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第16回国際エイズ会議参加報告書

特定非営利活動法人HIVと人権・情報センター 
阿部しのぶ

<専門分野でのセッションの概要>

今会議では、ユースへの予防啓発、HIV検査に関わりがあるセッションを中心にまわった。

1.ユースへの予防啓発
各国のユースへの予防啓発活動についてのセッションや、実演などを見てまわったが、特に新しい方法は見られなかったように思う。発表も新しい方法を模索するというものではなく、演劇、歌、紙芝居、映像を使ったもの、メディアやネットなど、各国、各団体がある程度の期間実施し、定着しているものを披露するというようなものが多かった。

ピアエデュケーションという方法についても、改めてその効果を強調するようなものはあまりなく、この方法の定着が感じられる。ピアでもユースというだけではなく、感染者、路上生活者、父親、母親、結婚前の女性など、より細分化されたプログラムが多く見られた。

【ユースプログラム】
今会議でのユースフォーラムは、グローバルビレッジ内にユースパビリオンというブースやセッション会場、各団体や各国のパンフレットや資料が設置された情報交換の”SWAP-SPOT”ボード、ユースが自分の主張を自由に貼れるステイトメントのボードなどを設置した拠点を置いていた。ユースパビリオンは、毎時間ごとのユースのセッションやミーティング、各国各団体の交流の場として多くの人でにぎわっていた。

ユースのプログラムは、10日から12日にプレカンファレンス、13日にオープニングセッション、18日にクロージングセッションが行われた。プレカンファレンスには250人の各国のユースが集まり、アドボカシーなどについてのスキルスビルディングワークショップが開催された。日本からも2人のユースが参加した。

ユース関連のセッションは、パビリオン内のセッション会場だけでなく、会議場でも多く行われた。各国のユースの感染者のセッションなど、ユース自身の声が聞ける場も多かったように思う。

“Youth Pocket Guide”という、ユースが会議に参加するために有効な情報やユース対象のプログラムスケジュールなどが掲載されている、ユース用のガイドブックがユースパビリオンで配布されていた。
 
【ABC】
ABC(Abstain-Be Faithful-Use Condoms)についてはかなり賛否両論のセッションが見られた。多くはアフリカの各国についてのセッションであったが、同じ国でも立場や地域によって正反対の意見が聞かれた。ABC推進の発表をしたグループの中でも、その効果ではなく、グローバルファンドやアメリカ関連のファンドをもらうためには推進せざるを得ない状況があるという話をするところもあった。

多くの国、特にアフリカ諸国においては、ABCの良し悪しではなく、機能していないという現状がある。経済的にもCSW(Commercial Sex Worker)として働かざるを得ない状況であったり、SEXの相手が夫だけでもその夫から感染していたりなど、自分の意識とは別の理由でABCが実行できないという人たちが多くいる。現在このような状況に苦しんでいるのはほとんどが女性でであり、まずは女性の権利や地位が確立されていなければABCが機能することは困難であろう。

【フィーメールコンドーム】
フィーメールコンドームのセッションでは、マイクロビサイドの開発が進んだ今、フィーメールコンドームはマイクロビサイドへの橋渡し的なものであるという発言が発表者からあった。それに対して、マイクロビサイドの効果は未だ60%ほどであり、女性が自分で自分の身体を守るものとしてのフィーメールコンドームの意義は未だ大きいと訴える発言がいくつか参加者から出ていた。

一方、フィーメールコンドームのネガティブな点をあげる発言も目立った。使い方が難しい、使い方の情報が伝わっていない、他のコンドームと比較してパッケージや形の単純さなどマーケティングへの努力が見られない、というような批判が出ていた。アフリカ各国からの参加者からは、フィーメールコンドームへのファンドがなくなった後、値段の問題で使用が続けられないという話も出ていた。値段が高い、だから使わない、だから値段が下がらないという悪循環に陥っている観もある。値段の問題から、1つのコンドームの複数回の使用について、100%ではなくても0よりは良いという発言も出ていた。実際フィーメールコンドームは、素材的にも丈夫で1回で破れることは確かにほとんどない。奨励できる方法ではないが、実際に必要に迫られて洗って使うことが頻繁に行われている国もある。

