平成12年エイズ発生動向年報
(平成12(2000)年1月1日〜12月31日)

 

発生動向の分析結果


1.平成12(2000)年報告例の主な内訳

 2000年には、HIV 感染者(以下HIVと省略)462件、AIDS患者(以下AIDSと省略)327件が報告された。感染経路別では、性的接触による感染(HIVの83.8%、AIDSの71.3%)が(図1)、国籍・性別では、日本国籍男性(HIVの 72.7%、AIDSの 72.5%)が多数を占めた(図2)。また、感染地別では、日本国籍例の大半が国内感染(HIV 80.4%、AIDS 72.5%)で(図3)、報告地別では、東京都とその他の関東・甲信越ブロックからの報告が大半を占め(HIV 71.9%、AIDS 72.8%)、近畿ブロックがそれに次いだ(HIV 11.5%、AIDS 9.8%)。
 HIVの年間報告数は前年を68件下まわり、AIDSは逆に27件の増加となった。HIVの減少は、主に日本国籍例の減少によるもので、感染経路別では異性間の性的接触と不明が減少したが、同性間の性的接触は逆に増加した。性別では男女共に減少したが、外国籍男性は増加した。感染地別では国内感染と不明、報告地別では、関東・甲信越と東京ブロックで減少したが、関東・甲信越における減少が特に大きかった(-56人)。東海ブロックでは増加した。外国国籍のHIVは昨年に続き減少したが、それは女性例の減少によるもので、男性例は逆に増加した。
 AIDSは、日本国籍で増加し、外国国籍で減少した。日本国籍の増加は異性間と同性間の性的接触によるもので、外国国籍の減少は異性間の性的接触によるものであった。性別では、日本国籍は男女とも増加し、外国国籍は男女とも減少、感染地別では、国内、不明が増え、海外が減少、報告地別では関東・甲信越に最も大きい報告数の増加が見られたが、中・四国、九州の増加(合計+7)も注目される。(以上表1)。

 

 

2.平成12(2000)年12月31日までの累積報告例の内訳

 凝固因子製剤による感染例を除いた、2000年12月31日までの累積報告件数(報告データの確定日は2001年3月14日)は、HIV 3905件、AIDS 1913件である。感染経路別構成は、HIVでは、異性間の性的接触45.5%、同性間の性的接触28.9%、静注薬物濫用0.6%、母子感染0.6%、その他1.9%、不明22.5%であり、AIDSでもほぼ同様であった(以上表2、図4)。国籍・性別構成は、HIVでは日本国籍男性52.6%、日本国籍女性8.6%、外国国籍男性12.8%、外国国籍女性26.0%であり、AIDSでは、それぞれ68.0%、5.5%、17.9%、8.6%であった(以上表2)。

 

3.HIV及びAIDSの動向 (凝固因子製剤による感染例を除く)

