発生動向の分析結果
1. 2003(平成15)年報告例の主な内訳
2003(平成15)年には、HIV感染者(以下、「HIV」)640件、AIDS患者(以下、「AIDS」)336件が報告された。感染経路別では、性的接触による感染(HIVの83.4%、AIDSの67.6%)が(図1)、国籍・性別では、日本国籍男性(HIVの82.0%、AIDSの75.0%)が多数を占めた(図2)。また、感染地別では、国内感染が大半(HIV 78.0%、AIDS 64.0%)を占め(図3)、報告地別(ブロック別)では、東京都とその他の関東甲信越からの報告が大半を占め(HIV 61.6%、AIDS 64.9%)、近畿がそれに次いだ(HIV 18.6%、AIDS 11.0%)(表1)。
HIVの年間報告数は前年に比べて26件増加(日本国籍36件増加、外国国籍10件減少)したが、感染経路別では同性間性的接触、性別では男性、感染地別では国内感染、報告地別(ブロック別)では、関東・甲信越(東京都を除く)、近畿、中国・四国、九州で増加していた。これらの増加は日本国籍例によるもので外国国籍では一般に微減もしくは横ばいであった。
AIDSは前年に比べて28件増加したが、このうち19件は日本国籍例、9件は外国国籍例の増加によるものである。日本国籍例は、感染経路別では異性間性的接触がやや減少したが、同性間性的接触が10件、不明が12件増加した。また、性別では男性、感染地別では国内感染が増加し、報告地別(ブロック別)では、関東・甲信越(東京都を除く)と近畿以外の全てのブロックで増加していた(以上表1)。
図1. 2003(平成15)年に報告されたHIV感染者及びAIDS患者の感染経路別内訳
図2. 2003(平成15)年報告例の国籍・性別内訳 図3. 2003(平成15)年報告例の推定感染地別内訳
2.2003(平成15)年12月31日までの累積報告例の内訳
凝固因子製剤による感染例を除いた、2003(平成15)年12月31日までの累積報告件数は、HIV 5780件、AIDS 2892件である。感染経路別構成は、HIVでは、異性間性的接触41.0%、同性間性的接触36.8%、静注薬物濫用0.5%、母子感染0.5%、その他1.9%、不明19.3%であり、AIDSでは、HIVに比べ同性間性的接触が少なく、不明例が多い(以上表2、図4)。国籍・性別構成は、HIVでは日本国籍男性61.1%、日本国籍女性7.9%、外国国籍男性11.4%、外国国籍女性19.5%であり、AIDSでは、それぞれ69.4%、5.8%、16.6%、8.2%であった(以上表2)。
図4. HIV感染者及びAIDS患者の感染経路別構成(2003(平成15)年末までの累計)
3.HIV及びAIDSの動向 (凝固因子製剤による感染例を除く)
HIVの年間報告件数は1992(平成4)年のピーク後減少したが、1996(平成8)年以降ほぼ一貫して増加傾向が続き、2003(平成15)年には過去最高の報告数(640件)となった(以上表3-1、図5)。HIVの増加は、主に日本国籍男性例の増加によるもので、日本国籍女性はここ数年40件前後で横ばい状態にある。外国国籍例の報告数は女性では漸減傾向にあるが、男性ではほぼ横ばい状態にある(以上表3-1、図6)。 AIDSは、日本国籍男性例では増加傾向が続き、日本国籍女性、外国国籍男女ではほぼ横ばい状態にある(以上表3-1、図6)。 |
図5. HIV感染者及びAIDS患者の年次推移 |
図6. HIV感染者及びAIDS患者の国籍別、性別年次推移
報告例の国籍を世界地域区分別にみると、HIV、AIDSともに、日本国籍以外では、東南アジアが最も多く、ラテンアメリカ、サハラ以南アフリカがそれに次ぐ。東南アジア区分では、HIV、AIDSともに漸減で、他の地域区分ではほぼ横ばい状態が続いている。日本国籍以外の報告例は、2003(平成15)年でHIV13.0%、AIDS19.3%を占めている(以上表3-2)。
感染経路別にみると、日本国籍例のHIVでは、同性間性的接触と感染経路不明例が増加を続け、異性間性的接触は、ここ数年150件前後で横ばい状態にある。外国国籍のHIVでは、感染経路不明例が減少している以外は、どの感染経路もほぼ横ばいである。AIDSでは、日本国籍例は異性間性的接触による報告が2000(平成12)年まで上昇した後減少し、その後横ばい状態にある。これに対し、同性間性的接触と感染経路不明例は1997(平成9)年以降ほぼ一貫して増加を続けている。外国国籍例では、異性間性的接触および感染経路不明例が、それぞれ30件前後の報告が続いている(以上表4、図7、表5)。
