厚生省発健医第22号
平成元年2月10日
各都道府県知事
各指定都市市長
殿
厚生事務次官

後天性免疫不全症候群の予防に関する法律の施行について(依命通知)

 後天性免疫不全症候群の予防に関する法律は、平成元年1月17日法律第2号をもって公布され、同年2月17日から施行される。
 後天性免疫不全症候群(以下「エイズ」という。)は、治療法が確立されていない新しい感染症で、そのまん延は世界的に深刻な状況にあり、我が国においても緊急に総合的な対策が必要とされている。
 この法律は、人権の保護に配慮しつつ、エイズの伝染の防止その他その予防に関し法律上の措置が必要な事項について定めることにより、エイズのまん延の防止を図ろうとするものである。
 ついては、この法律の制度の趣旨及びその内容は下記のとおりであるので、十分御理解の上、 医療関係者その他関係機関等にその周知徹底を図るとともに、国民の理解と協力を求め、円滑な施行に万全を期されたく、命により通知する。                    
第1 法律制度の趣旨及び背景

  エイズは昭和56年に初めて米国で報告された新しい疾病である。その感染経路は、ウイルス を含んだ血液及び体液に限られ、感染者との性行為を除けば、日常生活で感染することはまず ないが、現在のところ確立された治療法は存在せず、また、いったん発症すると致命率の高い 重篤な疾病である。そのまん延は、世界的に深刻さを増しており、わが国においても、今後、 性行為等による感染の拡大が心配されている。
 治療法の確立されていない現在、最も重要なことは正しい知識を広く国民に普及し、感染者 の置かれた社会的状況に十分配慮していくことであるが、これと同時に治療方法やワクチン等 の研究開発を推進し、また、法律上の借置が必要な事項については法律を整備することが不可欠である。
 この法律は、プライバシー等人権の保護に格段の配慮を払い、医師と感染者の信頼関係に基づく医師の指導を感染防止の主眼と位置づけ、国、地方公共団体、国民及び医師についての責 務を定めて、一体となってこの疾病のまん延防止に努めていこうとするものである。
 なお、この法律は、昭和62年3月31日第108回国会に提出され、第113回国会において、昭和 63年1月8日一部修正の上衆議院で可決され、同年12月23日参議院で可決され、成立したものである。

第2 総則的事項

  1. 目的
     この法律は、エイズの予防に関し必要な借置を定めることにより、エイズのまん延防止を図 り、もって公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的とするものであること。
  2. 国及び地方公共団体の責務
     国及び地方公共団体は、エイズの予防に必要な施策を講ずるとともに、教育活動等を通じて エイズに関する正しい知識の普及を図るべきこと。また、国はこれらのほか、エイズに関する 情報の収集及び研究の推進に努めるべきこと。国及び地方公共団体は、これらの施策を講ずる に当たっては、エイズの患者等の人権の保護に留意すべきこと。また、エイズに関する施策が 総合的かつ円滑に実施されるよう、相互に連携を図るべきこと。
  3. 国民及び医師の責務
     国民は、エイズに関する正しい知識を持ち、その予防に必要な注意を払うように努めるとと もに、エイズの患者等の人権が損なわれることがないようにすべきこと。また、医師は、エイ ズの予防に関し国及び地方公共団体が講ずる施策に協力し、その予防に寄与するように努める べきこと。

第3 感染者の報告等に関する事項

  1. 医師の指示及び報告
     医師は、感染者であると診断したときは、当該感染者又はその保護者に対し、エイズの伝染 の防止に関し必要な指示を行い、当該感染者の年齢、性別、感染原因等を都道府県知事に報告 しなければならないこと。ただし、当該感染者が血液凝固因子製剤の投与により感染したと認 められる場合には、報告することを要しないこと。
  2. 感染者の遵守事項
     感染者は、人にエイズの病原体を感染させるおそれが著しい行為をしてはならないこと。また、1の医師の指示を遵守するように努めなければならないこと。

第4 2次感染の防止に関する事項

  1. 医師の通報
    (1) 医師は、診断した感染者が第3の1の指示に従わず、かつ、多数の者にエイズの病原体を感染させるおそれがあると認めるときは、その旨及びその者の氏名、居住地等を都道府県知事に通報すること。
    (2) 医師は、診断した感染者にエイズの病原体を感染させたと認められる者が、更に多数の者に感染させるおそれがあることを知り得たときは、その旨及びその者の氏名、居住地等を都道府県知事に通報することができること。

     

  2. 健康診断の勧告等
     
    (1) 都道府県知事は、1の(2)の通報があったときは、その者に対して、感染者であるかどうかに関する医師の健康診断を受けることを勧告できること。
    (2) 都道府県知事は、(1)の勧告に従わない者に対して、当該知事の指定する医師の健康診断を受けることを命ずることができること。

     

  3. 都道府県知事の指示等
    (1) 都道府県知事は、1の(1)の通報をされた感染者若しくは2の(2)の健康診断により感染者と確認された者又はその保護者に対して、エイズの伝染の防止に関し必要な指示を行うことができること。
    (2) 都道府県知事は、2の(1)の勧告、2の(2)の命令又は(1)の指示を行おうとするときは、当該職員に1の(1)の通報をされた感染者若しくは1の(2)の通報をされた感染者又はその保護者に対して、質問をさせることができること。

第5 伝染病予防法の適用に関する事項

  この法律に基づき都道府県知事が行う事務については、これを伝染病予防法の規定による伝 染病予防事業とみなして、同法の防疫員の業務、都道府県の支弁及び国庫の負担に関する規定 を適用すること。

  第6 罰則

  1. エイズの治療等を行った医師、この法律に基づくエイズ予防事務に従事した公務員等の職務上知りえた秘密の漏えいについて所要の罰則を設け、守秘義務を強化すること。
  2. 第4の2の(2)の命令違反及び第4の3の(2)の質問に対する虚偽の答弁について、所要の罰則を設けること。

第7施行期日等

  1. 施行期日
     この法律は、公布の日から1月を経過した日から施行することとされており、平成元年2月 17日から施行されること。
  2. 施行前に行われた診断についての報告
     この法律の施行前に感染者であると診断した医師は、当該感染者が血液凝固因子製剤の投与 により感染したと認められる場合等一定の場合を除き、この法律の施行の日から1月以内に、 当該感染者の年齢、性別等を都道府県知事に報告しなければならないこと。