平成11年エイズ発生動向年報

発生動向の分析結果

 

1.平成11(1999)年報告例の主な内訳

 1999年には、HIV 感染者(以下HIVと省略)530件、AIDS患者(以下AIDSと省略)300件が報告された。感染経路別では、性的接触による感染(HIVの77.0%、AIDSの73.0%)が(図1)、国籍・性別では、日本国籍男性(HIVの 71.5%、AIDSの 70.7%)が多数を占めた(図2)。また、感染地別では、日本国籍例の大半が国内感染(HIV 79.0%、AIDS 68.8%)で(図3)、報告地別では、東京都とその他の関東甲信越ブロックからの報告が大半を占め(HIV 75.7%、AIDS 71.3%)、近畿ブロックがそれに次いだ(HIV 10.9%、AIDS 10.7%)。
 HIVの年間報告数は前年を108件上まわり、昨年減少(-19)に転じていたAIDSは69件の増加となった。HIVの増加は、日本国籍例の増加によるもので、感染経路別では同性間および異性間の性的接触、性別では男性、感染地別では国内感染、報告地別では、北海道・東北と東海を除く全てのブロックで増加したが、東京都と九州の増加が特に目立った。外国国籍のHIVは昨年に続き減少したが、それは男性例の減少によるものであった。
 AIDSにおいては、日本国籍および外国国籍共に増加しており、それぞれ異性間の性的接触で増加していた。性別では、日本国籍は男性で、外国国籍は女性、感染地別では国内、海外が増え、報告地別では北海道・東北を除く他の地域で増加したが、東京都、東海、近畿の増加が特に目立った。(以上表1)。

 

 

2.平成11(1999)年12月31日までの累積報告例の内訳

 凝固因子製剤による感染例を除いた、1999年12月31日までの累積報告件数(報告データの確定日は2000年4月21日)は、HIV 3443件、AIDS 1586件である。感染経路別構成は、HIVでは、異性間の性的接触46.7%、同性間の性的接触26.4%、静注薬物濫用0.6%、母子感染0.6%、その他1.9%、不明23.8%であり、AIDSでもほぼ同様であった(以上表2、図4)。国籍・性別構成は、HIVでは日本国籍男性49.9%、日本国籍女性8.9%、外国国籍男性12.9%、外国国籍女性28.3%であり、AIDSでは、それぞれ67.1%、5.4%、19.0%、8.6%であった(以上表2)。

 

3.HIV及びAIDSの動向 (凝固因子製剤による感染例を除く)

 HIVの年間報告件数は1992年のピーク後減少したが、1996年以降一貫して増加傾向が続き1999年報告件数は1992年を上回り過去最高となった。AIDSの年間報告件数は1997年までは増加を続け、1998年に初めて減少に転じたが1999年には再び増加した(以上表3-1)。HIVの増加は、主に日本国籍男性例の増加によるもので、日本国籍女性も緩やかな増加傾向にある。外国国籍者の報告数は過去6年間、横這いないし減少傾向にある。AIDSは、日本国籍男性において増加が著しく、他の国籍・性別区分ではいずれも微増の傾向であった(以上表3-1、図6)。


