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第18回国際エイズ会議 参加報告書
 

東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター
細谷 紀彰

2010年7月18日~23日にオーストリア、ウィーンにて開催された第18回国際エイズ会議に参加し、これまでの日本での研究成果を発表した。学会は100カ国以上、約2約人が参加した。私の研究発表は学会3日目の7月20日に行なわれた。発表形式はポスターで、朝9時から夕方6時まで掲示を行ない、昼に2時間の討論時間が設けられ、その間はポスターの前に立ち、多くの方に訪れて頂き、研究の説明および、質問に答えたり、議論を行なった。ポスター会場は非常に広くA-Fのエリアに分かれ、A:基礎科学、B:臨床科学、C:疫学、予防学、D:社会学、行動科学、E:経済、保険制度、F:法律、人権、政治学とHIVに関係する発表は多岐に渡っていた。我々の発表はその中でもBのエリアで発表を行なった。抗レトロウイルス療法(ART)により、多くの症例でHIVの増殖を抑制することが可能となり、先進国においてはHIV感染者の予後は劇的に改善した。しかし、ART以外に有効な治療法がなく、薬剤耐性ウイルスの出現と流行は深刻な問題である。これまで薬剤性ウイルスが体内に存在するかの検査は塩基配列をシークエンスにより決定する方法を用いて行なわれてきた。我々は、Polymerase chain reaction (PCR)と配列特異的オリゴプローブおよびLuminexを用いて薬剤耐性変異の有無を検出するPCR-SSOP-Luminex法を確立し発表した。これまでの検査よりも感度がよく、一度に大量の検体を処理できるのと、低コストなのが利点であり、興味を持った研究者達がポスターを訪れてくれ、活発な議論を交わすことが出来た。今回発表したのは日本人に多いHIV-1サブタイプBに検出系を絞ったものであったため、他のサブタイプで応用できないかという質問があった。今回の発表で質問があった所や、議論した内容などをふまえて、よりよい系へと改変していく事ができればと考えている。

また、今回の学会中で特に興味深かったのが学会5日目の7月22日に行なわれたHIVの細胞指向性試験についての討論会であった。2007年にアメリカ、ヨーロッパで、2008年に日本でも認証された、CCR5阻害薬を使用する際のガイドラインについての討論会であった。HIV-1は細胞に侵入する際にCCR5を使用するR5ウイルスとCXCR4を使用するX4ウイルス、およびその両方を使用する両指向性ウイルスが体内に存在することが知られている。R5阻害薬はR5ウイルスの増殖のみを抑える事から、薬の使用前に患者体内のウイルスの細胞指向性試験を行ない、体内のウイルスがR5型であるという事を検査する必要がある。現在CCR5阻害剤を使用にあったって、アメリカではMonogram社によるTrofileアッセイが使用されている。これは、HIV-1感染者のenv遺伝子を増幅し細胞に感染させルシフェラーゼの活性により細胞指向性を決定するもので、フェノタイプテストと呼ばれている。一方、Env遺伝子のシークエンスにより、細胞指向性を予測するジェノタイプテストがありドイツで開発されたGeno2Phenoなどが代表的である。これまで全世界共通で細胞指向性試験はTrofileアッセイによる検査が統一基準であったが、コストやサンプルの輸送、結果がでるまで1ヶ月という時間など様々な問題があった。今回の学会ではEUにおけるCCR5阻害薬の使用に関する2010年のガイドラインが発表されていたが、今後は適宜ジェノタイプテストを使用した細胞指向性試験でCCR5阻害薬を使用する事が盛り込まれており興味深かった。アメリカではTrofileアッセイによる細胞指向性試験の判定に基づいて薬の処方を行なうという方針に変化はなく、アメリカとヨーロッパ諸国のガイドラインの違いが明確になっている事から、今後注目して行くべきだと感じた。

今回初めて国際エイズ学会に参加したが参加者もヨーロッパを中心にアフリカ、アメリカ、アジア、オセアニアと世界各国の研究者が集まり、活発な議論が行なわれていた。分野も通常話を聞く事が多い基礎科学、臨床科学の他に、疫学、社会学、経済、人権などの発表も多く、NGO、活動家の方も多数が参加しており、色々な分野の人の発表にふれ、HIV/AIDSという分野に携わる人たちの様々な角度からの意見を聞けた事は、視野を広げる意味でも非常に役立った。また、HIV/AIDSを取り巻く世界の状況、特に基礎科学研究以外の分野がどういう流れて動いているのかという事を実際に感じる事が出来た事は、得難い経験になった。アフリカを中心とする感染者増加の問題と、途上国での治療の問題と、それに伴う予算の問題、人権の問題など、うっかりすると基礎の殻に閉じこもりがちになってしまうが、世界という大きな流れの中で、自分の基礎研究がどういう位置に立っているという事を感じる事が出来た事は、今度の研究の大きなモチベーションになった。また、薬剤耐性という同じ研究しているアジア、ヨーロッパ、アメリカを中心とした研究者と交流を持てた事も非常に良い財産となったと感じた。国際エイズ学会は基礎研究、臨床研究、疫学、社会学など多岐に渡る分野がHIV/AIDSで一同に介する世界で最も大きい国際学会である。本学会に参加できて、基礎研究のみならず、他の分野で現在何が問題で今後何が起こり、どういう方向にHIVの分野が世界で動いて行くのかを感じる事が出来る機会を与えて頂けた事は今後の研究にも非常に役にたっていくと考える。