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第17回国際エイズ会議 参加報告書
 

熊本大学エイズ学研究センター 教授 
岡田誠治

エイズ予防財団国際会議派遣プログラムにより、メキシコシティーで開催された第17回国際エイズ会議に参加する機会を得た。今回は、”Universal Action Now (Accion universal, YA ! )” (今こそすべてに行動を!)をテーマに、ラテンアメリカで開催される初めての会議であったが、前回と同様参加者は2万人を超える大規模な会議であった。Centro Banamexというやや郊外にある会場で行われたため、主なホテルからはシャトルバスが運行されていたが、メキシコシティーの有名な交通渋滞の中を会場に向かうため、思ったよりも会場への行き来には時間がかかった。また、Global Villageという一般開放用の展示企画会場が、Centro Banamexに隣接する競馬場に設置されたのは印象深かった。前回トロントでは会場が市街地にあり、会場内外で頻回にデモが行われたためか日に日にセキュリティーチェックが厳しくなっていったが、本会議ではそのような混乱はなかった。

開会式は、8月3日に市内のAuditorio nacional (国立劇場)で行われた。主なスピーカーは、メキシコ大統領やスペイン副大統領、国連事務局長などであり前回トロント会議におけるクリントン元米大統領やビル・ゲイツによる派手なスピーチ程ではないにしろ、政治的な要素が非常に高い会議であることが印象づけられた。

私たちは、高度免疫不全マウスにヒトの末梢血を移植してHIV-1が感染可能なモデルマウスを用いて、熊本大学満屋教授らにより新たに開発された新規抗HIV-1薬4’-ethynyl-2-fluoro-2’-deoxyadenosine (EFdA)のin vivoにおける抗HIV-1効果と副作用についての発表を行った。HIV-1はヒトと霊長類にしか感染しないことから、適当なモデル動物開発の取り組みが行われてきたが、近年、ヒト造血幹細胞や単核球を高度免疫不全マウスに移植することによりHIV-1の感染モデルになりうることが解ってきた。本学会においてもこれらのマウスモデルを用いた経粘膜感染などについての興味深い発表があった。エイズモデルマウスは、今後、HIV-1感染の病態解析、抗HIV-1薬の効果判定、ワクチン開発などに様々な応用が期待できる。2年前のトロントの国際エイズ会議においてビル・ゲイツがエイズワクチン開発に多くの研究費を投入すると講演していたが、現時点では有効なワクチンは開発されていない。一方、新規抗HIV-1薬の開発は盛んに行われており、新薬や新プロトコールの治療成績や副作用・薬剤耐性について数多くの発表があった。エイズの治療法が薬剤のみである現在、作用機所の異なる抗HIV-1薬やより副作用が少なく投与しやすい薬の開発は重要であると同時に、これらの薬剤が安価でどこでも使用できる体制の構築も必要である。更には非経口投与可能な薬剤の開発も必要であると考える。また、C型肝炎や結核合併エイズ患者の増加に伴う治療困難例の増加は今後の大きな課題である。

会期中同行者の具合が悪くなり、会場内のメディカルサービスを受けた。点滴と投薬で回復したのであるが、その間に若い医師と様々な話をすることができ、メキシコの医療体制に触れることができた貴重な体験であった。また、医療スタッフには非常に親切にしていただき、最後はタクシー乗り場まで車椅子で運んでくれた。陽気な彼らのホスピタリティーに感謝したい。

本会議は、通常私が参加している学会とは趣が異なり、基礎研究者や臨床医の発表よりも、むしろ感染者やボランティア或いは政治家など、広くエイズに関わる人々の生の声に重点を置いているユニークな会議である。開会式においての自らが感染者である女性ボランティアの訴えには心を打たれるものがあったし、エイズ教育やエイズ予防において海外で活躍している日本人と話をしたり発表を聞く機会に恵まれたのは大きな収穫であった。また、エイズ予防財団派遣事業に参加した様々な形でエイズに係る人達と議論することができ、普段なかなか知りえない日本のエイズの現状についての知識を得ることができたことは大きな収穫であった。本会議は、広くエイズの現状と今後の世界的な流れを知る上で大変有意義な会議であった。本会議を通して得られた知見と経験を生かして、今後もエイズ研究に邁進していきたい。