図7. HIV感染者及びAIDS患者の国籍別、感染経路別年次推移
感染経路不明例は、HIVでは累計の19.3%を占め、とくに外国国籍例では38.8%と高率であり、2003(平成15)年の外国国籍HIV例でも24.1%を占めていた。一方、AIDSでは、感染経路不明例は累計で日本国籍例が21.3%、外国国籍例が44.8%を占め、2003(平成15)年報告の外国国籍例でも46.2%とほぼ半数に及んでいる(以上表4)。
年齢分布は、HIVでは20-34歳に比較的集中しているが、AIDSでは25-54歳と幅広い分布をしている(以上表6-1)。また、HIVでは日本国籍、外国国籍ともに、男性では25-34歳、女性では20-29歳に報告が多い(以上表6-2)。AIDSでは、日本国籍者は、男性は30-54歳、女性は25-44歳の報告が多いのに対し、外国国籍では男性25-39歳、女性20-39歳が多く、男女とも日本国籍者で年令が高めに分布している(以上表6-3)。
また、感染地別では、HIVの国内感染例が日本国籍男性で増加傾向にあり、日本国籍女性および、外国国籍男性の国内感染は横ばいの傾向にある(以上表7、図8)。日本国籍例では国内感染が主だが、最近3年間、外国国籍男性例で国内感染例がむしろ多くなっていることが注目される。AIDSでは、日本国籍男性の国内感染例が2000(平成12)年以降横ばいだったが、2003(平成15)年に増加した(以上表7)。
報告地別(ブロック別)では、日本国籍男性のHIVが、東海、近畿で増加が続き、中国・四国、九州でも増加傾向が明確になってきたが、日本国籍女性や外国国籍男女ではそのような傾向は見られない。AIDSでは、日本国籍男性が、北海道・東北、東海、中国・四国、九州で2003(平成15)年に増加したが、日本国籍女性や外国国籍男女ではそのような傾向は見られない(以上表8)。
図8. HIV感染者の国籍別、性別、感染地別年次推移
1) 国籍・性別のHIVの動向
日本国籍男性:
報告累計(3534件)の内、同性間性的接触が55.5%、異性間性的接触が31.7%で合わせて87.2%を占めている。2003(平成15)年の報告では、同性間性的接触が35件増加し、感染経路不明例も増加した(以上表5、図9)。異性間性的接触では、年齢のピークは、累計では30-34歳で、年齢分布に特に大きな変化はみられない(以上、表9-1、図10a)。推定感染地は1993(平成5)年以降国内感染が大半で、累計で69.0%を占める(以上表9-1)。報告地(ブロック)は、関東甲信越(東京都を除く)が38.6%、東京都が33.4%で、年間報告数は、関東甲信越(東京都を除く)、東京都はほぼ横ばいで、近畿で増加傾向にある(以上表9-1)。
一方、同性間性的接触は25-29歳に年齢のピークがある(以上、表9-2、図10c)。また、国内感染例の割合が高く、2003(平成15)年報告では95.3%、累計でも89.9%を占めている。報告地(ブロック)は、2000(平成12)年以来、近畿からの年間報告数が関東甲信越(東京都を除く)を上回っており、累計でも、東京都(55.3%)、近畿(15.5%)、関東甲信越(東京都を除く)(14.8%)と、近畿が関東甲信越(東京都を除く)を上回った。東京都からの報告割合が大きく、かつ2001(平成13)年以降大きく増加しているが、近畿の増加も大きく、また、中国・四国、東海、九州でも増加の傾向にある(以上表9-2、図11)。
図9. HIV感染者の国籍別、性別、感染経路別年次推移
日本国籍女性:
異性間性的接触は、近年は30件前後で変動している(以上表5、図9)。累計でみると、年齢のピークは25-29歳にあるが、15-19歳の感染例は6.5%と日本国籍男性の異性間性的接触(0.8%)に比べて多く、経年的にも同様の傾向にある(以上、表9-3、図10b)。また、1985(昭和60)年以降の累積報告数で、異性間性的接触による日本国籍HIV感染者について、年齢階級別に性別構成をみると、15-19歳、20-24歳で特に女性の報告割合が大きい(以上図10d)。
