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第19回国際エイズ会議 参加報告書
 

公益財団法人結核予防会結核研究所 国際協力部
村上邦仁子

1.会議全体の感想
 世界のAIDS対策は、今や(達成にこの先何年かかるかはさておき)AIDSの制圧という方向に大きく舵を切ろうとしている。米国では120万人のHIV陽性者が推定され、2010年には47,129名の新規HIV陽性者が報告された。米国人口のうち黒人層が占めるのは14%であるにも関わらず、新規HIV陽性者における黒人層の割合は約44%を占める(CDC配布資料)。
 このような潮流のなか、“Turning the Tide Together”または“We are greater than AIDS”といったスローガンを掲げ、今回の会議が開催された。世界183カ国から23,767人の参加者を迎え、3,837回の発表がなされた。1980年代以来の首都での開催、学会参加者の半数以上が米国人という状況であり、米国にとって、AIDSは自国の課題であり、国を挙げて取り組む姿勢を改めて示す絶好の機会でもあったと感じた。アフリカ諸国を中心に多くの支援プロジェクト、研究プロジェクトが展開されているPEPFAR(U.S. President’s Emergency Plan for AIDS Relief)からも数々の報告があがった。発表の質にはばらつきがあり、分析が大枠で詳細に及ばないものも散見されたが、一方今回ほとんど報告が上がらなかった日本と比較すると、世界に発信していこうという姿勢からは大いに学ぶべきであると感じた。

2.自分のかかわっている分野の報告(結核とHIVの重複感染)
 今回の会議では、結核とHIVの重複感染に関し「エイズ患者における結核死をゼロにしよう」というスローガンのもと、これまで以上に活動家達がアクティブであった。彼らは開会式の行われる会場の一角で、ただじっと立ったままTB/HIVのロゴの入ったマスクを着用した。その光景は、あたかも彼らが結核を発病し、かついまだ塗抹陽性であることを想起させ、その状況に出会った学会参加者の対応から、彼らの中にも存在するself stigmaに訴える手法で、メッセージ性の高い効果的なものであったと思われる。会議5日目に行われた、International Union Against Tuberculosis and Lung Disease (The Union)のDr. Anthony Harriesによる結核とHIVの重複感染に関する基調講演では、HIVに合併した結核発生および結核死は、早期のARTの開始、イソニアジド結核予防内服、新しい結核診断法、そして結核対策とHIV対策の協調によって回避できる、ということが強調された。それに代表されるように、結核とHIVの重複感染に関わる発表は、大きく8つの分野に分けられた。それぞれについて有用であった発表内容を、以下まとめる。

1)結核対策とHIV対策の連携
 結核対策プログラムとHIV対策プログラムの連携が、2004年にWHOにより推奨されてから久しいため、各国の保健省内での連携が始まったというような報告は少なかったが、末端のコミュニティレベルでの連携に関してより多くの報告が見られた。これは後述の2)の結核スクリーニングにもつながっていく内容である。O.Oladapoら(TUAD0204)は、Nigeriaでは地域ボランティアらと協調することが、地域内の結核疑い者を発見すること、またその逆にも有用であり、地域レベルでの結核とHIVのサービスのリンクが重要であると述べた。これは結核予防会が2012年までザンビアで行った地域密着型のTB/HIVプロジェクトで得られた知見と同じものであり、興味深かった。また、保健省と他ステークホルダーとの協調の効果を述べているものもあった。A. Ineduら(WEPE635)は、同じくNigeriaにおいて、政府とUSAIDプロジェクトサイトが協調することで、結核患者に対するHIV検査率を22.5%から55.8%まで向上させたと述べた。

