健医発第123号
各都道府県知事
殿
各指定都市市長
平成元年2月10日
一部改正
健 医 発 第496号
平成7年4月1日
厚生省保健医療局長

後天性免疫不全症候群の予防に関する法律の施行等について

標記については、本日付け厚生省発健医第22号貴職あて厚生事務次官通知「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律について(依命通知)」により示されたところであるが、さらに、下記事項につき御留意の上、この法律の適正な施行に遺漏なきを期されるとともに、医療関係者その他関係機関等に対する周知方につき、よろしくお願いする。
第1 法律の違旨及び施行に当たっての基本的事項
  1. 後天性免疫不全症候群の予防に関する法律(以下「法」という。)は、医師と感染者の信頼関係に基づいて、医師が指導を行うことにより感染の防止を図っていくことを主眼としたものであること。
  2. 感染したかどうか心配な人が進んで検査を受けられ、感染者が安心して療養に専念できるように、プライバシー等人権の保護には格段の配慮を払われたいこと。
  3. 法の施行に当たっては、感染者を保護するとの視点に立ち、他の者に感染させるおそれのない未成年者の感染者も相当数存在することに留意されたいこと。
  4. 法の趣旨及び内容については、法の施行事務に携わる職員に周知徹底させることはもとより、医師の果たす役割の重要性に鑑み、関係団体を通じて医師に対して周知徹底を図り、協力を求めるとともに、住民に対しても周知徹底に努められたいこと。

第2 国、地方公共団体、国民及び医師の責務について

  1. エイズの予防に関しては、正しい知識の普及、研究の推進、感染状況の把握等の施策を総合的に講じていくことが必要であるが、治療方法の確立していない現在、国民に対する正しい知識の普及が最も重要であり、これに努められたいこと。
  2. エイズについての恐怖感ばかりが強調されることにより、感染者に対する差別や偏見が存在するとの指摘がされていることを踏まえ、各般の施策の実施に当たっては、差別の助長といったことにつながらぬよう十分に留意し、正しい知識の普及に資するよう意を用いて行われたいこと。

第3 医師の指示及び報告について

  1. 医師が感染者を診断した場合に行う指示は、エイズのウイルスの感染経路が限定されていることから、他人に感染させないよう、感染者自身に自覚をもった行動をすることを求めるものであること。
  2. 指示の内容としては、
    (1) 日常生活において、血液が他人に触れないよう配慮すること。
    (2) 性的接触等において、傷つきやすい性的接触方法や相手に自分の体液を直接触れさせるような性的接触方法を避け、不特定の相手との性的接触を避けること等が考えられること。
  3. 感染者についての都道府県知事(指定都市及び中核市の市長を含む。以下同じ。)への報告は、感染者の発生状況を疫学的に把握することを目的としたものであり、医師は、感染者の氏名、住所等個人を特定する情報は報告せず、年齢、性別、臨床診断、診断年月日、感染原因等の疫学的情報のみを報告するものであること。
  4. 法の施行前に診断された感染者についても、同様に、医師は、感染者の年齢、性別、臨床診断、診断年月日、感染原因等の疫学的情報のみを法の施行後1月以内(平成元年3月16日まで)に都道府県知事に報告するものであること。
     ただし、血液凝固因子製剤の投与により感染したと認められる場合及び次に掲げる通知に基づき既に報告が行われている場合には、報告することを要しないこと。
    ア. 昭和59年9月20日付け健医発第349号厚生省保健医療局長通知「AIDS調査の実施について」
    イ. 昭和60年7月12日付け健医発第881号厚生省保健医療局長通知「AIDS調査の実施について」
    ウ. 昭和61年5月1日付け健医発第556号厚生省保健医療局長通知「AIDS調査の実施について」
    エ. 昭和62年1月28日付け健医発第62号厚生省保健医療局長通知「AIDS調査の実施について」

