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第19回国際エイズ会議 参加報告書
 

社会福祉法人はばたき福祉事業団

 HIV感染者の立場から、最新の治療法、社会に根深く存在するHIV感染者への差別や偏見、HIVを自分のアイデンティティの一つと捉え生きる方法などについて様々な興味深いセッションに参加したが、主としてHIVへの差別、HIVと刑法、HIVと女性、HIVとエイジング、抗ウィルス薬の予防服用(PrEP)の問題点に絞り報告をしたい。

参考となった研究発表の内容と理由
HIV感染者に対する差別、偏見、感染者としての「汚名」
法律から考える社会におけるHIVへの反応


 根強く存在する感染者への差別と感染者に対する汚名が、治療の理解、HIVの告知、適時な治療開始時期と治療の継続を進める上で重大な障害になっていることは長いこと認識されていながら、社会レベルでこの分野への投資はその必要に比べて少なすぎるのが現状。差別や偏見はどこからくるのか、体系的・理論的に解明し、対処法を立てた研究に興味を持った。

 HIVに関する法律を理解することは、その国の文化と思考の仕方がHIV感染者への差別や偏見にどう影響するのかを探り、非感染者の立場からHIVを眺めることにより差別や偏見の構造を理解出来る手段になると思った。日本にHIV特定法はないが、その分差別や偏見は水面下で燻っているように思う。表面に出てこないものは叩きようがない。欧米諸国においては感染を意図的か意図的ではないかにより、処罰の遇し方を変えてきているようだ。しかしまだ世界にはHIV感染の告知義務を定めている法律は多く、感染者は告知をしたために攻撃に遭ったり差別に遭うリスクに晒されている。また個人情報の侵害などからHIV感染者を護る法律は、HIV特別法には存在しない。このような世界の厳しい実態を知ることにより、日本の感染者は自分の権利を主張すべく戦おうと思うべきではなかろうか。そして法律的立場における自分の立ち位置を理解し(それがいかに不平等であろうとも)自分の行動を自覚しいかなる結果へも覚悟を持つことが、HIV感染者の社会的立場を高めるために繋がっていくように思う。

 また「差別」「感染者としての汚名」を作り上げる要因となるものを明らかにし、それに対する対処法をパッケージとして作り上げている試みもある。USAIDなどが率先して行っている。自分自身が抱いている「負のイメージ」を理解するのにも役立つと思う。

Getting to ZERO Excuses: Understanding and Addressing HIV-Related Stigma and Discrimination
*What works for Reducing Stigma and Discrimination:*
Programmes and Tools for reducing stigma and discrimination, including human rights approaches


HIVの差別に対してはまず人権的アプローチを試みること。
「汚名」を減らすプログラム 感染者自身に帰する活動 医療サービスによる「差別」「偏見」への取り組み
 病院の運営のコアとなっている「ゲートキーパー」とのパートナーシップの確立が大前提。病院にHIV教育を行い、HIV感染者自身に「差別」「偏見」について語ってもらい、理解してもらう。「汚名」を着せられることでどのように感じるのか、どのような差別を受けるのかを明らかにする。病院への個別プログラムを作成し、導入していく。

 トレーニングプログラムは様々な団体で作られており、属性によって異なる「差別」「汚名」の種類を明確にしているものもある(例:PLWIH, MSM, IDU, CSW)。また「差別」「汚名」の種類と程度を国別に数値化したインデックスも開発されている。30カ国以上が参加している(People Living with HIV Stigma Index, Global Stigma and Discrimination Indicator working group Global working group on S&D measurement for health facilities)。自分自身のネットワークを構築することで情報や問題をシェアし、集団の声として主張することは大切である。また何に苦しみ、何を理解してほしく、何が欲しいかを明確にしていくためのプログラムを様々な団体が試みている。

*HIV on Trial*
HIV criminalization laws and the trends towards increased criminalization of people living with HIV

 HIV感染を処罰する刑法はHIVへの無理解を恐怖が燃え立たせ、それを濾過して作り上げたような法律が多い。
 HIVを差別したりHIV患者に名誉棄損を生ずる材料になっているような内容が大半を占める。法律で使用される言葉もHIVを差別している場合がある。一方、善法もあり、様々な国がHIV感染を処罰する刑法の見直しをしつつある。
 以下に国別や事象例別に現状を列記する。

アメリカ:
 1980年代初頭にHIVがアメリカ国内で発見された当時、サンフランシスコ警察はAIDSと疑われる患者と接する場合は、警官に特別なマスクと手袋を着用させた。1987年にアメリカで初めてのHIV訴訟が起こり、HIV特定の刑法が制定された。一方1990年にはライアン・ホワイト・ケア条例が設立され、連邦補助金を受ける条件として、HIV法を制定している州はライアン・ホワイト・ケア条例の導入が義務化された。この条例はHIV/AIDS患者が医療サービスを受けられる権利を定めたもの。現在はアメリカ本国の34の州とアメリカ領土の2地域がHIVに特化した法律を制定している。世界地図の分析図を見るとHIV刑法を制定している国が41カ国ほどあり、アメリカ、アフリカ16カ国、ロシア、中国、東欧などが含まれる。HIV以外の法律により訴訟が起きたことがある国は、オーストラリア、イギリス、フランス、イタリア、北欧諸国などを含む16カ国ほど。
 1992年から1994年にかけシンガポール、バミューダ、オーストラリアなどで告知義務を怠った場合などを有罪とする法律が次々と制定された。デンマークではHIVを「致命的で治療不可能な病」と呼んだ。このような「津波」状態は2000年初頭にアフリカに押し寄せ、カメルーン、ジンバブエ、ナイジェリア等がHIV法を制定。これらの法律はアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の活動により広まった経緯があり、アフリカ13カ国はアメリカの法律をそのまま取り入れ、14カ国は参照にしている。2005年にUSAIDはこの兆候を「素晴らしい成功」と評した。

