発生動向の分析結果


1. 平成13(2001)年報告例の主な内訳

 2001年には、HIV 感染者(以下HIVと省略)621件、AIDS患者(以下AIDSと省略)332件が報告された。感染経路別では、性的接触による感染(HIVの84.9%、AIDSの69.3%)が(図1)、国籍・性別では、日本国籍男性(HIVの 76.5%、AIDSの 66.6%)が多数を占めた(図2)。また、感染地別では、国内感染が大半(HIV 77.9%、AIDS 60.8%)を占め(図3)、報告地別では、東京都とその他の関東・甲信越ブロックからの報告が大半を占め(HIV 64.1%、AIDS 66.9%)、近畿ブロックがそれに次いだ(HIV 16.0%、AIDS 14.7%)(表1)。

 HIVの年間報告数は前年を159件上まわり、AIDSは3件の増加となった。HIVの増加は、日本国籍例の増加によるもので、感染経路別では同性間および異性間の性的接触、性別では男性、感染地別では国内感染、報告地別では、北陸を除く全てのブロックで増加し、東京都、近畿、東海ブロックの増加が特に目立った。外国国籍のHIVは昨年とほぼ同数であった。

 AIDSは、日本国籍例が15件減少し、外国国籍例が18件増加した。感染経路別では日本国籍の同性間の性的接触、外国国籍の不明で増加した。性別では、日本国籍は女性、外国国籍は男性が増え、感染地別では外国国籍の国内感染が増え、報告地別では北海道、東北、東京、近畿、九州の地域で増加し、東京都、近畿の増加が特に目立った(以上表1)。




2.平成13(2001)年12月31日までの累積報告例の内訳

 凝固因子製剤による感染例を除いた、2001年12月31日までの累積報告件数(報告データの確定日は2002年2月27日)は、HIV 4526件、AIDS 2248件である。感染経路別構成は、HIVでは、異性間の性的接触43.9%、同性間の性的接触31.8%、静注薬物濫用0.6%、母子感染0.6%、その他1.9%、不明21.2%であり、AIDSでもほぼ同様であった(以上表2、図4)。国籍・性別構成は、HIVでは日本国籍男性55.9%、日本国籍女性8.6%、外国国籍男性12.3%、外国国籍女性23.3%であり、AIDSでは、それぞれ67.8%、5.8%、17.9%、8.5%であった(以上表2)。

 

3.HIV及びAIDSの動向 (凝固因子製剤による感染例を除く)

 HIVの年間報告件数は1992年のピーク後減少したが、1996年以降一貫して増加傾向が続き、2001年報告件数は1999年を上回り過去最高となった。AIDSの年間報告件数は1997年まで増加を続け、1998年に初めて減少に転じたが1999年からは再び増加の傾向にある(以上表3-1)。HIVの増加は、主に日本国籍男性例の増加によるもので、日本国籍女性も緩やかな増加傾向にある。外国国籍例の報告数は女性では漸減傾向にあるが、男性では横這いないしは漸増傾向にある。AIDSは、日本国籍男性において著しく増加してきたが、2001年は減少した。1998年にも一度減少に転じ、その後再び増加した経緯もあり、今後の観察が必要である。外国国籍例は微増傾向で、特に男性で増加の傾向が示されている(以上表3-1、図6)。


 


 

 国籍を世界地域区分別に分類して動向を検討したところ、HIV、AIDSともに、日本国籍例以外では、東南アジアがもっとも多く、ラテンアメリカ、サハラ以南アフリカがそれに次ぎ、過去6年間、HIV報告数は漸減、AIDSではほぼ横這いに推移していた。日本国籍以外の報告例は、平成13(2001)年でHIV15.5%、AIDS26.2%を占めている。過去6年間の割合は、HIVでは漸減傾向、AIDSでは25-30%の範囲でほぼ一定している(以上表3-2)。

 感染経路別にみると、日本国籍例のHIVでは、異性間および同性間の性的接触と感染経路不明例が増加を続けており、特に同性間の性的接触による報告の増加が著しい(表4、図7a)。外国国籍のHIVではいずれの感染経路区分も減少ないし横這いである(表4、図7b)。AIDSでは、日本国籍例は異性間の性的接触による報告がこれまで増加してきたが、1997年以降同性間の性的接触による報告が増加を続けている(表4、図7c)。外国国籍例では、異性間の性的接触、および感染経路不明による報告が増減を繰り返しながらも徐々に増加傾向にある(以上表4、図7d)。