推定感染地は国内感染(75.5%)が中心であり、報告地(ブロック)は、関東甲信越(東京都を除く)が38.7%、東京都が28.5%を占め(以上表9-3、図11)、日本国籍男性に比べると、やや地域的に分散する傾向がある(以上表9-3、図11)。感染経路不明例は、例年少数例にとどまり増加傾向は見られない(以上表5)。
外国国籍男性:
異性間の性的接触と同性間の性的接触はいずれも1996(平成8)年までは緩やかに増加を続け、その後横ばいの傾向にある(以上表5、図9)。異性間性的接触による感染例は30-34歳が多く、推定感染地は海外が53.0%であるが、国内感染も24.1%存在する。報告地(ブロック)は、関東甲信越(東京都を除く)と東京都が同数で、合わせて73.2%を占める(以上表9-4、図11)。同性間性的接触は、年齢のピークが異性間性的接触に比べて25-29歳とやや若く、また、これまで海外感染が中心であったが、国内感染は38.4%を占め、最近やや増加傾向にある。報告地(ブロック)は累計の66.5%が東京都に集中している(以上表9-5、図11)。感染経路不明例は、変動しており、特段の傾向は見られない(以上表5、図9)。
外国国籍女性:
異性間性的接触が、1992(平成4)年に大きなピークを示した後減少し、2000(平成12)年以降横ばいで推移している(以上表5、図9)。年齢のピークは、20-24歳と若く、感染地は海外感染と不明が多いが、国内感染も20.2%存在する。報告地(ブロック)は、関東甲信越(東京都を除く)が累計の64.8%、東京都が21.4%を占める(以上表9-6、図11)。感染経路不明例は、2000(平成12)年以降、10件前後で推移している(以上表5)。
図10. 日本国籍HIV感染者の感染経路別、年齢別年次推移と年齢別・性別内訳
図11. HIV感染者の感染経路別、国籍別、性別の報告地の分布(累計)
2) 国籍・性別のAIDSの動向
日本国籍男性:
サーベイランス開始から増加が続いたAIDSの報告は、1998(平成10)年に初めて減少に転じたが、その後再び増加し、2003(平成15)年には過去最高となった。感染経路別にみると、異性間性的接触と感染経路不明例は1997(平成9)年以来、変動しているが、同性間性的接触の増加が顕著で、2003(平成15)年報告では、異性間性的接触と同数(91件)となった(以上表5、図12a)。異性間性的接触は日本国籍男性AIDS累計(2008件)の44.3%を占め最も多い(以上表5)。年齢は累計では45-49歳にピークがあるが、35-59歳に幅広く分布している(以上表9-1)。推定感染地は、1994(平成6)年までは海外感染が主であったが、1995(平成7)年以降は一貫して国内感染が主となっている。累計では、国内感染は62.4%を占める。報告地(ブロック)は、累計で関東甲信越(東京都を除く)が47.8%、東京都が25.4%を占め、2003(平成15)年でもほぼ同様であった(以上表9-1、図14)。同性間性的接触では、年齢のピークは30-34歳で異性間に比べて若い傾向にあるが、報告例は25-54歳に幅広く分布している(以上表9-2、図13)。推定感染地は、国内が中心(82.6%)でその傾向は1991(平成3)年以降一貫している。報告地(ブロック)は東京都が中心で累計の50.6%、関東甲信越(東京都を除く)が23.8%、近畿が12.0%を占める(以上表9-2、図14)。感染経路不明例が20.8%存在する(以上表5)。
日本国籍女性:
異性間性的接触は累計(169件)の63.3%を占め、1995(平成7)年以来、年間約6〜15件の報告が続いている(以上表5)。年齢のピークは累計では25-29歳にあるが、25-44歳まで幅広く分布している。推定感染地は国内感染が主(69.2%)で、報告地(ブロック)は相対的には関東甲信越(東京都を除く)に多いが、比較的全国に分散している(以上表9-3、図14)。感染経路不明例が26.6%存在する(以上表5)。
外国国籍男性:
異性間性的接触が1992(平成4)年以来最も多い感染経路で累計(479件)の35.5%を占め、1996(平成8)年以来20件前後で推移している。同性間性的接触は年間5件前後で推移している(以上表5)。異性間性的接触では、年齢のピークは30-34歳、海外感染が主(61.8%)で、報告地(ブロック)は東京都、関東甲信越(東京都を除く)に73.0%が集中している(以上表9-4、図14)。同性間性的接触では、年齢のピークは30-34歳、海外感染が主(45.9%)であるが、2001(平成13)年以降は国内感染事例が増加している。東京都に54.1%が集中している(以上表9-5、図14)。感染経路不明例が46.1%存在する(以上表5)。