以下訴訟や法律などで使用された(されている)言葉
カナダ:
肉体への危害、悪意に満ちた暴行、性的暴行、殺人を意図した行為、殺人
アメリカ:
暴行、思慮にかける危険行為、殺人を意図した行為、悪意に満ちた売春行為、生物兵器を用いたテロ行為、テロ的脅し、殺人
スウェーデン:
他人に危害を及ぼす行為、感染が起きた場合は事前の承諾は有効ではない、コンドームの使用は罪を軽減する要因になるかもしれない。
オーストリア:
告知は抗弁にはならない。有罪になるのに感染の発症有無は考慮しない。
スイス:
告知は抗弁にはならない。意図的に危害を及ぼす感染症をまき散らした。
ノルウェー:
告知と承諾は被告を弁護する要因にはならない。
ドイツ:
肉体的危害と悪意に満ちた暴力行為。告知後に承諾があった場合は弁護。
イギリス:
1861年に制定された法律を使用。重大な肉体への危害。
フィンランド:
暴力だが告知後のコンドームの使用は訴訟の可能性を抑える余地あり。
ニュージーランド:
意図的傷害、コンドームの使用で不起訴。

訴訟された事象例:
一方、この流れを変えようという国際的圧力の波が出てきた。
1996:
国際連合人権高等弁務官事務所は、HIVに対し、HIV特定ではなく一般の刑法を用いるべきとのガイドラインを打ち出した
2002:
UNAIDSは現在のHIV特定法に代わる別の法律を使用すべしと発表
2007:
UNAIDSと国連計画開発(UNDP)は専門家ミーティングを招集し、HIV特定法の撤廃を強く要請。
2007:
世界首脳会議において「HIV特定法はHIV感染者への差別と「汚名」を着せる行為を深める」
2008:
ARV治療下のウィルス量の検出量以下の状態では感染リスクはゼロに等しい。
(スイス人研究者)2011年HPTN052によれば片方がHIV陽性、片方がHIV陰性のカップルの間でテストした非感染率は96%。
2010:
国際連合報告官は「HIV特定法がもたらす恩恵はまったくないが、差別と恐怖とHIV感染者を阻害する高い可能性のみ」「敵意のないHIV感染を罰することは人類の健康になる権利に反する」
2011:
科学者、医者、法律、人権の各専門家ミーティングが招集され、告知をしないこと、感染リスクにさらされること、感染の3点から現存の法律について話し合った。「刑法は意図的感染と実際の感染があった場合のみ適用すべきだ」
2012:
HIVと法律のグローバル委員会は「国はHIV特定法を執行すべきではない」
上記の進歩がみられる一方、HIVに不利な法律を最近制定したあるいは訴訟で有罪とみなした国もある。
2011:
米国ネブラスカ州ならびにブリティッシュコロンビア州は「HIVは体液による暴行」としてHIV特定法を制定。
2011:
ベルギーは現行の法律下でHIV感染者を有罪に。
2011:
ルーマニアはHIV刑法を制定。
改善を見せた判例も増えてきた。
2005:
オランダの法廷では科学的根拠を用い、HIVの意図的感染を目的にした場合にのみ刑法を適用させる。
2010:
オーストリア司法長官は「オーラルセックスおよびコンドームを使用したセックスに限りHIV感染者は有罪ではない」
2011:
カナダ人判事「HIVはもはやHIV=死につながる病気ではない」
2011:
デンマークはHIV特定法の執行を停止。
2011:
アメリカ国会議員のバーバラ・リー議員はHIV特定法の無効を議会に提出。
*The Global Commission on HIV and the Law: A Movement for HIV Law Reform*
 The Global Commission on HIVはUNAIDSの要請により創設された独立機関。同機関は2012年7月、18カ月にわたり行ったグローバルリサーチの結果ならびに法律改善への推奨項目を発表した。人権や名誉棄損、公共の健康に関する事柄において法律とHIVが互いに与えあう相互的影響度は高い。

 国際会議では医療的見地からの様々な研究が発表されているが、エイズを終わらせるためには、差別や不平等性などHIVの構造的問題を明らかにし、差別・偏見を無くす取り組みが不可欠である。法律改革においては人道的で総括的アプローチを試みることで、感染を低減することへの効果的かつ持続的な結果を生むことが出来る。女性への暴力、HIV感染者への刑法的処罰、治療へのアクセスの確保などは深刻な問題だ。米国政府は2011年、同レポートを参照にHIV関連法の見直しを行うと宣言した。

 同コミッション(The Global Commission on HIV and the Law)のメンバーの1人はHIV感染への法的処罰や告知義務を定めた法律に言及。同種の法律は感染を食い止める効果は発揮している一方で、選ばれた特定の人物への攻撃として悪用されている多くの例を指摘。結果、差別と汚名を着せる行為が増幅するために、HIV検査やHIV治療を疎遠にさせる結果につながっている。同コミッションは、国はHIVに特化した法律を制定すべきではなく、現存の法律下で有罪となった感染者の罪状を見直すべきだと指摘した。最近米国議会に提出されたHIV関連の法律撤廃に関わる2つの議案がHIVに与えるであろう好影響について述べた。

