発生動向の分析結果
1. 平成14(2002)年報告例の主な内訳
本年は、HIV感染者(以下HIVと省略)614件、AIDS患者(以下AIDSと省略)308件が報告された。感染経路別では、性的接触による感染がHIVで532件(86.7%)、AIDSで217件(70.5%)と多数を占め(図1)、国籍・性別では、日本国籍男性がHIV 481件(78.3%)、AIDS 232件(75.3%)と多数を占めた(図2)。また、感染地別では、国内感染がHIVで474件(77.2%)、AIDSで186件(60.4%)と大半を占め(図3)、報告地別では、東京都とその他の関東甲信越ブロックからの報告がHIV 395件(64.3%)、AIDS 217件(70.5%)と大半を占め、近畿ブロックがHIV 96件(15.6%)、AIDS 38件(12.3%)とそれに次いだ(表1)。
HIVの年間報告件数は前年に比べて7件減少(日本国籍4件、外国国籍3件)したが、感染経路別では同性間の性的接触、性別では男性、感染地別では海外感染、報告地別では、東京都、北陸、近畿、九州ブロックで増加していた。外国国籍では同性間の性的接触の近畿からの報告が目立った。
AIDSは前年に比べて24件減少したが、主に外国国籍例の減少で、日本国籍例では7件の増加であった。日本国籍例は、感染経路別では同性間の性的接触で減少したがその他の経路は微増であった。また、性別では男性、感染地別では海外、報告地別では東京、関東・甲信越、北陸ブロックで増加していた(以上表1)。
2.平成14(2002)年12月31日までの累積報告例の内訳
凝固因子製剤による感染例を除いた、2002年12月31日までの累積報告件数は、HIV 5,140件、AIDS 2,556件である。感染経路別構成は、HIVでは、異性間の性的接触2,192件(42.6%)、同性間の性的接触1,770件(34.4%)、静注薬物濫用27件(0.5%)、母子感染29件(0.6%)、その他91件(1.8%)、不明1,031件(20.1%)であり、AIDSでもほぼ同様であった(以上表2、図4)。国籍・性別構成は、HIVでは日本国籍男性3,009件(58.5%)、日本国籍女性427件(8.3%)、外国国籍男性612件(11.9%)、外国国籍女性1,012件(21.2%)であり、AIDSでは、それぞれ1,756件(68.7%)、150件(5.9%)、440件(17.2%)、210件(8.2%)であった(以上表2)。
3.HIV及びAIDSの動向 (凝固因子製剤による感染例を除く)
HIVの年間報告件数は1992年を除けば、調査開始時よりほぼ一貫して増加傾向が続き、2001年には過去最高の報告数となり、本年はそれとほぼ同数の報告となった。(以上表3-1、図5)。HIVの増加は、主に日本国籍男性例の増加によるもので、日本国籍女性も緩やかな増加傾向にある。外国国籍例の報告数は女性では漸減傾向にあるが、男性では横這いないしは漸増傾向にある(以上表3-1、図6)。
AIDSは前年に比べて外国国籍例で31件減少したため年間報告数が24件減少したが、日本国籍男性例では7件の増加であった。(以上表3-1、図6)。
報告例の国籍を世界地域区分別に分類したところ、HIV、AIDSともに、日本国籍例以外では、東南アジアがもっとも多く、ラテンアメリカ、サハラ以南アフリカがそれに次ぎ、HIV報告数は漸減、AIDSでは漸増に推移していた。日本国籍以外の報告例は、本年でHIV 93件(15.1%)、AIDS 56件(18.2%)を占めている(以上表3-2)。
感染経路別にみると、日本国籍例のHIVでは、異性間および同性間の性的接触と感染経路不明が増加を続けている。外国国籍のHIVでは、同性間の性的接触が増加した。AIDSでは、日本国籍例は異性間の性的接触による報告が2001年に減少し、本年はほぼ横這いであった。同性間の性的接触による報告は1997年以降増加を続けているが、本年は横這いであった。外国国籍例では、異性間の性的接触、および感染経路不明による報告が増減を繰り返しながらも徐々に増加傾向にある(以上表4、図7)。
感染経路不明は、HIVでは累積の20.1%を占め、とくに外国国籍例では39.5%と高率であり、本年の外国国籍HIV例でも24.7%を占めていた。一方、AIDSでは、感染経路不明は累積で日本国籍例が20.9%、外国国籍例が44.6%を占め、本年報告の外国国籍例では48.2%とほぼ半数に達している(以上表4)。
年齢分布は、HIVでは国籍にかかわらず、男性では25-34歳、女性では20-29歳に報告が多い(以上表6-2)。AIDSでは、日本国籍男性で40-54歳の報告が多いが、他の国籍・性別では25-39歳に多い(以上表6-3)。
また、感染地別では、HIVは国内感染が日本国籍男性例で増加傾向にあり、日本国籍女性および、外国国籍男性の国内感染が横這いないし漸増傾向にある(以上表7、図8)。AIDSでは、日本国籍男性の国内感染例が増加していたが、この3年間は横這いの推移である。(以上表7)。
