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第18回国際エイズ会議 参加報告書
 

SWASH(Sex Work and Sexual Health)
八木 香澄

オーストリア・ウィーンで開催された第18回国際エイズ会議(2010年7月18日~23日)におけるセックスワーク関連のプログラムについて報告する。

会議開催に先立ち、前日の7月17日にセックスワーカープレミーティングが持たれ、約40カ国から約100名のセックスワーカーとサポーターが参加した。このプレミーティングを主催したNSWP(Global Network of Sexworker Projects)は、発展途上国のセックスワーカー参加を支援するために資金集めをし、事前にスカラーシップの募集を行った。そのおかげで、中国、アフリカのガイアナ、ケニア、南アフリア、ウガンダなどのセックスワーカーたちも参加することができた。

議論で避けて通れないのは「セックスワークとHIV/AIDS」をテーマとする「セックスワークの非犯罪化」である。

3日目(22日)に開催されたシンポジウム<コンドームと同じぐらい重大な問題:犯罪化されている集団への法的支援>で口演したカンボジアのPisey氏(Women’s Network for Unity)が「LEGAL SERVICE FOR SEX WORKERS」と題した口演で指摘したように、セックスワーカーは「犠牲者」として救済されることはあっても「セックスワーカー」としては救済されないという現状がある。カンボジアではたった1米ドル(約100円)を稼ぐためのセックスワークで2年6カ月の懲役刑を言い渡される状況があり、こうした当事者が法的に救われるためのシステムはあまりにも脆弱である(手続きにはあまりにも長い時間がかかり、高額な報酬を要求される上に、支援的であるはずのシステムが腐敗しているなど)。

従来から指摘されるように、国際社会では有効なエイズ対策の構想に「当事者」が参画することが重要であると指摘されながらも、セックスワーカーの声(リアリティ)がそうした場で考慮される機会はほとんどない。今回のウィーン会議にも経済的理由で多くの「当事者」が参加できなかったという問題があることは言うまでもなく、さらには自国で開催される構想ミーティングのような場においても、国際的支援団体・組織が主催するそうした場では専門用語が飛び交い、使用される言語はもっぱら「当事者」にとっての外国語(英語)であるという状況において、セックスワーカーは参加者リストに名を連ねるだけの存在となってしまうが、そうした状況を改善しようという具体的な取り組みはまだまだ不十分である。

Pisey氏が指摘するのは、人権擁護団体・組織と公衆衛生の専門家やプログラム実践者、あるいは少女・女性の救済を謳う反人身取引(Anti-Trafficking)団体・組織というのは、それぞれに重要な目標を掲げながらも、それぞれがバラバラの動きをしていることに加え、セックスワーカー「当事者」の声を聞こうとはしていないという問題もある。この点について「You can enjoy human rights as long as you are not gay, a sex worker, a prisoner or an injecting drug user」.において講演をおこなったSheryl Overs(Net work of Sex Worker Project)は、さらに厳しい批判を加えている。

すなわち、セックスワーカーが直面する社会的脆弱性ゆえにHIV感染に対しても脆弱であることが国際的にも広く認識されるに至り、近年は研究・介入対象にセックスワーカーを含めるNGOが増えるという傾向が顕著になっている。しかし、セックスワーカーに対する警察や政府当局のありようが問題視される以上に、人権擁護を謳うNGOによるセックスワーカーへの差別・偏見こそ「タチが悪い」という現場の声があるという。

それはたとえば、「人身取引(Trafficking)」に反対する宗教団体や女性運動を含む人権擁護組織/団体などが、国際組織および各国政府からの潤沢な資金援助を背景に活発な活動を展開するなかで、セックスワークにかかわる人々を「犠牲者」と「トラフィッカー」の2種類に選別し、「私たちの身体、私たちの生活、私たちの自己決定」(Pisey氏の演題のサブタイトル)といった「当事者」の主張を否定するという問題にも指摘される。セックスワークの非犯罪化を求める運動においては、こうした人身取引禁止法および政策にかかわる組織・団体(とくにAbolitionists)の「支援」活動が、セックスワーカーの直面する諸問題を解決することにはつながらず、むしろ看過できない負の影響をもたらしている現状が繰り返し指摘されているのである。

これに関連して、セッション<Sex work, punitive laws and human rights>における演題「PEPFARの反売春誓約の導入とセックスワーカーを対象とする組織の有効なHIV予防に対するその影響」(原題はA Case Story Analysis of the Implementation of PEPFAR’s Anti-Prostitution Pledge and Its Implications for Successful HIV Prevention among Organizations Working with Sex Workers)では、Melissa DitmoreとAllman(カナダ・トロント大学公衆衛生学教室)がより具体的な負の影響をケース・ストーリー分析という手法を用いて描き出している。

2003年、米国議会においてGlobal AIDS法が成立したが、2005年にUNAIDSが助成金の受給者/組織に対して、セックスワークを推進するような活動を一切認めないという方針を打ち出して以来、2010年現在、助成金受給者/組織には、売春および性的人身取引(sex trafficking)に反対する立場を明確にすることが求められている。2008年に米国議会がPEPFARの活動を支援する決定をした際にも、売春に反対する誓約をもって大幅な増額が約束された。同研究は、アフリカ大陸・アジア太平洋地域・アメリカ大陸・欧州諸国で活動する25以上のNGOその他組織のスタッフ、USAID代表者、セックスワーカーへのインタビュー、および文献研究に基づき、データ分析結果をフィクショナルな一つの事例として描きだすものである。結論からいえば、「誓約」は想定外の様々な負の影響をもたらしており、PEPFARを通じてUSAIDから間接的に資金援助を受けている団体は、セックスワーカーやトランスジェンダーなど最も高いリスクに曝されている対象層に対するサービスを中止、大幅な削減を余儀なくされているという。そのことがHIV感染率の上昇といった現象に反映されているとこもあり、「誓約」については、その解釈上の問題として「抜け道」を見つけることでセックスワーカーへの支援を続けているところもあるという。しかしそうした事例においても、「本来なら、もっとサービスを充実させることができるのに」という不満があることは言うまでもない。

また、「誓約」はNGOスタッフの中には、誓約を大義名分としてセックスワーカーへの自らの偏見を助長させることにもつながっているという。周知のように、HIV予防における最善策は、スティグマや差別と闘い、プログラムを計画・設計する際に「当事者」の参画を推進していくことである。前出のPisey氏やSheryl Overs氏が告発する、「警察や政府当局よりもタチが悪いNGO」の問題を含め、冒頭で述べた「セックスワークの非犯罪化」は、今後のセックスワークとHIV/AIDSの動向において、重要なキー概念になることは間違いない。