 別のプレゼンターは、法的保護の観点から、たとえ権利を保護保障する法律が存在しようとも女性は常に不利な立場にあると指摘。例えば財産保有の不公平さがあげられる。女性は加害者である男性が大方の場合処罰されない性的暴力や自らをHIV感染へさらすリスクの高さを経験している。多くの国でHIV告知義務を法的に定めているが、この法律は女性がパートナーや家族から暴力を受けるリスクにさらしている。女性は中絶を強いられたりするなど女性特有の人権妨害の被害に遭っている。女性の権利を保護する明確な法律の制定を強く求めた。

Getting to Zero Excuses; Understanding and Addressing HIV-Related Stigma and Discrimination
*AIDS Activism Today*

 東ヨーロッパやエジプト、アメリカのHIV啓蒙活動家がそれぞれ抱える問題について語り、聴衆も意見を述べた参加型セッション。参加者は感染者やHIV関連のNPO主催者などで、それぞれの国における差別や偏見の実態や、どうHIVと生きていくかを語り合った。自分のHIV感染者としての立場を明らかにするもしないも各人の自由だが、「自分のできる範囲で自分らしく生きることとは何か」が最終テーマになった。

女性とHIV
 様々な研究によって女性がHIVと共に生きていくには、肉体的および精神的に男性と比較して負担になっていることが多いことが明らかにされている。女性感染者としてHIV女性の立場を明らかにし、様々な問題点を理解してもらうために、このテーマを選択した。

Turning the Tide in the Care of Women living with HIV
 このセッションでは20代にHIVに感染した女性と50代に感染した女性のケース別症状について分析。HIV感染者の高齢化が進むなかで50代以上を対象としたケースについて報告する。

 ARV治療の導入によりHIV感染者の高齢化が進行しているが、理由はそれだけではない。50歳以上の新規感染者が増えているからだ。ヨーロッパでは50歳以上の女性が新規感染者に占める割合は2002年が6%だったのに対し、2006年には10%に増えた。イギリスにおいては全疾患の4分の1を50代以上の女性が占めるが、HIVに限っては正確なテストが行われていないため不明。年齢が進んだ世代ではHIV検査が遅れがちになるのが特徴で、HIV感染リスクにさらされている危機感が少ない。ARV治療に関しては効果は年齢に関係なく同レベルの効果が期待できる。高齢化が進むにつれ、一般の高齢化の症状に加え、HIVウィルスと治療による2つの弊害が重なり、様々な合併症を引き起こす結果につながる。生理不順、腎臓機能の衰え、悪性腫瘍、心循環系疾患、神経認知障害など。46歳以前の閉経はHIV女性には26%、非感染者の女性には10%という統計結果から、HIV女性は73%高い比率で46歳以前に閉経を迎えるリスクがあることが明らかに。これにはCD4のレベルが影響している。閉経は糖尿病、心循環系疾患、骨粗鬆症を引き起こしやすくする。また閉経の症状はHIVの症状に似ているため、注意が必要。生理サイクルをきちんとモニターしHIVの症状と混乱させないことが重要。骨粗鬆症はARV治療またはHIVそのものにより引き起こされ易くなる。HIV女性が骨粗鬆症になるには、ビタミンDの欠乏が一般的にみられる原因の1つだ。特に臀部と背骨に骨粗鬆症が多く表れやすい。骨密度のテストを定期的に行い、ビタミンDおよびカルシウム摂取、ウェイトトレーニングが有効的。早期発見には積極的に医者に聞くこと。心循環系疾患は抗ウィルス剤の影響でリスクが高まる。AIDS特有の腫瘍は子宮頚部癌、悪性リンパ腫、カポジ肉腫。子宮頚部癌はHIV女性は非感染者の女性と比較して非常に罹りやすい。

ARV治療における女性保護の盲点
*Human Rights and Treatment as Prevention: An African Perspective*

 女性としての立場からARV予防治療に対する懸念がある。個人的にも非常に重要な点だと思った。あるパネリストは、予防治療が一般化した場合、男性パートナーがコンドームをつけないセックスに走ったり、女性に予防治療の圧力をかける危険があると説いた。女性にとってはHIVのみならず他のSTDの存在も脅威だ。女性コンドームがまだ不足している状況において、(結果としてコンドームをつけないセックスを促すような)男性への包皮切除術や予防治療のキャンペーンがなぜされるのだろうと問いかけた。また女性に焦点を当てた治療に関するプログラムの開発の必要性を強調した。

アメリカ人女性はPrEPを使用すべきか、するのか?
*Will and should women in the U.S. use PrEP? Finding from a focus group study of at-risk, HIV-negative women in Oakland, Memphis, San Diego and Washington, D.C.*

