健 医 発 第825号
平成5年7月28日
各 都道府県知事 殿
厚生省保健医療局長

エイズ治療の拠点病院の整備について(通知)

 エイズ対策の推進については、日頃より種々ご協力いただいているところであるが、急増するエイズ患者等が安心して医療を受ける体制を整備することが緊急の課題となっていることに鑑み、今般、エイズ治療の拠点病院整備について、下記のとおり、考え方をとりまとめたので、各都道府県におかれても、これを踏まえ、エイズ医療体制の整備を図るようお願いする。
 また、各都道府県において、拠点病院を選定された場合には、速やかに当職あて、御連絡いただくよう併せてお願いする。
 なお、拠点病院名の公表等その取扱いについては、当該病院や各都道府県等の御意向を十分踏まえ対処することとしているので、念のため申し添える。
1 エイズ診療の基本的あり方
 エイズ診療の基本的な考え方は、どこの医療機関でもその機能に応じてエイズ患者等を受け入れることである。すなわち、住民に身近な医療機関において一般的な診療を行い、地域の拠点病院において重症患者に対する総合的、専門的医療を提供する等、その機能に応じて診療を行うことができるようにすることが必要である。そのため、各地域の中でエイズ診療の拠点となる病院を確保し、そこを拠点として地域の他の医療機関においてもエイズ患者等の受け入れを進めていくことが適切である。

2 エイズ診療の拠点病院の整備
 エイズ診療の拠点病院の機能として、エイズに関する総合的かつ高度な医療の提供があげられる。また、エイズ診療については常に新しい知見が報告されることから、拠点病院においては、情報の収集と地域の他の医療機関への情報提供及び地域内の医療従事者に対する教育を行う機能も期待される。
 都道府県は、地域の実状を勘案しつつ関係機関と協議の上、エイズ診療拠点病院を選定・確保するとともに、地域のエイズ対策推進協議会を活用すること等により、拠点病院と地域の他の医療機関とのエイズ診療の連携システム及び教育・技術的支援システムを作ることが望ましい。
 各都道府県に必要な拠点病院数は、エイズ患者数等とその将来予測により異なるが、エイズ患者等の交通の利便性を考慮し、各都道府県に2ケ所以上整備する必要がある。さらに、この拠点病院については、地域の医療機関に周知するとともに、エイズ患者等にも明らかにすることが望ましい。

3 エイズ診療拠点病院のあり方

(1) 総合的なエイズ診療の実施
 エイズ患者には、全身症状や呼吸器症状、消化器症状、眼科的症状、神経症状、悪性腫瘍等様々な症状が現れ、その対応が必要なことから、拠点病院において、総合的なエイズ診療を行うことが期待される。拠点病院においては、少なくとも拠点病院内の内科においてエイズ患者等の入院治療を行うことができることが必要である。さらに、拠点病院内あるいは他の医療機関との連携により、外科、皮膚科、精神科、眼科、産科、歯科等の協力が得られる体制を確保することが望ましい。
(2) 必要な医療機器及び個室の整備
 拠点病院においては、院内感染防止等の観点から、エイズ患者等の診療のための機器及び備品や、医療従事者を保護するためのゴーグル、手袋、マスク等やディスポーザブルの器具等が整備されている必要がある。
 また、重症の感染症、下痢、中枢神経障害のある重症のエイズ患者に対処するために、あるいは、エイズ患者等の心理的ストレスを軽減するために、エイズ患者等のための個室が整備されていることが望ましい。
(3) カウンセリング体制の整備
 エイズ診療において、患者やその家族へのカウンセリングは不可欠であるため拠点病院においては、カウンセリングの講習を受けた医師や看護婦等を含め、カウンセリングを行える体制をとることが望ましい。
(4) 地域の他の医療機関との連携
 拠点病院は、エイズ患者等の状況に応じて、地域の他の医療機関との役割分担・連携に努めるとともに、他の医療機関に対して教育・技術的支援を行う。
(5) 院内感染防止体制の整備
 拠点病院内においては、「HIV医療機関内感染予防対策指針」(平成元年4月、厚生省作成)を参考とし、感染予防対策委員会を設置するとともに、医療用器具や検査材料の取扱い、汚染物の処理、針事故等の汚染事故時の対処方法等について院内関係者に徹底を図ることが重要である。
(6) 職員の教育、健康管理
 拠点病院内においては、その職員に対し、エイズに関する学習会や講習会の開催に努めるとともに、希望する医療従事者に対して任意にHIV抗体検査を受ける機会を用意することが望ましい。

4 拠点病院に対する支援体制等

(1) 地域の他の医療機関の役割
 拠点病院がその本来の機能を発揮し、十分なエイズ診療を行うためには、地域の他の医療機関による支援が不可欠である。すなわち、地域の他の医療機関でも、適切なエイズ診療を行うとともに、拠点病院との連携に努める必要がある。
(2) 都道府県による支援
 エイズに関する医療体制を整備するため、都道府県は拠点病院に対して積極的に支援を行う。

 

「エイズ治療の拠点病院のあり方に関する検討会」報告

平成5年7月2日

1 はじめに
 我が国においては、近年、HIV感染者及びエイズ患者(以下「エイズ患者等」という。)が急増し、その分布が全国的に拡大しており、今まさに大規模なエイズ対策を講じる必要性がある。政府においては、エイズの蔓延を防止するため、エイズ問題総合対策大綱に基づいて、積極的かつ重点的な対策を講じているところであるが、とりわけ、増加するエイズ患者等が安心して医療を受けられる医療機関を確保することは緊急の課題である。そのため、今般、エイズ患者等に対する治療やケア(以下「診療」という)の拠点病院のあり方について検討を行い、以下のとおり取りまとめたので報告する。