報告地別では、日本国籍男性のHIVが、東京都16件、北陸1件、近畿2件、九州ブロック4件で前年に比べて増加した。また、東海、近畿ブロックでは外国国籍例の報告増が目立った。AIDSでは、日本国籍男性は東海、中国・四国、九州をのぞくブロックで増加していた。他の区分では横這い、あるいは減少の傾向であった(以上表8)。
1) 国籍・性別のHIVの動向
日本国籍男性:
報告累積 (3,009件)の内、同性間の性的接触が53.9%、次いで異性間の性的接触が33.7%で両者が大半(87.6%)を占めている。本年の報告では、同性間および異性間の性的接触、感染経路不明は増加している(以上表5、図9)。異性間の性的接触は、年齢のピークが累積でみると30-34歳であるが、近年20歳代で報告増の傾向にある(以上図10)。推定感染地は国内感染が大半(累積で67.9%)を占め(以上表9-1)、近年国内感染例の割合は増加しつつある。報告地別では、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が39.5%、東京都が33.8%で、年間報告件数は、関東甲信越(東京都を除く)、東海を除く各ブロックで増加傾向にある(以上表9-1)。
一方、同性間の性的接触は25-29歳に年齢のピークがあり(以上図10)、国内感染例の割合が高い(88.7%)。本年報告の同性間性的接触例(305件)では国内感染例は286件(93.8%)を占めていた。報告地は東京都が56.3%、次いで関東甲信越ブロックが15.7%、近畿14.2%ある。東京都からの報告割合が大きく、かつ著しく増加しているが、近畿、東海、九州の地域でも増加の傾向にある(以上表9-2、図11)。
日本国籍女性:
異性間の性的接触は、年間報告件数は少ないものの、緩やかに増加しつつある(以上表5、図9)。累積でみると、年齢のピークは25-29歳であるが、15-19歳の感染例は6.3%と日本国籍男性の異性間性的接触(1.0%)に比べて多く、経年的にも同様の傾向である(以上図10)。また、日本国籍の異性間の性的接触によるHIV感染者の性比を年齢階級別にみると、15-19歳層、20-24歳層は女性の報告割合が高く、他の年齢層と異なる(以上図10d)。
推定感染地は国内感染(75.6%)が中心であり、報告地は、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が39.4%、東京都が28.4%を占め(以上表9-3、図11)、日本国籍男性に比べると、地域的に分散する傾向がある(以上表9-3、図11)。感染経路不明は、例年数例にとどまり増加傾向は見られない。なお、同性間性的接触による女性の感染は2000年に1例報告されている(以上表5)。
外国国籍男性:
近年は異性間の性的接触が同性間の性的接触より多く報告されていたが、本年は逆に同性間の性的接触が多かった(以上表5、図9)。異性間の性的接触による感染例は30-34歳が34.6%と多く、推定感染地は海外が55.1%であるが、国内感染も22.1%存在する。報告地は、関東甲信越ブロック(東京都を除く)と東京都がほぼ同数で、累積では合わせて74.8%を占める(以上表9-4、図11)。同性間の性的接触は、年齢のピークが異性間に比べて25-29歳とやや若く、また、これまで海外感染が中心であったが、国内感染が36.5%を占め、国内感染例が微増傾向にある。報告地は累積の67.6%が東京都に集中しており、本年も同様である(以上表9-5、図11)。感染経路不明は、数、年次推移ともにほぼ異性間の性的接触に類似している(以上表5)。
外国国籍女性:
異性間の性的接触が、1992年に大きなピークを示した後減少し、1995年以降横這いとなり、漸減傾向にある(以上表5、図9)。年齢のピークは、20-24歳と若く、感染地は海外感染と不明が多いが、国内感染も19.4%存在する。報告地は、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が累積の65.6%、東京都が21.1%を占める(以上表9-6、図11)。感染経路不明は、数、年次推移ともにほぼ異性間の性的接触に近い(以上表5)。
2) 国籍・性別のAIDSの動向
日本国籍男性:
