HOME >> 資料室 _ 関連学会情報 >> 第18回国際エイズ会議(オーストリア)/2010年 >> 参加報告書

第18回国際エイズ会議 参加報告書
 

がん・感染症センター 都立駒込病院感染症科
柳澤 如樹

第18回国際エイズ会議(AIDS 2010)が、オーストリア・ウィーンで7月18日~23日に開催された。我々の研究グループは、財団法人エイズ予防財団からの助成を受け、演題を発表する機会を得た。

発表演題
「Predicting near-term incidence of chronic kidney disease in HIV-infected patients」


この発表では、HIV感染者623例を対象に、慢性腎臓病(chronic kidney disease; 以下CKD)を発症するリスク因子を点数化し、分析した。これまで、CKD発症のリスク因子に関する報告は多く存在する。しかし、それぞれのリスク因子がどの程度累積すると、CKDを発症する確率が高くなるかを検討した報告はこれまでになかった。我々は、リスク因子(加齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、CD4陽性リンパ球数、タンパク尿など)が4つ以上重なると、CKDを発症するリスクが格段に高くなることを明らかにした。本研究は、日本人HIV感染者のみを対象としており、多くの人種が混在する諸外国の研究と異なる。そのため、本研究の成果は、日本人HIV感染者を診療する際に適応できる有用な情報であると考える。ただし、本研究は1年間という限られた調査期間の中で、新たにCKDを発症した症例を検討した報告である。今後は、調査期間を延長し、更なる検討を重ねていきたい。

HIV感染者における腎臓障害

近年、抗HIV薬の進歩で、HIV感染者の予後は著明に改善した。その一方で、慢性期の合併疾患が問題となっており、CKDはその代表である。我々は、HIV感染者788例を対象とした臨床研究で、CKDの有病率は14.9%であると報告した1)。その中でも、末期腎不全(end-stage renal disease; 以下ESRD)に至るリスクが高いCKDステージ3以上の患者は全体の9.4%を占めた。この値は、欧米諸国からの報告と大差がない。また、CKDに至るリスク因子に、高血圧や糖尿病の存在が示唆された。実際、ESRDに至ったHIV感染者の症例を後方視的に分析すると、その多くが両者を合併していた2)

CKDと並び、心血管障害(cardiovascular disease; 以下CVD)もHIV感染者における慢性期の重要な合併疾患である。米国では、CVDがHIV感染者の死亡原因の多くを占める。CKDステージ3以上の腎機能障害を有するものは、CVDを発症するリスクが高いことが知られている。すなわち腎臓を保護することは、ESRDへの進展を防ぎ、かつCVDの発症予防にもつながる。

今回の学会では、HIV感染者におけるCKDに関してMohammed Atta氏(John’s Hopkins大学)が講演した。同氏は、アルブミン尿の存在がCKDとCVD双方の重要なリスク因子である点に触れた。そのため、HIVに対する治療の有無に関わらず、アルブミン尿の検査を実施することが望ましいと述べた。我が国では、アルブミン尿のスクリーニング検査は実施されていないが、今後その必要性が出てくる可能性を示唆する内容であった。

抗HIV薬が進歩し、日和見感染症で死亡する患者が減少する。一方で、諸外国ではCKDからESRDに至るHIV感染者が増加しており、我が国でもこのような流れになることは避けられない。HIV診療医はCKDを早期に発見し、進展予防に努める必要がある。

第24回日本エイズ学会学術集会・総会が、2010年11月24日~26日に東京で開催される。本学会のランチョンセミナーで、小生はHIV感染者における腎臓障害の題で講演する機会を得た。我が国におけるHIV感染者のCKD/ESRDの現状や、現場におけるマネージメントに関して発表する予定である。

引用文献

  1. 柳澤如樹, 安藤稔, 菅沼明彦, 今村顕史, 味澤篤. HIV 感染者における慢性腎臓病の有病率に関する研究. 感染症学雑誌 2010. 第84巻 第1号. pp 28-32.
  2. 関谷紀貴, 中村裕也, 柳澤如樹, 菅沼明彦, 今村顕史, 味澤篤, 安藤稔. 末期腎不全に至ったHIV患者10症例の臨床的検討. 日本透析医学会雑誌2010. 第43巻 第7号. pp 581-586.