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第20回国際エイズ会議 参加報告書
 

TGWAP
大河りりぃ

1.はじめに
 トランスピープル(出生時に付与された性別を越境する人々)の健康増進のために活動している自助グループ「TGWAP」のメンバーとして、2014年7月20日から25日にかけてメルボルン(オーストラリア)で開催された「第20回国際エイズ会議」に参加させて頂きました。本会議における私の主な目的は、トランス女性(出生時に付与された男性としての性別を越境する女性)およびセックスワーカー女性のエイズ対策をめぐる日本の現状と課題について発表するとともに、海外の自助グループが持つトランスピープルやセックスワーカー支援のための知見を学ぶことでした。

2.トランスピープルに対するエイズ対策
 今回の会議で最も話題になったトピックのひとつが、WHO(世界保健機関)による新たなガイドラインの発表についてでした。とりわけトランスピープルに関しては、初めてWHOのガイドラインにキーポピュレーション(HIVのリスクに直面しやすい人々であり、エイズ対策の鍵となる人口層)として含まれたことが注目されていました。
 会議では、これまでトランス女性をMSM(男性とセックスする男性)の下位分類として位置づけてきたことで、トランス女性を対象としたエイズ対策を行っていないMSMのグループにトランス女性支援のための予算が流れたり、トランス男性が直面している困難がないがしろにされるなどの問題が生じていると指摘されていました。そのため、今回WHOのガイドラインにおいてトランスピープルがMSMから独立したことは、トランスピープルに対するエイズ対策において画期的かつ重要な第一歩であったと言えます。
 国際的にトランスピープルに対するエイズ対策がますます注目されている一方で、日本ではエイズ予防指針に個別施策層としてトランスジェンダーの人々が含まれておらず、HIV/AIDSをめぐるリスクへの脆弱性が指摘されているものの当該集団に対する十分な実態調査すら実施されていません。今後、日本においてもトランスピープルを対象としたエイズ対策が強く求められています。

3.PrEPの導入推奨へのリアクション
 今回の会議では、WHOがMSMへのPrEP(HIVにさらされる前に抗HIV薬を飲むことでHIV感染を防ぐ予防方法)の導入を推奨したことも注目されていました。対象がMSMに限定された背景としては、MSM以外のキーポピュレーションのコミュニティがPrEP導入に意欲的ではなかったからだということでした。しかし、たとえば欧米圏以外のMSMのコミュニティのメンバーから、治療のために抗HIV薬を入手出来ていない女性や子どもがたくさんいる現状で次の段階(PrEP導入)に行こうとするのは倫理的におかしいのではないかといった指摘があり、MSMコミュニティの中からもPrEP導入に対する慎重かつ厳しい意見が出されていました。
 また、セックスワーカーのコミュニティのメンバーからは、コンドームよりもはるかに高価な抗HIV薬を入手出来る人は限られてしまうし、たとえ入手出来たとしてもコンドーム同様セックスワークをしている証拠として不当な逮捕につながってしまう恐れがあるなどの意見が出されていました。そして、結果としてPrEP導入はセックスワーカーの健康増進にはつながらない、それよりもまずはセックスワーカーの健康や安全を阻害しているセックスワークの非犯罪化が重要であると指摘されていました。

4.トランスジェンダーが直面している困難
 会議では、トランスジェンダーはその外見からすでにからかいや暴力の対象とされたり、差別や偏見によって教育や就業の機会から排除されがちであり、それゆえエイズ対策以前に差別や偏見の問題解決が優先されるという指摘がありました。同様に、教育や就業の機会からの排除に依拠した低学歴や貧困の問題は当事者の孤立化を招いてしまい、そのことが自助グループの立ち上げや当事者同士の紐帯を困難にし、ヘルスサービスへのアクセスをいっそう阻害してしまうという指摘もありました。

5.さいごに
 今回の会議への参加にあたり、まずはいつもお世話になっているMASH大阪のメンバー、発表に関して多くのアドバイスを頂いた名古屋市立大学の市川研究班のみなさんに感謝致します。次に、会議期間中多くの時間を共に過ごし様々な場面でサポートしてくれたSWASHのメンバー、海外のトランスジェンダーのシスターたちと出会うきっかけを作ってくれた恩人であり、今回も大変お世話になった大阪府立大学の東さんにも感謝致します。
 会議に参加した内容は、2014年10月11日に開催される「セクシュアルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国大会」、2014年11月16日に開催される「ドーンセンター・フェスティバル」(いずれも会場は大阪)にて発表を予定しています。
 さいごに、会議前々日の2014年7月18日、マレーシア航空機の墜落事故により会議参加予定者を含め多くの尊い命が奪われるという不幸なニュースが入りました。犠牲になられた方々のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます。