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第19回国際エイズ会議 参加報告書
 

東京大学大学院医学系研究科 国際地域保健学教室博士課程
大川純代

1:研究分野に関して
 私は2011年よりザンビアでHIV母子感染予防(PMTCT)に関する調査を行っている。これまでの調査で、PMTCTプログラムには3つの課題があると感じていた。1つ目は、2010年にザンビア保健省が導入したWHOのガイドラインOption-Aはプロトコールが複雑であるため、現場では服薬管理が難しいこと。2つ目は、妊婦健診でHIV陽性と診断された多くの女性がHIV治療ケアサービスにつながっていないこと。3つ目は、産後PMTCTサービスから脱落する母子が多く、HIV陽性の母親から生まれた子供の早期診断、治療が確立していないこと。会議では、資源の限られた地域ではPMTCTプログラムがどのように実施されているかに注目した。会議で学んだことを私が取り組んでいる調査と照らし合わせながら報告させていただく。

2:参考となった研究発表
 (1) 新しいPMTCTガイドラインOprion-Aについては、生後早期の母子感染率は、ウガンダで2.5%(生後6-12週) (WEPE165、Namukwaya et al)、南アフリカで3.0%(生後4-8週)(WEPE173, Goga et al)と、フィールドレベルでもよい結果が出てきている。私たちの調査でも予防薬としてのARVが広くいきわたるようになり、早期の母子感染率が低下してきている。ただし、離乳するまで子供がARVを服薬するOption-Aは2010年以降に導入した国が多いため、フィールドレベルで生後6か月、12か月、18か月後の母子感染率の報告はない。Option-Aの有効性を評価するうえで、引き続き追跡していきたい。
 私たちの調査では、Option-Aを実施する上でのフィールドレベルでの問題点にも注目している。今回、新生児のARV管理に関して発表したが(LBPE30, Changal et al)、同じような視点で、ウガンダからも報告があった(WEPE177, Namale et al.)。私たちの調査では、約40%の母親が子供への与薬量を誤っていることが明らかとなったが、ウガンダではわずか10%以下であった。調査地や対象者の背景が異なるので単純に比較はできないが、同じサブサハラ地域でも、比較的正確に新しいガイドラインを運用できていることを知り、ザンビアでも改善が可能であると感じた。
 (2) HIV陽性妊婦がすみやかにARTを始められないことは、多くの地域でも課題となっていた。タンザニアの調査から、短期間で妊婦健診からHIV治療ケアにつながった人ほど、出産前までにARTを開始できているという報告があった(WEPE184, Theuring et al.)。では、その期間は何に影響するのか。施設要因や個人要因があるだろうが、私たちの調査ではその点についても今後明らかにしていきたい。
 またPMTCTとHIV治療ケアの連携強化に向けた介入として、マラウィではPMTCTプログラム内でHIV陽性妊婦のART適用の診断、治療開始状況を記録するシステムが導入されていた(SUSA08, Barr et al)。私たちの調査地では妊婦をHIV治療ケアに送った後の転帰がPMTCTプログラム内で把握されていないので、このような対策が必要であると感じた。
 (3) 母子感染の早期発見のために、一般的には生後6週前後にHIV検査を受けることがすすめられている。しかし、資源の限られた地域ではラボラトリーが少ないため、子供が検査をしてから結果が返却されるまでに時間を要し、親は結果を知らないままでいることも珍しくない。それは、母子感染した子供の生存にも影響してくる。これに対し、ルワンダやケニアでは携帯電話のショートメッセージ技術を活用することで、検査結果返却の確実化、短縮化に成功したという報告があった。この技術は、国内のデータ管理の向上にも寄与していて興味深い介入だった。(SUSA08, Ghadrshenas et al; WESY0104, Basinga et al)

3:会議の成果を国内で還元する具体的計画
 資源の限られた環境下ではどこも同じような課題を抱えていることを実感した。会議の成果は、これから共同研究者と論文を作成していく中で還元していきたいと思う。特に、調査地の背景を考慮した課題、改善点を提言していきたい。また国の代表的なデータでは反映されない、PMTCTプログラムのフィールドレベルでの課題と解決策を考察していきたい。今やPMTCTプログラムは、世界的にはOption-Aからより効果の高いOption-B+に移行し、全てのHIV陽性妊婦に治療を導入しようとしている。ただし、PMTCTプログラムの中でARTを管理できる人材育成と、PMTCTクライアントを確実に治療ケアにつなげるシステム強化が不可欠である。現在の課題点を提言し、改善につながるような論文にしていきたい。また論文のみならず、積極的に国内の学会や学内でも研究成果や会議で学んだことを発表していきたい。

4:感想
 国際エイズ会議への参加は、今回で2回目であった。分野の幅広さと多様な参加者がいることに圧倒され、自分の立ち位置を見失いそうにもなった。だからこそ刺激的で、一度に幅広い知識を学べる学会でもある。前回よりも自分の研究経験が増した分、他の研究と自分の研究を比較しながら、新たなアイデアを得ることができた。また研究分野外では、“Treatment as prevention” や、“Pre-exposure prophylaxis (PrEP)”、 “Non-communicable diseasesとHIV”など、世界的な動向を把握するうえでとても勉強になった。

 最後に、国際エイズ会議参加のために、エイズ予防財団の皆様には多大なご支援をいただきました。この場をお借りして、心より感謝申し上げます。