健疾発第0331001号
平成18年3月31日
都道府県
|
||
各 |
保健所設置市
|
衛生主管部(局)長 殿 |
特別区
|
厚生労働省健康局疾病対策課長
我が国においては、主な欧米諸国と比較すると感染者の絶対数は少ないものの、この5年間、HIV感染者・エイズ患者(以下「患者等」という。)の増加傾向が続いており、平成16年には新規報告数が、初めて合計1,000件を突破し、過去最高となるなど、予断を許さない状況となっている。
また、「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針見直し検討会」(座長:木村 哲 国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センター長)報告書によると、現状の問題点として、[1]診断時には既にエイズを発症している事例が約30%を占めている、[2]若い世代や同性愛者における感染の拡大への対応が十分ではない、[3]一部の医療機関への患者等の集中が生じていること等が指摘されているところである。
このような状況を踏まえ、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)第11条第1項の規定に基づき、平成18年3月2日厚生労働省告示第89号をもって、「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針」(平成11年10月4日厚生省告示第217号。以下「予防指針」という。)の改正がなされたところである。
今後は、改正後の予防指針に基づき、国の技術的支援のもと、基本的には地方公共団体が中心となって、人権や社会的背景に配慮しつつ地域の実情を踏まえながら、感染の予防及びまん延の防止のための重点的かつ計画的なエイズ対策を推進されるよう特段の配慮をお願いする。
なお、改正後の予防指針の概要等は下記のとおりであるので十分に御留意いただきたい。
また、本通知は平成18年4月1日から適用することとし、平成11年12月28日健医疾発第124号「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針の運用について」は平成18年3月31日をもって廃止する。
記
第1 予防指針の目的及び性格
1 目的
本予防指針は、原因の究明、発生の予防及びまん延の防止、医療の提供、研究開発の推進、国際的な連携、人権の尊重、施策の評価及び関係機関との新たな連携等、エイズ予防のための総合的な施策の推進を図るために作成されたものである。
2 性格
上記目的をもって作成された予防指針は、国、地方公共団体、医療関係者及び患者団体を含む非営利組織又は非政府組織(以下「NGO等」という。)がともに連携してエイズ対策を進めていく行動指針である。
また、予防指針は、その有効性を維持確保するため、少なくとも5年ごとに再評価を加え、その結果を予防指針に反映させることとしている。
第2 改正後の予防指針の概要
(1) | 我が国における発生の動向については、地域的にも年齢的にも依然として広がりを見せており、特に20代から30代までの若年層や日本人男性の同性間の性的接触の感染事例が増加していることから、国、地方公共団体、医療関係者及びNGO等がともに連携して重点的かつ計画的に感染の予防及びまん延の防止のための施策を更に強力に進めていく必要がある。 | |
(2) | [1]HIV・エイズに係る正しい知識の普及啓発及び教育、[2]保健所等における検査・相談体制の充実等による発生の予防及びまん延の防止、[3]患者等に対する人権を尊重した良質かつ適切な医療の提供について、特に重点的に施策を実施されたい。 施策の実施に当たっては、実効性を高めるため、国、地方公共団体、医療関係者及びNGO等との連携体制の強化に取り組まれたい。 |
|
(3) | 感染症法においては、感染症の予防と医療の提供を車の両輪のごとく位置付けるとともに、患者等の人権を尊重し、偏見や差別の解消を法制定の理念としているので、常にこれらの点を念頭において施策の推進に当たられたい。 |
(1) | HIV感染に関する情報を収集及び分析し、国民や医療関係者に対して情報を公開していくことは、HIV感染の予防及び良質かつ適切な医療の提供のための施策の推進にあたり、最も基本的かつ重要な事項であるので、国が実施するエイズ発生動向調査及び病状に変化を生じた事項に関する報告(任意報告)に対し、引き続き御協力をお願いする。 また、これらの結果については、個人情報の保護に十分配慮しながら、都道府県等(都道府県、保健所を設置する市及び特別区をいう。以下同じ。)の施策の推進にあたり積極的に活用されたい。 |