  HIVの年間報告件数は1992年のピーク後減少したが、1996年以降一貫して増加傾向が続いた。2000年にはやや減少したが、1年間の報告数としては過去2番目であった。AIDSの年間報告件数は1997年までは増加を続け、1998年を除けばほぼ一貫して増加を続けている(以上表3-1、図5)。近年のHIVの増加は、主に日本国籍男性例の増加によるもので、日本国籍女性は過去5年間ほぼ横這いの状況にある。外国国籍者の報告数は過去6年間、横這いないし減少傾向にある。AIDSは、日本国籍男性において増加が著しいが、他の国籍・性別区分ではいずれも微増もしくは横這いである(以上表3-1、図6)。
 国籍を世界地域区分別に分類して動向を検討したが、HIV、AIDSともに、日本国籍例以外では、東南アジアがもっとも多く、ラテンアメリカ、サハラ以南アフリカがそれに次ぎ、サハラ以南アフリカと東南アジアは過去5年間減少を続けている。この結果ラテンアメリカの相対的比重が高まった。日本国籍以外の報告例の割合は、過去5年間、HIVでは急速に減少傾向、AIDSでは漸減傾向にあり、平成12(2000)年にはHIVで16.5%、AIDSで19.0%であった。(以上表3-2)。
  感染経路別にみると、日本国籍例のHIVでは、異性間の性的接触と感染経路不明例が1999年まで増加を続け2000年に減少したが、同性間の性的接触は引き続き増加した。外国国籍のHIVではいずれの感染経路区分も漸減ないし横這いである。AIDSでは、日本国籍例は異性間の性的接触による報告が増加し、同性間の性的接触も過去4年間増加傾向が認められる。感染経路不明も過去3年間増加傾向を示している。外国国籍例では、異性間の性的接触による報告が過去5年間増減を繰り返している。感染経路不明例は減少傾向にある。(以上表4、図7)。感染経路不明例の割合は、HIVでは、例年外国国籍例の40%前後を占め、日本国籍例では例年15%前後で推移してきたが、2000年に低下した。AIDSでは、感染経路不明例の割合は近年比較的安定しているが、その割合は累計で外国国籍例43.5%、日本国籍例21.2%であった(以上表4)。 年齢分布は、HIVでは国籍にかかわらず、男性では25-34歳、女性では20-29歳にピークが見られるが(以上表6-1)、AIDSでは、日本国籍男性で40-54歳と特に高い以外は、一般に25-34歳にピークがある(以上表6-2)。また、感染地別では、HIVにおいて、日本国籍男性の国内感染例と感染地不明例が1999年まで増加を続け2000年にやや減少したが、海外感染は横ばいである。外国国籍男女では国内感染も海外感染も減少ないし横這い状態にある。(以上表7、図8)。AIDSでは、日本国籍男女の国内感染例が大きく増加し、それ以外の区分では、横這いないし微増傾向にある(以上表7)。
 報告地別では、日本国籍男性のHIVが、関東・甲信越で1999年まで増加したが、2000年に減少した。AIDSはこれらのブロックでは逆に増加した。他のブロックでは微増もしくは横這いであった。日本国籍女性、外国国籍者では大きな変動は見られなかった(以上表8)。

 

 

 

 

1) 国籍・性別のHIVの動向

日本国籍男性:報告累計(2053件)の内、同性間の性的接触が49.5%、次いで異性間の性的接触が36.9%で大半(86.4%)を占めている。平成12(2000)年には、異性間の性的接触と感染経路不明例が減少し、同性間の性的接触が増加した(以上表5、図9)。異性間の性的接触は、年齢のピークが30-34歳、国内感染が大半(64.3%)を占める(以上表9-1)。国内感染例の割合は過去5年間70%でほぼ横這いである。報告地別では、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が42.0%、東京都が33.6%で、年間報告数は、東京都、関東・甲信越(東京都を除く)で減少したが、他ブロックでは微増ないし横這いである(以上表9-1)。一方、同性間の性的接触では、25-29歳に年齢のピークがあるが、40歳代で減少し、20‐24歳、30‐34歳、50‐54歳で増加した。国内感染の割合が高く、過去5年間90%前後を占めている。東京都が56.8%、関東・甲信越ブロックが19.7%を占め、異性間に比べ東京都からの報告割合が大きい(以上表9-2、図10)。東京都では平成11(1999)年に急増し、平成12(2000)年も引き続き増加した。関東・甲信越ブロック(東京都を除く)および九州ブロックでは減少したが、近畿ブロックでは増加が続いている。(以上表9-2)。感染経路不明例は平成11(1999)年まで増加し、平成12(2000)年に減少したが、累計で11.3%を占める。(以上表5)。

日本国籍女性:異性間の性的接触は、変動しつつ増加傾向にある(以上表5、図9)。年齢のピークは 25-29歳であるが、15-19歳の感染例の割合は6.1%あり日本国籍男性(1.1%)に比べて大きい。感染地の大半はほぼ一貫して国内(75.0%)であり、報告地は、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が42.1%、東京都が27.1%を占め(以上表9-3、図10)、日本国籍男性に比べると、地域的に分散する傾向がある(以上表9-3)。感染経路不明例は、例年数例で増加傾向は見られない(以上表5)。

外国国籍男性:日本国籍男性と異なり、異性間の性的接触の割合が同性間の性的接触よりも大きい(34.1% vs 22.3%)。不明例を含め、いずれの感染経路にも明確な増減傾向は見られない。(以上表5、図9)。異性間の性的接触による感染例での年齢のピークは30-34歳、感染地は海外が大半(58.2%)であるが、国内感染も18.8%存在する。報告地は、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)と東京都が同数で、合わせて75.2%を占める(以上表9-4、図10)。同性間の性的接触は、年齢のピークが25-29歳とやや若く、累計では海外感染が大きいが(39.6%)、1995年以降は国内感染の割合が大きくなっている。67.6%が東京都に集中している(以上表9-5、図10)。感染経路不明例は、数、年次推移ともにほぼ異性間の性的接触に近い(以上表5)。

