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2002年度版

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2002年末現在における世界のHIV/AIDS流行状況

AIDS(Acquired Immunodeficiency Syndrome:後天性免疫不全症候群)の原因であるHIV(Human Immunodeficiency Virus:ヒト免疫不全ウイルス)流行の発生以来20年以上が経過し、HIV/AIDS流行拡大の衝撃的な惨禍は明白である。HIV/AIDS流行拡大を抑制する方策を講じることができなかったアフリカの国々においては、国民生活の安寧と発展の基礎となる、人的資源・能力が奪われ続けている。その他の国民生活の危機と重なって、地域によっては、HIV/AIDSによって人々が次々と極貧状態へと追いやられている国々もある。国際社会が傍観している間に、HIV/AIDSがこれらの国々で猛威をふるってしまった。したがって、世界で最も人口が多いアジア地域の国々で拡大し続けているHIV/AIDS流行に対して、目をそらすことは許されない。

UNAIDS(国連合同エイズ計画)およびWHO(世界保健機関)は、PWH(People Living with HIV/HIVと共に生きている人:HIV感染者)およびPWA(People Living with AIDS/AIDSと共に生きている人:AIDS患者)の総数は、2002年末までに世界中で合計4,200万人に達すると推計している(図1)。このうち成人は約3,860万人(女性1,920万人)、15歳未満の小児は約320万人と推計している。また、2002年1年間で、500万人が新たにHIVに感染し、310万人が死亡したと推計している。

新たな感染予防のための努力が施さなければ、今後2002年から2010年の間に、126の低・中所得の国々(現在は特定地域・特定人口集団においてのみHIV流行が発生している国々)において、4,500万人が新たにHIVに感染するであろうと推計されている。この新規感染の40%以上がアジア・太平洋地域で発生すると考えられている(現在のアジア・太平洋地域における新規感染は全世界の20%である)。このような状況は避けることが可能である。2005年までに包括的な感染予防策を十分に開始・実行することによって、2002年から2010年末までの新規感染者数4,500万人の推計値を1,600万人に減らすことが可能である。また、2001年6月に宣言された国連決議にある「2010年までに若者のHIV陽性率を現在より4分の1減らす」という目標も達成可能であろう。しかしながら、包括的感染予防策の実施が少しでも遅れた場合には、新規感染者の数は大幅に増加してしまう恐れがある。

南部アフリカ地域における食糧危機問題が示しているように、HIV/AIDSの流行拡大は、HIV/AIDS以外の様々な国民生活の危機問題と複雑に絡み合っている。地域社会に絶望感が漂い、そして、地域社会が崩壊すると、しばしばHIV感染拡大が発生する。それと同時に、地域社会のHIV流行拡大を阻止する能力、および、適切な治療・ケア・支援を差し伸べる能力も損なわれてしまう。したがって、HIV/AIDSに関する活動は、様々な人道上の危機を防止・克服するための広範な努力の不可欠な構成要素となることが必須である。
  • 世界地域別HIV/AIDS生存者数推計

世界の地域別のHIV/AIDS状況

(1) サハラ砂漠以南アフリカ

サハラ砂漠以南アフリカ地域はHIV/AIDS流行拡大の最も深刻な影響を受けている。この地域では2002年1年間に240万人がAIDSで死亡し、350万人が新規にHIVに感染したと推計される。2002年末現在の生存するHIV感染者・AIDS患者推計数は2,940万人である。このうち1,000万人は15歳~24歳までの若者であり、およそ300万人が15歳未満の小児である。

年間の新規感染者数の増加数が横ばいになってきたので、流行拡大の傾向がわかりにくくなってきた。しかしながら、すでに深刻な影響を受けているにもかかわらず、さらに流行拡大が続いている国もある。 また、爆発的な流行拡大の危機に直面している国もある。この地域におけるHIV流行の最悪の状態は、まだ過ぎ去ったわけではない。南アフリカ共和国における流行拡大は周知の事実であるが、さらに、アフリカ南部の4つの国々では、国民全体の30%以上という、想像を超えたHIV陽性率(prevalence)が明らかになっている。ボツワナ(38.8%)、レソソ(31%)、スワジランド(33.4%)、そしてジンバブエ(33.7%)である。このうち後ろの3つの国においては、食糧危機という社会的要因が、特に若者や生産年齢層のHIV/AIDS流行が長く続く一因にもなっていると考えられる。他方で、エチオピアおよび南アフリカ共和国などのように、予防活動の成果が表れはじめて、十代の妊娠した女性間のHIV陽性率が低下しはじめている例もある。

