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第19回国際エイズ会議 参加報告書
 

国立感染症研究所 エイズ研究センター
原田 恵嘉

 エイズ予防財団の第19回国際エイズ会議派遣事業により本会議に参加し、これまで行ってきた研究成果を発表する機会を得た。22年ぶりに米国での開催となった本会議は7月22日から6日間、首都ワシントンD.C.で開催され、私のような基礎研究者の他に、医療関係者、政治家、活動家、著名人など約2万人以上が参加した大規模な会議となった。会議は、(A)基礎科学、(B)臨床科学、(C)疫学・予防科学、(D)社会学・人権・政治学、(E)実践科学・医療制度・経済学、以上5つに分類され、会期中、多岐にわたり討論が行われた。

 私は会議3日目の7月24日の(A)基礎科学ポスターセッションで「In vitro induction of ten CD4 mimic small compounds, NBD-556 and its analogues, resistant variants using primary R5 HIV-1(TUPE001)」という演題で発表した。「gp120の立体構造変化を誘起することで抗HIV-1抗体の中和活性を増強させる機序を有する新規薬剤NBD-556誘導体の耐性機序が、3通りに大別されることが明らかになった」という内容で、「抗HIV-1抗体の中和活性を増強させる」という新しい薬剤のコンセプトに興味を持った参加者を中心に、昼に設けられた2時間の発表時間のみならず、ポスター掲示中に、多くの有益な質問を頂き、意見交換をすることが出来たことが大変収穫であった。
 他方、(A)基礎科学および(B)臨床科学の各セッションにおいても私の研究テーマであるHIV感染症の新規治療法開発および耐性機序に関する研究に関して興味深い発表が行われた。
 まず、抗レトロウイルス(ARV)治療に関する最新の臨床試験に関する4つの報告は、私の発表日と同日の会議3日目の午前中に、プレナリーセッション等に用いられる最も大きい会場であるSession Room 1会場で行われた。
  1. TUAB0102:現在のARTにおけるバックボーンであるtenofovir/emtricitabine(TDF/FTC, 核酸系逆転写阻害剤)の代わりに、新たなクラスの薬剤として注目されているmaraviroc(MVC, CCR5阻害剤)を用いた1日1回服用試験(Study A4001078, MVC+ATV/r vs TDF/FTC+ATV/r)に関する96週目の報告。結果は、同等とまでは言えないが良好であり、新たな治療の選択肢としての可能性が示唆された。
  2. TUAB0103:薬物代謝酵素CYP3Aの働きを阻害する薬物動態学的増強剤(ブースター)として現在用いられているritonavir (r) の代わりとして、抗HIV効果を有さない新規ブースター cobicistat (co) を用いた服用試験(ATV/co+TDF/FTC vs ATV/r+TDF/FTC)の48週目の報告。両群共にほぼ同等の結果が示され、このcobicistatを加えた新たな合剤が開発されることが示された。
  3. TUAB0104:既存の治療組み合わせである「プロテアーゼ阻害剤 (PI) + 核酸系逆転写酵素阻害剤2剤 (2 NRTIs)」から、1日1回1錠服用HIV薬「FTC/RPV/TDF」に切り換えた服用試験(SPIRIT study, FTC/RPV/TDF vs PI;2NRTIs)の48週目の報告。ほぼ同等の抗ウイルス効果が得られ、1日1回1錠の利点だけでなく、PIから切り換えることでPIの代表的副作用である脂質代謝異常の解消も併せて認められることが強調された。
  4. TUAB0105:1日1回投与の新規インテグラーゼ阻害剤elvitegravir (EVG)と、現行の1日2回投与のインテグラーゼ阻害剤raltegravir (RAL) の服用試験の96週目の報告。EVGのRALに対して非劣性が示され、より負担の少ない治療法の可能性が示唆された。
 以上のように、今年も最新薬剤および現在臨床試験中の薬剤を用いて、より効率的な治療法の開発が報告され、レベルの高い議論が積み重ねられた。上記以外にも、新規インテグラーゼ阻害剤 G/GSK1265744 (TUPE040) および新規核酸系逆転写酵素阻害剤 BMS-986001 (TUPE041, TUPE042) に関する臨床試験の報告も別会場で発表された。いずれも順調に進んでいるようである。また、TUAB0103およびTUAB0104で取り上げたcobicistat(新規ブースター)およびelvitegravir(新規インテグラーゼ阻害剤)にバックボーンtenofovir/emtricitabineを加えた、インテグラーゼ阻害剤をベースとした1日1回1錠服用HIV薬「quad」を用いた未治療患者治療効果に関する48週目の服用試験の報告も行われた。結果はATV/r+TDF/FTCと比較して両群共にほぼ同等の結果が示され、新たな治療の選択肢がここでも示された (TUPE043)。
 他方、新薬に関しても、プロテアーゼ阻害剤 GRL-0519 (TUPE014)、侵入阻害剤 BMS-626529 (TUPE015)、核酸系逆転写阻害剤 EFdA (TUPE017)などが報告された。特にEFdAに関しては、バックボーンに用いられているTDFに対して耐性変異が相補の関係である点が特に興味深く、今後のさらなる進展を期待したい。