外国国籍女性:異性間の性的接触が、1992年に大きなピークを示した後減少し、その後多少変動しつつ減少を続けている(以上表5、図9)。年齢のピークは、20-24歳と若く、感染地は海外感染と不明が多いが、国内感染も18.1%存在する。報告地は、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が66.4%、東京都が21.4%を占める(以上表9-6、図10)。感染経路不明例は、数、年次推移ともにほぼ異性間の性的接触に近い(以上表5)。

 

 

 

2) 国籍・性別のAIDSの動向

日本国籍男性:サーベイランス開始から増加が続いた異性間の性的接触による報告は、1998年に減少したものの、1999年、2000年と100名を超える数が報告されている。同性間の性的接触による報告は過去4年間増加が続いている(以上表5)。異性間の性的接触では、年齢のピークは45-49歳、感染地は、1994年までは海外感染が主であったが、1995年以降は国内感染が主となった。累計では、国内感染は58.9%を占める。報告地は、累計で関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が48.8%、東京都が25.2%を占める(以上表9-1、図10)。同性間の性的接触では、年齢のピークは40-44歳であるが30-49歳に幅広く広がっている。感染地は、国内が中心(75.8%)でその傾向は1991年以降一貫している。報告地は東京都が中心で53.9%、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が25.0%、近畿が11.1%を占める(以上表9-2、図10)。感染経路不明例が20.8%存在する(以上表5)。

日本国籍女性:異性間の性的接触は、1995年以来、年間約6〜10件と横ばいであったが2000年に増加が見られた(以上表5)。年齢のピークは25-29歳、国内感染が主(66.2%)で、報告地は相対的には関東・甲信越ブロック(東京都を除く)に多い(41.2%)が、比較的全国に分散している(以上表9-3、図10)。感染経路不明例が25.5%存在する(以上表5)。

外国国籍男性: 異性間の性的接触が1992年以来最も多い感染経路であり、1995年以来10〜30の間を変動している。同性間の性的接触は年間10例未満にとどまっている(以上表5)。異性間の性的接触では、年齢のピークは30-34歳、海外感染が主(65.6%)で、東京都、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)に72.0%が集中している(以上表9-4、図10)。同性間の性的接触では、年齢のピークは30-34歳、海外感染が主(54.2%)で、東京都に56.3%が集中している(以上表9-5、図10)。感染経路不明例が43.9%存在する(以上表5)。

外国国籍女性:異性間の性的接触と感染経路不明例がほぼ同数を占める(以上表5)。異性間の性的接触の年齢のピークは25-29歳、主な感染地は海外(50.6%)、報告地は関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が中心で62.4%を占める(以上表9-6、図10)。

 

 

4.都道府県別の報告件数

 関東・甲信越ブロックで、1999年にHIVが急増した(ほとんど東京都からの報告増による)が、2000年には同ブロック全県で減少した。近畿ブロックでは1995年以来増加が続いていたが2000年にやや減少した。九州ブロックでは1999年に急増したが2000年に減少した(表10-1、図11)。AIDSは北海道・東北と北陸ブロックを除けば、増加傾向が続いている(図11)。人口10万対の累積報告件数は、全国ではHIV 3.087(表10-1)、AIDS 1.512(表10-4)である。人口10万対報告件数の多い都道府県の上位5つは、日本国籍例の場合、HIVでは、東京都、千葉県、神奈川県、茨城県、埼玉県(表10-2)、AIDSでは、東京都、茨城県、栃木県、千葉県、神奈川県(表10-5)で、外国国籍例の場合、HIVでは、茨城県、長野県、山梨県、東京都、栃木県(表10-3)、AIDSでは、茨城県、山梨県、長野県、東京都、栃木県である(表10-6)。

 