日本では一度売れ行きの悪さに製造中止となり、新たに今年度販売が始まったが、値段が3倍近くに上がっている。女性が自分自身で使える予防方法として、どう推奨していけばいいのか、という疑問の解消を期待して参加したのだが、多くの国で同じような状況であるということを共有するセッションであったように思う。

【マイクロビサイド】
マイクロビサイドのセッションはいくつもあり、プレナリーセッションでも発表があった。どのセッションも、セッションルームいっぱいの参加者であふれており、期待の高さが伺えた。

マイクロビサイドは、ジェル、クリームの形態やリング状のものなどのclinical trialが行われている。安全性や避妊の効果などはどの製品も高いようである。ジェル・クリームタイプの製品は、HIVへの効果は高くはないが、STIへの効果は高いというものだった。その後の製品は、HIVへの効果は上がったが、その他のSTIへの効果は下がっている。アナルセックスにおける効果も模索中とのことであった。

実際の付け方や実物が見れるのではないかと期待していたのだが、マイクロビサイドがどうHIVからの感染を予防するのかという面に焦点が置かれているセッションがほとんどであった。

2.HIV検査
【オーラル検査】 
2005年2月からアメリカサンフランシスコ内のVCTサイトで、オーラル検査を実施している。方法としては、オーラル検査にフィンガープリッキングの検査を組み合わせるものである。偽陽性率は99%以下であるが、検査サイトによっては多くの偽陽性が出てしまい、オーラル検査の使用を止めたサイトがいくつか出ている。検査をする人の技量の差が大きく影響しているようである。しかし、それでも偽陽性率はかなり低いものであり、検査キットの冷蔵保存の必要もないため、設備が限られている場所なども含めたさまざまな場所で使用できる検査方法として効果的であると結論づけていた。

【ルーティーン検査】
アフリカなどの感染率の高い国々の現状からWHOが勧めている、antenatal clinicに来る妊産婦を対象にしたopt-inのルーティーン検査(病院を受診した人全員にHIV検査を勧めるというもの)導入についての話題がHIV検査の多くのセッションで話題の中心となっていた。

マラウイでは妊産婦へ2002年からopt-inの検査を実施していたが、2005年からopt-outの検査に切り替えている。全員に数人のグループカウンセリングをし、その後検査拒否をした女性には次のときの検査を勧めているとのことであった。ほとんど検査を拒否する人はいないそうである。

本人が拒否する権利があるとしても果たして拒否ができる状況なのか、女性だけに行うということでの女性への差別の助長、妊産婦のみの検査で感染を予防できるのか、などの批判や疑問の声がある一方、母親から子どもの感染を防げる可能性が高まることは大きな意味を持つ。WHOは差別助長について、検査をルーティーンにすることにより、反対に検査への抵抗や差別・偏見の軽減につながるのではないか、これはチャレンジである、という発言をしていた。

また、WHOはルーティーンでもVCT(Voluntary Counseling and Testing)同様カウンセリングが重要であることを強調していたが、日本においてはカウンセリングの部分がまだまだ発展途上だと思われる。一般のHIV検査でも妊産婦検診におけるものでも検査前後のカウンセリングをきちんと行っているところは多くはない。ボランタリーなのかルーティーンなのかという議論はあるであろうが、カウンセリングと検査技術の向上はどちらにしても必要不可欠なものだと思う。

