平成14年エイズ発生動向 - 概 要 -
厚生労働省エイズ動向委員会
エイズ動向委員会は、3ヶ月ごとに委員会を開催し、都道府県等からの報告に基づき患者発生動向を把握し公表している。今般、平成14年1年間の発生動向の概要を取りまとめたので報告する。
1.結果
(1)HIV感染者の報告数
平成8年以降増加が続き、本年は日本国籍、外国国籍合わせて614件で前年(621件)とほぼ同数となった(図1)。日本国籍例は521件、外国国籍例は93件であった。日本国籍男性の増加が顕著で、本年の報告数は前年(475件)を超え過去最高の481件となった。日本国籍女性は40件と前年(50件)に比べて少なかったが、年次推移は緩やかな増加傾向にある(図3)。
(2)AIDS患者の報告数
本年は日本国籍、外国国籍合わせて308件で、前年(332件)に比べて減少したが(図1)、日本国籍例は252件で、前年(245件)より多い。日本国籍例の男性は232件で、前年(221件)に比べて増加している。(図7)
(3)感染経路
本年のHIV感染者報告例の感染経路は、同性間の性的接触が329件(53.6%)、異性間の性的接触が203件(33.1%)で、性的接触によるものが合わせて532件(86.7%)を占めた(図2)。
日本国籍例では、男性同性間の性的接触が305件と前年(300件)に比べて増加し、過去最高の報告数であった(図4)。また、男性異性間の性的接触も130件と前年(126件)に比べて増加し、過去最高の報告数であった。日本国籍女性の異性間性的接触によるHIV感染者は30件であり、年次によって増減はあるものの増加傾向にある(図5)。
本年のAIDS患者報告例の感染経路は、異性間の性的接触による感染は133件(43.2%)、同性間の性的接触による感染は84件(27.3%)で、性的接触による感染が70.5%を占めた。
日本国籍例の男性232件の内、異性間の性的接触は97件、同性間の性的接触は81件であった。
また、1985年以降の累積報告数で日本国籍の異性間の性的接触によるHIV感染者の性比を年齢階級別にみると、全体に占める割合は少ないものの15-19歳層は女性が68.8%、20-24歳層は女性57.0%を占め、男性の占める割合の高い他の年齢層とは異なる(図6)。
なお、静脈注射薬物濫用や母子感染によるものはHIV、AIDSともにいずれも1%以下にとどまっている(図2、8)。
(4)外国国籍報告
本年のHIV感染者では93件、AIDS患者では56件であった。HIV感染者の報告年次推移には大きな変化はないが、感染経路別では男性同性間の性的接触が増加傾向にある。(図9)
(5)推定される感染地域及び報告地
HIV感染者の推定される感染地域は、全体の77.2%(474件)が国内感染で、日本国籍例では84.3%(439件)を占めていた。AIDS患者の推定される感染地域は全体の72.8%(186件)が国内での感染例であった。
報告地は、東京、その他の関東甲信越ブロックが依然多く、本年報告例ではHIV感染者全体の64.3%(395件)、AIDS患者全体の70.5%(217件)を占めている。
HIV感染者は近畿、九州ブロックで増加し、他のブロックは横ばいであった(図10)。
2.まとめ
わが国におけるHIV感染者、AIDS患者の発生動向は依然として増加傾向にあり、静脈注射薬物濫用、母子感染によるものは少なく、性的接触によるものを中心として拡大しつつあると言える。特に、男性の同性間性的接触による感染に対しては、外国国籍者も含め、積極的な予防施策が必要である。また、異性間の性的接触に対しては、男性のみならず女性、特に若年層への重点的な啓発普及が必要である。HIV感染は、これまでの東京を中心とする関東地域の流行に加え、地方大都市においても感染拡大の傾向がみられ、これらの地域特性に配慮した対策の展開が望まれる。