2)HIV陽性者における結核診断(新しい診断法、コミュニティにおけるスクリーニング)
 HIV陽性者における結核診断の状況は、今回最も報告数の多かった分野である。
 結核の新しい診断法であるXpert MTB/RIF(結核菌・薬剤耐性分子生物学的即時検査法)の有用性に関しては、数多く論じられた。D. Fitzgeraldら(THAB0103)はMalawiにおいて、Xpert MTB/RIFはよく整備された蛍光顕微鏡検査法と比較し、16%-65%、結核検出率を増加させたものの、設備の整わない環境では違った結果が得られるかも知れず、コストの高さからMalawiの環境には適さないと述べた。一方H. Bygrave(THAB0105)はZimbabweにおいて、中央と地方が連携してXpert MTB/RIFによる検査結果を用いることで、同国の地方において結核診断を増加させ、結核診断から治療開始までの時間を大幅に改善させたと述べ、今後の同国における拡大の可能性に触れた。本セッションの議論では、国ごと、また同じ国でも地域ごとにラボの状況が異なるので、一概に結論は出せないが、HIV感染率が高いがラボのインフラが不十分であるサハラ以南アフリカ諸国における適応は、今後より検討を要するとまとめられた。尿中のLAM(lipoarabinomannan)測定による結核診断の、費用対効果について検討されたセッションもあった。D.Sumら(TUAE0101)は、HIV感染率および結核とHIVの重複感染率が高く、重度に免疫抑制された割合の高い南アフリカ共和国の成人HIV陽性者群のような設定では、結核診断において費用対効果が高いと報告した。
 コミュニティにおける結核スクリーニングに関しては、ポスター発表が多くみられた。A.Diarraら(MOPE554)は、MaliのようにTB case detection rateが非常に低い状況の国では、コミュニティヘルスワーカーらを用いたアウトリーチの試みは有効でなかったが、他方オンサイトの小規模のラボの建設によって、結核診断数が飛躍的に伸びたと報告した。結核予防会のザンビアプロジェクトでは、コミュニティヘルスワーカーを用いつつ喀痰の採取も行ったことで、これら両方の側面を備えたことが功を奏したと考えられた。リソースが限られた状況では、検査実施以前に、まず結核を疑う症状ベースでスクリーニングをかけている報告が多い。S.Agboら(MOPE646)はアフリカ3カ国(Cote d’voire, South Africa, Tanzania)の239の施設において結核スクリーニングフォームの検討を行い、South AfricaのフォームはHIVクリニック訪問ごとに発行されていたが、他2カ国では44回のHIVクリニック訪問で1枚のフォームとしていた。HIVの治療経過に合わせて経時的に結核スクリーニング結果を得られることが重要であると述べた。一方で、M.Mathabatheら(WEPE041)は、South Africaにおいて、HIV陽性の妊婦対象に症状ベースのスクリーニングに喀痰塗抹検査と培養検査を合わせて感度を検討した横断的研究を行い、咳、熱、汗、体重減少の4症状では感度は3-29%と低かったとし、よりよいスクリーニングの方法を検討すべきであるとされていた。

3)HIV陽性者における結核発病率(罹患率)
 ARTが普及したのちのHIV陽性者における結核の発病率が多く議論されていた。M.Foxら(TUPE120)によるSouth Africaからの7年間の後ろ向きコホート研究では、35,567人年(中央値35.9歳、CD4数92cells/mm3 においてARTを開始した13,228名対象)が観察され、5.3%がART開始後中央値4.9カ月にて結核を発症したが、ARTの継続に伴い結核発病率の減少が認められた。L.Momanyiら(WEPE033)のKenyaからの、CD4数100以下の症例を対象にした、ART開始後6カ月の前向きコホート研究では、167名中19%がART開始後平均6週間で結核を発症し、発症しなかった群との比較で有意に低かったのはヘモグロビン値とBMI値であった。ART開始前の結核スクリーニングの重要性が議論された。