|
(2) | 都道府県等においても、地域の実情に応じて個別施策層に対し、患者等の人権及び個人情報の保護に配慮した上で、追加的な調査研究を実施されたい。 | |
(3) | また、国際交流がますます盛んになってきたことから、国内だけでなく国外における感染状況の把握に努めるとともに、それを施策へ反映させていくことも重要である。 |
(1) | 我が国における現在の最大の感染経路が性的接触であることから、国民に対して[1]正しい知識の普及啓発、[2]保健所等における検査・相談体制の充実を基本とし、予防対策を重点的かつ計画的に進めていくことが重要である。 | |
(2) | 保健所をこれらの対策の中核として位置付けるとともに、所管地域の発生動向を正確に把握できるよう、その機能が強化されることが重要である。 | |
(3) | 普及啓発にあたっては、対象者の実情に応じて正確な情報と知識を効果的な媒体により提供することを通じて、個人個人の行動がHIVに感染する危険性の低い又は無いものに変化すること(以下「行動変容」という。)を促すことを意図して行われる必要がある。 | |
(4) | 感染者が早期に検査を受診し、適切な相談及び医療機関への紹介を受けることは、感染症の予防及びまん延の防止のみならず、感染者個々人の発症又は重症化を防止する観点から極めて重要である。このため、地域の実情に応じて、保健所はもとより、検査室等保健所以外においても、利便性の高い場所と時間帯に配慮した検査や迅速検査を実施するとともに、検査・相談を受けることができる場所と時間帯等の周知を行うなど利用の拡大に努められたい。また、検査・相談体制の充実にあたっては、エイズ治療拠点病院の積極的な活用を図ることが望ましい。 | |
(5) | 感染症法に定める予防計画等に検査・相談体制に関する事項を盛り込むなど、毎年度検査相談体制に関する計画を定め、着実に進める必要がある。 | |
(6) | HIV感染は性感染症の罹患と関係が深いことから、性感染症の予防対策と連 携した施策の実施が必要である。 | |
(7) | また、検査・相談の機会を個人個人に対して行動変容を促す機会と位置付け、検査受診者のうち希望者に対しては、検査前に相談の機会を設け、必要かつ十分な情報に基づく意思決定の上で検査が行われることが必要であり、検査の結果が陽性であった者に対する相談及び早期治療・発症予防の機会を提供することが重要である。さらに、陰性であった者についても、行動変容を促す機会として積極的に対応することが望ましい。 | |
(8) | 個別施策層(特に、青少年及び同性愛者)に対して、人権や社会的背景に最大限配慮し、その特性を踏まえた、きめ細かく効果的な施策を実施することが重要である。 | |
(9) | 予防及び医療の提供に関する保健医療相談需要の多様化等に対応した相談窓口体制の強化が必要である。その際、心理的背景や社会的背景に十分配慮した専門的な相談としてのカウンセリングが必要である。そのためには、カウンセリング専門研修の受講による相談事業の質的向上、患者等及び個別施策層によるピア・カウンセリング(患者等や個別施策層の当事者による相互相談をいう。以下同じ。)の活用が必要かつ有効である。特に個別施策層に対しては、NGO等との連携等による相談が受けやすい環境づくりも不可欠である。 |
以上のことから、都道府県等にあっては、担当者の資質の向上を図りつつ、地域の実情に応じた電話相談、派遣相談などの相談体制の強化に努められたい。
4 医療の提供に関する事項
(1) | 総合的な医療提供体制の確保については、次のような点に留意が必要である。
|
|||||||||||||||||||
(2) | 都道府県においては、HIV治療に関わる医療従事者の育成を図るため、研修計画を策定し、着実に実施されたい。国においては、中核拠点病院のエイズ治療の質の向上を図るため、地方ブロック拠点病院等による出張研修等により支援することとしており、これらの各種研修を積極的に活用されたい。 | |||||||||||||||||||
(3) | 都道府県においては、個別施策層に対して良質かつ適切な医療を提供するため、その精神的・心理的側面、社会行動的側面等の特性を踏まえた対応が必要であり、その際、各種専門的な研修や具体的対応マニュアル等を活用されたい。また、都道府県は、地域の実情に応じて、各種拠点病院等において検査やHIV治療に関する相談の機会の増加を図るべきであり、特に外国人に対する医療への対応については、通訳や外国人に対応できる医療ソーシャルワーカーの確保による多言語での対応の充実が必要であること。また、ボランティアやNGO等を活用し、カウンセリング体制の充実を図られたい。 | |||||||||||||||||||
