HOME >> 資料室 _ 関連学会情報 >> 第22回国際エイズ会議(アムステルダム)/2018年 >> 参加報告書

第22回国際エイズ会議(アムステルダム)/2018年

第22回国際エイズ会議 参加報告書
 

SWASH
げいまきまき

私は日本のセックスワーカー当事者団体SWASHに所属する元セックスワーカーです。
現在はSWASHと大阪のゲイコミュニティセンターdistaにも所属しています。

4年ぶりに国際エイズ会議に参加しました。まず大きな変化として感じられたのが最近日本でも取り組みが始まりつつあるU=Uの大きなキャンペーン。検出限界値以下なら感染させない/しないという進化(もちろん他の感染症や性交への合意の面への取り組みも両軸として必須)はHIV陽性者のQOL始めこの疾病への概念を日常の面から変革していくのではないかと思いました。

U=Uも様々な言語のイニシャルに工夫され「I=I」「H=H」等の表記になっていることを知れたのも国際的な場ならでは。

世界的なフェミニズムの運動の活性化も後押ししているのか、フェミニズム的なアプローチのブースもあり、HIVの取り組みとは人権の取り組みであることを再認識しました。

トランスジェンダーのネットワークが会場内で「私たちもHIVキーポピュレーションである」「誰も置いてきぼりにするな」とパワフルなデモを起こしていたのも普段はなかなか集えない当事者達が多く集まれる国際会議でのエンパワメントの現れで意義が大きいのです。

このような各々の国では普段脆弱な存在として扱われがちな層が当事者同士集まりお互いにエンパワメントし協力をし合い、また良いケースを学んでは自国へ持ち帰り試行錯誤するエネルギーを蓄える場としてセックスワーカーの活動家も共通しています。

ヨーロッパという土地柄もありアフリカや中欧のセックスワーカーの参加が多かったのも私には初めての体験でした。 ネットワークゾーンでの発表では各地域のセックスワーカー支援の歴史と現状の報告も多く、特にアフリカではHIVの問題はセックスワーカーにも身近であり今回はPrEPの啓発ポスターも多く見られました。

セックスワーカーについての研究発表としての白眉は、日本も他人事ではなくなるであろう「買春客処罰化」についての発表でした。 フランスで2016年4月に可決された「買春客処罰法」によるセックスワーカーへの影響を政治学と社会科学分野の研究者が当事者や当事者と共に活動する支援グループにアウトリーチしした研究発表であります。

この「買春客処罰化」とは売買春において客側を処罰するという法律です。 スウェーデンやノルウェーが真っ先に取り組んだことにより「スウェーデンモデル」「ノルディックモデル」「北欧モデル」とも呼ばれます。

セックスワーカー当事者からは稀代の悪法とも言われ批判が大きなものです。
2018年のフランスでの調査報告です。

不十分な範囲でのセックスワーカーへの収入や住居への行政支援と共に打ち出されます。(セックスワークを辞めることを前提としたもの) セックスワーカーへの保護とサポートが狙いという建前ですが、セックスワーカーのニーズや生活に理解も知識もない人々の可決と遂行によって行われるこの新法にセックスワーカー当事者はこぞって批判的です。

なぜなら客が逮捕されないよう通りで働く街娼は値段やコンドームについての交渉を満足にすることが難しくなり、客が減るということは売り手とのパワーバランスが崩れるからです。新法実施前に比べ、強盗や値引き、コンドームを使えない等リスキーな性行為を余儀なくされることが増えたのです。

収入が減り、生活の不安定さのストレスからアルコールや薬物の摂取が増え、またHIV治療が必要なセックスワーカーは治療の継続が困難になる等精神面を含めた健康面のリスクも増大したのです。

多くのセックスワーカーは警察にも顧客情報を渡せと脅されたり、移民の街娼には国外追放の脅迫などもされることが増加したと言います。

買春客処罰化は暴力と貧困、健康への被害という悪循環をもって、セックスワーカーの生活状態を著しく侵害しています。

国家や地方行政が打ち出したセックスワークを辞めるワーカーへの支援プログラムも非現実的なものです。

住居や収入支援のための申請の基準も難しく、最も切実にそうした支援を必要とする、例えば移民ワーカーには滞在許可の問題などが絡み手が届かないのです。

こうした所謂「多くの人の社会秩序」の観念からの「反セックスワーク」感を満足させるために可決された法律に当事者たちはスティグマ強化、健康面、金銭面等生活が脅かされていると批判します。

調査結果の数値を下記に示します。
量的調査に参加したセックスワーカー583名、より深い内容のインタビューに回答したセックスワーカー70名

  • 買春客処罰法に反対するセックスワーカー・・88%
  • 新法実施以降生活基準が悪化した・・63%
  • 収入が減った・・78%
  • 暴力にさらされることが増えた・・42%
  • コンドーム使用が困難になった・・38%
  • 警察との関係の悪化・・70%
  • 救済的な支援プログラムを知っている・・39%
  • 上記プログラムを申請したい・・26%

以上が研究発表の報告です。

国際会議期間中にセックスワーカーによるデモも行われました。

セックスワーカーの運動のシンボルでもある赤い傘とプラカードを各々が掲げ「私のことは私が決める」「セックスワーカーの権利は人権」「セックスワークは労働だ」と力強い声が、特定のリーダーではなくどこからか起こり、復唱して歩く光景はネットワークの強さとまだまだ続くであろう道のりの大変さ、大変さをユーモアを交えて生き延びてきた当事者達のこれまでにもリンクして見えたのでした。

今後の展望
私が所属するSWASHでは過去に相談ホットラインを行っていました。その際に寄せられた当事者からの声は、外部が想定するものとは違い、改めてこうした声に対峙することの積み重ねが当事者のニーズに応える枠組みを作ることにつながると痛感しました。

今回の会議で知り応募した国際基金や現在つながりを持ちつつある専門家との縁を絶やさず、ダイレクトに当事者の声に応えていける現場作りを長い視野で目指し還元できるよう励みます。

また、2019年に個人のアート的なアプローチとして大阪の芸術助成団体の支援を受け「セックスワーク展」を開催します。その際にこの会議での記録を報告する予定です。