*静注薬物濫用、母子感染、その他は除く


 感染経路不明例は、HIVでは、累計の21.2%を占め、とくに外国国籍例では40%と高率であり、2001年の外国国籍HIV例でも32.2%を占めていた。一方、AIDSでは、感染経路不明例は累計で日本国籍例が20.9%、外国国籍例が44.4%を占め、2001年報告の外国国籍例では49.4%と半数に達している(以上表4)。

  年齢分布は、HIVでは国籍にかかわらず、男性では25-34歳、女性では20-29歳にピークが見られる(以上表6-1)。AIDSでは、日本国籍男性で45-49歳の報告が最も多いが、他の国籍性別では25-39歳にピークがある(以上表6-2)。また、感染地別では、HIVにおいて、日本国籍男性の国内感染例が増加を続けていること(表7、図8a)、日本国籍女性(表7、図8b)および、外国国籍男性(表7、図8c)の国内感染が増加傾向にあることが注目される。AIDSでは、日本国籍男性の国内感染例が増加し、それ以外の区分では、横這いないし微増傾向にある(以上表7)。

報告地別では、日本国籍男性のHIVが、前年に比べて全てのブロックで増加し、特に東京都55件、近畿35件、東海21件の増加で、九州ブロックも増加の兆しが見られる。AIDSでは、日本国籍男性は近畿で増加したが、他のブロックでは横這いであった。外国国籍男性は東京都と他の関東・甲信越ブロックで増加した(以上表8)。




1) 国籍・性別のHIVの動向

日本国籍男性:報告累計(2528件)の内、同性間の性的接触が52.1%、次いで異性間の性的接触が34.9%で両者が大半(87.0%)を占めている。平成13(2001)年には、同性間および異性間の性的接触と感染経路不明例が増加している(以上表5、図9a)。異性間の性的接触は、年齢のピークが累計でみると30-34歳であるが、近年男性の20歳代及び30歳代で報告増の傾向にある(以上図10a)。推定感染地は国内感染が大半(66.6%)を占め(以上表9-1)、国内感染例の割合が近年増加しつつある。報告地別では、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が41.0%、東京都が33.4%で、年間報告数は、東京都、関東・甲信越(東京都を除く)、東海および近畿の各ブロックで増加傾向にある(以上表9-1)。一方、同性間の性的接触は、25-29歳に年齢のピークがあるが、平成13(2001)年は20歳代(57件の増加)、30歳代(40件の増加)の年齢層での報告の急増が注目される(以上図10c)。また、国内感染例の割合が高く(87.5%)、2001年報告例では94.3%を占めていた。報告地は東京都が56.2%、次いで関東・甲信越ブロックが17.3%、近畿13.4%である。東京都からの報告割合が大きく、増加が続いているが、近畿をはじめ他の地域でも最近増加の傾向にある(以上表9-2、図11)。


*静注射薬物濫用、母子感染、その他は除く


日本国籍女性:異性間の性的接触は、年間報告数は少ないものの、近年緩やかに増加が続いている(以上表5、図9)。累計でみると、年齢のピークは25-29歳であるが、15-19歳の感染例は6.6%と日本国籍男性(1.0%)に比べて多く、経年的にも同様の傾向である(以上図10b)。推定感染地は国内感染(76.1%)が中心であり、報告地は、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が40.9%、東京都が28.0%を占め(以上表9-3、図11)、日本国籍男性に比べると、地域的に分散する傾向がある(以上表9-3、図11)。感染経路不明例は、例年数例にとどまり増加傾向は見られない。なお、同性間性的接触による女性の感染が1例初めて報告された(以上表5)。

外国国籍男性:異性間の性的接触は同性間の性的接触の約1.6倍で、いずれも1996年までは緩やかに増加を続け、その後横這いの傾向にある(以上表5、図9c)。異性間の性的接触による感染例は、30-34歳が多く、推定感染地は海外が54.9%であるが、国内感染も22.1%存在する。報告地は、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)と東京都がほぼ同数で、累計では合わせて75.1%を占める(以上表9-4、図11)。同性間の性的接触は、年齢のピークが異性間に比べて25-29歳とやや若く、また、これまで海外感染が中心であったが、国内感染が30.6%を占め、近年国内感染が微増傾向にある。報告地は累計の68.5%が東京都で集中しており、平成13 (2001)年でも同様である(以上表9-5、図11)。感染経路不明例は、数、年次推移ともにほぼ異性間の性的接触に類似している(以上表5)。
外国国籍女性:異性間の性的接触が、1992年に大きなピークを示した後減少し、1995年以降横這いとなり、漸減傾向にある(以上表5、図9d)。年齢のピークは、20-24歳と若く、感染地は海外感染と不明が多いが、国内感染も18.4%存在する。報告地は、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が累計の66.1%、東京都が21.8%を占める(以上表9-6、図11)。感染経路不明例は、数、年次推移ともにほぼ異性間の性的接触に近い(以上表5)。