HIV/AIDS流行拡大の深刻な影響を和らげるために、そして、何百万人もの病気で苦しんでいるアフリカの感染者達に治療・ケアを届けるために、国際社会からの惜しみない努力が必要である。

(2) アジア太平洋地域

アジア太平洋地域では2002年1年間に約100万人が新規にHIVに感染し、49万人がAIDSで亡くなったと推計され、現在720万人のHIV感染者・AIDS患者がいると推計されている。このうちの約210万人が15歳から24歳の若者である。

アジア太平洋地域では、カンボジア・ミャンマー・タイ以外の国々では、国民全体のHIV陽性率は比較的低い状態が続いている。しかしながら、この低陽性率に安心してはいけない。中国・インド・インドネシアのように、人口が非常に多い国々においては、全国レベルでの低い陽性率は、HIV流行拡大の真の様相を隠してしまうからである。例えば中国およびインドでは、局所的に深刻なHIV/AIDS流行拡大を経験しつつあり、何百万人もの人々が脅かされている。

インドにおいて国民全体のHIV陽性率が1%未満であるという事実からは、この国が直面するHIV流行の深刻さは伝わらない。しかしながら、2001年末の推計ですでに397万人のHIV感染者数は、南アフリカ共和国に次いで世界で2番目に多い推計感染者数の国である。アンドラ・プラデシュ、カルナタカ、マハラシュトラ、マニプール、ナガランド、およびタミル・ナドゥなどでは、妊婦クリニック来訪者におけるHIV陽性率が1%を超えている。インドにおける新たな行動調査によれば、SW(セックスワーカー)やIDU(薬物使用者)などの特定集団に対する予防介入活動はいくつかの州で成功しているが、他の州では相変わらずこれらの集団のHIV陽性率が上昇しており、綿密に計画された継続的介入の大規模な実施が必要とされている。

中国における流行拡大もとどまるところを知らない。2002年中期時点での生存HIV感染者の公式推計数は100万人であるが、もし効果的対策が講じられなければ、感染は急速に拡大し、2010年までにその数は1,000万人に達するであろうと推定される。この国においては、2002年前半の半年での新規HIV感染者の公式報告数は17%増程度であるが、国内の社会経済的不均衡拡大や、1億人とも言われる広範な移住生活などの社会的要因によって、HIV流行は多面的に拡大するものと考えられる。

感染の危険性が最も高い人口集団に向けたプログラムを拡充する必要性は言うまでもない。しかしながら、特定の集団に向けた予防介入だけでは流行拡大を止めることはできない。一般の国民全てに行き渡る、より広範囲な予防プログラムが重要である。たとえばカンボジアでは、行政と市民社会が協力してあらゆる社会部門の当事者を含めた持続可能な予防プログラムを実行しているおかげで、流行拡大が横ばいになってきている。

(3) ラテンアメリカおよびカリブ海沿岸地域

ラテンアメリカおよびカリブ海沿岸地域においてはHIV/AIDSの流行は非常に浸透している。一層の努力が払われなければ、さらに急速かつ広範に流行が拡大する恐れがある。この地域の生存HIV感染者・AIDS患者の推計数は190万人であり、2002年の新規感染者推計数は21万人である。

この地域の12ヶ国において、妊婦の推計HIV陽性率が1%以上である。カリブ海沿岸諸国においては、成人HIV陽性率がサハラ以南アフリカ地域に次いで高い国々もあり、世界で2番目に深刻な影響を受けている地域となっている。この地域のいくつかの国において、HIV/AIDSは死亡原因の第一位になっている。

この地域においては、サーベイランス(動向調査)システムの質が国によっては必ずしも一定ではないので、報告されていない局所的に深刻な流行拡大状況を見逃している可能性がある。

