2003(平成15)年エイズ発生動向 - 概 要 -


厚生労働省エイズ動向委員会

  エイズ動向委員会は、3か月ごとに委員会を開催し、都道府県等からの報告に基づき患者発生動向を把握し公表している。今般、2003(平成15)年1年間の発生動向の概要を取りまとめたので報告する。

1.結果

(1)HIV感染者の報告数
 1996(平成8)年以降増加が続き、本年は日本国籍、外国国籍合わせて640件と過去最高の報告数となった(図1)。日本国籍例は557件、外国国籍例は83件であった。日本国籍男性の増加が顕著で、本年の報告数は前年(481件)を大きく上回り、過去最高の525件となった。日本国籍女性は32件と前年(40件)より減少した(図2)。

(2)AIDS患者の報告数
 本年は日本国籍、外国国籍合わせて336件で、過去最高となった(図1)。日本国籍例は271件で過去最高、外国国籍例は65件と昨年(56件)より増加した。日本国籍男性は252件で、前年(232件)から増加し、過去最高となった(図7)。







(3)感染経路

 本年のHIV感染者報告例の感染経路は、同性間の性的接触が356件(55.6%)、異性間の性的接触が178件(27.8%)で、性的接触によるものが合わせて534件(83.4%)を占めた(図3)。
 日本国籍例では、男性同性間の性的接触が340件と、過去最高の報告数であった(図4)。また、男性異性間の性的接触は108件と前年(130件)より減少した。日本国籍女性の異性間性的接触によるHIV感染者は近年30件前後で変動している(図5)。
 本年のAIDS患者報告例の感染経路は、異性間の性的接触は131件(39.0%)、同性間の性的接触は96件(28.6%)で、性的接触によるものが合わせて227件(67.6%)を占めた(図8)。
 日本国籍男性例の感染経路を見ると、同性間性的接触の増加が顕著で、2003(平成15)年報告では、異性間性的接触と同数(91件)となった(図5)。
 また、1985年以降の累積報告数で、異性間性的接触による日本国籍HIV感染者について、年齢階級別に性別構成をみると、15-19歳は女性が70.6%、20-24歳は女性55.1%を占め、男性割合の高い他の年齢層とは異なる(図6)。
 なお、静注薬物濫用や母子感染によるものはHIV、AIDSいずれも1%以下にとどまっているが(図3、8)、静注薬物濫用については、2003(平成15)
年には、日本国籍症例としては過去最高の6例が報告されているので、引き続き監視が必要である。




(4)外国国籍報告

 本年のHIV感染者では83件、AIDS患者では65件となっており、合計件数についても、感染経路についても、過去10年では年次推移に大きな変化は見られない(図9)。

(5)推定される感染地域及び報告地

 HIV感染者の推定感染地域は、全体の78.0%(499件)が国内感染で、日本国籍例では84.7%(472件)を占めていた。AIDS患者の推定感染地域は全体の64.0%(215件)が国内感染例であった。
 報告地は、東京都、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)が依然多く、本年報告例ではHIV感染者全体の61.6%(394件)、AIDS患者全体の64.9%(218件)を占めている。
 HIV感染者は近畿、中国・四国、九州ブロックで増加し、他のブロックは横ばいであった(図10)。

 


2.まとめ

 わが国におけるHIV感染者、AIDS患者の発生動向は依然として増加傾向にあり、性的接触によるものを中心として拡大しつつあると言える。特に、男性の同性間性的接触による感染に対しては、外国国籍者も考慮した積極的な予防施策が必要である。また、異性間の性的接触に対しては、男性のみならず女性、特に若年層への重点的な啓発普及が必要である。HIV感染は、これまでの東京を中心とする関東地域に加え、近畿、東海ブロックなど地方大都市においても報告数の増加傾向がみられ、各地域での対策の展開が望まれる。




平成16年4月26日

委員長コメント(2003(平成15)年エイズ発生動向の概要について)

 


1 HIV感染者の報告数

  2003(平成15)年は、日本国籍・外国国籍合わせて640件と、過去最高となった(これまでの最高は2001(平成13)年の621件)〔図1参照〕。
  日本国籍男性の増加が顕著で、本年の報告数は525件と初めて500件を超え(過去最高)〔図2参照〕、全体(640件)の82%(過去最高)を占めている。

2 AIDS患者の報告数
  本年は、日本国籍・外国国籍合わせて336件で、HIV感染者と同様、過去最高となった(これまでの最高は2001(平成13年)の332件)〔図1参照〕。
  AIDS患者についても、日本国籍男性の増加が顕著で、本年の報告数は252件と過去最高となった(これまでの最高は2000(平成12)年の239件)〔図7参照〕。

3 感染経路
  本年のHIV感染者報告例の感染経路は、同性間の性的接触が356件(55.6%)、異性間の性的接触が178件(27.8%)で、性的接触によるものが、合わせて534件(83.4%)を占めた〔図3参照〕。
  AIDS患者報告例の感染経路は、性的接触によるものが合わせて67.6%(227件)で、そのうち、異性間の性的接触が131件(39.0%)、同性間の性的接触が96件(28.6%)であった〔図8参照〕。

  日本国籍男性については、次のような点が認められた。HIV感染者・AIDS患者のいずれにおいても、同性間の性的接触が1999(平成11)年から急増しており、本年はいずれも過去最高の報告数(HIV感染者340件、AIDS患者91件)となった〔図4・5参照〕。AIDS患者の異性間性的接触と同性間性的接触の比を見ると、1997(平成9)年〜2000(平成12)年では、異性間性的接触と同性間性的接触の比は3:1〜2:1程度であったが、2001(平成13)年から次第にこの比が1:1に近づき、2003(平成15)年には同数となっている〔図5参照〕。感染経路別に、HIV感染者報告数とAIDS患者報告数の比を見ると、異性間性的接触では、HIV感染者とAIDS患者とはほぼ1:1となっているが、同性間性的接触では、HIV感染者がAIDS患者のほぼ3倍となっている〔図4・5参照〕。
 
  1985年以降の累積報告数で異性間性的接触による日本国籍HIV感染者の性別構成を見ると、合計では男性1,121人、女性372人と、男性が75%を占めるが、年齢階級別に見ると、15-24歳では男性71人に対して女性99人と、女性の方がむしろ多い〔図6参照〕。

4 外国国籍報告
  本年のHIV感染者は83件(前年93件)、AIDS患者は65件(前年56件)となっており、合計件数についても、感染経路についても、過去10年間では年次推移に大きな変化は見られない〔図9〕。

5 推定される感染地域及び報告地
  推定される感染地域は、HIV感染者の78.0%(499件)、AIDS患者の64.0%(215件)が国内感染であった。
  報告地は、東京、その他の関東・甲信越ブロックが依然多く、本年報告例ではHIV感染者の61.6%(394件)、AIDS患者の64.9%(218件)を占めている。ただし、年次推移をみると、その他全てのブロックにおいても、過去最高レベルの報告が続いている〔図10参照〕。

6 まとめ
  2003(平成15)年におけるHIV感染者、AIDS患者の報告数は、いずれも過去最高となるなど、依然として増加を続けている。HIV感染者は、性的接触によるものが83.4%を占め、うち同性間性的接触が55.6%を占める。
  したがって、男性の同性間性的接触によるHIV感染に対しては、外国国籍者も考慮した積極的な予防施策が必要である。若年層の日本国籍異性間性的接触では、女性感染者が男性感染者を遙かに上回っている現実は周知されるべきである。
  HIV感染は、これまでの東京を中心とする関東地域に加え、近畿、東海ブロックなど地方大都市においても報告数の増加傾向がみられ、各地域での対策の展開が望まれる。
  なお、2003(平成15)年エイズ発生動向の詳細については、5月下旬に年報を公表予定である。