2 エイズ患者等をめぐる診療の現状
 エイズ患者等に対する医療体制を整備していく際の基本原則は、どこの医療機関でも安心して医療が受けられるようにすることである。しかし、1)エイズ診療の経験のない医療機関が多いこと、2)HIVに対する治療法が確立していないため、医療現場での感染に対して不安感をもつ医療従事者がいること、3)エイズ患者等を診療することで他の疾患の患者に対する診療が阻害されることを恐れる医療機関があること、等の理由からエイズ患者等の診療を行っている医療機関は必ずしも多くない。そのため、エイズ患者等が医療機関の受け入れに対して不安を持ったり、一部の医療機関に集中している状況にある。

3 エイズ診療の基本的あり方
 エイズ診療の基本的な考え方は、どこの医療機関でもその機能に応じてエイズ患者等を受け入れることである。すなわち、住民に身近な医療機関において一般的な診療を行い、地域の拠点病院において重症患者に対する総合的、専門的医療を提供する等、その機能に応じて診療を行うことができるようにすることが必要である。そのため、各地域の中でエイズ診療の拠点となる病院を確保し、そこを拠点として地域の他の医療機関においてもエイズ患者等の受け入れを進めていくことが適切である。

4 エイズ診療の拠点病院の整備
 エイズ診療の拠点病院の機能として、エイズに関する総合的かつ高度な医療の提供があげられる。また、エイズ診療については常に新しい知見が報告されることから、拠点病院においては、情報の収集と地域の他の医療機関への情報提供及び地域内の医療従事者に対する教育を行う機能も期待される。
 都道府県は、地域の実状を勘案しつつ関係機関と協議の上、エイズ診療拠点病院を選定・確保するとともに、地域のエイズ対策推進協議会を活用すること等により、拠点病院と地域の他の医療機関とのエイズ診療の連携システム及び教育・技術的支援システムを作ることが望ましい。
 各都道府県に必要な拠点病院数は、エイズ患者数等とその将来予測により異なるが、エイズ患者等の交通の利便性を考慮し、各都道府県に2カ所以上整備する必要がある。さらに、この拠点病院ついては、地域の医療機関に周知するとともに、エイズ患者等にも明らかにすることが望ましい。

5 エイズ診療拠点病院のあり方

(1) 総合的なエイズ診療の実施
 エイズ患者には、全身症状や呼吸器症状、消化器症状、眼科的症状、神経症状、悪性腫瘍等様々な症状が現れ、その対応が必要なことから、拠点病院において、総合的なエイズ診療を行うことが期待される。拠点病院においては、少なくとも拠点病院内の内科においてエイズ患者等の入院治療を行うことができることが必要である。さらに、拠点病院内あるいは他の医療機関との連携により、外科、皮膚科、精神科、眼科、産科、歯科等の協力が得られる体制を確保することが望ましい。
(2) 必要な医療機器及び個室の整備
 拠点病院においては、院内感染防止等の観点から、エイズ患者等の診療のための機器及び備品や、医療従事者を保護するためのゴーグル、手袋、マスク等やディスポーザブルの器具等が整備されている必要がある。
 また、重症の感染症、下痢、中枢神経障害のある重症のエイズ患者に対処するために、あるいは、エイズ患者等の心理的ストレスを軽減するために、エイズ患者等のための個室が整備されていることが望ましい。 
(3) カウンセリング体制の整備
 エイズ診療において、患者やその家族へのカウンセリングは不可欠であるため拠点病院においては、カウンセリングの講習を受けた医師や看護婦等を合め、カウンセリングを行える体制をとることが望ましい。
(4) 地域の他の医療機関との連携
 拠点病院は、エイズ患者等の状況に応じて、地域の他の医療機関との役割分担・連携に努めるとともに、他の医療機関に対して教育・技術的支援を行う。 
(5) 院内感染防止体制の整備
 拠点病院内においては、「HIV医療機関内感染予防対策指針」を参考とし、感染予防対策委員会を設置するとともに、医療用器具や検査材料の取扱い、汚染物の処理、針事故等の汚染事故時の対処方法等について院内関係者に徹底を図ることが重要である。
(6) 職員の教育、健康管理
 拠点病院内においては、その職員に対し、エイズに関する学習会や講習会の開催に努めるとともに、希望する医療従事者に対して任意にHIV抗体検査を受ける機会を用意することが望ましい。

6 拠点病院に対する支援体制等

(1) 地域の他の医療機関の役割
 拠点病院がその本来の機能を発揮し、十分なエイズ診療を行うためには、地域の他の医療機関による支援が不可欠である。すなわち、地域の他の医療機関でも、適切なエイズ診療を行うとともに、拠点病院との連携に努める必要がある。
(2) 医学情報支援体制
 拠点病院が地域のエイズ情報提供機関として機能するために、国立病院医療センターにあるエイズ医療情報センターの機能拡充を図り、拠点病院に対する情報提供、情報交換を積極的に進める等の学術的支援を行う。
(3) 国及び都道府県による支援
 エイズに関する医療体制を整備するため、国及び都道府県は拠点病院に対して積極的に支援を行う。

7 むすび
 エイズ診療の拠点病院の確保は、エイズ患者等が安心して医療を受けることができる体制を整備するうえで必要である。また、拠点病院がその機能を果たすためには、地域の他の医療機関との連携と地域住民の理解が不可欠である。そのため、国としても、エイズ拠点病院の整備が円滑に推進されるよう、最大限の支援を行い、我が国におけるエイズ診療の積極的な推進を図ることが望まれる。