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第17回国際エイズ会議 参加報告書
 

長崎大学国際連携研究戦略本部 
竹中 伸一

本年2008年3月まで、(独)国際協力機構(JICA)の専門家としてタンザニア保健社会福祉省に派遣され、「HIV検査及びカウンセリング(HIV Testing and Counselling; HTC)」プログラム強化に携わってきた。今回の会議では、このタンザニアでの経験をポスター発表する一方で、タンザニアと同様な資源の限られた国でのHTCプログラム実施の現状と課題について、情報収集をおこなった。またあわせて、HTCプログラムの最新の取り組みについても情報を収集した。参加したHTC関連の主なセッションは次のとおり。

1.現状と課題

昨今、世界的に「自発的HIVカウンセリング及び検査(Voluntary HIV Counselling and Testing; VCT)」サービスが急拡大する一方で、資源の限られたサブサハラ・アフリカの国々ではさまざまな問題が生じている(V. Delpech, Rapporteur report)。これらの国では保健医療サービスに携わる人材の不足が深刻で、総じてHTCサービスに必要となるカウンセラーや臨床検査技師等も足りていない。一部の国では、不足する保健医療資格者をまかなうため、非医療資格者を活用しているが、研修カリキュラムやサービスの質などが課題となっている(G. Hall, MOPDC205)。マラウイからの発表によると、非医療資格者(non-health professionals)をHTCカウンセラーとして活用して、性感染症(Sexually Transmitted Infections; STIs)クリニック訪問者間のHCTサービスの利用を4倍に飛躍させている(D. Kwaitana, MOPDC202)。また、HIV検査キットのサプライチェーンも引き続き問題は解決しておらず、検査キットの在庫切れによるHTCサービス不全が起こっている。さらには、リプロダクティブ・サービス(家族計画等)との統合やHTCサービス前後のレファラルの強化が課題とされており、エチオピアの発表によると、HIV感染妊婦へのHTCサービス改善も指摘されている(H. Bradley, MOPDC201)。また、モザンビークでは、HTCを他サービスの提供の機会として捉えて、包括的なサービス(Counselling and Testing in Health)提供の実現を試みている(C. Raposo, WEACO102)。

このようにHTCサービスの拡大が引き続き世界的な優先課題とされる一方で、2007年、さらなるHTCサービスへのアクセス向上のため、WHO/UNAIDSは医療施設での「Provider-initiated Testing and Counselling; PITC」ガイドラインを発表した。HIV検査及びカウンセリング(HTC)サービスへのアクセスをさらなる向上させつつ、人権をどう保護するのかが課題となっている。急拡大するHTCサービスとは反対に偏見や差別への対策の遅れも指摘されており、喫緊の課題として法的保護の整備が挙げられている(M. Dhaliwal, Rappporteur report)。

また、HTCサービス利用者からのインフォームド・コンセントの確保の難しさから、Opt-outアプローチによるPITCに代わり、Opt-inによるルーティンによるHIV検査の申し入れも提案されている(R. Jurgens, TUSY0502)。さらには、HTCサービス拡大のため、マリやケニアの発表から、VCTの他にモバイルHTC、PITC、コミュニティHTC等のさまざまなアプローチの活用が提言された他、政治的コミットメントや政策環境の重要性も指摘された(A. Sylla, TUSY0503; N. Kilonzo, TUSY0505)。会場において、HTCサービスへのジェンダー配慮が重要とボリビアのHIV感染女性から指摘を受けた(M. Dhaliwal, Rappporteur report)。

他方、HTCサービスを最大限に活用すべく、さまざまなアプローチが取り組まれている。上述のとおり、モザンビークでは、ヘルスプロモーションのHTCサービス提供を位置づけ(CTH)、HIV検査に加え、梅毒検査、マラリア及び結核、高血圧のスクリーニングとレファラルを提供するモデルを開発しパイロットを行い、HIV感染者への結核及びSTIスクリーニングへのよりよいリンクを可能とした他、高血圧の発見を改善するという結果を出している(C. Raposo, WEACO102)。また、ウガンダでは、都市部でのHIV感染者宅へのHTCサービス(Indexと呼ぶ)がパイロットとして試行され、感染者家族に高い率(90%)でHIV検査が受け入れられたことと、検査結果が一般人口よりも高い感染率であったことが報告された(C. Nawavvu, WEAC0104)。タイでは、モバイルHTCサービスにコミュニティ住民を動員するため、娯楽も含む教育的アプローチ(Edutaiment)にて、日中忙しい時間帯を避け夕方にHIV検査のオリエンテーションを行い、若い世代のHTCサービス利用を向上させている(S. Kawichai, WEAC0105)。このようにVCTの他、人々のニーズに合わせて、さまざまなアプローチが試みられている。

