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第16回国際エイズ会議参加報告書

特定非営利活動法人動くゲイとレズビアンの会 
鳩貝啓美

第16回国際エイズ会議に参加し、会期中、前回の会議をはるかに超える約2万4千人もの世界各国の研究者、コミュニティ実践者と共に、充実した学びのときを過ごすことができました。

会議4日目(17日)には、示説演題にて“Evaluation of safer sex workshop for MSM at gay bars in 14 prefectures in Japan”と題した発表(THPE0564)を行い、主にアジア地域の研究者・活動家と情報交換する機会となりました。予防プログラムの評価に関する発表や関心は、全体として2年前よりも増えている印象があり、治療だけではなく予防もクローズアップされてきている動きとも相まって、客観的な評価が重視されるようになってきた変化を感じました。

以下、時系列で、MSM関係のセッションと指定課題である「NGO評価、プログラム評価」について、主なものを報告いたします。

第1日目(14日)には、” What's working (or not working) for HIV prevention among MSM?”というアブストラクトセッション(MOAC01)がありました。アメリカの黒人MSMに対するPopular Opinion Leader Modelというオピニオンリーダーを養成するプログラムでは、介入・非介入群の比較で効果評価を行っており、UAIについての測定で有意な差が認められていました。また、オランダのインターネット介入では、形態評価と効果評価(UAIの有無で比較をし、コンドームの携帯と相手に事前にSafer Sexの意思表示をするという項目で有意差を確認)を実施していました。これらの発表を通じ、プログラム評価には、費用対効果の側面とプログラムがどのような理論に基づき内容が構成され、実践に反映されているかというプロセス評価の側面の重要性を再認識しました。特に、評価上の課題を解決するあまりに予防介入内容が影響を受けるという新たな課題が生まれるリスク(例、インターネット調査のドロップアウト率を解決するとプログラムにこめられるメッセージが減弱する)について考えさせられました。

同日、”Prevention Works: What's the Evidence?”と題するアブストラクトセッション(MOAC02)がありました。対象はMSM以外で、スワジランド、ボツワナ、ナイジェリア、ウガンダといった感染の増加している地域での様々な予防啓発のあり方と、介入の根拠を求める研究でした。コミュニティレベルの介入では、知識・態度・実践といった一般的指標で評価がなされ、MSMに比べるとスティグマ、PHAへの差別といった測定を重視している一方、よりダイレクトな性行動の測定には限界があるように思われました。一方、個人レベルでは、メタフェタミンユーザーの性行動を変容させる介入の報告が参加者の注目を集めており、研究としては介入計画、評価計画ともに魅力的と言えるものでした。介入有・無・代価介入の3群で実験介入し、4つのモジュール(非セイファーセックス、コンドーム使用、セイファーセックスの拒否、ソーシャルサポート)で、プレ・ポストと6、12、18ヵ月のフォローでの比較をしたものです。

但し、全体を通じて、国をあげてのキャンペーン評価や大胆な実験的評価には、明確な介入枠組みと、大規模な資本の2つの要素が必須となります。国内、特に匿名・流動性が高いために、介入、評価のいずれにおいても困難さをもつゲイ・MSMに対する介入計画・評価については、この2点から考える必要があると思われました。

第2日目(15日)には、MSMへのアプローチとして、ゲイバーを使って、検査をしたうえで健康指導を行うというアメリカの研究報告(TUPE0215)がありました。ゲイバーという介入場所を選択した報告に関心をもっていましたが、同性愛者の社会的な地位や立場の相違する日本では、NGOとコミュニティの連携、ひいてはそこに行政や研究者がどのように協力していくかという段階がまず必要であると考えられます。その点では、示説演題の”Promoting HIV/AIDS research partnerships: initiating effective collaboration among communities, researchers, and government”(THPE0862)といった研究から学び、文脈を国内に合わせつつ、日本のNGOと行政との連携実践事例を作っていく必要性を強く感じています。

第3日目(16日)には、”What's New? Innovations in HIV Prevention”というオーラルアブストラクトセッション(WEAC02)で、ジャマイカ、カンボジア、ウガンダ、USなど5本の発表がありました。これも対象はMSM以外でしたが、地域や文化、対象の特性をふまえた斬新で個性的な予防介入手法としても興味深い面がありました。ユースを対象としたジャマイカの移動バスでの介入では、性行動の効果評価指標として直近のセックスに限定した測定をしていたことが特徴的でしたが、介入の対象に対する尊重とエンターテイメントの重要性を訴えていた点は国内の個別施策層への予防に通じるものと思われました。また、カンボジアでの保健従事者に性の喜びについて語るトレーニングは3日間のグループワークとロールプレイによるものです。セックスを禁欲やセイファーセックスに限局せず、より広くとらえようとする興味深いアプローチの今後の効果評価が待たれるところです。

なお、セッション中最も注目されていたのは、アフリカ系アメリカ人の女子ユースに対するリスクリダクション介入です。これは、グループ介入で、プレと12ヵ月後のフォローとのRCTでした。介入は、HIVだけではなく、健康に関すること、ジェンダーやエスニックプライドについてもカバーされていることが特徴で、評価指標としては、コンドーム使用(直近のセックス、ここ1ヵ月、6ヵ月)、プロテクトしない膣セックス(1ヵ月、6ヵ月)と細かく性行動を測定し、知識、コンドーム使用の態度・スキル・自尊心までを網羅するものでした。

第4日目(17日)には、"HIV Prevention Among Men who have Sex with Men (MSM)"(THSA09)というamfARの主催によるサテライトシンポジウムがありました。この中では、MSMという概念についての研究、途上国でのMSMの実態、昨今盛んなインターネットを用いた研究や介入、薬物使用の問題など、MSM対象のプログラム開発にいかせる第一線の話を聞くことができました。

帰国後、「同性愛者等への有効な予防介入プログラムの普及に関する研究」(主任研究者 嶋田憲司)において、発表内容や資料の整理と、研究への活用を検討しているところです。また、国内では得にくい女性間の性的健康問題の実践事例としては、主にグローバルビレッジで得た経験を、関心をもつ当事者関係者との勉強会で還元を開始したところです。今後、12月の日本エイズ学会に向け、また各地のエイズ行政に携わる担当者への情報提供を通して、会議で得た成果を国内に広く還元していく予定です。