第4 感染者の遵守事項について

  1. エイズの感染を防ぐには、感染者自身が他の者に感染させないよう自覚を持って行動することが必要であり、具体的には、医師の指示を遵守することが重要であること。
  2. 感染者の妊娠、出産については、最終的に本人の意思により決定されるべきことであって、法第6条第1項について、これを抑制する趣旨に解してはならないこと。

第5 医師から都道府県知事への通報について

  1. 多数の者に感染させるおそれのある感染者の通報
    (1) 感染者が法第5条の規定による医師の指示に従っておらず、かつ、多数の者にエイズの病原体を感染させるおそれがあると認められる場合には、公衆衛生上、感染防止の指導の一層の徹底を図る必要があることから、医師による感染防止の指導を続けるとともに、医師から都道府県知事への通報を求め、都道府県知事はこれを受けて、法第9条の指示等の措置を行うことができることとするものであること。
    (2) 多数の者に感染させるおそれがあるとの判断を行うに当たって、医師は、感染者に対して、まず、指示の徹底を図るとともに、問診により感染者の状態の把握に努め、その結果を慎重に検討すべきこと。
    (3) 多数の者に感染させるおそれがある場合とは具体的には次のような場合であること。
    (ア) 配偶者又はこれに準ずる者以外の2人以上の者を相手として、感染防止のための方法を講じないで、性交渉を常習的に行っており、これをさらに行うおそれがある場合。
    (イ) 2人以上の者を相手として、注射針、注射筒を共用した静脈注射による薬物の使用を常習的に行っており、これをさらに行うおそれがある場合。
  2. 感染者の感染源と認められる者で多数の者に感染させるおそれのある者の通報
    (1) 医師が感染者に対して問診を行う中で、その感染源と認められるものが明らかとなり、かつ、その者が多数の者にエイズの病原体を感染させるおそれがあると認められる場合には、公衆衛生上、医師による感染防止の指導が行われるようにしていく必要があることから、医師からその旨を都道府県知事へ通報できることとし、都道府県知事はこれを受けて、法第8条の健康診断の勧告等の措置を行うことができることとするものであること。
    (2) 多数の者に感染させるおそれについては、1.(3)と同様であること。

第6 都道府県知事等が行う健康診断の勧告、命令、伝染防止上必要な指示及び質問について

  1. 健康診断の勧告、命令
    (1) 感染の心配のある者や感染するかもしれない機会の多い者には、自発的に健康診断を受け、健康管理にあたることが重要であるが、法第7条第2項の通報に孫る者については、現に感染しているおそれが高く、かつ、多数の者に感染させるおそれのあるものと認められるものであることから、自発的に受診することを都道府県知事が勧告することができることとするものであること。
    (2) 都道府県知事は、勧告に従わない者に対しては、健康診断の受診を命ずることができるものであること。
  2. 伝染防止上必要な指示
     法第7条第1項の通報に係る者及び第8条第2項の命令の結果、感染者であると判明した者については、都道府県知事は、多数の者に感染させるおそれのある行為をやめ、医師の下でその指導を受けるよう、必要な指示を行うことができるものであること。
  3. 質問
    (1) 健康診断の勧告、命令及び伝染防止上必要な指示を円滑に行うため必要があるときは、都道府県知事は、その職員に、医師の通報に係る者について、質問をさせることができるものであること。
    (2) 質問を行うに当たっては、後天性免疫不全症候群の予防に関する法律施行規則(平成元年厚生省令第4号)により定められた様式による身分を示す証明書を携帯し、請求があったときは、これを呈示しなければならないこと。

第7 その他

  1. 法に基づき都道府県知事が行う事務については、伝染病予防法の規定による伝染病予防法とみなして、伝染病予防法の都道府県の支弁及び国庫の負担に関する規定が適用され、当該事務に要する費用については、2分の1の国庫負担が行われるものであること。
  2. 「AIDS調査の実施について」(昭和62年1月28日付け健医発第62号本職通知)は、本年2月17日をもって廃止する。