 昨今の女性に対するARVの予防的治療の臨床試験は、その有効性を立証するには結果が混在しており内容が不十分だ。更にはどの治験にもアメリカ女性が含まれていない。米国内の新規感染者の27%を占める米国女性の知識や意識調査、女性がPrEPを使う可能性に対するリサーチが貧しいことから、アメリカ女性へのPrEPの有効性は不確かだ。2012年3月と4月にアメリカの4都市(オークランド、メンフィス、サンディエゴ、ワシントンDC)在住の女性92人に対し質問に答えてもらう研究を行った。対象となった女性の年齢は18~30歳が22%、31~50歳が50%。短大を含む大学出身者が54%。彼女たちのPrEPというコンセプトの理解、ARV薬の服用の仕方や管理の仕方への知識、服用にあたっての障害、PrEPのターゲット世代やマーケティングの方法などを導き出す質問を設定した。4都市でPrEPを知っている女性はゼロだった。しかしひとたび情報を受け取るとほぼ全員がPrEPは非常に重要な選択肢であると認識した。PrEPを取り入れるうえで懸念となるのはコスト、効能、避妊ピルとの重複服用からおこる副作用が挙げられた。PrEPはあくまでも“追加的”なものでコンドームの代替にはならないとの認識を示した。キーターゲットは若い世代、それには学校教育が一番最適なマーケティング方法との結果が出た。オークランドとワシントンDCの女性は、男性への不信感がPrEPを取り入れる上での一番の理由としてあげており、メンフィスにおいては教会がPrEPを導入するうえで一番の障害になるだろうとの答えが多かった。この調査の結果見えてきたことは、米国女性は、PrEPの高い効能性、低コスト、低い副作用が明らかになればPrEPを用いる可能性があるということだ。

HIVとエイジング
 この分野は2012年の国際エイズ会議におけるホットなトピックだった。
 50歳以上の既存HIV感染者または50歳を過ぎてHIV感染が判明した新規患者においては、年齢特有のHIVを超えた様々な健康問題にぶつかる。あるセッションは50歳以上の感染者がぶつかるそれらの障害を明らかにし、疫学上のデータを参照に治療面および心理面から見た取り組みの必要性や、他慢性病との重複や、他の薬との相互作用、HIV管理と予防の難しさについて分析した。スピーカーの一人で35年の感染歴を持つカナダ人男性はHIVの副作用として様々な慢性疾患を抱えているが、きちんと管理されていると報告。ケニヤの女性も同様の慢性疾患を抱えているが、HIV予防の話題を持ち出すのが世代的に難しいと指摘。セックスをタブー視する傾向があり、コンドームの使用率は必然的に低いという問題を挙げた。

 50歳を過ぎた患者に特に必要とされるのは、各個人の健康状態に合わせたオーダーメード型の薬の処方、ある程度共通して起こりえる高血圧や骨粗鬆症(BMD)への処方ガイドラインの明確化、50歳以上を対象とした特有の予防解決策、ゲイ男性に特に多く見られるうつ病などへの対策が明らかになっている。

その他参加したセミナーの内容
HIV in the Larger Global Health Context
The Intersection of HIV, Aging and Non-Communicable Diseases

 ARV治療法により世界の何百万人というHIV感染者の寿命が延びた。特にARV治療を早く開始した感染者に改善が大きく見られる。米国のHIV感染者の年齢(中央値)は、2007年データでは40~44歳で28.6%が50才以下、2008年データでは45~49歳で30.6%が50歳以下という統計。ドラッグユーザー以外の感染者を対象とした統計ではCD4数500以上の段階でARV治療を開始した場合の寿命は平均寿命とほぼ同じ、エイズに罹る前にある持病を抱えていた場合の死亡率は高くなるとのデータ。米国での新規HIV感染者は年間1.5%のペースで増えており、2020年には50%が50歳以上になる見込み。米国の新規感染者の11%は50歳以上。1996年から2006年の10年間のリサーチではHIV感染者の死因の50%はAIDS以外の病気が占めている。HIV感染者が合併症をより併発しやすいのは、免疫システムがダメージを受けていること、ARV治療の毒性、遺伝的要素と生活習慣の3つが重なっているためと考えられる。HAART治療により慢性炎症と免疫システムの活性化が進むことで、細胞のターンオーバーを増やしたり、活性酸素を多く生み出したり、またはサイトカインの分泌を引き起こす。そのため免疫は疲労し悪性腫瘍ができやすくなるうえ、脳梗塞や動脈硬化などを起こす。骨粗鬆症も典型的な合併症である。HIV感染者の高齢化は合併症を引き起こしやすい条件を伴ってはいるが、生活習慣を変えることや、合併症の定期的なチェック、ARV治療の早期開始によりHIV感染者が健康に年齢を経ていくことは可能であると結論づけた。

The scicence of HIV: What lies Ahead?
 米国のワクチン研究者によれば、有効なワクチンが開発されるまでにはあと10年との見通し。過去2年間においてHIVウィルスを中和できる抗体をそれまでの4つから100個以上発見してきたことを理由にワクチン開発のスピードに楽観的だ。抗体の構成を妨げる抗原を見つけることが今も最大の課題だが、2020年には臨床的試験に入っているだろうとの見通しを述べた。

Challenges and Solutions
HIV治療についてスペインの研究者の報告。
なぜHIV治癒が必要なのかという点から始まり、最新の治療法について解説。
 ARV療法を受けていても非感染者と比較しまだ短い平均寿命。ARV療法による合併症。HIVに対する非道ともいえる差別と軽蔑、服薬の生涯にわたる継続性、薬による毒性、そして治療の生涯コスト。これらの点からHIVの根本的治療の必要性を説いた。T細胞に潜在的に存在しつづけるHIV。それに対する2つの治療法について解説がなされた。