外国国籍女性:
異性間性的接触と感染経路不明例が多く、累計ではそれぞれ52.5%、41.9%を占める(以上表5)。異性間性的接触では年齢のピークは25-29歳、主な感染地は海外(45.2%)であるが、感染地不明例が多い(39.5%)。報告地(ブロック)は関東甲信越(東京都を除く)が中心で60.5%を占める(以上表9-6、図14)。
図12. AIDS患者の国籍別、性別、感染経路別年次推移
*静注薬物濫用、母子感染、その他は除く
図13. 日本国籍AIDS患者の感染経路別、年齢別年次推移
図14. AIDS患者の感染経路別、国籍別、性別の報告地の分布(累計)
4.都道府県別の報告件数
HIVは、東京都を含む関東・甲信越ブロックからの報告が多く、累計では72.4%を占める。同ブロックの報告は、経年的には1992(平成4)年に最初のピークを示し、その後減少したが1996(平成8)年以降再び増加傾向にあり、2001(平成13)年は過去最高の410件となった。中でも東京都は平成11(1999)年以降の増加が著しい。また近畿ブロックの増加も大きく、東海ブロックでも2001(平成13)年以降の報告数が大きくなっている。他のブロックも報告数は少ないが、中国・四国、九州では増加の兆しがある。AIDSのブロック別分布も、HIVとほぼ同様で、東京都を含む関東・甲信越に集中している(70.8%)が、2003(平成15)年には、それ以外のブロックで報告数がやや増加した(表10-1、図15)。人口10万対の累積報告件数は、全国ではHIV
4.554(表10-3)、AIDS2.279(表10-4)である。人口10万対報告件数の多い都道府県の上位5つは、日本国籍例の場合、HIVでは、東京都、大阪府、神奈川県、千葉県、茨城県で(表10-2)、大阪府(前年4位)が2位にアップしたことが注目される。AIDSでは、東京都、茨城県、栃木県、千葉県、長野県(表10-5)で、外国国籍例の場合、HIVでは、茨城県、長野県、山梨県、東京都、栃木県(表10-3)、AIDSでは、山梨県、茨城県、長野県、東京都、栃木県である(表10-6)。
図15. HIV感染者及びAIDS患者報告数のブロック別年次推移
5.AIDS報告における指標疾患の分布
日本国籍と外国国籍のAIDSの累計報告数(2177と715)を分母として、各指標疾患の分布を見ると、分布は両国籍群でほぼ類似しており、ニューモシスチス・カリニ肺炎が40-47%と最も多く、カンジダ、HIV消耗性症候群が12-27%を占める。両群で差が認められるのは、活動性結核(日本国籍例:外国国籍例=7.5 %:14.3%)及びクリプトコックス症(同=2.4%:6.2%)は外国国籍例で多く、サイトメガロウイルス感染症(同=11.4%:4.9%)は逆に日本国籍が多い(以上表11)。
6.病変死亡の動向
エイズ予防法に基づく1999(平成11)年3月31日までの報告病変死亡例は596件である。内訳は、日本国籍男性が445件、女性が40件、計485件、外国国籍男性が77件、女性が34件、計111件である(以上表12)。また、1999(平成11)年4月1日から2003(平成15)年12月31日までに厚生労働省に報告された病変死亡例は170件で、この内、日本国籍男性が130件、女性が9件、計139件、外国国籍男性が20件、女性が11件、計31件である。2003(平成15)年12月末までに766件の病変死亡の報告が寄せられた。
1999(平成11)年4月から病変報告は医師の任意によっている。2003(平成15)年中の報告は日本国籍男性が15件、女性が0件、計15件、外国国籍男性が4件、女性が0件、計4件である。
7.報告年と診断年の比較
日本国籍の HIV及び外国国籍のHIVとAIDSについては、例年95%以上が診断年と同じ年内に報告されているが、1998(平成10)年には診断例のうちHIVの7.9%、AIDSの6.5%が、1999(平成11)年に報告されている。これは感染症法の施行に伴う効果と考えられる。日本国籍のAIDSで95%を下回る年がしばしば見られる(以上表13)。
8.まとめ
2003(平成15)年のHIV、AIDS報告件数および年次動向の特徴をまとめると以下のようであった。