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第19回国際エイズ会議 参加報告書
 

名古屋市立大学国際保健看護学 感染疫学研究室
佐々木由理

 ワシントンで開催されたこともあってか、会議全体の印象として、アメリカ合衆国のHIV対策への貢献が絶賛されており、最近のオバマ政権のエイズ対策が、高く評価されていた。アメリカ合衆国のアピール力には、学ぶべきところがあるようにも思われた。

 演者から現政権のエイズ対策を高く評価する声が挙がった一方で、聴衆からの反応が必ずしも呼応しているとはいえないように見受けられた。展示会場においても、オバマ政権のエイズ対策とブッシュ政権時代のエイズ対策を比較し、現政権の治療アクセス面への対策を評価しないことを暗示させるブースを設置した組織もあった。

 会議の主軸となっていたテーマには‘予防としての治療’‘HIV母子感染予防対策の強化’、‘女性のエイズ対策の強化’‘自発的な割礼推進’‘HIV Careとプライマリーケアの統合’の必要性であったと考える。一方で感染リスクが高いといわれているInjection Drug User (IDU)、Men who have sex with men (MSM)、セックスワーカーなどに対するHIV対策については取り上げられ方が少なかったように思われた。

 所属研究室のテーマに関連して、MSMのHIV感染予防対策、特にサハラ以南諸国での状況を把握したいと考えた。サハラ以南諸国においてはMSMの存在自体が否定されてきたこともあり、MSMのHIV感染予防対策は注目されてこなかったが、最近、サハラ以南諸国でもMSMにおけるHIV感染リスクについての研究がわずかながら報告されてきたこともあり、サハラ以南諸国におけるMSMのHIV感染、予防、治療などに関する研究報告を期待したが、ほとんど取り上げられることはなかった。サハラ以南の国によっては、MSMのコミュニティーができて、HIV感染予防キャンペーンを開始できるようになったといった報告はあったが、その介入の及ぼす影響についての報告や、サハラ以南諸国におけるMSMに対する差別や偏見とHIV感染の関連などについて報告されることはなかった。

 現在の研究テーマの1つである郵送検査についてもアメリカ合衆国で実施された報告がわずかながらあった。それらでは郵送検査の感度、特異度が通常検査と比較し劣るといったことはなく問題がないことが強調され、利用拡大の有効性が示唆された。特にHIV検査を受検したいと考えていても、医療機関へのアクセスが悪く検査受検が困難な人などには郵送検査の利便性が高いことが報告された。利便性が強調される一方で、聴衆からの質問では、郵送検査では検査前カウンセリングが十分にできないこと、検査後のカウンセリング体制や陽性結果が出た場合の医療機関へ繋ぐ体制の脆弱性について懸念を示すものがあった。また、日本では郵送検査キットを使用する場合、自らが採血し、それを郵送検査会社に郵送するシステムとなっているが、アメリカ合衆国においては、唾液を使用するキットも使用されている。更に唾液検査によって、その場で検査結果がわかるキットがUS Food and Drug Administration (FDA:アメリカ合衆国食品医薬品局)で承認されており、2012年10月よりドラッグストアなどの店舗でも販売が開始されるということであった。郵送検査受検者へのカウンセリング、受検者の孤立化を防ぐことが更に重要になってくると考えられるが、その点についての説明は十分になされなかった。

 ポスター発表のテーマに関連するAntiretroviral therapy(ART)アドヒアランスとソシアルサポートについてのセッションにおいては、特に周囲へのHIV感染の開示について報告された。家族のメンバーにHIV感染について開示する割合は高く、家族のメンバーから服薬や精神的なサポートを得ていた一方で、セックスパートナーに開示する陽性者の割合は低いことが報告され、カップルカウンセリングを普及させることの重要性が議論された。開示できない理由には、家庭内暴力などの問題が影響している可能性があり、更なる調査の必要性が示唆された。

-会議の成果を国内で還元する具体的計画-
 日本において、総HIV検査受検者中の郵送検査受検者の割合は高まってきており、郵送検査受検者の特性や郵送検査を選択した理由について検証してゆく必要性を、会議に参加することで再認識することとなった。郵送検査受検者と保健所などの検査受検者の特性を比較するなどして、それぞれの検査体制でどういった人をターゲットにし、どういった点を強化すべきかを把握する必要がある。日本で今後のHIV検査体制を整える上で、受検率の向上と共に、検査前カウンセリングや検査後の感染不安及び予防行動への支援、確認検査の必要な場合の相談や早期の医療への支援について検討したいと考える。結果を学会等で発表し、論文にまとめることで、日本の包括的なHIV対策に貢献できると考える。