【カウンセリング室内での虐待】
ケニアのナイロビの312の検査サイトにおいて、カウンセラーと受検者にインタビュー調査をしたところ、カウンセリングルーム内での虐待の報告がいくつか見られたということであった。言葉による精神的虐待が多くあったが、カウンセラーが男性の場合、女性の受検者に対する性的虐待が数件見られた。ひどいものでは、カウンセリング室内でカウンセラーからレイプされたというものもあった。皮肉なことに、プライバシーに配慮し、閉ざされた空間であるが故に起こることである。

私たちも、今後も発言には十分気遣いながらカウンセリングを行っていく必要があると感じた。インタビュー調査でのカウンセラーの発言の中でもいくつか見られたが、カウンセラー自身が精神的に疲弊してしまっている場合が多くある。カウンセリングの質を保つためにも、カウンセラーのストレスマネージメントは最も重要なことだと私は思う。実質的にスーパーバイズできる人材の配置や、定期的なミーティングでの各カウンセラーの抱える課題や問題の共有などを行っていくことを、きちんとシステム化していくことが重要であると考える。性的虐待については、日本では今のところVCTのカウンセラーの多くが女性であり、カウンセラーから受検者への性的な虐待というものは多くはないと思われる。反対に、受検者からカウンセラーへの性的な虐待は私自身も数件聞いており、今後も起こることが十分に考えられる。プライバシーを守りつつ、どう対応していくか、今後の課題である。

<会議の成果を国内で還元する具体的計画>

  1. ユースへの予防啓発への還元
    特定非営利活動法人HIVと人権・情報センター(以下JHC)で行っている、若者から若者へのAIDS予防啓発プログラムYYSP(ヤング・フォー・ヤング・シェアリング・プログラム)のコーディネート、プログラム作成、プログラム実施の更なる充実
  2. ユースボランティアへのエンパワメント
    今会議で得た情報を伝えることによるユースボランティアの知識・スキル向上と、世界のユースの状況を知ることによる活動へのモチベーション促進
  3. スタッフへの情報提供によるVCT運営への還元
    カウンセラー、検査技師、採血担当者や運営スタッフなどと検査やカウンセリングの最新情報や各国の状況を共有することによる、自分たちの検査体制の見直しの機会、更なる充実

<会議に参加して>

会議開催中は新聞やCBCなどのメディアにおいても会議のことが毎日取り上げられており、トロント市内の博物館や美術館、ギャラリーなどでも連携してout-reach eventが実施されていた。では、トロント市民の中での意識はどうか、というと、会議以外で交流のあった人たちの中ではクリントン元アメリカ首相やゲイツ夫妻が話したということや会議による経済効果の大きさなどに話が行き、本人たちもHIV/AIDSそのもののへの意識向上に繋がっているとは思えないと言っていた。しかし、HIV/AIDSに関わりのある人しか知らない会議であるよりは、一般の人たちの意識が会議に向いたという点で評価できるのではないだろうか。

ユースについては、今回は思った以上にユース自体が発言できる場が多かったように思う。ただ今までのようにユースというだけでもてはやされる時代ではなくなり、ユースというひとつのカテゴリーとしてある程度確立した感がある。これからは発展だけではなく、今まで高めてきたユースの意識やネットワークを維持し、次へつなげていくということが重要となる。今回もオーストラリアや神戸会議でユースとして活動した人たちが何人か参加していたが、ユースを卒業した年代、今までの流れを知っている人たちの働きがキーになるのではないかと思う。 

私個人としては、国際会議参加経験が少なかったため、国際会議の参加の仕方や意義について模索する機会となった。会議で発表された情報はネットなどを通してすぐに手に入れられるが、団体や国とのネットワーク形成や世界の現状を肌で感じられるという意味では大変重要かつ貴重な機会であると思う。それ以上に、参加し、声をあげて自分たちの状況を伝えていくということが大切なのだと感じた。個人的な部分で、ブースやセッション会場で各国の参加者たちとお互いの状況や思いを話し合う機会を持てたことは、自分にとって大きな収穫であった。

今会議に実際に参加し、体験したからこそ得られたことを今後の活動に活かしていきたいと思います。