 国籍を世界地域区分別に分類して動向を検討したが、HIV、AIDSともに、日本国籍例以外では、東南アジアがもっとも多く、ラテンアメリカ、サハラ以南アフリカがそれに次ぎ、いずれの区分でも過去6年間、報告数はほぼ横這いに推移していた。日本国籍以外の報告例の割合は、平成11(1999)年でHIV20.0%、AIDS25.3%である。過去5年間の割合は、HIVでは漸減傾向、AIDSでは25-30%の範囲でほぼ一定している(以上表3-2)。
  感染経路別にみると、日本国籍例のHIVでは、異性間および同性間の性的接触と感染経路不明例が増加を続けている。外国国籍のHIVではいずれの感染経路区分も減少ないし横這いである。AIDSでは、日本国籍例は異性間の性的接触による報告が増加し、同性間の性的接触及び感染経路不明による報告は過去6年間増減を繰り返している。外国国籍例では、異性間の性的接触による報告が1996年から減少してきていたが、昨年は1996年の報告数を超え、大きく増加した。過去5年間徐々に増加してきた感染経路不明例は減少した。(以上表4、図7)。感染経路不明例の割合は、HIVでは、例年外国国籍例の40%前後を占めているが、日本国籍例でも例年15%前後で推移している。AIDSでは、感染経路不明例の割合は近年ほぼ安定しているが、その割合は累計で外国国籍例が45%以上、日本国籍例も25%を越える(以上表4)。
  年齢分布は、HIVでは国籍にかかわらず、男性では25-34歳、女性では20-29歳にピークが見られるが(以上表6-1)、AIDSでは、日本国籍男性で45-49歳と特に高い以外は、25-34歳にピークがある(以上表6-2)。また、感染地別では、HIVにおいて、日本国籍男性の国内感染例と感染地不明例が増加を続けていること、外国国籍男性の国内感染が増加傾向にあることが注目されるが、それ以外の区分ではほぼ横這いの状況が続いている(以上表7、図8)。AIDSでは、日本国籍男性の国内感染例が増加し、それ以外の区分では、横這いないし微増傾向にある(以上表7)。

 

 報告地別では、日本国籍男性のHIVが、北海道・東北及び北陸を除く全てのブロックで増加し、特に東京都では80件の増加、九州ブロックも増加の兆しが見られる。(以上表8)。

 

1) 国籍・性別のHIVの動向

日本国籍男性:報告累計(1717)の内、同性間の性的接触が47.4%、次いで異性間の性的接触が38.2%で大半(85.6%)を占めている。平成11(1999)年には、同性間および異性間の性的接触と感染経路不明例が増加した(以上表5、図9)。異性間の性的接触は、年齢のピークが30-34歳、国内感染が大半(63.6%)を占める(以上表9-1)。国内感染例の割合は近年緩やかに増加しつつある。報告地別では、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が43.6%、東京都が33.4%で、年間報告数は、東京都、関東甲信越(東京都を除く)、東海および近畿の各ブロックで増加傾向にある(以上表9-1)。一方、同性間の性的接触では、25-29歳に年齢のピークがあるが、平成11(1999)年における20-29歳と35-49歳の年齢層の急増が注目される。国内感染の割合が高く(84.6%)、過去4年間は90%を越えている。東京都が55.8%、関東甲信越ブロックが21.8%を占め、異性間に比べ東京都からの報告割合が大きい(以上表9-2、図10)。東京都では平成11(1999)年におよそ2倍に増加し、関東甲信越ブロック(東京都を除く)、近畿ブロックおよび九州ブロックでも最近増加が認められる(以上表9-2)。感染経路不明例が増加しつつあり、平成11(1999)年は14.0%を占めた(以上表5)。

日本国籍女性:異性間の性的接触は、近年緩やかに増加が続いている(以上表5、図9)。年齢のピークは25-29歳であるが、15-19歳の感染例は6.7%あり日本国籍男性に比べて多い。感染地の大半はほぼ一貫して国内(74.8%)であり、報告地は、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が42.9%、東京都が26.4%を占め(以上表9-3、図10)、日本国籍男性に比べると、地域的に分散する傾向がある(以上表9-3)。感染経路不明例は、例年数例にとどまり増加傾向は見られない(以上表5)。

外国国籍男性:異性間の性的接触は同性間の性的接触の約1.6倍で、いずれも1996年までは緩やかに増加を続けてきたが、その後横這いないしやや減少している(以上表5、図9)。異性間の性的接触による感染例での年齢のピークは30-34歳、感染地は海外が大半(60.4%)であるが、国内感染も18.8%存在する。報告地は、関東甲信越ブロック(東京都を除く)と東京都がほぼ同数で、合わせて75.3%を占める(以上表9-4、図10)。同性間の性的接触は、年齢のピークが25-29歳とやや若く、海外感染が主である(42.7%)。65.6%が東京都に集中している(以上表9-5、図10)。感染経路不明例は、数、年次推移ともにほぼ異性間の性的接触に近い(以上表5)。

