDS活動については、活動を推進する現地のリーダーたちからの、現場での実践経験にもとづく具体的な方法やアプローチが報告され、大変参考になった。HIV/AIDSが企業の抱える課題として話題を呼ぶことの少ない現在の日本で、当事者性のある課題として日本企業がいかにHIV/AIDSと向き合うことができるか、引き続き具体的な活動を通じて検討していきたい。