 


2) 国籍・性別のAIDSの動向


日本国籍男性:サーベイランス開始から増加が続いたAIDSの報告は、1998年に初めて減少に転じてからは、増減を繰り返しつつ増加傾向にある。2001年は前年比15件の減少となったが、今後の推移をみる必要がある(以上表5、図12a)。なお、増減を繰り返しているのは異性間性的接触と感染経路不明による報告である。異性間の性的接触は日本国籍男性AIDS累計報告数(1524件)の46.1%を占め最も多い。年齢は累計では45-49歳がピークであり、経年的にも45-54歳にピークがある(以上表9-1、図13a)。推定感染地は、1994年までは海外感染が主であったが、1995年以降は国内感染が主となった。累計では、国内感染は61.7%を占める。報告地は、累計で関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が48.6%、東京都が25.6%を占め、平成13(2001)年でも同様であった(以上表9-1、図14)。同性間の性的接触では、年齢は30-34歳がピークで異性間に比べて若く、経年的にみても同様の傾向である。1999年以降、20歳代、30歳代の報告数の増加が続いている(以上表9-2、図13c)。推定感染地は、国内が中心(78.2%)でその傾向は1991年以降一貫している。報告地は東京都が中心で累計の51.9%、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が24.2%、近畿が11.9%を占めるが、平成13(2001)年では、近畿、東海の増加が目立っている(以上表9-2、図14)。感染経路不明例が20.5%存在する(以上表5)。

日本国籍女性:異性間の性的接触は、1995年以来、年間約6〜15件の報告である(以上表5、図12b)。年齢は累計では25-29歳が多いが、25-44歳までの年齢層はほぼ同数の報告である。推定感染地は国内感染が主(63.4%)で、報告地は相対的には関東・甲信越ブロック(東京都を除く)に多いが、比較的全国に分散している(以上表9-3、図14)。感染経路不明例が25.4%存在する(以上表5)。

外国国籍男性:異性間の性的接触が1992年以来最も多い感染経路であり、1997年以来20件前後で推移している。同性間の性的接触は年間5件前後で推移している(以上表5、図12c)。異性間の性的接触では、年齢のピークは30-34歳、海外感染が主(63.6%)で、東京都、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)に72.8%が集中している(以上表9-4、図14)。同性間の性的接触では、年齢のピークは30-34歳、海外感染が主(50.9%)で、東京都に54.5%が集中している(以上表9-5、図14)。感染経路不明例が45.2%存在する(以上表5)。

外国国籍女性:異性間の性的接触と感染経路不明例がほぼ同数を占める(以上表5、図12d)。異性間の性的接触の年齢のピークは25-29歳、主な感染地は海外(48.5%)、報告地は関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が中心で61.6%を占める(以上表9-6、図14)。



*静注射薬物濫用、母子感染、その他は除く




4.都道府県別の報告件数


 HIVは、関東・甲信越ブロックで2000年に減少したが、2001年は再び増加し、過去最高の410件となった。中でも東京都は1998年以降の増加が著しい。また近畿ブロック、東海ブロックでも増加が著しく、前年比1.6-1.8倍であった。北陸を除く他のブロックも報告数は少ないが、増加の兆しがある。AIDSは、東京都と近畿ブロックで増加していたが、他のブロックではほぼ横這いの状況であった(図15)。人口10万対の累積報告件数は、全国ではHIV 3.566(表10-1)、AIDS 1.772(表10-4)である。人口10万対報告件数の多い都道府県の上位5つは、日本国籍例の場合、HIVでは、東京都、千葉県、神奈川県、茨城県、大阪府(表10-2)、AIDSでは、東京都、茨城県、栃木県、千葉県、神奈川県(表10-5)で、外国国籍例の場合、HIVでは、茨城県、長野県、山梨県、東京都、栃木県(表10-3)、AIDSでは、茨城県、山梨県、長野県、東京都、栃木県である(表10-6)。


 