外国国籍女性:異性間の性的接触が、1992年に大きなピークを示した後減少し、過去5年間はほぼ横ばいの状態にある(以上表5、図9)。年齢のピークは、20-24歳と若く、感染地は海外感染と不明が多いが、国内感染も18.0%存在する。報告地は、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が66.7%、東京都が21.7%を占める(以上表9-6、図10)。感染経路不明例は、数、年次推移ともにほぼ異性間の性的接触に近い(以上表5)。

 

2) 国籍・性別のAIDSの動向

日本国籍男性:サーベイランス開始から増加が続いた異性間の性的接触による報告は、1998年に初めて減少に転じたが、1999年には再び35件の増加となり、同時期の同性間の性的接触による報告の増加(9件の増加)を大きく上回った(以上表5)。異性間の性的接触では、年齢のピークは45-49歳、感染地は、1994年までは海外感染が主であったが、1995年以降は国内感染が主となった。累計では、国内感染は56.8%を占める。報告地は、累計で関東甲信越ブロック(東京都を除く)が48.5%、東京都が25.8%を占める(以上表9-1、図10)。同性間の性的接触では、年齢のピークは40-44歳で、感染地は、国内が中心(72.4%)でその傾向は1991年以降一貫している。報告地は東京都が中心で53.9%、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が24.5%、近畿が11.8%を占める(以上表9-2、図10)。感染経路不明例が20.8%存在する(以上表5)。

日本国籍女性:異性間の性的接触は、1995年以来、年間約6〜10件と横ばいで(以上表5)、年齢のピークは25-29歳、国内感染が主(60.4%)で、報告地は相対的には関東甲信越ブロック(東京都を除く)に多い(35.8%)が、比較的全国に分散している(以上表9-3、図10)。感染経路不明例が27.1%存在する(以上表5)。

外国国籍男性: 異性間の性的接触が1992年以来最も多い感染経路であり、1997年以来減少傾向にあったが、1999年では増加している。同性間の性的接触は年間数例にとどまっている(以上表5)。異性間の性的接触では、年齢のピークは30-34歳、海外感染が主(68.2%)で、東京都、関東甲信越ブロック(東京都を除く)に71.8%が集中している(以上表9-4、図10)。同性間の性的接触では、年齢のピークは30-34歳、海外感染が主(53.7%)で、東京都に65.9%が集中している(以上表9-5、図10)。感染経路不明例が44.2%存在する(以上表5)。

外国国籍女性:異性間の性的接触と感染経路不明例がほぼ同数を占める(以上表5)。異性間の性的接触の年齢のピークは25-29歳、主な感染地は海外(49.3%)、報告地は関東甲信越ブロック(東京都を除く)が中心で62.3%を占める(以上表9-6、図10)。

 

4.都道府県別の報告件数

 HIVは過去3年間、関東・甲信越ブロックではほぼ横這いに推移していたが、1999年は86件(内東京都74件)の増加となった。近畿ブロックでも増加が続き、九州ブロックも報告数は少ないが増加の兆しがみえる。AIDSはほぼ全てのブロックで1998年に減少したが、1999年の報告は関東・甲信越、東海、近畿ブロックでは増加していた(図11)。人口10万対の累積報告件数は、全国ではHIV 2.722(表10-1)、AIDS 1.254(表10-4)である。人口10万対報告件数の多い都道府県の上位5つは、日本国籍例の場合、HIVでは、東京都、千葉県、神奈川県、茨城県、埼玉県(表10-2)、AIDSでは、東京都、茨城県、千葉県、栃木県、神奈川県(表10-5)で、外国国籍例の場合、HIVでは、茨城県、長野県、山梨県、東京都、栃木県(表10-3)、AIDSでは、茨城県、山梨県、長野県、東京都、栃木県である(表10-6)。

 