(4) 東ヨーロッパおよび中央アジア地

この地域には、世界で最も急速に流行が拡大し続けているところが含まれている。2002年1年間で25万人が新たに感染し、HIV感染者・AIDS患者の生存数は合計120万人と推計される。ここ数年ロシア連邦ではHIV感染の異常に急激な拡大が発生している。ロシア連邦における1998年末のHIV感染者の累計報告数は10,993人であったが、2002年中期までには200,000人以上に急増した。

東ヨーロッパおよび中央アジア地域では全地域において、特に若者がHIV/AIDS流行拡大の犠牲となっている。これらの地域においては、多い所で若者の1%近くが注射器により薬物を使用していて、注射器による薬物使用者とその性的パートナーがHIV感染の高い危険性にさらされている。

ロシア共和国および周辺の他の国々では若者の注射器による薬物使用がHIV感染の主要な経路であり続けているが、ベラルーシおよびウクライナ共和国などにおいては、異性間性交渉が主要な感染経路として現われてきており、HIV/AIDSが着実に一般人口集団へと拡大している。

(5) 北アフリカおよび中東地域

入手可能な資料から推計すると北アフリカおよび中東地域では、2002年に83,000人が新規にHIVに感染し、37,000人がAIDSにより死亡したと推計され、55万人のHIV感染者・AIDS患者が生存していると推計される。しかしながら、サーベイランス(動向調査)システムが適切でないため、正確な動向を把握することは困難である。

この地域においては社会的・政治的指導者達がHIV/AIDS流行拡大の存在を否定し続けている国々もある。このような状況が、HIV/AIDS流行が拡大する理想的な環境をつくりだしている。

(6)北アメリカ、西ヨーロッパ、オーストラリア周辺地域

これらの高所得国地域においては、2002年1年間で76,000人が新規に感染し、23,000人がAIDSにより亡くなり、生存するHIV感染者・AIDS患者推計数は160万人とされている。 HIV/AIDSから自分の身を守るために必要な知識・サービスを入手・利用することができない、社会から取り残された集団において流行拡大が続いている。

安全でない性行動が増加しているという事実が指摘している点は、現状に自己満足するのではなく、毎年性的に成熟する何百万という若者に届くことができるように、予防プログラムの改良を怠らないことである。

表 HIV/AIDSに関する世界の地域別統計値・特徴(2002年末現在)

地域 流行発生時期 生存HIV感染者・AIDS患者推計数 新規HIV
感染者数
成人
*HIV陽性率
成人
*HIV陽性者中の女性の割合
成人の主たる
感染経路
サハラ砂漠以南
アフリカ
70年代末期から80年代初期
2,940万人
350万人
8.8%
58%
異性間
北アフリカ・中東 80年代末期
55万人
8万3千人
0.3%
55%
異性間
IDU**
南・東南アジア 80年代末期
600万人
70万人
0.6%
36%
異性間
IDU**
東アジア・太平洋 80年代末期
120万人
27万人
0.1%
24%
IDU**
異性間
MSM***
ラテンアメリカ 70年代末期から80年代初期
150万人
15万人
0.6%
30%
MSM***
IDU**
異性間
カリブ海沿岸 70年代末期から80年代初期
44万人
6万人
2.4%
50%
異性間
MSM***
東ヨーロッパ・
中央アジア
90年代初期
120万人
25万人

0.6%

27%
IDU**
西ヨーロッパ 70年代末期から80年代初期
57万人
3万人
0.3%
25%
MSM***
IDU**
北アメリカ 70年代末期から80年代初期
98万人
4万5千人
0.6%
20%
MSM***
IDU**
異性間
オーストラリア・
ニュージーランド
70年代末期から80年代初期
1万5千人
500人
0.1%
7%
MSM***
合計
 
4,200万人
500万人
1.2%
50%
 

.

*成人:15歳から49歳までの人口統計(2001年)を使用
**IDU:Injecting Drug User(注射器による薬物使用)
***MSM:Men who have Sex with Men(男性とセックスする男性)

このUNAIDS/WHO報告の推計値は、各国・地域から提出されたデータを基礎にして算定されています。推計誤差等を鑑みて算定されていますので、内訳値の単純合計値と、表示されている合計値は必ずしも一致しません。

UNAIDS/WHO報告の詳細は、UNAIDSホームページ (http://www.unaids.org) のAIDS Epidemic Update 2002のコーナーをご覧下さい。

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