4)HIV陽性潜在性結核感染者における結核予防内服
 Three I’sの構成要素であるIsoniazid Preventive Therapy(IPTイソニアジド結核予防内服)に関しては、前述のようにDr. Harriesの基調講演においてもその重要性が改めて強調されたが、現行のレジメンはイソニアジド単剤9カ月だが、毒性・治療完遂率の低さに課題がある。そのようななか、T.Sterlingらが昨年末New England Journalに、3カ月間のrifpentine(900mg)+isoniazid(900mg)併用直接服用観察とisoniazid(300mg)自己連日服用の5カ国(US,Brazil, Spain, Peru, Canada)における比較検討を報告し、33カ月間フォローの結果、治療完遂率は併用群で82.1%、isoniazid単独群で69.0%と有意差(P<0.001)を認めた。今回の会議ではそのフォローアップ報告(MOAB0302)があったが、今後潜在性結核治療の主流となるかもしれない重要な報告であると思われた。

5)結核治療薬とHIV治療薬の相互作用
 Efavirentz(EFV)やNevirapine(NVP)とRifanpicin(RIF)との薬剤相互作用は長年議論となってきているが、実際にEFVとRIFを併用した場合の薬剤血中濃度の推移、ウイルス量抑制の経過などに関していくつか報告があった。A.F.Luetkemeyerら(MOAB0301)の多国間における検証では、患者の体重がより重い場合(50Kg以上または60Kg以上)に軽度のEFV血中濃度低下が認められるものの、治療効果、ウイルス量の抑制には影響を与えなかったと結論付けられた。H.McIlleronら(MOAB0303)による妊婦を対象とした検証においても、結核治療によってEFVの血中濃度減少は認められなかったが、妊娠自体によるEFVの血中濃度減少が認められるかもしれない、それであってもEFVを含んだARTレジメンはウイルス量をほぼ検出以下に抑制し、垂直感染は認めなかったとの報告がなされた。

6)HIV陽性者における結核治療結果
 J.Sitieneiら(TUPE116)によるKenyaからの報告では、2005年以降HIVのパッケージケアが普及している状況においても、2009年の37,402名の後ろ向きコホート分析ではHIV陽性者と陰性者の検討において新規塗抹陽性結核治療成績に有意な差(HIV陽性治療成功81%、死亡7%、脱落7%に比し、HIV陰性治療成功91%、死亡2%、脱落5%など)が認められ、結核とHIV重複感染者の、サービスへのアクセスが限られていることが示唆された。その他いくつかの国から長年の検討結果が報告されていたが、ARTの影響をどのように分析するかが、常に議論となっていた。

7)HIV陽性者における死因分析
 今回の会議では、エイズ患者における結核死をゼロにしようというアドボカシーが掲げられていたが、HIV陽性者における死因分析で、結核がいまだHIV陽性者における主要な死因であるかどうかは、検討された状況によって異なった。O.Yurchenkoら(MOPE559)によれば、Ukraineでは、2011年に死亡したHIV陽性者の後ろ向き検討において150名中66%が死亡時に結核を合併していたと報告され、死亡時にARTを開始されていたのは36%のみであり、HIV診断とART開始の遅れにより、結果的に結核合併死となったと考えられた。B.Siriら(MOPE107)によるBurkina Fasoの報告では、ARTを開始されていないHIV陽性者の死亡要因として結核は4位であり、死亡の予測要因として低いBMIとCD4値があげられた。他方、C.S.B.Dominguesら(MOPE125)によるBrazilからの報告では、ART開始後、結核を含むAIDS関連死亡が減少し、代わりに心疾患、AIDS非関連悪性腫瘍、肺炎などの死因が増えたことが報告された。

3.会議の成果を国内で還元する具体的計画
 出張報告書の関係者間共有、および結核予防会機関紙「複十字」への投稿などを通じ、世界における結核とHIV重複感染の状況に関して情報共有を行いたいと考えている。

最後に、今回の出張に際し助成いただきましたエイズ予防財団様に心よりお礼申し上げます。
ありがとうございました。