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第22回国際エイズ会議(アムステルダム)/2018年

第22回国際エイズ会議 参加報告書
 

特定非営利活動法人ぷれいす東京
大槻 知子

第22回国際エイズ会議が、2018年7月23日~27日に、オランダのアムステルダムで開催された。同地で国際エイズ会議が行われるのは2度目で、市民の半数が外国にルーツを持つ多様性と寛容の街ならではの、見過ごされがちであった問題へも焦点を当てようという試みや、バリエーション豊かなトピックに触れることができた会議であったように感じられた。

包摂的な雰囲気もあり、今回の会議は近年の国際エイズ会議の中では穏やかに進んだ印象もあったが、開会式では、国連合同エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長が、今年3月に明らかになったルイス・ローレス元事務局次長によるセクシュアルハラスメント問題への対応の不手際を糾弾される場面もあった。

ジェンダーに基づく暴力は決して目新しい問題ではないが、会期中にも昨年来の"#MeToo"のムーヴメントを受け"#UsToo"と題されたセッションがあった。HIV感染率の高さが深刻な米国のアフリカ系MSMの間では、3人に1人がパートナーからのDVを経験しており、その被害経験とHIV感染リスクに関連が見られたという。1 別のメンタルヘルスに関するセッションでも、性被害によるトラウマがHIV感染へと影響することが指摘されており、改めて被害後のケアや、暴力を生み出さない環境作りの重要性が説かれていた。

会議で最も注目されていた研究発表の一つである「PARTNER2」研究2 の成果や、国際エイズ学会の著名な専門家らによって発表された合意声明3 など、HIV/エイズのスティグマ提言を訴える"Undetectable=Untransmittable (U=U)"(検出限界以下=感染しない)のメッセージは、さまざまな場面で繰り返し打ち出されていた。

このメッセージが科学的なエビデンスに基づき説得力を増す一方で、いまだ十分なリソースが投入されているとは言えない層もあり、調査データの不足は深刻な問題である。トランスジェンダーの活動家らは、長年トランスジェンダーは"MSM&TG"としてMSMとともに対策が講じられてきたが、トランス女性のデータがMSMのデータと綯い交ぜにされていたり(トランス女性を男女別の統計に当てはめるのであれば、性自認に沿って女性のデータに含めるのが当事者の多くにとっては望ましい形となる)、トランス男性については調査さえされていない(MSMのトランス男性は、MSM一般のデータから除外されている)といったことに批判の声を上げていた。

世界保健機関(WHO)が「国際疾病分類(ICD)」の最新版で性別の不一致を精神疾患等のリストから外したというニュースは記憶に新しいが、一部の国や地域では、性別の不一致に関して科学的な認識がなく、宗教的・文化的な背景からトランスジェンダーは不道徳と見なされ、HIV/エイズ関連のケア・サポートも受けられないという問題がある。4 また、世界各地に目を向けると、西欧・北米主導のジェンダーやセクシュアリティのコンセプトが当てはまらない多様な性表現があり、そういった文化圏ではトランスジェンダーやキー・ポピュレーションといった枠組みでの対策は的外れとなるという指摘もあった。5

なお、本会議では、平成27~29年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究事業「地域においてHIV陽性者と薬物使用者を支援する研究」(研究代表者:樽井正義)からも示説発表を行った。ゲイ・バイセクシュアル男性向けアプリを利用するトランスジェンダーの性行動やHIV/エイズに関する知識・意識を探る調査で、トランスジェンダーの一定層が性的に活発である可能性と、性の健康に関しては啓発や支援のニーズがあることが示唆された。日本国内のアプリ利用者に限定された調査ではあるが、先述の通りデータが不足するトランスジェンダー層の支援に取り組む上で、本研究がそれに資するものであったと考える。

オランダは既にHIVケア・カスケードの90-90-90を達成しているが、とりわけ薬物使用者のHIV感染を激減させた要因の一つとしてハームリダクションの取り組みが挙げられる。

会議のプログラムの一環で、アムステルダム市内のDrug Consumption Room (DCR/薬物使用ルーム)を訪問した。清潔な注射針を提供するなどして薬物使用者が安全に薬物を使用できる環境を作り、HIV感染やオーバードース等の薬物関連死を防ぐことがDCRの第一義ではあるが、例えば机や椅子などの家具も角が丸いものが選ばれているという物理的な安全と、あらかじめ周辺住民の理解や協力を得て心理的な安全をも担保するといった利用者目線のさまざまな工夫がなされていた。DCRの利用者や卒業者のピア・スタッフが行うバディ・プログラム等があり(主なサービス対象者である)ホームレスの人々の孤立を防ぐことを目的とし、それがひいては人を薬物使用へと向かわせるストレスの低減にもつながるというDCRの考え方は理にかなうと感じた。

UNAIDSの最新の発表によると、東欧と中央アジアで2010年以来、新規HIV感染が29%増加していて、中東と北アフリカでは2000年以降も、エイズ関連死が11%増加している。しかし、国際的なHIV/エイズ対策の資金提供国の半数以上が、昨年1年間でその拠出額を削減していて、キー・ポピュレーション同士でリソースを取り合わなければならない状況となっている。会議4日目のプレナリー・セッションに登壇したピーター・ピオット氏も、HIV/エイズのパンデミックを終わらせることが危ぶまれていると警鐘を鳴らした。

科学のエビデンスと"U=U"のメッセージをごく一部の人の特権ではなく、普遍的なものにするためにも、改めて国際社会の連帯とコミットメントが求められている。

これら会議参加を通じて得た情報は、HIV/エイズ支援を行う所属団体の業務、および厚生労働科学研究班での調査研究等に直結するものであり、日々の活動を通じて広く還元していきたい。

以上



  1. Wu, E. Partner violence: A significant part of a syndemic among Black men who have sex with men. Twenty-second International AIDS Conference, Amsterdam, July 24, 2018.
  2. Rodger, A. et al. Risk of HIV transmission through condomless sex in MSM couples with suppressive ART: The PARTNER2 Study extended results in gay men. Twenty-second International AIDS Conference, Amsterdam, July 26, 2018.
  3. Barre-Sinoussi, F. et al. Expert consensus statement on the science of HIV in the context of criminal law. Journal of the International AIDS Society 2018, 21:e25161. https://doi.org/10.1002/jia2.25161
  4. Kor, E. Breaking the wall: Transgender people and Islamic religious leaders. Twenty-second International AIDS Conference, Amsterdam, July 24, 2018.
  5. Sarang, A. Addressing the needs of people with situational gender and 'sexual orientation' in Tajikistan by HIV services. Twenty-second International AIDS Conference, Amsterdam, July 24, 2018.