(4) | HIV治療の進歩に伴い、患者等が長期間障害を持ちながらも療養できるようになり、HIV感染者は身体障害者の認定が受けられることから、HIV感染者に対する日常生活支援のための保健医療サービスと福祉サービスとの連携(コーディネーション)強化がますます重要となってきており、医療ソーシャルワークやピア・カウンセリングの積極的な活用を推進されたい。 | |||||||||||||||||||
(5) | 患者及びその家族等の日常生活を支援するという観点から、NGO等との連携体制や社会資源の活用、人権侵害への対応、心理的支援等における相談方法や相談窓口についての情報提供に努められたい。 |
5 研究開発の推進
国及び都道府県等においては、研究結果が感染の拡大の抑制やより良質かつ適切な医療の提供につながるような研究を行っていくべきである。国においては、各種治療指針等の作成のための研究を優先的に対応することとしているが、都道府県等においても、地域の実情にあった調査研究を行うことが必要である。なお、調査研究結果については公開等を行っていくことが重要である。
6 人権の尊重に関する事項
(1) | 保健所、医療機関等の保健医療部門及び福祉施策部門等における患者等に係る個人情報については、人権擁護の観点から、保護を徹底することが重要である。都道府県等にあっては、各種研修及び情報提供の場を活用し、関係機関への周知徹底を図られたい。 | |
(2) | 患者等及び個別施策層に対する偏見、差別の撤廃に関し、機会あるごとに、地域住民への普及啓発に努められたい。また、具体的な偏見、差別の要因を撤廃するための普及啓発の努力を行うとともに、必要があれば、心理的支援としてのカウンセリングの機会が容易に得られるよう、相談方法や相談窓口についての情報提供に努められたい。 |
7 普及啓発及び教育に関する事項
(1) | 近年の発生動向等を踏まえた上で、感染の危険性にさらされている者のみならず、それらを取巻く家庭、地域、学校及び職場等へ向けたHIV・エイズに係る正しい知識の普及啓発及び教育についても取り組み、行動変容を起こしやすくするような環境を醸成していくことが必要である。また、HIV感染の最大の感染経路は性的接触であることから、性感染症の予防のための正しい知識の普及を図るとともに無防備な性行動を抑制する観点から、お互いの身体や心を思いやる心の醸成を図るとともに、豊かな人間関係を構築できるコミュニケーション能力の向上を図る取組が求められている。 | |
(2) | 普及啓発及び教育を行うに当たっては、地方公共団体は、国民一般を対象にHIV・エイズに係る正しい知識を提供することに加え、個別施策層の対象となる層を設定し、行動変容を促すような普及啓発及び教育を進めていくことが重要である。このためには、対象者の年齢、行動段階等の実情に応じた内容とすることが必要である。 なお、地方公共団体が行う普及啓発のうち、青少年や同性愛者に対しては、厚生労働省が文部科学省と連携して取り組んでいる「青少年エイズ対策事業」や同性愛者に対する普及啓発の拠点を確保する「コミュニティセンター事業」を活用及び参考とするなど積極的に対応されたい。併せて、これらを実施するに当たり必要となるマニュアルを作成する予定であるので、これを参考とされたい。その際、都道府県においては、普及啓発の実施に当たり、市町村と相互に連携を図ることが求められる。 また、普及啓発資料の作成にあたっては、患者等や個別施策層の当事者等の参加によって実効ある普及啓発に努められたい。 |
|
(3) | 特に、地方公共団体は、地方の実情に応じた効果的な普及啓発及び教育を行うにあたっては、教育委員会、医療関係者、企業、NGO等との連携を図ることが重要である。なお、都道府県等においては、エイズ対策推進協議会や都道府県等保健所運営協議会などの場を積極的に活用することが望ましい。 また、HIV・エイズに係る正しい知識の普及啓発や教育を行うに当たっては、地方公共団体は、要となる職員の育成に取り組む必要がある。育成に当たっては、財団法人エイズ予防財団等の行う研修を活用されたい。 |
8 施策の評価及び関係機関との新たな連携に関する事項
(1) | 施策の評価については、次のような点に留意する必要がある。
|
|||||||
(2) | 個別施策層を対象とする各種施策を実施する際には、NGO等と連携強化を図ることが効果的である。そのため、NGO支援の核としての機能を有する財団法人エイズ予防財団がNGO等の活動状況に係る情報提供を予定しているので、これを活用されたい。 |