5.AIDS報告における指標疾患の分布

 日本国籍と外国国籍のAIDSの累計報告数(1653件と593件)を分母として、各指標疾患の分布を見ると、分布は両国籍群でほぼ類似しており、カリニ肺炎が40-46%ともっとも多く、カンジダ、HIV消耗性症候群が12-24%を占める。両群では活動性結核に差が認められ、日本国籍例が7.7 %であるのに対し、外国国籍例では、14.0%とほぼ2倍になっている。また、サイトメガロウイルス感染症は日本国籍例の10.3%に比して、外国国籍例では4.4%となっている(以上表11)。

6.病変死亡の動向

エイズ予防法に基づく1999年3月31日までの報告病変死亡例は596件である。内訳は、日本国籍男性が445件、女性が40件、計485件、外国国籍男性が77件、女性が34件、計111件である(以上表12)。また、1999年4月1日から2001年12月31日までに厚生労働省に報告された病変死亡例は126件で、この内、日本国籍男性が92件、女性が9件、計101件、外国国籍男性が15件、女性が10件、計25件である。2001年12月末までに722件の病変死亡の報告が寄せられた。

1999年4月から病変報告は医師の任意によっている。2001年中の報告は日本国籍男性が30件、女性が4件、計34件、外国国籍男性が4件、女性が5件、計9件である。

7.報告年と診断年の比較

 日本国籍の HIV及び外国国籍のHIVとAIDSについては、例年95%以上が診断年と同じ年内に報告されているが、1998年には診断例のうちHIVの7.9%が、AIDSの6.5%が、1999年に報告されている。これは感染症法の施行に伴う効果と考えられる。日本国籍のAIDSで95%を下回る年がしばしば見られる(以上表13)。


8.まとめ

 2001年のHIV感染者、AIDS患者報告件数および年次動向の特徴をまとめると以下のようであった。

(1)

HIV感染者の報告件数は、1996年以降増加を続け、2000年に低下を示したが、2001年は再び増加し、過去最高の報告数(621件)となった。

報告されたHIV感染者の84.9%が性的接触による感染(異性間34.3%、同性間50.6%)76.5%が日本国籍男性、77.9%が推定感染地域は国内であった。

日本国籍男性(475件)のHIV感染者では、異性間および同性間の性的接触による報告が増加し(各々25件、97件の増加)、性感染による報告が89.7%を占めていた。

(2) AIDS患者の報告数は332件で過去最高となった。日本国籍が15件減少し、外国国籍が18件増加した。感染経路別では日本国籍の同性間の性的接触、および外国国籍の不明の増加が目立った。

(3) HIV感染者、AIDS患者ともに、静注薬物濫用や母子感染による報告例はいずれも1%未満にとどまっている。

(4) 2001年の報告数に占める外国国籍例の割合は、HIV感染者では15.5%、AIDS患者では26.2%で、いずれも東南アジアが最も多く、ラテンアメリカ、サハラ以南アフリカが多い。外国籍HIV感染者報告数は漸減傾向にあるが、AIDS患者は男性で漸増傾向にある。

(5) 報告数が最も多い年齢層は、HIV感染者では、日本国籍男性25-29歳、日本国籍女性20-24歳、外国国籍例の男女ともに30-34歳であり、特に日本国籍男性の同性間性的接触による感染が急増している。AIDS患者では、日本国籍男性が30-34歳と45-49歳にピークを示し、前者は主に同性間性的接触による感染で、後者は主に異性間性的接触による感染である。

(6) 推定感染地域は国内感染が大半であり、日本国籍例ではHIV感染者の85.7%、AIDS患者の75.5%が国内感染である。

(7) 報告地は、HIV感染者では北陸を除くすべての地域で報告数が増加し、東京、近畿、東海ブロックが特に目立った。また、東京、近畿ブロックではAIDS患者の報告数も増加している。

 以上、わが国におけるHIV感染は日本国籍男性を中心に、国内での性的接触を感染経路とした流行拡大が続いており、特に同性間の感染が急増している。これらの状況をふまえて感染防止に向けた積極的な対策を進めなければならない。報告数の多い東京および他の関東・甲信越ブロックに加え、近畿・東海ブロックでも報告数の増加が著しく、地域の状況に応じた機敏な対策の展開が望まれる。また、静注薬物濫用と母子感染は少数ながら報告されており、引き続き監視を行うとともに、これらの特性に配慮した対策が必要である。

 なお、現行のエイズ発生動向調査システムには、HIV感染者、AIDS患者数の正確な把握という点で、不十分な面があるため、その解消に向けてのシステムの改善が必要である。