Eradication (Sterilizing Cure完全完治)
 ウィルスの根本的撲滅。感染の完全解消。HIV遺伝子素材を細胞から完全に撲滅させ、体内からHIVが根絶された状態。血中ウィルス量1コピー/mm3

Remission(Functional Cure機能的な治癒)
 HIVの遺伝子素材は幾分、体内に残るが、患者の免疫機能によりウィルスが作られることのないよう完全に制御された状態。患者は抗レトロウイルス治療を続けなくてよくなる。血中ウィルス量50コピー/mm3
 現在、臨床的試験が行われている遺伝子治療がある。HIVに抵抗力のある細胞を作る方法を指す。HIV-1のCD4陽性T細胞への侵入を誘導するCCR5受容体をHIVから遮断する方法と32/32CCR5幹細胞移植が、この分野にあてはまる。他にはT細胞に眠って組織化されているHIVをヒストン脱アセチル化酵素阻害薬により分解して誘き寄せ、活性化したHIVをARV療法によって複製を妨げHIVウィルスならびに神経細胞等のHIVリザーバーを消滅させていく方法などについて述べた。

Pharmacokinetics (薬物動態学)and Pharmacogenomics(薬理遺伝学) of ARV: Coming of Age:Comparison of the in vivo pharmacokinetics and in vitro dissolution of raltegravir tablets in HIV-positive patients given the drug by swallowing or by chewing
薬物動態学とインテグレース阻害剤の溶解媒体の比較―薬を飲みこんだ時/噛み砕いた時

 HIV感染者50人にはインテグレース阻害剤を飲みこんでもらい、10人には噛み砕いてもらった実験を行った。薬を体内に取り込んだ後の時系列に見た薬の体内吸収レベル(ng/mL)に差異が生じた。噛み砕いた場合の方が飲んだ場合と比較し高い吸収率を示し、食事を取った時間や食事の種類、消化器の動きや消化に要する時間など個体別要因に影響を受けることが少なかった。薬を丸ごと飲み下した場合成分が完全に分解しきれず、全消化プロセスにおいて殆ど分解されない場合もある。噛み砕いた場合はいかなるpHの状態でも高い溶解率を維持している。薬の構成状態を改善することでインテグレース阻害剤の吸収率を高めることができる可能性を示唆していると結論づけた。

Treatment as Prevention: Is it Time for Action?
 早期ARVの導入により 96.3% 感染リスクを減らすことができる。CD4が350/mm3以下になった時点でのARVの導入の重要性を説いた研究。カナダの統計ではHIV感染の大半はHIVに感染していることを知らない感染者によって起こる。HIV感染者の21%は感染を知らず、54%の新規感染差を生み出している一方、HIV感染者の79%は感染を知っており、感染者による感染は46%。非感染者のツルバタ錠服用(PrEP)により73%感染リスクを減らすことが出来るという統計。
 WHOが2011年に発表した2010年統計では、CD4が350/mm3以下でARV療法を受けていない患者は全体の53%を占めている。2016年までに2000万人にARV療法を授けることが目標。しかし財政的負担の大きさや、HIVと診断されてから最初の12カ月以内に通院を始めるのは69%のみという統計があり、治療開始後どれだけ治療を持続させるかが大きな問題のひとつとなっている。またパートナー以外との関係における感染が問題に。感染者の31%は夫や妻、パートナー以外から感染している。39のカップルを対象にしたケースでは、28件がカップルのどちらかがHIVに感染していた場合に起こり、そのうち27件はARV導入の遅れによって引き起こされている。ARVの導入を早める介入策に加え、HIV検査を推進することが対策の一つ。検査をして陽性だった場合は、ケアに進めるよう介入し、ARVを早めに導入、治療を継続させるシステムが必要。一方、陰性であった場合、予防対策(PrEP)や感染リスク管理を徹底すること。付随する懸念をきちんと明確にし、パートナーシップが健全に保たれることへとつながる。

Treatment as Prevention: A work in Progress
 ARVの早期導入の初めての臨床試験として知られるThe HIV Prevention Trials Network(HPTN) が2011年に発表したHPTN052研究では、片方が陽性で片方が陰性のカップルのうち、陽性のパートナーにARV治療を施しているケースでは感染リスクが大きく低下していることが結果として明らかになっている。またCD4の数によっても感染率に違いが出た。HIV陽性パートナーがCD4数350 cells/uL以上の段階でARV治療を開始した場合は陰性パートナーへの感染率が96%低下している。9カ国13都市の片方が陽性で片方が陰性のカップル1763件を対象にし同研究がおこなった調査で、CD4数350 cells/mm2から550 cells/mm2のケース(Early Arm)と250 cells/mm2以下もしくはAIDS発症後(Delayed Arm)の2グループに分けたARV導入結果を分析したところ、どちらのグループにおいてもARV治療開始後3カ月以内にコンドームをつけないセックスが減少し、その後24カ月の追跡調査でも数が増えることがなかった。また試験者の90%がARV治療開始後3カ月以内にウィルス量を検出可能以下に抑えることが出来、その後24カ月以上この状態を持続させた。ARV治療開始後24カ月以内にウィルス量の増加が認められ、かつコンドームをつけないセックスを行ったのは早期治療開始試験者のうち1%のみだったのに比べ、ARV治療が遅れたグループにおいては3%と大きかった(両グループともあわせた治療前の結果は4-5%)。ARV治療の早期導入はウィルス量の抑制のみならず、感染者の行動規範にも影響することが明らかになり、ゆえにARV早期導入は「予防」としての役目を果たすという結論。また早期にARV治療を開始したグループにおいては、治療が遅れたグループに比較し、治療の状態が逆戻りを引き起こすリスクが41%低減している結果も出ている。