サーベイランス開始から増加が続いたAIDSの報告は、1998年に初めて減少に転じてからは、増減を繰り返しつつ増加の傾向にある。本年は前年比11件の増加となった。なお、増減を繰り返しているのは異性間性的接触と感染経路不明による報告である(以上表5、図12a)。異性間の性的接触は日本国籍男性AIDS累積(1,756件)のうち799件(45.5%)を占め最も多い。年齢は累積では45-49歳がピークであり、経年的には40歳代、50歳代が多い(以上表9-1、図13)。推定感染地は、1994年までは海外感染が主であったが、1995年以降は国内感染が主となった。累積では、国内感染は61.5%を占める。報告地は、累積で関東甲信越ブロック(東京都を除く)が48.7%、東京都が25.5%を占め、本年も同様であった(以上表9-1、図14)。同性間の性的接触では、年齢は30-34歳がピークで異性間に比べて若く、経年的にみても同様の傾向である(以上表9-2、図13)。推定感染地は、国内が中心(80.8%)でその傾向は1991年以降一貫している。報告地は東京都が中心で累積の51.2%、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が24.4%、近畿が12.1%を占める(以上表9-2、図14)。感染経路不明が20.4%存在する(以上表5)。
日本国籍女性:
異性間の性的接触は、1995年以来、年間約6〜15件の報告である(以上表5)。年齢は累積では25-29歳が多いが、30-44歳までの年齢層はほぼ同数の報告である。推定感染地は国内感染が主(66.0%)で、報告地は相対的には関東甲信越ブロック(東京都を除く)に多いが、比較的全国に分散している(以上表9-3、図14)。感染経路不明が26.0%存在する(以上表5)。
外国国籍男性:
異性間の性的接触及び感染経路不明が、1992年以来高い割合を占める感染経路である。同性間の性的接触は年間5件前後で推移している(以上表5)。異性間の性的接触では、年齢のピークは30-34歳(33.5%)、海外感染が主(63.9%)で、東京都、関東甲信越ブロック(東京都を除く)に72.2%が集中している(以上表9-4、図14)。同性間の性的接触では、年齢のピークは30-34歳(33.3%)、海外感染が主(49.1%)で、東京都に54.4%が集中している(以上表9-5、図14)。感染経路不明が46.1%存在する(以上表5)。
外国国籍女性:
異性間の性的接触と感染経路不明が多く、累積では53.3%、41.4%を占める(以上表5)。異性間の性的接触では年齢のピークは25-29歳(33.0%)、主な感染地は海外(45.5%)、報告地は関東甲信越ブロック(東京都を除く)が中心で62.5%を占める(以上表9-6、図14)。
4.都道府県別の報告件数
HIVは、東京、関東・甲信越ブロックからの報告が多く、累積では73.7%を占める(表10-1)。経年的には1992年以降増加の傾向にあり、2001年は過去最高の410件となった。中でも東京都は1998年以降の増加が著しい。また近畿ブロック、東海ブロックでも増加傾向にある。北陸を除く他のブロックも報告数は少ないが、増加の兆しがある。AIDSは、東京都と近畿ブロックで増加していたが、他のブロックではほぼ横這いの状況であった(図15)。人口10万対の累積報告件数は、全国ではHIV
4.050(表10-1)、AIDS 2.014(表10-4)である。人口10万対報告件数の多い都道府県の上位5つは、日本国籍例の場合、HIVでは、東京都、神奈川県、千葉県、大阪府、茨城県、(表10-2)、AIDSでは、東京都、茨城県、栃木県、千葉県、長野県(表10-5)で、外国国籍例の場合、HIVでは、茨城県、長野県、山梨県、東京都、栃木県(表10-3)、AIDSでは、山梨県、茨城県、長野県、東京都、栃木県である(表10-6)。
5.AIDS報告における指標疾患の分布
日本国籍と外国国籍のAIDSの累積報告数(1,906と650)を分母として、各指標疾患の分布を見ると、分布は両国籍群でほぼ類似しており、ニューモシスチス・カリニ肺炎が40-46%ともっとも多く、カンジダ、HIV消耗性症候群が12-24%を占める。両群で差が認められるのは、活動性結核(日本国籍例:外国国籍例=7.5
%:14.3%)及びクリプトコックス症(同=2.7%:6.5%)は外国国籍例で多く、サイトメガロウイルス感染症(同=10.7%:4.8%)は日本国籍が多い(以上表11)。
6.病変死亡の動向
エイズ予防法に基づく1999年3月31日までの報告病変死亡例は596件である。内訳は、日本国籍男性が445件、女性が40件、計485件、外国国籍男性が77件、女性が34件、計111件である(以上表12)。また、1999年4月1日から2002年12月31日までに厚生労働省に報告された病変死亡例は151件で、この内、日本国籍男性が115件、女性が9件、計124件、外国国籍男性が16件、女性が11件、計27件である。2002年12月末までに747件の病変死亡の報告が寄せられた。
1999年4月から病変報告は医師の任意によっている。本年の報告は日本国籍男性が23件、女性が0件、計23件、外国国籍男性が1件、女性が1件、計25件である。
7.報告年と診断年の比較
日本国籍の HIV及び外国国籍のHIVとAIDSについては、例年95%以上が診断年と同じ年内に報告されているが、1998年には診断例のうちHIVの7.9%が、AIDSの6.5%が、1999年に報告されている。これは感染症法の施行に伴う効果と考えられる。日本国籍のAIDSで95%を下回る年がしばしば見られる(以上表13)。