HOME >> 資料室 _ 関連学会情報 >> 第21回国際エイズ会議(ダーバン)/2016年 >> 参加報告書

第21回国際エイズ会議 参加報告書
 

特定非営利活動法人ぷれいす東京
大槻 知子

第21回国際エイズ会議は、2016年7月18日~22日に、南アフリカ共和国の人口第2位の都市、ダーバンで開催された。同地は2000年にも第13回会議をホストした経緯があり、当時と16年後の現在を比較するUNAIDSとWHOのデータは、世界で抗HIV薬を服用するHIV陽性者数が70万人から1,580万人に増加し、同時に死亡者数は年間160万人から120万人に減少するなど、治療へのアクセスの進歩や重要性を強く認識させるものであった。

会議のテーマ"Access Equity Rights Now"に掲げられた「公正なアクセス」であるが、UNAIDSが定めるキー・ポピュレーション(MSM、IDU、刑務所および他の収容施設にいる人、セックスワーカー、並びにトランスジェンダー)、女性(女児)、子ども、若者についてはそのアクセスが他と等しく保障されているとは言い難い。背景にあるジェンダーに基づく暴力・差別といった要因が言及されるものの、これらに対する取り組みついては16年前の世界と比べてもめざましい進歩はない。ジェンダー規範は男性をも性の健康に関するサポートから遠ざけるなどして脆弱な立場に陥れる。1

また、若者のセッションの一つでパネリストとして登壇した英国のヘンリー王子も、すべての国の若者が声を上げられる環境とその声を反映させることなしに、HIV/エイズに関わる問題の解決は不可能であると主張した。

トランスジェンダーについては、会議に先立つ6月に医学専門誌The Lancetが"Transgender Health"と題した特集号を発行し、会議場でも企業の出展ブースが並ぶエキシビジョン・エリアで大量に配布されていた。この号に掲載された論文の共著者である米国のトニア・ポティート氏は、2008年以降に学術誌で発表された、トランスジェンダーの健康に関する研究を横断的にレビューした。世界に2,500万人いると言われるトランスジェンダーについて、まだ相応しいだけの研究がなされていないが、その中でも行われた研究はMTFなど(出生時の性別が)男性を対象としたものに限定されているのが実情とのことである。2 また、"Situated vulnerabilities"というコンセプトが紹介され、トランスジェンダーの脆弱性については、個々の重層化するジェンダーや性に関するコンテクストを理解した上で対策を講じなければいけないと論じられた。

HIV感染予防の取り組みであるPrEPがコミュニティ系のセッションでも話題を独占していたなか、異彩を放っていたように見えたのは、スティグマをテーマに掲げたセッションで提起された、アファメーションやマインドフルネス等を取り入れたキャパシティ・ビルディングである。スティグマの低減のために社会に対して介入するのは勿論、心理教育プログラムを受けたHIV陽性者自らが中心となって周囲にカミングアウトをしたり社会に対して声を上げたりするような、内外のスティグマに同時に働きかけていくものであった。

また、同じセッションでは、MTF(トランス女性)の3人に1人がHIV陽性と言われるペルーの首都リマにおける、性別違和に対するホルモン療法とパッケージ化してHIV診療を提供するクリニックの取り組みが紹介された。彼女たちが本来の性別で生活できることが治療意欲の向上や社会での受容につながるというのがホルモン療法提供の理由であるが、「公正なアクセス」を形にした一つの実践例のように感じられた。3

なお、会議2日目には、厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究事業「地域においてHIV陽性者と薬物使用者を支援する研究」による示説発表を行う機会を得た。以前の研究班を含め3度実施した日本国内のHIV陽性者を対象とした質問紙調査の結果から、2003~13年の10年間における療養生活上の負担(服薬回数や通院頻度等)の軽減と、変わることなく残るHIVとともに生きる上での社会的な障壁(感染を周囲に明かすことの難しさ、就労等)について発表した。社会・政治系のポスター展示エリアで、周囲にはアフリカを中心に中・低所得国を調査対象とした発表が並んでいたが、スティグマ・差別などの問題を扱った調査研究が多かった。医療他リソースの多寡に関わらず、HIV/エイズに付随するスティグマがHIV陽性者の生活に影を落としている状況が、日本と共通するように見受けられた。

他方、世界的に結核がHIV陽性者の死因第1位であり、エイズ関連死の1/3というなかでの世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)への減資など、HIV/エイズ対策への投資額が横ばいから減少傾向にあることは深刻な問題である。4

プレナリー・セッションの一つでHIV/エイズの治癒に向けた今後の展望を解説していた米国のデボラ・パーサード氏も社会系の活動家たちに同調する形で、かつての「ベルリン・ペイシェント」や自らが関わった「ミシシッピ・ベイビー」の例は、臨床研究だけでなく援助機関やドナーにHIV/エイズ対策のさらなる可能性へ投資を促すうえでも意味合いが大きいと述べていた。

情勢不安などの悪条件もあり、2万人に満たない参加者数から見ると、今回の会議は近年の国際エイズ会議と比べやや小規模ではあった。しかし、抗HIV薬へのアクセスがここまで拡大した歴史を振り返り、今や抗HIV薬への「アクセス」は治療のみならず予防としてのアクセスを含むことがすでに当然であり、その上で公正さを求めていくことが方向づけられたような、転換点となる会議であった。

これら会議参加を通じて得た情報は、HIV/エイズ支援を行う所属団体での活動、とりわけ厚生労働科学研究班での調査研究等を通じて広く共有・還元する形で生かしていきたいと考える。

以上



  1. Bukusi, E. Implications of Gender on the Response. Twenty-first International AIDS Conference, Durban, July 19, 2016.
  2. Poteat, T. Trans Nations: A Global Review. Twenty-first International AIDS Conference, Durban, July 20, 2016.
  3. Perez-Brumer, A. HIV vulnerabilities, gender affirmation and social resilience among transgender women in Lima, Peru: a community-based approach to HIV prevention, care and treatment. Twenty-first International AIDS Conference, Durban, July 19, 2016.
  4. Strathdee, L. Global Epidemiology: State of the Pandemic. Twenty-first International AIDS Conference, Durban, July 19, 2016.