5.AIDS報告における指標疾患の分布

 日本国籍と外国国籍のAIDSの累計報告数(1149と437)を分母として、各指標疾患の分布を見ると、分布は両国籍群でほぼ類似しており、ニューモシスチス・カリニ肺炎が40-45%ともっとも多く、カンジダ、HIV消耗性症候群が11-20%を占める。両群では活動性結核に差が認められ、日本国籍例が7.0 %であるのに対し、外国国籍例では、13.7%とほぼ2倍になっている(以上表11)。

6.病変死亡の動向

  エイズ予防法に基づく1999年3月31日までの報告病変死亡例は596件である。内訳は、日本国籍男性が445件、女性が40件、計485件、外国国籍男性が77件、女性が34件、計111件である(以上表12)。また、1999年4月1日から12月31日までに厚生省に報告された病変死亡例は42件で、この内、日本国籍男性が30件、女性が2件、計32件、外国国籍男性が6件、女性が4件、計10件である。1999年12月末までに638件の病変死亡の報告が寄せられた。 1999年4月から病変報告は医師の任意によっている。1999年中の報告は日本国籍男性が45件、女性が6件、計51件、外国国籍男性が8件、女性が7件、計15件である。法改正後の報告数はほぼ前年と同様である。近年日本国籍男女で病変死亡例数の減少がみられる。

7.報告年と診断年の比較

 日本国籍の HIV及び外国国籍のHIVとAIDSについては、例年95%以上が診断年と同じ年内に報告されているが、日本国籍のAIDSで95%を下回る年がしばしば見られる(以上表13)。

8.まとめ

 1999年のHIV、AIDS報告件数および年次動向の特徴をまとめると以下のようであった。

  1. 1999年のHIV感染者の報告数は、1996年以降増加を続け、1999年は過去最高の報告数(530件)となった。HIV感染者の増加は、日本国籍男性の増加が中心であり、日本国籍女性も緩やかな増加傾向にある。
     HIV感染者の1999年報告例では、日本国籍男性が72%を占め、推定される感染地域も日本国籍者の79%が国内感染であった。感染経路は、性的接触による感染が77%(異性間39%、同性間38%)を占め、特に日本国籍男性では84%を占めていた。

  2. AIDSの報告数は、エイズ発生動向調査開始以来1998年に初めて減少に転じたが、1999年(300件)は再び増加した。特に、日本国籍男性の異性間性的接触による報告例の増加が著しい。

  3. 外国国籍例は、HIV、AIDSともに、報告数の20%程度を占め、東南アジア、ラテンアメリカの順に多い。HIV報告例は漸減傾向にあるがAIDSは1998年に比べて微増傾向にある。

  4. HIV、AIDSともに、静注薬物濫用や母子感染による報告例はいずれも1%以下にとどまっている。

  5. 日本国籍例での推定感染地域は、HIVでは79%、AIDSでは69%が国内感染である。

  6. 報告地は、関東・甲信越ブロックに集中しているが、近畿ブロックにおける最近の報告数の増加が注目される。また九州ブロックにも増加の兆しが見られる。

 以上、わが国におけるHIV感染は、日本国籍男性を中心に、国内での性感染症としての流行拡大が続いており、異性間および同性間の性感染防止に向けた積極的な対策を進めなければならない。また、関東・甲信越ブロックに加えて、近畿、九州ブロックでも近年増加の兆しが見られ、地域の状況に応じた機敏な対策の展開が望まれる。

 


添付資料

1999年12月時点におけるHIV/AIDSの世界的流行状況

国連合同エイズ計画

1999年中に新たにHIVに感染した人々の数 総数 560万人
成人 500万人
(女性 230万人)
15歳未満の子供 57万人
HIV/AIDSと共に生きている人々 総数 3360万人
成人 3240万人
(女性 1480万人)
15歳未満の子供 120万人
1999年中にAIDSで死亡した人々 総数 260万人
成人 210万人
(女性 110万人)
15歳未満の子供 47万人
流行開始以来の累積AIDS死亡者数 総数 1630万人
成人 1270万人
(女性 620万人)
15歳未満の子供 360万人