Human Rights and Treatment as Prevention: An African Perspective
 南および東アフリカ出身のパネリストは、予防としてのARV治療は健康の基準を高めるベネフィットがある一方で、人権を侵害する可能性があるという懸念を強く表明した。 ART治療の早期導入およびHIV検査の義務づけは個人のためよりもむしろ感染を防ぐという公共のために導入が推し進められており、特に主要対象グループと言われる対象者(セックスワーカーなど)への影響を懸念している。予防治療という概念の枠組みで人権を守るには、治療を開始するのに最適な時期、治療をするかしないかは個人に選択肢を与えること、そして重大な病人に治療の優先権を与えることを確実にするガイドラインの制定が必要と説いた。また人権保護を成功させるためには、HIV感染者=People living with HIV(PLWHV)自らが自分たちの権利を守るためにポリティカルリーダーに対し圧力をかける力をつけることが必要と述べた。

Dynamics of the Epidemic in Context: Expanding HIV testing and the use of ARVs for treatment and prevention
 2015年内に1500万人にARV治療を導入することがWHOの目的だが、達成は果たして可能か。画期的な導入プログラムや地域一体型のサービスを増やし、ARV治療の積極的な導入を目指し活動している国が増えているとはいえ、実際のARV治療導入率は、東ヨーロッパや中央アジアでは10%以下、中近東・北アフリカでは14%以下、全世界で子供への導入は28%以下という、導入そのものの難しさを反映した厳しい現状がある。ARV治療の早期開始におけるベネフィットとしては、HIVや結核の感染の低減、中長期的なコストの抑制、治療の有効性や耐久性の向上などがあり、デメリットとしてはARVによっておこる合併症や薬への耐性やコストの上昇など。またARV治療を開始した感染者を増やしたとしても、過去10年間の新規感染者やエイズによる死亡者の数は劇的には減少していないことも注視されている。WHOガイドラインの一定のCD4数基準(2003~2009年は200以下、2010年以降は350以下)に基づくARV治療対象者を年代別に分析したところ、12カ国が2012年からCD4350以下の感染者とCD4の数に係わらずTaSPプログラムの対象となる感染者(陽性+陰性のカップル、妊娠している女性に加え、MSMやセックスワーカー、ドラッグユーザーのHIV感染の主要対象者と言われるグループ)への導入を増やしている。CD4数500以下の感染者への導入は治験段階にあり、2013年には1ないしは2カ国ですべての感染者を対象にするというシナリオになっている。CD4レベルの各段階におけるARV導入患者数は、200以下1100万人、350以下1500万人、CD4+TasP350以下2300万人、CD4数500以下2500万人、CD4に関わらず全感染者を対象とした場合3200万人という予測。しかしARV導入に当たり財政が問題になる。アフリカでは全感染者のうち72%がCD4テストを受け、40%がARV治療の対象だが、実質14%しかARV治療を受けていない。治療の継続性も問題だ。ある国では最初の1年間は84%が治療を続けるが、4年後には24%に低下しているとのデータがある。

会議の成果を国内で還元する具体的計画
 社会福祉法人はばたき福祉事業団等を通じ、今回の会議で学んだことを特にHIV女性に向けて発信していく。
 イギリスやアメリカのHIV女性支援団体と現地で交流を持った。今後も情報交換を行っていく。様々な情報を様々な団体を通してシェアしていく予定。他の国々には日本同様HIVに対する偏見やマイナスのイメージがある代わりに、日本にはないオープンコミュニティもある。

