都道府県
政 令 市 衛生主管部(局)長 殿
特 別 区
健医感発 第14号
昭和62年2月26日
一部改正
健医感発第89号
昭和63年12月15日
厚生省保健医療局結核難病感染症課
感染症対策室長

AIDS感染予防に関する留意点について

 昭和62年1月28日付健医発第62号厚生省保健医療局長通知によりAIDSの感染防止のための衛 生教育等について御高配をお願いしたところであるが、今般、AIDSサーベイランス委員会の意 見を踏まえ、AIDS感染予防に関する留意点を別紙のとおり取りまとめたので、住民衛生教育等 の実施に当たり参考にされたい。  また、関係部局、関係団体等への周知方も、あわせてよろしくお取り計らい願いたい。 
別紙

AIDS感染予防に関する留意点

1.AIDSの概要
 AIDS(後天性免疫不全症候群)は、エイズウイルス(HIV、ヒト免疫不全ウイルス)の感染により引き起こされ、細胞性免疫不全状態を主な病態とする疾患である。
 感染は、エイズウイルス保有者の血液や体液を介するとされているが、これまでの疫学調査では、ほぼ血液による汚染又は性的接触に限られている。ウイルスの感染様式はB型肝炎ウイルスと類似しているが、感染力はこれより弱い。
 エイズウイルスの保有は、抗HIV抗体検査が陽性であることにより証明される。抗HIV抗体陽性者は、臨床的には、無症候性ウイルスキャリアからAIDSの患者までいくつかの段階に分けられる。AIDSの診断には、昭和62年1月28日付健医発第62号厚生省保健医療局長通知別添の「AIDS臨床診断の手引き」が参考となる。
 予防ワクチンは未だ開発されていない。ウイルス感染後、体内からウイルスを除去する方法も発見されていない。また、発病後の治療方法も確立しておらず、現在のところ対症療法が中心となる。

2.AIDSの一般的予防方法
 AIDSの感染予防の徹底を図るためには、広く国民に対し、AIDSに関する正しい知識の普及がなされていることが重要である。特に感染予防方法については、以下の2点について充分周知を図る必要がある。
(1) 血液を介する感染の防止
 感染血液による汚染の主要な機会である献血血液については既に最善の対策がとられているため、一般日常生活では特に感染の危険性はない。ただし、誰のものであれ血液は、エイズウイルス以外にも他の感染症の原因となる病原体等を含んでいる可能性もあり、日頃から衛生的な取扱いをすることが望ましい。
1) 血液に汚染された体、衣服等は、なるべく早く、石鹸又は洗剤を用いて、流水で十分に洗浄する。
2) カミソリ、歯ブラシ、タオル等血液のつきやすい日用品は、各人の専用とする。
(2) 性的接触による感染の防止
 性的接触は、AIDSの主要な感染経路であり、男女とも、以下の点について十分な注意が必要である。
1) 不特定の相手との性的接触は避ける。
2) 次に掲げる者との性的接触は、特にAIDSに感染する危険性が高い。
ア. AIDS患者又はAIDSの疑わしい者
イ. 男性同性愛者や静脈注射等による薬物濫用者
ウ. AIDS多発国の住民(男女とも、特に売いん常習者等)
エ. 以上の者と性的接触のある者
3) 肛門や口を便用する性的接触は、男女ともにAIDS感染の危険性が高いので避ける。
4) コンドームの使用等により、相手の体液に直接触れないようにすることはAIDS感染の防止に有効である。

3.陽性者からの二次感染の防止対策
 二次感染防止の観点からは、症状の有無にかかわらず抗HIV抗体陽性者(以下「陽性者」という。)については、以下の点に留意する必要がある。

