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第16回国際エイズ会議参加報告書

はばたき福祉事業団 
柿沼章子

今回の国際会議について以下3点について報告します。

  1. 血液・献血を通じたHIV感染被害予防の事例
  2. 香港の薬害HIV感染被害の現状と社会の取組み
  3. HIV感染拡大局面における子どもへの健康影響とある取組みの一例

1.血液・献血からのHIV感染予防~
インドTarumi Nadu 州『献血増加が血液、血液製剤によるHIV感染減少の鍵』の報告より。

この州では2000年に売血を禁止し、社会的に献血増加に取り組んでいる。背景には新規の自発的ドナーの獲得と、「replacement donor」(親族、友人など身近な人からなる献血者で感染リスクは高い)を減らすこと、血液・献血からのHIV感染の予防を防ぐことの社会的要請があった。また、スクリーン検査、血液バンクのライセンス化、血液審議会設立等、抜本的対策をたてたが、その際の費用効果のためにも献血増加が必要であった。

献血増加のために、注意深い問診・募集、モチベーションキャンペーン、献血者の確保に力を入れた結果、2002年から2005年の4年間で献血者が4倍に増加し、かつHIV抗体陽性率を60%減少させた。これらの活動はすべて、「ドナーフレンドリー」が基本になっている。

この州のHIV抗体陽性率は0.18%、日本は0.00002%と、単純な比較は難しいが、しかし、日本の献血者(量)数の横ばい、HIV抗体陽性率は増加という現状に対して、この州では献血者が増加し、かつHIV抗体陽性率は減少している。『献血増加』を鍵に、もう一度日本国内の安全献血促進に関して、献血者の増加とその一連の取組みも再考する必要があると思われる。

2.香港の薬害HIV感染被害の現状~
薬害によるHIV感染患者の20年
香港では1985年までに約60人の血友病患者が血液製剤によりHIVに感染した。患者は、悲しみ、現行の福祉やケアサービスが対処されていない不満など、多くの心理社会的困難を感じている。

2004年1月、患者のニーズと対処戦略調査が開始された。目的は①治療環境を体系的に査定すること、②薬害HIV特有の問題を確定し、それらを改善するために実践的な提案をすることである。調査は27人の患者と介助者、医療関係者を対象に、3つのフォーカスグループや個別面接調査が行われた。調査の結果、9つの問題分野が特定され、定期的にモニターするメカニズムの確立、サポートネットワークの構築、ニーズを報告するための長期的資金計画などを含む8つの提言がなされた。

これらの取組みが地方局で報道されたことを契機に、後に立法府機関により審議され、ワーキンググループが設立された。
そして現在も長期的な資金計画や、定期的な調査が執行されている。また以上の活動は諮問機関によりアクションリサーチを通して効果的な政策に変更を加えながら進められている。

日本でも薬害HIV被害に対して遺族対象の遺族調査が行われ、現在は患者・家族への調査が続けられている。またそれらの問題への対策が提言されている。薬害被害としては精神的ストレス、社会的孤立、治療の問題、就業の問題等類似している点が多い。

香港では『定期的な調査』『長期的な調査の資金計画』など社会との「ラポール」回復を中核とした定期・長期計画が政策として確立していた。社会での偏見・差別だけでなく、社会的無視という側面からみた被害実態と、そこからの回復の取組みを再検証する必要があるよう感じた。

3.HIV感染拡大における子どもへの被害と取組み
HIV感染拡大による深刻な問題の一つである子どもへの被害は深刻で、アフリカ、アジア地域を中心に、エイズ孤児の数は2010年までに少なくとも2500万人にまで増加すると予測されている。その結果、子どもたちは健康(精神的苦痛も含む)、HIV治療、人権、福祉、教育の不足、それによる貧困の連鎖に苦しんでいる。大きな視点で見れば、ある地域では一世代が消えることもありえる。このような緊急の対応が必要とされて状況の中、各国、各機関ともその問題への対策に困難を極めている。

サハラ砂漠以南のアフリカやタイをはじめとするアジアの国々では貧困打開が感染被害対策の大きな鍵である。絵画や演劇を通して精神問題へ取組み、予防などを含めた教育、実践的な職業訓練などに力を入れている。

その中で印象的な取組みを紹介する。ブラジルの団体は、精神的ケアに重点を当て、自己肯定感を育もうと子どもたちにマジックを教えている。「何故マジックを?」と質問すると「人を楽しませ、喜こんでもらうことで、子どもたちは自分の価値を見出すかもしれないのです。それには楽しいことがいいでしょう?」と答えが返ってきた。子どもたちの中には幼くして両親が亡くなる姿を目の当たりにし心が傷ついていたり、差別・偏見等厳しい現実の中に生きていたりする者が多く、そうしたことを考えると、その答えは私には十分だった。確かにHIVを取り巻く問題は深刻である。その深刻な面ばかりに眼を向けるとそこには怒と哀が浮かび上がる。しかし、その中で生きていく、特に子どもは、成長過程で喜怒哀楽を十分経験することが大切だと思う。彼らには喜と楽が必要なのだ。

おわりに
1.日本が学ぶべき点
日本には、治療、医療制度、国内状況など他国に比較すると進んでいる環境下でありながら、取り組まなければならない課題は多い。その解決のヒントは開発途上国の中にもあるように感じた。

逆に、2.日本が海外に対して
これまで日本が蓄積してきた治療、医療制度、そして社会福祉面への取り組みを通じて得た情報・ノウハウなどを他国へ提供できるのではないかと思う。
この会議で得たことを今後多方面に発信したいと思う。