感想:
 「今から31年前に世界で初めてのエイズ患者が西海岸で発見された。当時それから続々とエイズ患者が増え続け、一日に2人以上のエイズ患者の葬式を出していた時期があった。25年前、議員に選出されて以来エイズ撲滅と闘うことを誓い実行してきた。」とカリフォルニア州ナンシー・ペロシ議員が壇上で述べ、会場は喝采に沸いた。AIDS財団を90年代に立ち上げたエルトン・ジョンは「若い青年がいた。その青年は混乱したセクシュアリティと、ドラッグ中毒、コンドームをつけない極めてリスクの高いセックスを繰り広げ、人生は破たんしかけており、彼は怒りと自己嫌悪の中で、死にかけていた。その後パートナーを得て立ち直り一人息子も生まれた。この青年は今この壇上で皆さんに向けスピーチをしている」と語り始めた。「HIVはウィルスだ。HIVの感染はウィルスによって広まるのではない。HIVへの偏見と、憎しみと、無知と、不理解により広がっていく」といまだ根強い社会のHIVへの偏見を批判した。「エイズ患者はみな心のどこかで世に捨てられていると感じたり、自分を恥じたりしているものだ。僕がかつてそうであったように。僕は人々の慈愛の力により立ち直った。恥を愛に、偏見を慈悲に置き換えよう」と愛と慈愛の力がエイズを無くすと訴えた。米国の女性エイズ啓蒙行動家のリンダ・スクラッグス女史は聴衆に語りかけた。「HIVを告げられた時、私は子供を妊娠しており、子供を堕ろすことを医師から勧められた。その息子は今21歳になった。HIVに感染せず無事に育ち、今もこの会場にいる。医師が間違ってくれていてよかった」とスピーチを始めた。「HIVと共に生きる女性たちよ、自分自身であれ。自分の名前を語ろう。自分たちの人生を生きよう。立ち上がろう。あなたの名前は?」と聞くと会場のあちらこちらから自分の名前を語る声が聞こえた。彼女は女性をMother of Youthと呼び、次の世代を創造する母なる女性に、生きざま(おそらく女性としての)を見せて行こうと語った。科学者のフランソワーズ・バレシヌシ女史のスピーチも素晴らしかった。同女史はHIVウィルスを発見した功労で2008年にノーベル賞を受賞しているが、自身をHIV啓蒙活動家と呼ぶ。彼女はドラッグユーザーには批判ではなく新しい針を与えること、母子感染抑制のプログラムが導入されてもなおいまだ年間30万人発生している母から子への感染防止を徹底することを呼びかけ、HIVであることで入国や出国を禁止されていることや、偏見や差別、ドラッグユーザーやセックスワーカーへの批判を止め平等に治療を受けられるようにすること等を訴えた。「若い諸君よ、いつかHIVの感染をこの世から失くすのは君たちの世代だ。我々全員が立ち上がりあきらめず戦い続ければいつかHIVをこの世から消せる日がくるだろう」と述べた。80年代から現在にかけエイズ患者の死亡数は3000万人に達し、今も世界で死亡要因の6位にあげられている。アメリカでは今でも年間5万人の新規感染者が報告されている。

 7月22日から27日にワシントンDCで開催された2012年国際エイズ会議に出席させていただいたことは、実り多い経験となった。HIV感染者として何かしらの活動を始めようと模索していた時に、国際会議へのスカラシップを受けることが出来たことは、非常に幸運だった。自分自身をありのままに、つまりHIVと共に解放したいという思いに向け一歩踏み出せたように感じ、そうありたいと願う。今回の国際会議は過去22年間開催されてきたなかで米国が初めて自身の国で主催した国際エイズ会議だ。米国はついにHIV感染者の入国規制を撤廃したわけだが、HIV感染において深刻な要因となっているドラッグや性産業に過去10年間従事した者は、入国を禁じられた。この点に関し、多数のアクティビストが非難の声を浴びせた。

 私のHIV感染者としての日頃の悩みは日常生活の狭い範囲にとどまっているのに対し、アフリカを筆頭に発展途上国でのエイズ対策、わけても子供と女性のHIV感染被害を食い止めること、感染者へのARV治療の普及率を高めることが、世界的に一番深刻な問題となっている印象を持った。200カ国から25000人が参加したと言われる会議場にはアフリカからの出席者がとても多く目立った。アフリカでHIVに感染して生まれてきた罪のない子供たちの話を聞くと胸が痛む。彼らにはまったく罪はない。苦しみを我々が与えたのだ。我々には次の世代によりよい未来を残す責任がある。そう胸に刻むべきだと思った。そう思えばおのずとコンドームをつける行動基準を見つけることができないだろうか。HIVの感染防止は、感染者だけの責任ではない。感染者がうつすから感染が広がるのではなく、非感染者も予防をせず、HIV検査が徹底されていないからだ。コンドームの普及、早期発見、早期治療、母子感染の防止、セックスワーカーへの感染と人権、ドラッグユーザー間のHCVとの二重感染、偏見や差別など課題は山積みだ。グローバル・ファンドや私的財団の援助は世界的経済の不振で縮小しており、どの国も莫大な支援を必要としているが、十分な資金が供給されていない。そのためARVの目標導入数(2015年末までに1500万人)を達成できるかどうか楽観できない状況のようだ。

 子供の次に犠牲となっているのは女性だろう。アフリカを中心にHIVは15歳から44歳の女性の死因の大半を占めている。アフリカのある地方では16歳以下の女性では10人に1人、24歳以下では2人に1人がHIVに感染している。会議そのものの感想ではないが、会議の内容と関連しており長いこと私が心で思ってきたことを伝えたい。「不特定多数と性行為をするのはやめましょう」という感染者に対する戒めの一節を肝炎の解説書に見つけた。著者は男性の医師である。ご存じのとおりB型肝炎の感染ルートはHIVととても良く似ている。私は不快感を大いに覚えたと同時に、その方の人としての心の成熟度の低さと医師としての見識の狭さに驚いた。つまり彼はこう言いたいのだ。「やたらと寝るからそういう病気になるのだ。自業自得だよ」と。彼の発言は法的に訴えられるリスクさえあることに明らかにご自身で気づいておられない。不特定多数とセックスをするから感染症の病気になるとは、なんと偏見に満ちた意見であろうか。この発言は女性だけを指したものではないが、私は女性なので女性としての憤りを感じた。私には男性に肝に銘じて欲しいことがある。コンドームをつけるという行為において主導権を握っているのは男性だと認識してほしい。少なくとも私の世代においてコンドームの教育などはなかった。そしてコンドームをつけてくれとお願いすることに恥じらいを感じる世代だった。コンドームをつけていると「感じない」と言われれば応えてあげようと思う。女性は受容的である。受容的であることが女性の美徳なのだ。その美徳を不道徳だからだ、と言われる。コンドームをつけてと言えないお前が弱くて馬鹿なのだ、と批判されるのだ。だからどうか理解してほしい。自らコンドームをつける男に世の男性みなさんになってもらいたい。それが思いやりであり、女を守ろうと願う(もしも願っているならば)男のすることではないだろうか。更には例えば「不特定多数と性行為をする」としてこの医者が蔑んでいるであろうセックスワーカーからもっとも高いベネフィットを受けているのは、あなたたち男ではないのか。それなのに、セックスワーカーを差別し、彼女たちの仕事を職業として認めていないという統計が出ている。セックスワーカーの人権保護問題は同会議における主要議題の1つで、多くのプログラムが開催されていた。HIV感染を低下させるためには、主要対象グループと言われるMSM、ドラッグユーザーそしてセックスワーカーの人権保護、HIV法律改定の必要性が各国で認識され、取り組みが始まっている。

