健医疾発第17号
平成11年3月3日
都道府県
各 政令市 衛生主管部(局)長殿
特別区
厚生省保健医療局
エイズ疾病対策課長
後天性免疫不全症候群の発生動向の把握のための診断基準について
標記については、平成6年10月11日付け健医感発第89号厚生省保健医療局エイズ結核感染症課長通知「サーベイランスのためのAIDS診断基準の改訂について」に基づき診断を行うようお願いしているところであるが、検査手法の改善、治療法の進歩等医療環境の変化から、当該基準改正の必要性の有無を含めた検討を行うことを目的として、エイズ動向委員会の下に「エイズ診断基準の再検討に関する小委員会」が設置され、検討が行われた結果、本年1月26日に別紙(略)のとおり「サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準の見直しについて」が報告されたところである。
ついては、今般、我が国の後天性免疫不全症侯群の発生動向の把握のための診断基準を別添のとおり定めるとともに、本年4月1日診断分より適用することとしたので、管下関係機関及び医療従事者等への周知方について遺漏のないよう、よろしくお願いする。
なお、今般の基準については、上記報告において、
(1)現行診断基準を大きく見直す具体的な必要性がないこと。
(2)今後の診断基準は一般臨床医にとっても、わかりやすい基準である必要があること。
(3)統計上の継続性が問題にならない範囲で、国際基準との整合性を保つ必要があること。
(4)小児の診断基準については、今後も継続的に検討する必要があること。
と示されており、新基準についても同様な結果となっていることを申し添える。
おって、平成6年10月11日付け健医感発第89号厚生省保健医療局エイズ結核感染症課長通知「サーベイランスのためのAIDS診断基準の改訂について」は廃止する。
別 添
サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準
(厚生省エイズ動向委員会、1999)
我が国のエイズ動向委員会においては、下記の基準によってHIV感染症/AIDSと診断され、報告された結果に基づき分析を行うこととする。この診断基準は、サーベイランスのための基準であり、治療の開始等の指標となるものではない。近年の治療の進歩により、一度指標疾患(Indicator Disease)が認められた後、治療によって軽快する揚合もあるが、発生動向調査上は、報告し直す必要はない。しかしながら、病状に変化が生じた揚合(無症候性キャリア→AIDS、AIDS→死亡等)には、必ず届け出ることが、サーベイランス上重要である。
なお、報告票上の記載は、
1)無症候性キャリアとは、Iの基準を満たし、症状のないもの
2)AIDSとは、IIの基準を満たすもの
3)その他とは、Iの基準を満たすが、IIの基準を満たさない何らかの症状があるものを指すことになる。
I.HIV感染症の診断
(1) | 抗体確認検査[Western Blot法、蛍光抗体法(IFA)等] |
(2) | HIV抗原検査、ウイルス分離及び核酸診断法(PCR)等の病原体に関する検査(以下、「HIV病原検査」という。) |
(1) | HIV病原検査が陽性 |
(2) | 血清免疫グロブリンの高値に加え、リンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数/CD8陽性Tリンパ球数比の減少という免疫学的検査所見のいずれかを有する |
II.AIDSの診断
Iの基準を満たし、IIIの指標疾患(Indicator Disease)の1つ以上が明らかに認められる場合にAIDSと診断する。
III.指標疾患(Indicator Disease)
A.真菌症
(1) | 全身に播種したもの |
(2) | 肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの |
(1) | 全身に播種したもの |
(2) | 肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの |
(1) | 全身に播種したもの |
(2) | 肺、皮膚、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの |
(1) | 1か月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの |
(2) | 生後1か月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの |
(1) | 大細胞型 免疫芽球型 |
(2) | Burkitt型 |
(付記)厚生省エイズ動向委員会によるAIDS診断のための指標疾患の診断法
ここには基本的な診断方法を示すが、医師の診断により、より最新の診断法によって診断する場合もあり得る。
A.真菌症
(1) | 確定診断(いずれか一つに該当)
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(2) | 臨床的診断 嚥下時に胸骨後部の疼痛があり、以下のいずれかが確認される場合
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(1) | 確定診断(いずれか一つに該当) 1)顕微鏡検査、2)培養、3)患部組織又はその浸出液においてクリプトコッカスを検出。 |
(1) | 確定診断(いずれか一つに該当) 1)顕微鏡検査、2)培養、3)患部又はその浸出液においてコクシジオイデスを検出。 |
(1) | 確定診断(いずれか一つに該当) 1)顕微鏡検査、2)培養、3)患部又はその浸出液においてヒストプラズマを検出。 |
(1) | 確定診断 顕微鏡検査により、ニューモシスチス・カリニを確認。 |
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(2) | 臨床的診断(すべてに該当)
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B.原虫症
(1) | 確定診断 組織による病理診断により、トキソプラズマを確認 |
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(2) | 臨床的診断(すべてに該当)
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(1) | 確定診断 組織による病理診断または一般検査により、クリプトスポリジウムを確認 |
(1) | 確定診断 組織による病理診断または一般検査により、イソスポラを確認 |
C.細菌感染症
(1) | 確定診断 細菌学的培養により診断 |
(1) | 確定診断 細菌学的培養により診断 |
(1) | 確定診断 細菌学的培養により診断 |
(2) | 臨床的診断 培養により確認できない場合には、X線写真等により診断 |
(1) | 確定診断 細菌学的培養により診断 |
(2) | 臨床的診断 下記のいずれかにおいて、顕微鏡検査により、結核菌以外の抗酸菌を検出した場合は、非定型抗酸菌症と診断。 <a>糞便、汚染されていない体液 <b>肺、皮膚、頚部もしくは肺門リンパ節以外の組織 |
(1) | 確定診断 組織による病理診断により、核内封入体を有する巨細胞の確認 |
(2) | 臨床的診断 サイトロメガロウイルス性網膜炎については、特徴的臨床症状で診断可。(眼底検査によって、網膜に鮮明な白斑が血管にそって遠心状に広がり、数が月にわたって進行し、しばしば網膜血管炎、出血又は壊死を伴い、急性期を過ぎると網膜の痂皮形成、萎縮が起こり、色素上皮の斑点が残る。) |
(1) | 確定診断 1)組織による病理診断、2)培養、3)患部組織又はその浸出液からウイルスを検出することにより診断。 |
(1) | 確定診断 組織による病理診断 |
(2) | 臨床的診断 CT、MRIなどの画像診断法により診断 |
(1) | 確定診断 組織による病理診断 |
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(2) | 臨床的診断 肉眼的には皮膚または粘膜に、下記のいずれかを認めること。
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(1) | 確定診断 組織による病理診断 |
(2) | 臨床的診断 CT、MRIなどの画像診断法により診断 |
(1) | 確定診断 組織による病理診断 |
(1) | 確定診断 組織による病理診断 |
(1) | 確定診断 組織による病理診断 |
(2) | 臨床的診断 胸部X線で、両側性の網状小結節様の間質性肺陰影が2か月以上認められ、病原体が検出されず、抗生物質療法が無効な場合。 |
<a> | 就業もしくは日常生活活動に支障をきたす認識もしくは運動障害が臨床的に認められる場合。 |
<b> | 子供の行動上の発達障害が数週から数か月にわたって進行 これらは確定的な診断法ではないがサーベイランスの目的のためには十分である。 |
1) | 通常の体重の10%を超える不自然な体重減少 |
2) | 慢性の下痢(1日2回以上、30日以上の継続)又は慢性的な衰弱を伴う明らかな発熱(30日以上にわたる持続的もしくは間歇性発熱) |
3) | HIV感染以外にこれらの症状を説明できる病気や状況(癌、結核、クリプトスポリジウム症や他の特異的な腸炎など)がない これらは確定的な診断法ではないがサーベイランスの目的のためには十分である。 |
別紙
サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準の見直しについて
エイズ動向委員会
1999年1月26日
(1) | 診断基準への追加を考慮した事項
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(2) | 国際的基準との整合性 欧米諸国においては、サーベイランスにエイズのみでなく、HIV感染症を加えようと言う動きがみられるものの、エイズ診断基準を改正するという動きはみられない。我が国では既にHIV感染症とエイズの両者の把握が行われていることから、我が国のサーベイランスの方が先行しており、国際的には現在の我が国の診断基準を改正する必要性は認められない。 |
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(3) | 現行診断基準の表記方法 現行診断基準については、特に特徴的症状の記載が臨床上の観点からは十分に整理がされていないなど、必ずしも活用しやすいものとなっていないとの意見が多く、表記上の整理が必要と考えられた。より明快な診断規準とすることは、医師がエイズ患者及び無症状病原体所有者を診断した場合は、7日以内にその者の年齢、性別その他厚生省令で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出ることを罰則を持って規定している感染症新法に基づくエイズ対策を進める上で必須のことである。また、診断基準の表記方法をわかりやすくすることにより、感染症新法に基づいて収集した情報を、エイズ動向委員会が1例ずつ診断基準に該当するかどうかを検討することなく、迅速に分析を行い、エイズの予防のための情報を積極的に公表することができるようになると考えられる。 |
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(4) | その他 診断基準を変更する場合には、当然のことながら統計上の継続性について、留意する必要がある。 |
(1) | 現行診断基準を大きく見直す具体的な必要性はないこと |
(2) | 我が国においては、患者・感染者数の増加が継続しており、もはやエイズは一部の専門家によってのみ診断されるべき疾患といった時代から、一般の臨床医によって診断・治療が行われる疾患になりつつあり、このような観点から、今後の診断基準は一般臨床医にとっても、わかりやすい基準である必要があること |
(3) | 一般の臨床医が診断基準に基づいて的確に診断を行い、報告することによって、エイズ動向委員会が発生動向の分析に力を注ぐことができ、ひいては、エイズ予防のための情報を積極的に公表することができるようになること |
(4) | 統計上の継続性が問題にならない範囲で、国際基準との整合性を保つ必要があること |
(5) | 小児の診断基準については、今後も継続的に検討する必要があること |
別紙 改訂診断基準(省略)
添付資料
・資料1 エイズ動向委員会及びエイズ診断基準の再検討に関する小委員会委員名簿(省略)
・資料2 小委員会における検討課題(省略)