(1) 本人への保健指導
1) 日常生活に関して
 基本的には、陽性者の血液または体液が他人に触れないような配慮をするよう指導する。
ア. 血液、分泌物が付着した物は、石鹸を用いて流水でよく洗い流す。洗浄が十分にできない物は、焼却することが望ましく、ゴミ集積場所に出す場合はビニール袋等でしっかり包む。
イ. 傷や月経時の出血は、なるべく自分で処理する。
ウ. カミソリ、歯ブラシ、タオル等の血液のつきやすい日用品は、他人と共有しない。
エ. 乳幼児に口移しに食物を与えない。
2) 性的接触について
 性的接触の相手への感染防止のためには、傷つきやすい性的接触の方法を避けること、相手に自分の体液を直接触れさせない配慮をすることが有効である。陽性者には、そのことを十分理解させる。
ア. 皮膚や粘膜に傷をつけるような性的接触はさける。
イ. 肛門や口を使用する性的接触は避ける。
ウ. コンドームの使用等により、自分の体液を相手に直接触れさせない方法を工夫する。
3) その他
ア. 妊娠する可能性のある女性である場合は、母子感染の可能性等について理解が必要と考えられるので、あらかじめ医師への相談を勧める。
イ. 血液、臓器、精液などの提供は、絶対、行ってはならない。
ウ. 健康管理上、医療機関での定期的な受診を勧める。
エ. 陽性者の家族、性的接触の相手等には、陽性者本人を通じて、速やかにAIDSに関する相談、検査を受けるように勧める。
(2) 医療機関等保健医療施設での留意点
 医療機関等保健医療施設における陽性者の取扱い方や指導方法については、基本的には、B型肝炎ウイルス・キャリアの場合に準ずるものとし、「B型肝炎医療機関内感染対策ガイドライン」(昭和55年11月1日 B型肝炎研究班)を参考にする。
1) 診察、処置等に際して
ア. 患者等が陽性者であるか否かにかかわらず観血的処置に際しては、ゴム手袋を使用し、血液を浴びるおそれのある場合は、必要に応じて予防衣、マスク、予防眼鏡(ゴーグル)等を着用することが望ましい。患者等が陽性者である場合、あるいは処置者の手指に創傷や炎症がある場合は、特にこれらの配慮が重要である。
イ. 陽性者の血液、体液で汚染される可能性のある医療器具等は、原則としてディスポーザブルのものを用いる。再使用する場合には、十分洗浄の後、次亜塩素酸ナトリウム液(有効塩素濃度1%)等で消毒することが必要である。
ウ. 陽性者から血液等を採取する場合、注射器・注射針も原則としてディスポーザブルのものを用いる。やむを得ず再使用する場合には、十分洗浄の後、次亜塩素酸ナトリウム液等で消毒することが必要である。
エ. 検査用に採取した患者の血液、体液の容器には、関係者に注意を促す標識をつける。
オ. 保健医療従事者の手指等が陽性者の血液、体液等で汚染された場合には、石鹸を用いて流水で十分に洗い、又は次亜塩素酸ナトリウム液に浸した脱脂綿でふきとる。
カ. その他の消毒方法については、別表「エイズウイルスの消毒方法」を参考にする。
2) 入院等陽性者の収容に際して
ア. 通常の接触ではHIVの感染は起こらないため、他の患者への二次感染防止という観点からは、HIV感染者を隔離する必要はない。
 しかし、免疫能の低下の兆候が明らかな病態の場合は、他の患者や外来者からの病原体による感染防止等、HIV感染者に対する医療上の必要性という観点から、個室へ収容する必要性が高い。また、大小便の失禁、中枢神経系の疾患による行動異常などの症状が重く、身辺を清潔に保ち難い者についても、必要に応じて個室に収容する。
イ. 食器等は、一般の者の場合と同様に洗剤を用いてよく洗浄すれば、それ以上の特別な配慮は必要ない。
ウ. 面会も、特に制限する必要はない。
(3) 職場、学校等の集団生活での考え方
 エイズウイルスは感染力が非常に弱いため、通常の社会生活では感染した例がない。そのため、陽性者との集団生活の機会においても、特別な配慮は不要である。
 しかし、人間の血液は、エイズウイルス以外にも、他の感染症の原因となる病原体等を含んでいる可能性があり、その中には非A非B型肝炎等のように保有者を確認することができないものも含まれている。そのため、エイズの抗体陽性者の有無にかかわらず、日頃から、血液については衛生的な取扱いをする習慣を徹底することが重要である。

4.その他

(1) 保健指導上の留意事項
 二次感染予防の観点から、陽性者に対しては、病名又は抗体陽性であることを告知することを原則とする。ただし告知は、医師が陽性者の心理状態等を十分配慮して慎重に行うことが必要である。また、陽性者の家族に対する告知は、陽性者本人の承諾を得て行う。
 告知の有無にかかわらず、医師は二次感染防止の観点から、日常生活での注意事項の徹底を図るとともに、陽性者本人を通じて、性的接触者等が速やかに医療機関を受診し、相談、検査を受けるよう指導する。
(2) 秘密保持
 保健医療関係者及び行政関係者は、個人に関して知り得た情報については、その秘密保持に最大の配慮を払うことが必要である。



別表
    エイズウイルスの消毒方法
処理方法 処理条件
次亜塩素酸ナトリウム 10.5%,10分~30分
フォルムアルデヒド 5%,10分~30分
エタノール 70%,10分~30分
グルタールアルデビド 2%,10分~30分
煮  沸 20分    
オートフレーブ 121℃(250°F),20分
WHO資料(WHO/CDS/AIDS/86.1)による