 先進国においては、抗ウィルス薬の導入と共に、HIVは「死」を意味する病気から、慢性疾病へと発展している。感染者のエイジング、薬の長期服用における様々な合併症などが今はホットな話題だ。またHIVの撲滅を望む世界共通テーマの一つが、HIVの予防である。コンドームの使用や早期発見などと共にARVの予防的使用が議論されてきた。感染後の早い時期を目安にARVを導入するプログラム(TasP=Treatment as Prevention)(たとえばCD4が350~500)と、感染前に予防としてARVを服用する2つのプログラム(PrEP=Pre-Exposure Prophyylaxix)を柱としている。後者に関しては、アメリカ食品医薬品局(FDA)が国際会議の開催1週間前にツルバタ錠の感染リスクの高い非感染者への予防的使用を許可、推奨すると発表した。あるセッションでは予防(PrEP)として抗ウィルス薬を摂取すると感染率が73%低下するという研究結果が出ていたが、薬の効用は抗薬を摂取している期間にのみ効果があり、単独での使用ではなくコンドームとの併用などを推奨している。世界のHIV感染者数のうち、42%は15歳から24歳の間の若者であり、アフリカにおいてはHIV感染者の65%が35歳以下という統計が出ている。感染ルートを分析し、感染ルート別に適切な予防指導を施すことが重要と唱えられている。これがつまりエルトン・ジョンやフランソワーズ・バレシヌシ女史も言っているように、ドラッグユーザーには「批判の代わりに新しい針を与える」ことだ。前述の医師とは180度違う意見である。

 HAART療法はHIVの精神的苦痛の治療はしてはくれない。偏見や差別は根強く存在している。この偏見や差別意識がHIV検査を受けることを躊躇わせ、感染を広める主因の1つになっている。アメリカやイギリスで活動している団体に話を聞いても、偏見や差別は日本だけではないことがよく理解できた。みんな苦しい思いをしている。それでも立ち上がる人々がいて、行動を起こしている人々がいる。どんなに励まされたことか。私は一人ぼっちではない。こんなにも世界にたくさんいるのだから。

 HIVと闘ってきた科学者たちの声や、女性アクティビストの凛とした態度。小さい規模の参加型セミナーにおける感染者自身による経験談など、感動を分かち合える数々のスピーチやエピソードを聞くことが出来たことに、心から感謝している。IASより会長賞を授与されたグローバル・ファンドの元会長であり、Dr. Michael Kazatchkineは、HIV/AIDSとの闘いは国際的、組織的な協力のもとにはなせなかったと述べ、この賞を3つのグループに捧げたいと言った。エイズに苦しみながら激務に奮闘した80年代の医師や看護師たち、グローバル・ファンドのメンバー、そして科学者のコミュニティーだ。「これまでの30年間僕らはHIVと闘ってきた。闘いはまだ続く。諸君よ、顎をあげ闘いを続けよう」と会場に語りかけた。病気を語ることなしに自分のアイデンティティは語れない。しかし病気であることを公にしなくても自分を認めた生き方をすればいい。それが「顎をあげて生きる」ことであるはずだ。ある感染者は参加型セミナーで自身について語った。「僕はかつてドラッグユーザーであり、トランスジェンダーであり、HIVに感染し、死にかけたことがある。今はソーシャルワーカーとして働いている。HIV感染者として偏見を持たれたり交際相手から病気を告げた途端拒絶されたりもする。しかしHIVに巡り会っていなかったら今の僕はなかった。今頃はきっと死んでこの世にいなかったからだ。僕はHIVと共に再生した」

 いずれHIVは終焉を迎えるだろうと感じる。その時私は、自分の人生を「HIVに流されてしまった人生」として振り返りたくない。自分のやり方で自分の生き方で、HIVを含んだ自分の人生を歩きたい。今まで本当に苦しい時があった。悲しくて、辛くて、この病気に罹っていることを恥ずかしいと心のどこかで思ってきたと思う。けれど私は恥じる必要などないのだ。むしろHIVの終焉を形成する歴史に貢献しているのかも知れないではないか。落ち込みそうになったら今回の会議で聞いた数々のエピソードを思い出し、自分の生き方を認めてあげることにしよう。けれど、苦しくて泣いてしまう時の涙も、HIVの感染者の記録として残してほしい。過去30年間の道には数千万人の涙があふれているはずだ。どうかその涙に共鳴し、批判と侮蔑の目ではなく慈悲の心と理解を示してくれないだろうか。