今回HTC関連のセッションで指摘された課題を整理すると次のとおり。

【HTCプログラム実施上の課題(各セッションからのまとめ)】
(1)プログラム上の課題

(2)人権上の課題

2.対策

以上の課題に対して、次の対策が提案されている。以下、各セッションの報告のまとめ。

(1)タスク・シフティング(Task shifting)
 セッション「タスク・シフティングと分権」に参加。マラウイをはじめとしたアフリカ各国で実施中のARVプログラムでのタスク・シフティングの経験が報告された。枯渇する保健医療人材の中で、医師から看護師へのタスク・シフティングが、ARV拡大の上で、大きく貢献していると結果が発表されたものの、会場からは看護師の負担をどうするのか?と批判もあった。HTCサービスについては、非保健医療資格者にカウンセリングやHIV検査をゆだねることで、サービスの拡大を成功させているものの、サービスの質の確保が問題として挙げられている。

(2)メンタリングと継続的質の向上(Mentoring and CQI)
 セッション「メンタリングと継続的質の向上」に参加。報告では、効果的メンタリング実施により、ハイチでは検査後のフォローアップのロスを50%から20%に減らし(J.G. Balan, TUPDB203)、カンボジアではARVプログラム開始施設を増加させた(J.H. Elliott, TUPDB204)。また、CQI導入により、南アフリカのPMTCTプログラムではネビラピンのカバレージを15%から97%に増加させている(D. Jacobs-Jokhan, TUPDB205)。今回、HTCサービスに係るメンタリング及びCQIについて、報告等なかったものの、同サービスの向上のためにもメンタリング及びCQIは必須であり、quality assurance及びマネジメントを含むメンタリング体制を構築すべきである。

(3)統合(Integration)
 他保健医療サービスとの統合。家族計画を含むリプロダクティブ・サービスの機会等にHIV検査を提供することによるHTCサービスの拡大(H. Bradley, MOPDC201)。また、HTCサービスを機会として、STIスクリーニング等の他サービスへのレファラル(C. Raposo, WEACO102)。統合により、保健医療人材の不足の下でも、効率よいサービス提供を可能とする一方で、医療人材への業務負担の増大への配慮したサービスの統合が必要。

(4)巻き込み(Involvement)
 PLWHAやMarginalizedされた人々の巻き込み。サービスの拡大のみならず、サービスが届き難いMarginalizedされた人々へサービスを届ける上でも、これら人々を巻き込み、彼らのニーズに合ったサービスを提供することが重要。但し、後述のとおり、彼らの人権保護のための、法整備もあわせて行うことが重要。

(5)政治的コミットメント確保・法的保護の強化
 上述した対策を可能とするためには、政治的コミットメントと政策的環境が重要。また、HIV感染者を差別や偏見から守る、人権保護ための法整備が急務。何人であっても予防、治療、支援サービスの恩恵を預かれる社会の整備が必要となっている。

3.まとめ

サブサハラ・アフリカでのHTCサービスは増え続けており、アクセスは向上してきている。しかしながら、ここ数年課題は変わらないままである。特に保健医療人材不足は深刻さを増し、タスク・シフティング等の対応が取られているものの、抜本的解決には至っていない。このような状況はHTCのみならず、他予防、治療、支援サービスにおいても同様である。強い政治的コミットメントの下、保健システム強化やリフォームを通じて、システムの根幹(ヒト、モノ、カネ、技術、情報)の強化が期待される。

謝辞

今回の会議では、サブサハラ・アフリカ各地でHTCプログラムに携わる実務者と意見交換ができたほか、人権やジェンダーついて改めて考える機会を得、クライアントの人権に配慮した公衆衛生アプローチ実施の重要性を確認した。この知見を今後HTCプログラム企画・実施などに役立てたいと思う。会議の成果は、研修や講義を通じて青年海外協力隊(エイズ対策等)や大学生等に還元していくほか、機会あれば、JICA等のプロジェクトへも還元していく予定である。最後に、この機会を与えていただいた(財)エイズ予防財団に謝意を表したい。

以 上