5.AIDS報告における指標疾患の分布

 日本国籍と外国国籍のAIDSの累計報告数(1407と506)を分母として、各指標疾患の分布を見ると、分布は両国籍群でほぼ類似しており、ニューモシスチス・カリニ肺炎が41-46%ともっとも多く、カンジダ、HIV消耗性症候群が12-23%を占める。両群では活動性結核に差が認められ、日本国籍例が7.2 %であるのに対し、外国国籍例では、13.2%とほぼ2倍になっている。サイトメガロウイルス感染症は逆に日本国籍例に割合が高く、日本国籍10.2%、外国国籍4.2%となっている(以上表11)。

6.病変死亡の動向

 エイズ予防法に基づく1999年3月31日までの報告病変死亡例は596件である。内訳は、日本国籍男性が445件、女性が40件、計485件、外国国籍男性が77件、女性が34件、計111件である(以上表12)。また、1999年4月1日から2000年12月31日までに厚生省に報告された病変死亡例は83件で、この内、日本国籍男性が62件、女性が5件、計67件、外国国籍男性が11件、女性が5件、計16件である。2000年12月末までに679件の病変死亡の報告が寄せられた。

  1999年4月から病変報告は医師の任意によっている。2000年中の報告は日本国籍男性が32件、女性が3件、計35件、外国国籍男性が5件、女性が1件、計41件である。法改正後の報告数はほぼ前年と同様である。近年日本国籍男女で病変死亡例数の減少がみられる。


7.報告年と診断年の比較

 日本国籍の HIV及び外国国籍のHIVとAIDSについては、例年95%以上が診断年と同じ年内に報告されているが、1998年には診断例のうちHIVの7.9%が、AIDSの6.5%が1999年に報告されている。これは感染症法の施行に伴う効果と考えられる。日本国籍のAIDSで95%を下回る年がしばしば見られる(以上表13)。


8.まとめ

 2000年のHIV、AIDS報告件数および年次動向の特徴をまとめると以下のようであった。

(1) HIV感染者の報告数は、1996年以降増加を続け、2000年に低下したが、それでも過去2番目に高い報告数となった。報告されたHIV感染者の70%以上が日本国籍男性であり、推定される感染地域は日本国籍者の80%が国内感染であった。感染経路は、性的接触による感染が84%(異性間37%、同性間47%)を占め、特に日本国籍男性では性感染が90%を占めていた。
(2) 2000年に減少したのは日本国籍男女の異性間の性的接触例であり、同性間の性的接触例は引き続き増加した。この結果、同性間の性的接触による感染例の報告数が異性間の性的接触を上回った。
(3) AIDSの報告数は、1999年に引き続き増加し、327件が報告された。2000年には、日本国籍男性の同性間性的接触と感染経路不明例の増加が目立った。
(4) 外国国籍例は、HIV、AIDSともに、報告数の20%程度を占め、東南アジア、ラテンアメリカの順に多い。HIV報告例は漸減傾向にあるがAIDSはほぼ横這いである。
(5) HIV、AIDSともに、静注薬物濫用や母子感染による報告例はいずれも1%未満にとどまっている。
(6) 日本国籍例での推定感染地域は、2000年ではHIVの80%、AIDSの73%が国内感染である。
(7) 報告地は、関東・甲信越ブロックに集中しているが、近畿ブロックにおける近年の報告数の増加が注目される。

 

 以上、わが国におけるHIV感染は、日本国籍男性を中心に、国内での性的接触を感染経路として流行拡大が続いており、異性間および同性間の性感染防止に向けた積極的な対策を進めなければならない。また、関東・甲信越ブロックに加えて、近畿ブロックでの報告増が続いており、地域の状況に応じた機敏な対策の展開が望まれる。
 なお、現行の発生動向調査システムには、HIV感染者、AIDS患者数の正確な把握という点で、不十分な面があるため、その解消に向けてのシステムの改善が必要である。


添付資料

2000年12月時点におけるHIV/AIDSの世界的流行状況

国連合同エイズ計画

2000年中に新たにHIVに感染した人々の数 総数  530万人
成人 470万人
  (女性 220万人)
15歳未満の子供 60万人
HIV/AIDSと共に生きている人々 総数 3610万人
成人 3470万人
  (女性 1640万人)
15歳未満の子供 140万人
2000年中にAIDSで死亡した人々 総数 300万人
成人 250万人
  (女性 130万人)
15歳未満の子供 50万人
流行開始以来の累積AIDS死亡者数 総数 2180万人
成人  1750万人
  (女性 900万人)
15歳未満の子供 430万人