 本会議では自分の専門分野を問わず、参考になる多くの発表を聞くことが出来た。その中でも特に参考となったのは、会議2日目の7月23日早朝から行われたプレナリーセッションにおける米国NIAID所長アンソニー・ファウチ博士の基調講演である。ファウチ博士は、先に上げた基礎科学から経済学までの幅広い各分野を上手にまとめながら「The End of AIDS, エイズの終焉」および「AIDS-Free Generation, エイズの無い世代(HIV-1に感染して産まれてくる新生児を防ぐことを中心にエイズの無い世代を目指す)」という今回の会議のメインテーマについて、多方面かつ的確に講演を行った。その中でも「エイズの終焉」を目指すためには特に重要とされる「Prevention, 予防」に関しては、Microbicides(マイクロビサイド, 膣や肛門の中に入れておいてHIVの感染を阻止する抗HIV剤)、PrEP(暴露前予防投薬)、PMTCT(母子感染予防)、Condoms(コンドーム)、Education(教育)などの各12項目の黄色いブロックを積み上げて、複合的に予防を行う必要性を説き、最後に、13個目の赤いブロックを空いていたスペースに補完して「予防の壁」を完成させた。この赤いブロックにはVaccine「ワクチン」と書かれており、改めてワクチンの重要性が述べられた。報告された基礎および臨床科学に関する結果は、当然すでに得ていた内容と重複するが、基礎および臨床研究だけでなく、他の分野と協調して、世界的に今後どのようにHIV研究が進んでいくべきかを改めて認識できたことは大変有意義であった。

 以上、これまでに挙げてきた本会議における世界の主要なHIV研究者が発表する最新の研究成果および各議論については、国立感染症研究所エイズ研究センターのミーティング、および国内の学会・研究会等において発表もしくは議論をしていきたい。当然、今回発表した我々の研究成果に関しては、今回得られた本成果に対する各議論をふまえたうえで、論文にまとめ、学術雑誌に投稿する予定である。また、一般の方々に対しても、今回の経験および感想について、研究室のホームページ等を通じて、発信していきたい。

 私は今回初めて国際エイズ会議に参加したが、本会議は、通常私が参加している基礎および臨床研究者中心の学会と異なり、基礎科学から経済学までの、しかも、研究者だけでなく活動家や政治家も参加して発表を行っていたのが非常に特徴的であった。そしてこのような様々な分野からの知見および意見をまとめて聞く機会に恵まれたのは大きな収穫であった。先に上げたファウチ博士と同じプレナリーセッションには、現米国閣僚であるクリントン米国務長官も急遽来場して演説を行い、米政府がHIV感染症対策として新たに予算を拠出し「HIV感染症のない世代」を目指すと表明したことも非常に印象に残っている。個人的にも、私と同じ分野で研究を行っている世界各地の研究者と再会および新たに交流を持てたことは大変有り難かった。さらに、宿泊先および会場では、社会学や実践科学の日本人の方々と顔をあわせて話をする機会にも恵まれ、貴重な機会を得ることも出来た。このような本会議を通じて得られた知見、交流、および経験を糧に、「エイズの終焉」に貢献できるように、今後も自分の研究を進めていきたい。